peter graves

「WORD OF MOUTH REVISITED」(HEADS UP INTERNATIONAL HUCD3078)
JACO PASTORIUS BIG BAND

 ジャコ・パストリアスビッグ・バンドという名義だが、もちろんジャコは参加していない。といって、カウント・ベイシー・オーケストラやエリントン・オーケストラ、グレン・ミラー・オーケストラみたいに、リーダー亡きあとも商業的な理由からずっと継続しているバンド、というわけでもない。ピーター・グレイヴスが指揮をして、ジャコのビッグバンドで演奏されていた曲もその譜面を使い、そうでない曲はラリー・ウォーリロウというひとがアレンジして、まったく一からメンバーを集めた、この録音(フロリダでのライヴレコーディング)のためのグループらしい。驚くのは、ベーシストが曲ごとに変わることで、ヴィクター・ベイリー、リチャード・ボナ、クリスチャン・マクブライド、マーカス・ミラー、ジェラルド・ヴィーズリーなど10人のベースプレイヤーが入れ替わり立ち替わり13曲に参加している。ただし「ウィグル・ワグル」という曲だけは、ジャコのベースプレイそのものが用いられていて、グレイヴスによると、「ナット・キング・コールとナタリー・コールのアルバムみたいなものだ」と説明しているが、なるほど。どの曲も、ベースを聴くべき、という作りがなされていて、たしかにベースはめちゃめちゃかっこいい。ほかの楽器のソロはちょろっと出てくるだけで、そのときも、耳は暴れまくるベースに向いてしまう。でも、それでいいのだ。管楽器、とくにサックスプレイヤーのソロは全員凄くて、ちょっと感動するレベル。アレンジもいいし、はっきり言って言うことなしなのだが、やはりこの「ジャコ・パストリアス・ビッグ・バンド」には、ジャコがいない。それは当たり前なのだが、ジャコがいないことによるマジックもない。ジャコがやっていたあのビッグバンドには、ハーモニカを執拗にフィーチュアしたり、オセロ・モリノウのスティールドラムが常に大音量でキンカンキンカン鳴っていたりしてわけのわからないところがあった。アンサンブルもソロも、皆が熱に浮かされたように「逸脱」していて、そのあたりが面白さであり、ジャズ的であったのだが、このアルバムのビッグバンドはあまりにタイトで、あまりにみんながきっちり吹いていて、そういったいびつな感じはほぼゼロである。ジャコのビッグバンドは、タイトなものとでたらめなもの、超絶技巧と稚拙さが同居していたからあれほどの「揺らぎ」を表現できていたのだ。たとえば本作の「エレガント・ピープル」にはウェザーのオリジナルバージョンにおける作曲者ショーターのあのざっくりした感じやその感覚を大編成で再現しえたジャコのビッグバンドのバージョンとはまるで違っていて、よくもこの吹き伸ばしばっかりの曲をここまでタイトに演奏したもんだなあ、と半ば感心し半ば呆れるほど、真面目で「ちゃんとした」演奏になっている。とはいうものの、私は本作のタイトできっちりした優等生ぶりを愛するものである。これはこれで、やはり相当なクオリティの高みにあるというべきだと思う。正直、「ジャコ・パストリアス・ビッグ・バンド」ではなく、「ジャコ・トリビュート・ビッグ・バンド」でいいのにね、と思った。なお、バンド名義の作品だが、実質、ピーター・グレイヴスのリーダー作だと思うので、その項に入れた。