wardell gray

「WARDELL GRAY MAMORIAL ALBUM VOL.1」(PRESTIGE LP7008)

「WARDELL GRAY MAMORIAL ALBUM VOL.2」(PRESTIGE LP7009)
WARDELL GRAY

 大学に入って、ジャケットのマウピをくわえて吹いている姿にひかれて、中古でなにげなく買ったこのアルバムとの出会いが、私をバップテナー狂いにさせた。たぶん最初は、第二集に入っているセッションのソニー・クリス目当てだったのだろうが(当時はアルトを吹いていたもんで)、ワーデル・グレイのテナーのほうに耳がひかれてしまった。ハードバップのテナーとバップのテナーはあきらかにちがう。たとえば、ハンク・モブレー、ティナ・ブルックス、スタンリー・タレンタイン……といったブルーノートのハードバップのテナーには、私はあまりひかれないのだが、バップ初期のテナー、つまり、パーカーをテナーに移し替えようとしてがんばっている、ファンキーさやグルーヴよりもビバップフレーズを優先させている一群のテナーが大好きなのだ。その筆頭が、アモンズ、スティット、ゴードン、そして本作の主役ワーデル・グレイだろう。ロリンズやチャーリー・ラウズ、ハロルド・ランド……あたりはちょっと感覚がちがう。やはり、レスター・ヤング+チャーリー・パーカーというラインに自己の個性をくわえてスタイルを完成させたこの4人こそが、バップ初期のテナー四天王だろう。グリフィンは、レスター・ヤングの影響はあまりないので、流暢な歌心という点で別の系統である。そして、アモンズ、スティット、ゴードン、グレイのなかで、私がもっとも偏愛しているのがワーデル・グレイなのです。もう、はじめて聴いたときから惚れ込みました。それは、ソロの最初のフレーズから、もう歌心満載で、あまりにおいしいフレーズの連続、聴いているだけでうわっ、おいしい、これもおいしい、これもこれもこれも……うわーっ、となるほどで、トランペットにおけるクリフォード・ブラウンみたいなもんだ。すべてが歌になっているし、またアーティキュレイションがいいんです。アモンズのようなカクカクした四角いノリでも、ゴードンのようなずるずるべったりな後ノリでもない。スティットみたいに軽いノリでもない。ちょっとブキブキした、ファンキーさも少しある、絶妙のアーティキュレイション。これで8分音符のロングフレーズなんか吹かれたらたまらんぜよ! そして、あの音色……ほれぼれする。硬質でひきしまった、ちょっとファンキーだが、R&Bテナーのような濁らせかたはしない。ぎりぎりのところで上品さを保っている。そして、こんなことは屁でもないんだ、というような「軽さ」をキープしたまま、涼しい顔で吹きまくる。そこがまたいいんです。ライヴ盤でのロングソロを聴けばわかるが、グレイというひとはテクニックは抜群だが、歌心やアイデアがソロの最初っから最後まで維持できる稀有な天才であって(誰でも、ソロの出だしとかはちょっと考えながらはじめて、あとでだんだんノッてきたりするものだが、グレイは頭から出し惜しみしない)、ゴードンでもスティットでも、手癖にたよったり、ダレる部分があったりするが、グレイはポテンシャルが落ちないのだ(出し惜しみせずソロの出だしから歌心満載である点とか、硬質な音色とか均一なノリとかは、ソニー・クリスに似ているかもしれない。両者はジャスト・ジャズ・コンサートでよく共演している)。早逝したグレイにとって、この二枚のLPに入っている全曲が珠玉だが、とくに第二集のB面が好き。全曲好き。マスターテープが悪いのか、テーマ途中でブツ切れになったりする曲もあるが、とにかくグレイのソロに関してはなーんにもいうことありません。もう、土下座。とくにブルースはいろいろコピーさせてもらった。簡単そうに聞こえるが、じつは難しいことをやってはりまんなあ、と学生のころに感心した。あとは、第一集のA面かな。ソニー・クリスやデクスター・ゴードンの入ったジャムセッションもいいのだが、途中でソロを編集してあるらしく、とくにソニー・クリスのソロはむちゃくちゃにされていて、正規盤としてはかなりひどい。でも、「ムーブ」でのグレイのソロは快調そのもの。ワーデル・グレイといったらまず最初にあげられるべき傑作です。

「WARDELL GRAY LIVE IN HOLLYWOOD」(XANADU RECORDS YS7126−DU)
WARDELL GRAY

 死ぬほど好きなアルバム。たしかザナドゥ原盤だが、私が持ってる日本盤は写真ではなく絵のジャケットで、まだ若くして死んだグレイがまるでジジイみたいに描いてあってあまり好きではないが、中身には関係ない。一曲目、ダメロンの「トゥイステッド」から快調そのもののソロが続く。二曲目の「テイキン・ア・チャンス・オブ・ラヴ」は、スティットも演ってる歌ものだが、なぜかすごく好きで、一度バンドで演ったことがある。でも、グレイのここでの演奏のように軽々と歌心あふれまくるフレーズをどんどんと……などというわけにはもちろんいかなかった。3曲目の「ジャッキー」も、「メモリアル・アルバム」に入ってるブルースで、ここでのバージョンもすばらしい。「ドナ・リー」「バーニーズ・チューン」などの入ったB面ももちろんいいのだが、やっぱりA面の3曲にとどめをさすかなあ。ワーデル・グレイというと、西海岸で活躍した黒人バップテナーだが、今にして思うのは、吹き方がなんとも軽いことで、これって要するにウエストコーストジャズ的なのだ。これは、リズムセクションがハンプトン・ホーズ、ジョー・モンドラゴン、シェリー・マンという「もろ」ウエストコースターだから、というだけではなく、グレイ本人の資質にそういうところがあるのだろう(ゴードンとのチェイスなどでは、ブロウ派的な部分も見せるが、本質的にはノリがソフトで軽々としている。音色はじつは重いのだが、アーティキュレイションが絶妙なので、まったく重さを感じさせない)。そういう軽みは、おそらくレスター・ヤングからきたものだから、ウエストコートサウンドの創始者はレスター・ヤングということになる。まあ、どうでもいい話ですが。とにかく音質はあまりよくないが内容はほんと、最高の一枚。

「WARDELL GRAY−STAN HASSELGARD」(SPOTLITE SPJ134)
WARDELL GRAY−STAN HASSELGARD

 ワーデル・グレイとスタン・ハッセルガードの名前が並列的に置かれているが、実際にはスタン・ハッセルガードは二曲のジャムセッションのみに参加。でも、私はグレイを聞きたいだけなので関係ない。一曲目の「ビバップ」は、チャーリー・パーカーのよれよれの「ラヴァーマン」セッションで有名な曲だが、グレイは快調そのもの。以下、どの曲を聴いても、グレイに関しては文句のつけどころがない。あちこちから寄せ集められた演奏をぎゅっとかためてあるが、どんなバンドでもグレイの歌いまくる、流暢なソロは耳をそばだてずにはおられない。ベイシーとやってるやつなど(ベイシーが一事ビッグバンドをやめてコンボにしていたころにメンバーに加わり、そのままビッグバンドが再編されたときも残った)、テーマやアンサンブルなど完全にカウント・ベイシーのサウンドそのものなのだが、そこから立ち上がってくるグレイのソロはまさにビバップの権化で、そこが前任者のヤスター・ヤング、ハーシャル・エヴァンス、バディ・テイト、イリノイ・ジャケー、ポール・ゴンザルベスらとまったく違うところだ。たぶん、ここでのグレイはスウィングとバップ、つまりオールドベイシーとニューベイシーの架け橋になっているわけで、ここから新しいベイシーのビッグバンドスタイル(リズムセクションはスウィングだが、ソロはモダン)ができあがっていったのではないか。だって、そのあとに参加するテナーは、フランク・フォスターにしろウエスにしろビリー・ミッチェルにしろエリック・ディクソンにしろジミー・フォレストにしろ、モダンな感覚をもったひとが多い(ロックジョウはちょっと別)。「ザ・キング」という曲は、ベイシーでのジャケーの当たり曲だが、ようするに「ウッドサイド」である(アレンジもそっくり)。で、肝心のスタン・ハッセルガードの加わった二曲だが、私にクラリネットを聞く耳がないせいかもしれないが、ベニー・グッドマンと比べても非常にモダンなスタイルだということはわかるが、やっぱりワーデル・グレイのソロに心ひかれてしまう。なお、この二曲、うちにあるレコードでは曲順が逆になってます。

「LIGHT GRAY,VOL.1」(PHILOLOGY214W14)
WARDELL GRAY

 でかでかとミュージシャンのイニシャルだけを載せた単純かつ間抜けなデザインでおなじみのフィロロジーレーベルだが、グレイが参加した78回転のいろんなセッションをこまめに集めてLP化してくれていてありがたい。なかには、どこにグレイがいるの? と思うような、ソロのほとんどない曲も入っているが、たとえばJ・C・ハード・オーケストラというのは、ラッパがジョー・ニューマン、トロンボーンがベニー・グリーン、テナーがグレイで、バリサクがテイト・ヒューストン、それにアル・ヘイグ、アル・マッキボン、ハードのリズムセクションという、当時考えられる最高のモダンスウィング〜ビバップメンバーが集結していてすごい。ここでのグレイのソロは、まだ40年代という時期が信じられないほど爆発していて、グレイのスタイルって最初から完全に完成されていたんだなあ、としみじみ感心。ラストには、「プア・ボーカルとすごいソロイスト」と悲しい注釈がつけられた未発表の歌物(ライブ)が入っているが、めちゃめちゃすごいアルトソロがあって、誰かと思って見ると、やっぱりソニー・クリスでした。グレイとクリス……まさに双子である。

「WARDELL GRAY AND THE BIG BANDS」(OFFICIAL 3029)
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 アール・ハインズ楽団、ビリー・エクスタイン楽団、ベニー・グッドマン楽団、カウント・ベイシー楽団、ルイ・ベルソン楽団などに加わったグレイの演奏をいろんなところからひっぱってきて、おさめた一枚。歌伴もあり、グレイのソロがさほど出て来ないナンバーもあるが、基本的にはどんなセッティングでも快調なグレイのソロが楽しめる一枚となっている。しかし、45年の録音でもグレイはグレイである。たいしたやっちゃ、えらいやっちゃ、みあげたやっちゃ。「ハックルバック」みたいなR&Bヒットや、ベイシーの「リトル・ポニー」「ネイルズ」といったおなじみの曲でグレイのソロがフィーチュアされているのを聴くのは泣ける。よほどのグレイファンにしかすすめられないかというと、そんなことはなく、普通のジャズファンもじゅうぶん楽しめる内容で、正直、収録曲のレベルの高さに驚く。たしかに「ワーデル・グレイはメモリアル・アルバム2枚を死ぬほど聞き返せば、それで十分」という意見もあるだろうし、それはそれで納得いくハナシでもあるのだが、これだけのグレイトソロイストなのだから、そのすべてを味わいたいじゃないですか。このアルバム、決してマニア向けの一枚ではないと思う。少なくともグレイに関していえば、どの曲もめちゃめちゃかっこええ! そして、このジャケット! このかっこいい、しびれるジャケットだけのために買ってもいいでしょう(うーん、マウピはリンクのメタルだなあ……。なにを吹いてもグレイのあの音になるということか)。こんなすげえおっさんがたかだか34歳で死ぬなんて、こりゃまたどういうわけだ、世の中まちがっとるよ! たとえグレイがどうしようもないヤク中で最低の人格のやつだったとしても……。