bennie green

「WALKIN’ AND TALKIN’」(BLUE NOTE ST−84186)
BENNIE GREEN

 もう、めちゃめちゃ好きなアルバム。ある時、B面を繰り返し繰り返し、一晩中聞いていたことがあるぐらい好き。ベニー・グリーン以外のメンバーは、テナーがエディ・ウィリアムスというあまり聞いたことのないひとで、ピアノはそこそこ有名なギルド・マホーネス。かなりマイナーな人選なのだが、やはり適材適所というのが大事なのだな。この連中が、グリーンのもとで水を得た魚のごとく大活躍するのである。とくにテナーのエディ・ウイリアムスは、音も固くてたくましく、フレーズも歌いまくりで、完全に私の好みである。こんなすごいテナーが、なぜたいして有名ではないのか。しょーーーーもないサックスは腐るほどいるというのになあ。難点は、ときどきタンギングをしないでフレーズを吹くことか。このひとのソロは「マイナー・レボリューション」でも堪能できる。聴いていて、つい手拍子をして踊りたくなるようなグルーヴに満ちた表題作の入ったB面がとくにすばらしいが、A面も同等のレベルにある。とにかく、全員のソロがどれも、まるでライヴのように快調で、ベニー・グリーンの魔力としかいいようがない傑作。

「SWINGS THE BLUES」(ENRICA LP2002)
BENNIE GREEN

 これはめっちゃ好きなアルバムだが、怒りもあるんです。私はジミー・フォレストが死ぬほど好きだが、同じくフォレストを擁した有名なタイム盤(ドラム以外全員同じメンツ)に比べても、こっちのほうが百倍いいと思う。つまりそれは、リーダーであるグリーンと、フォレストのふたりが本作のほうが絶好調なんですね。タイム盤では、とくにフォレストが借りてきた猫みたいにおとなしく、すごくいいソロではあるのだが、本領を発揮しているというにはほど遠いが、このエンリカ盤ではとにかく全曲絶好調も絶好調、壮絶なソロを展開していて、聴くたびにぞくぞくするほど。ベニー・グリーンも全盛期のころで、例のワンノートソロも飛び出すし、のりまくりである。「ウォーキン・アンド・トーキン」のところでも書いたが、まるでライヴみたいな凄いノリかたなのである。これがベニー・グリーンの良さである。しかし、日本盤ライナーを書いている後藤誠というひとは信じられないことに長い長いライナーのほとんどをソニー・クラークのことだけに費やし、リーダーであるベニー・グリーンのこともほんのお愛想に触れているだけで、これだけすばらしいソロを繰り広げているジミー・フォレストのことはゼロ。完璧無視。これはソニー・クラークのリーダー作なのか? 怒りを通り越して呆れる。たとえ、レコード会社から、ソニー・クラーク研究家としての観点からライナーを書いてくれ、と頼まれたのだとしても、リーダーであるベニー・グリーンのことやほかのメンバーのことも最低限はおさえておかねばならないのではないだろうか。それが礼儀でしょう。それに、どう聴いてもフォレスト最高ですよ、このアルバム。テナーソロの部分だけ耳をふさいでいたのでなかったら、自然と「ジミー・フォレストも凄いソロをしている」ぐらいのことは書きたくなると思うけどなあ。もちろん、いちばん絶賛すべきはリーダーのベニー・グリーンであって、私はジャズ批評の別冊のベニー・グリーンの項目にタイム盤が代表作として取り上げられていて、そこでもまたソニー・クラーク、ソニー・クラーク、ソニー・クラークとそればっかり書いてあるのを見て怒り心頭なのです。ベニー・グリーンの良さということでみると、タイム盤よりもほかに一押し、二押しのものがいっいあるでしょう? みんなそんなにソニー・クラークが好きか。ジミー・フォレストは嫌いか。ちなみに、八曲中五曲がブルースと書いているのもまちがいで、実際は四曲です(ライナーの文章から推測して、B−1がブルースと勘違いしているみたいだが、ただの循環です)。

「BENNIE GREEN」(TIME RECORDS ULS−1759−BT)
BENNIE GREEN

 エンリカ盤とはドラムがちがうだけのこのタイム盤だが、なぜこうまでもてはやされるのか。ベニー・グリーンの持ち味については、ジャズ批評のトロンボーン特集で「おとぼけジャズ」などと書かれたこともあるが、どこをどう聴けばそんなアホな言葉が出るのか。ベニー・グリーンの音、曲、演奏のすべてにぎらぎら光っている深い漆黒のブラックネスが感じ取れず、「おとぼけジャズ」とはなにごとか。ほめ言葉のつもりなのだろうな。そういう言葉でベニー・グリーンの本質をとらえているつもりとは、まったく理解できないが、たしかにソニー・クラークが参加し、「クール・ストラッティン」以下のブルーノートでの人気曲3曲を提供しているという理由でベニー・グリーンの代表作扱いされている本作でのベニー・グリーンは、持ち味である軽みが「呑気」な域にまで行き過ぎていて、これしか聴いたことのないひとには「おとぼけジャズ」と言われてもしかたないかもしれない(ジャズ評論家がそんなことを言ってもらっては困るけど)。たぶんベニー・グリーンのリーダ作中いちばん軽い作品である本作は、決して悪いアルバムではないが(ジミー・フォレストもソニー・クラークもがんばっているが、本領発揮というにはちょっと……)、小さくまとまりすぎていて、めちゃめちゃもの足らない。ベニー・グリーンを聴くなら、ほかにもたくさんその本領を発揮した傑作があるだろうに、なぜいつも本作が代表作のように言われてるのかぜんぜんわからん。「ソニー・クラークをもっとも理解できるお国柄」も善し悪しやろ。

「BENNIE GREEN WITH ART FARMER」(PRESTIGE LPR−8879)
BENNIE GREEN

 基本的にはテナーサックスが入ってるアルバムしか聴かないし、トランペットが好きではないので、こういうトロンボーン〜トランペットの2管という金管だけのフロントのアルバムなどまずぜったいに買うことはない。本作を購入した理由はひとえにベニー・グリーンが好きだというだけである。だから、家でもめったに聴かない。だいたいピアノのクリフ・スモールスって誰やねん。こういう編成では、ベニー・グリーンのこってりしたブラックな魅力全開……というわけにいかないのは当然だが、アート・ファーマーの端正なバップソロといい、レベルの高いモダンジャズがおさめられている。でもなあ……ベニー・グリーンですからね。こんな風なかっちりしたビバップのソロ回しを私は聴きたいわけではない。もっとディープな、ブラックネスに満ちた、あの音を聴きたかったのだが、本作はそういう趣旨の音楽ではないようだ。B面一曲目のベニー作のブルース「レッツ・ストレッチ」が10分をこえる長尺で、ベニーも言いたいことを言い倒しているように思えるが、共演者のソロに触発されつつ大ブロウを展開する、といったグリーン本来の魅力はここには稀薄です。

「CAT WALK」(BETHLEHEM BCP−6018)
BENNIE GREEN

 ベニー・グリーンの作品のなかではさほど知られていないアルバムかもしれないが、内容はすばらしい。全曲ジミー・フォレストが参加していて、オルガン入りの曲が数曲、あとはマル・ウォルドロンがピアノを弾いていて、レム・デイヴィスというアルトが入っている。とにかくベニー・グリーンの濃厚な演奏がたっぷり味わえるうえ、フォレストも極上のソロで花をそえている。一曲目の「サマータイム」の迫真のソロは感動もの。こういうアルバムこそ愛聴すべき。

「SOUL STIRRIN’」(BLUE NOTE ST−84186)
BENNIE GREEN

 ジーン・アモンズとビリー・ルートの2テナーというだけでも鼻血ブーものだが、一曲目いきなりバブス・ゴンザレスの超強烈なバップスキャット風のテーマで開幕。これをはじめて聴いたときはほんとにぶっとんだ。かーーーーーっこええ! 凄まじい、といってもいいぐらいの歌い上げで、それにつづく3管のハモりもドスがきいていて、快感。やっぱりこいつらヤバイわ、と言いたくなるほどのヤクザぶり。ソロはベニー・グリーンはもちろん、アモンズがさすがに個性と重量級の音で圧倒するが、ビリー・ルートも白人らしからぬへヴィな音で歌いあげる。これはええで! でも、バブス・ゴンザレスはソロもしないし、ラストテーマでは出てこないので、ほんとに出だしだけの参加なのだが、このアルバム全体のカラーを決定し、バブ・ゴン色に染め上げてしまっている。すごいすごい。ほかの曲もどれもよくて(例の「ウィ・ワナ・クック」も入っていて、いつものことながらかっこいい。「ザッツ・オール」もいい)、ブルーノートのベニー・グリーンの諸作のなかでは「マイナー・レボリューション」と並んで一押しの作品(次点が「ウォーキン・アンド・トーキン」か?)。これを聴いて「おとぼけジャズ」と言えるやつがいたら出てこい、と叫びたくなるほど、漆黒に塗りこめられたブラックジャズである。

「BLOW YOUR HORN」(MCA RECORDS MCA−3128)
BENNIE GREEN AND PAUL QUINICHETTE

 日本盤ではあるが、ながいあいだ秘蔵盤であった。とにかく、さほど知られていないアルバムではあるが内容がよすぎる。A面を占めるベニー・グリーンのほうは、2つのセッションで、ひとつは3管編成。フランク・ウエスのテナーとセシル・ペインのバリサクという強力な布陣。とくにバリサクの参加がR&B的なアンサンブルにおおいに貢献している。もうひとつは2管で、「ソウル・ステアリン」にも参加しているビリー・ルートが入ってる。どちらも主役のベニー・グリーンが絶好調で、ノリノリのソロを吹きまくる。しびれるーっ。例の「ブロウ・ユア・ホーン」「ウィ・ゴナ・ブロウ」(どちらも同じ曲で、しかも「ソウル・ステアリン」の「ウィ・ワナ・クック」とも同じ曲。なんべん録音すんねん)入っていて、めっちゃかっこええ。B面のポール・クィニシェットは、すごくいい出来ではあるが、ゴードン〜グレイの「ザ・チェイス・アンド・ザ・スティープルチェイス」のB面と同じで、しかも本作のほうが収録曲が少ない。

「JUGGIN’ AROUND」(VEE JAY RECORDS JC−15)
BENNY GREEN ALL STARS

 なぜかBENNIEではなくBENNY GREENである。それはともかくとして、このアルバムは学生のころ、何気なく買ったものだが、聴いてみて「大当たり!」と思った。ベニー・グリーン、ナット・アダレイ、ジーン・アモンズ、フランク・ウエス、フランク・フォスターという5管編成で、一応ベニー・グリーン・オールスターズということになっているが、どう聴いても主役はジャグことジーン・アモンズである。タイトルが「ジャギン・アラウンド」だし、しかもアモンズの曲だし。ベニー・グリーンもいいソロをするのだが、アモンズが他を圧しているような気がするのは身びいきすぎるだろうか。こういうオールスターセッション的なセッティングは、プレスティッジでアモンズが得意としていたところだし、こういってはなんだが、ベニー・グリーンは別格として、ほかの管楽器奏者はアモンズよりも後輩で、どうしてもアモンズを立てたような感じになるのはしかたないのではないか。そして、本作のよいところは、プレスティッジのオールスタージャムとちがって、各曲にちゃんとしたアレンジがほどこされていることで、テーマといい、リフといい、さまざまな工夫がこらされていて、単なるソロ回しではないから聴き飽きないし、迫力も増している。ベニー・グリーンはもちろんのこと、ナット・アダレイもこうして聴くとなかなかいいソロをしているし、トゥー・フランクスもそれぞれ個性的なソロをしている。とくにウエスは前半流暢なノリで吹きまくったかと思うと後半ダーティートーンを交えた大ブロウを展開したり、フルートに持ち替えたりして大活躍。フォスターも、バップの歌心とは微妙にちがったモダンなソロでオリジナリティを発揮している。どの曲もいいのだが、ことにA面は何度も何度もしつこく聴いた。適度にざっくばらんで、適度に締まった、大迫力のセッションである。

「MINOR REVELATION」(BLUE NOTE GXF3063)
BENNIE GREEN

 ベニー・グリーンといえば「ウォーキン・アンド・トーキン」というひともいるだろうし、いやいや、どれ聴いてもおんなじだから、全部が代表作、というひともいるだろう。しかし、私は声を大にして言いたい。本作こそ、ベニー・グリーンの最高傑作だと。今では「45セッションズ」とかいう名前で発売されているようだが、私にとってはいつまでたっても「マイナー・リベレイション」である。大学生のとき、西宮北口の「コーナーポケット」(当時は「デュオ」)でかかったときの衝撃はいまだに忘れない。かかったのはB面だったのだが、1曲目から、よく歌う、いや、歌いまくるぐらい歌うトロンボーンが気に入り、その相方の無名のテナー(エディ・ウィリアムス)も同じく歌いあげるタイプで気に入った。フロントの二人とも、歌うだけでなく、ブルージーであり、ベニー・グリーン自身がどちらかというとそれほどメジャーではないので、この相棒のテナーはバランス的にナイスフィットなのである。大スターふたりの顔合わせ、などよりもずっと深くてかっこいい音楽的成果を生んでいる。そして、最後の「アンコール」……! これはマジで凄い! 私はこれを学生のころジャズ喫茶で聴いたとき、全身が電撃に打たれたように感動し、トロンボーンのS先輩にそのことをいうと、そのひともベニー・グリーン好きでいろいろ教えてもらった。しかし、同じころ、大原さんにベニー・グリーンっていいですよねと言うと、ベニー・グリーン? ああ、おまえはSとおんなじやな、神大やなあ、とちょっと侮蔑口調で言われたのを思い出す。ベニー・グリーンは大原さんの美学には反していたようだ。そのくせ、カーティス・フラーのことを私が悪くいうと、カーティス・フラーはええで、悪く言わんとってくれ、とたしなめられた。まあ、そんなことはどうでもいいが、とにかくこの「アンコール」という曲は、バブス・ゴンザレスによって歌詞がつけられた一種のボーカリーズで、元ネタはおなじみの「フライング・ホーム」のジャケーのソロだ。イントロもなく、いきなり「ヘイ、ベニー・グリーン……」とはじまるこの演奏のかっこよさよ! ベニーとテナーのエディ・ウィリアムスのソロもすばらしく、めちゃめちゃ盛り上がる。その後、「オーケー・ジャズ」という2枚組LPを入手した私は、ジョニー・グリフィンの演奏で、この「アンコール」とほぼ同じ歌詞をバブス・ゴンザレスが歌っているのを知って、そうか、使い回しやったんかと気づいた。以来、この「フライング・ホームのジャケーソロ」を使用した演奏には目がなくなってしまったほどだ。もちろんジャケー自身の演奏も多く、「フライング・ホーム」のテーマを使わずにこのソロ自体をテーマとしたものもある。アーネット・コブも「フライング・ホーム」をやるときはかならずジャケーのソロ2コーラスを完コピで吹く。来織るネル・ハンプトン楽団では、このソロをサックスソリにして演奏している……などなどなど。ベニー・グリーンの話からそれてしまったが、このアルバムはその「アンコール」以外の演奏も全部すばらしいのでぜひ聴いてもらいたいです。トロンボーンの歌心ここにきわまれり、というような演奏が詰まっている。

「BENNIE GREEN BLOW HIS HORN」(PRESTIGE RECORDS OJCCD−1728−2)
BENNIE GREEN

 ベニー・グリーンというひとは、有名であれ無名であれソウルフルなテナーと組んだときに実力を発揮する……ような気がしていたが、本作ではチャーリー・ラウズが相方である。これが見事にハマッていて、すばらしい。ブルーノートの「バック・オン・ザ・シーン」でもコンビを組んだが、正直、ブルーノートのアルバムのなかでは「ウォーキン・アンド・トーキン」と「マイナー・レボリューション」が大好きで、あのアルバムはあんまり聴かない。というのも、グリーンはアーシーでテナーでいえばホンカーのような独特の個性を持っているひとなので、相方であるテナーも有名・無名はともかく、そういったタイプのひとが合っているように思えたからである(グリーンのリーダー作は、基本的にはトロンボーン〜テナーという組み合わせで、アート・ファーマーとの金管同士の組み合わせが1枚あるが、あとはだいたいテナーとのコンビで、「ベニー・グリーンとテナー奏者とのコンビネーションにおける音楽性の変遷について」という論文が書けそうな気がするほどである)。ラウズは、モンクとやっていないときはかなり王道のバップ〜ハードバップのひとで、けっこうビターというかシリアスなテナーである。しかし、本作を久しぶりに聞くと、めちゃくちゃ相性ぴったんこで、いつもはグリーンのクセというか個性爆発の音楽性が共演者をぐいぐい引っ張り、ベニー・グリーン・ワールドみたいなものが形成され、それに浸って聴いてしまうのだが、本作は逆にラウズが主役みたいなところがある。1曲目の軽快な曲でも先発ソロを取るが、その印象が良すぎて、続くグリーンの「いつものアレ」(単音でリズミカルに吹くやつ)がいまいち不発に聞こえるほどだ。2曲目のバラード「ローラ」でも、冒頭からワンホーンでテーマを吹く。ピアノをフィーチュアした曲のようで、クリフ・スモールズが馬鹿テクなスウィング系のソロをさらりと聞かせて粋である。最後に登場するのがグリーンで、グリーンのもうひとつの側面であるところの美しい音色で朗々と吹くのだが、すぐにラウズとのアンサンブルになって終了。最後のカデンツァもラウズ……というわけで、グリーンの印象は薄い。3曲目の「ボディ・アンド・ソウル」こそはグリーンが主役という感じの演奏かと思って聴いてみると、これは音色といい、歌い上げといい、だれもが納得の名演だと思ってたら、テーマが終わると倍テンになって、ラウズとピアノのソロがフィーチュアされる。ベニー・グリーンよ、あなたのリーダー作なのだからもっと前に出ていいんですよ、と言いたいが、なぜか妙にこのサウンドが気持ちいいのだ。4曲目はもう「作曲」というのもおこがましいようなシンプルなリフにメンバー全員の歌を載せて、それに煽られてグリーンが吹きまくる、といういつものパターンで、ここにいたってようやくグリーンが前面に出てきた。いやー、こういうグリーンはやっぱりいいですねー。ラウズも完全にバップテナーとして吹いている。ハードバップというよりかなり純粋なバップ的な感じである。5曲目(なぜか妙なエコーがかかっている)はグリーンの「単音吹き」をフィーチュアした曲で、これもいつものアレなのだが、なぜかこういう曲がいつものように「行け行け行けっ!」という感じの熱気に包まれないのは不思議だ。でも、それは決して悪くないのです。6曲目はグリーンの得意とするミディアムテンポのこってりとした超シンプルなブルースで、グリーンもラウズも美味しいソロをしていて、最高である(つぎの曲は別テイクでこれもええ感じ)。8曲目は「トラヴェリン・ライト」をワンホーンで切々と吹き上げる。ラストの9曲目「ハイ・ヨー・シルヴァー」は、古いアメリカの西部劇のタイトルで、ジョー・ターナーのヒット曲「ハニー・ハッシュ」などでもこのフレーズが聴けるが、当時はおなじみのフレーズだったのだろう。このめちゃくちゃ楽しい演奏でアルバムは締めくくられるのだが、ラウズはここでも「きっちり」したフレーズをつむいでいて、性格がわかるなあ、という感じである。しかし、エンターテインメントとしてもシリアスな音楽としても、ブラックミュージックとしての個性が魅力のグリーンが(グリーンのことを「おとぼけジャズ」とか言ってるやつがいるが、どこがやねんと思います。ジーン・アモンズらに匹敵するこの表現を「おとぼけ」とは悲しいかぎり……)、ラウズという相方を得て、こういうアルバムに結実したことはすばらしいと思う。全体に、キャンディドのコンガも利いてます。ピアノのクリフ・スモールズというひとは、アール・ハインズのバンドでグリーンと一緒だったらしいが、このあとエラ・フィッツジェラルドやサミー・デイヴス・ジュニアといったボーカル界の超大物の伴奏者、アレンジャーとなって大活躍するらしいが、ここでも華麗なピアノを弾きまくっている。