「THE LATINIZATION OF BUNKY GREEN」(MCA RECORDS MVCJ−19023)
BUNKY GREEN
バンキー・グリーンに関してはあんまりよく知らない。学生時代にスティットとアルトバトルをしている「ソウル・イン・ザ・ナイト」というカットアウト盤を買ってそのすばらしいバトルに狂喜したが、その後はかろうじて「マイ・ベイヴ」というのを聴いて程度で、アルトということもあって御無沙汰していた。「ソウル・イン・ザ・ナイト」はただひたすらスティットに対抗してバップをぶちかましていて見事だったが、本作は「バンキー・グリーンのラテン化」というタイトルで、麦わら帽子をかぶり、パイナップルを手にしたバンキー・グリーンの写真がジャケット……という「どやねん!」と言いたくなるような感じ(裏ジャケットはそのパイナップルの大写し)だが、聴いてみると、そういうアホな雰囲気は少なく、非常に真摯なラテンジャズである。メンバー全員ラテン音楽に習熟しているようで、アルトサックス、トランペット、トロンボーン、バルブトロンボーンという4管である点や、ドラムを使わず、ティンバレス2、コンガ1の編成である点、デルズ(!)のコーラスの使い方なども、バンキー・グリーンの構成、編曲が冴えわたっている。どの曲も、ジャケットからは想像もできないほどのシリアスかつ楽しいラテンジャズで、パーカッション群はパワフルに弾けまくり、しかも正確無比なビートを叩き出していて、ここに4ビート系のドラマーが入っているとまたちがったノリになってしまっていただろう。トランペットのアーサー・ホイルはサン・ラにいたひとだそうだが、張り詰めた音色といいフレーズの歌い方といい、本作のような企画にぴったり。ふたりのトロンボーンもアンサンブルにソロに大活躍しており、3人とも超凄腕で気持ちいい。ピアノのアントニオ・カストロのプレイもソロにバッキングに鮮やかだし、デルズのヴォーカル〜コーラスの使い方も見事で、本作の成功の一因はこの全員一丸となった熱気あふれるアンサンブルにあると思うが、しかし、なんといっても主役のバンキー・グリーンの凄まじいソロの数々がその熱気を引き出しているのはまちがいない。とにかくどのソロも口当たりのいいエンターテインメント的なブロウではなく、音楽的にどこまで行けるか、というチャレンジにあふれており、スティットとのアルバムで見せたあのバップ魂から一歩も二歩も進み出た新しいタイプのフレージングで感動的である。それにしてもここまで完成度が高く、ほとばしるようなプレイが詰まっているアルバムが後世に残る名盤と評価されることなく、バンキー・グリーン自身もジャズグレイトとしての評価を得られなかったというのは不思議としか言いようがない。人材が豊富だから、というのもわかるが、このひとは凄いと思うけどなあ。私はときどき思う。本作のジャケットでバンキー・グリーンが麦わら帽子をかぶらず、パイナップルを持っていなかったら……「至上の愛」みたいなジャケットだったら、もっとジャーナリズムからも評価されていたのかも……いや、「ワン・ピース」がヒットしている今ならかえってこの方がウケるのか……などと夢想するのであります。大傑作だと思う。本作の復刻は原田和典氏のすばらしい仕事だと思います。