al grey

「AT THE TRAVELERS LOUNGE LIVE」(TRAVELERS PRODUCTIONS TRV3001)
AL GREY JAZZ ALL−STARS

 マイアミのトラヴェラーズ・ラウンジという店に集結したスウィング派の巨頭たちによる超ハッピーなライヴ。メンバーは信じられないほど豪華で、アル・グレイ、ジミー・フォレスト、ピート・ミンガーという3管に、ピアノがシャーリー・スコット(オルガンは弾いていない)、ベースがジョン・デューク、ドラム(とヴォーカル)がボビー・ダーラム。ベイシー系のメンバーが多い。どうやらこのトラヴェラーズ・ラウンジという店が出した自主アルバムのようだが、内容も良い。フォレストのマウスピースはラーセンのメタルで、つまり上記までとちがい、「あの音」になっているそれだけでもうれしい。A面の1曲目は、アル・グレイの曲でホーン3人のソロがリレーされ、最後にボビー・ダーラムのかなりしっかりしたバップスキャットが聴ける。楽しい演奏。2曲目は、そのボビーのヴォーカルをフィーチュアした本格的なバラードで、このひと、相当歌うまい。オブリガードをつけるのはフォレストのテナー。3曲目は、そのフォレストをフィーチュアしたバラードで定番の「ブルー・アンド・センチメンタル」。つまりバラードが2曲続くわけだが、この曲はスローブルースみたいな味わいがあるので、飽きることはない。いやー、しかしさすがやなあ、フォレストは。この曲をきっちり歌い、またブルージーに決めまくる。テキサステナーの父ハーシャル・エヴァンス以来、コブやテイトなどその手のテナーの十八番となっている曲だが、フォレストのバージョンもかっこいいっす。いわゆるフォレスト節満載で、どこを切っても金太郎飴のようにフォレストフレーズが出てくる。盛り上げ方も完全に定番で、しかも、ラストのカデンツァも、どこかで聴いたようなフレーズのオンパレードです(わかるひとにはわかる)。すばらしい。B面に行って、1曲目はシャーリー・スコットのミディアム・テンポのブルースで、ユニゾンでテーマを奏でたあと、グレイのおなじみのプランジャーによるしゃべっているみたいな楽しいソロ。つづくフォレストのソロは悠然とした大人の演奏。ピート・ミンガーのトランペットもハイノートを多用したシンプルなソロ。しかもどれも短いのがやや物足らない。ライヴなのに、管楽器の3人、もっとガンガンいってくれよ、という気持ちがどこかにある。シャーリー・スコットのピアノソロはさすがの貫禄でコロコロとブルースを転がしていく。ラストは、これもシャーリー・スコットの曲でラテンリズムのマイナーな曲で、テーマだけ聞くと、モード時代のジャズメッセンジャーズがやってもおかしくないような感じ。ソロに入ると4ビートになるのだが、先発ソロのグレイはまるでスライド・ハンプトンのようにモーダルなソロを展開。つづくフォレストも変形マイナーブルースのように処理しているようで、たしかにちゃんと吹いているし、うまいのだが、けっこう苦労しているみたいに聞こえるのは、「ここぞ」という感じがないからだろうか。そしてピート・ミンガーは、ウディ・ショウみたいに吹いていて、とにかくこれまでの曲とはまったくちがった印象のソロをくりひろげるなんでこの曲を最後に持ってきたかなあ。というか、なんでシャーリー・スコットはこのバンドにこんな曲を書いたのか? というわけで、すごいメンバーをそろえ、演奏もなかなかいいのだが、なんとなく不完全燃焼感が聞いていて残るようなアルバムでもある。アルバムジャケットには「アル・グレイ・オールスターズ」となっているが、ライナーにはずっと「アル・グレイ〜ジミー・フォレスト・オールスターズ」となっていて、このグループがグレイとフォレストの双頭バンドであることがわかる。

「O.D.(OUT ’DERE)」(GREYFORREST RECORDS GF1001)
AL GREY/JIMMY FORREST

 アル・グレイ〜ジミー・フォレスト双頭バンドによるアルバムで、プロデュースもそのふたり。つまり自主盤である。ジャケットは、ペン画によるふたりの似顔絵が描かれていて、なかなか渋い。1980年録音だから、フォレストにしてみれば最晩年ということになる。レコード自体はフォレストの死を悼んでの発売ということらしい。オルガンがドン・パターソンでギターとドラム、というリズムセクション。A面1曲目はフォレストの曲で、ギターがファンキーなカッティングをするジャズロック。フォレストがドスのきいたブロウをする先発ソロがめちゃめちゃかっこいい。つづくグレイもプランジャーでダーティーな感じをうまく出していてすばらしい。2曲目はテナーフィーチュアのバラード「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」でフォレストが情感たっぷりにテーマを吹く。もう涙なみだの名演だとおもう。最後のカデンツァなど、めちゃくちゃはじけまくっている。うーん、かっこいい。自主盤だからということもあるかもしれないが、ちょっと録音に難ありな気もする。3曲目はアル・グレイのスローブルースで「公園のピザ」という曲。グレイがプランジャーで「いかにも」という垂涎のプレイをする。テーマを吹いてるだけでさまになるなあ。フォレストのソロももちろん最高。ああ、ブルースの海に溺れそう。最強のこの双頭バンドがフォレストの死によって解散しなかったら、もしかしたらコンコードとかで日本に来ていたかもしれないなあとちょっと思った。4曲目はこれも知ってるひとにはおなじみのスティットの「デュースズ・ワイルド」で、つまりアップテンポのリフブルース。アル・グレイのよく歌うソロには、じつは随所にかなり高度なテクニックがちりばめられている。そして、つづくフォレストのソロはもう最上級の讃辞を贈りたいほどのかっこよさ。ああ、短いなあ。ライヴだったらもっと延々吹いて吹いて吹きまくって盛り上げてくれるだろうに。最後のグレイ〜フォレストの4バースもめちゃくちゃ楽しいし、そのあとの逆循になってからのグレイのソロ、そしてフォレストのホンカー的なブロウも最高ですよ! B面に入って、1曲目はドン・パターソン作の美しいバラードで、アル・グレイのソロも深い表現力が魅力的だし、それに続くフォレストの、一見トリッキーなようで、じつは非常にストレートアヘッドなバラード表現、どちらも個性的ですばらしい。双頭バンドというのはこうでないといけまへんなあ。ラストテーマのアンサンブルも見事。これは隠れた名演だと思う。2曲目はギターのピーター・ライチ(?)が作ったマイナーブルース。いきなりイントロ的に弾かれるギターソロがなかなかいい。そのあと出てくるテーマの重厚なアンサンブルもいい。そしてグレイのソロの冒頭を聴け! どや、びっくりしたやろ、という感じが満載。しかし、うまいなあ。フォレストのソロのあと、グレイがふたたび登場して2回目のソロという変な構成。3曲目は「ユー・アー・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」で、ボサノバ風に処理されているが、これがいいんです。先発のグレイのソロはいきいきとしているし、フォレストは、な、な、なんとソプラノ(だと思う)を吹いている。残念ながら、音程も悪くひゃらひゃらしたチャルメラ風の演奏になっているが、フォレストのソプラノなんかほかで聴いたことないっす。超貴重。ライナーによると、1年前にはじめたところらしい。そして最後の曲は、アル・グレイをフィーチュアしたバラードで、エリントンの「ソリチュード」。オルガンがいるため、教会風というかスペーシーな雰囲気になって、いかにもアルバムの締めにふさわしい演奏。それにしても、このバンドがもう少し続いて、録音をたくさん残し、来日もしてくれたらとつい無い物ねだりをしたくなる……そんな内容です。裏ジャケットに「最近の、このふたりをフィーチュアしたレコーディング」というところには、アル・グレイの「グレイズ・ムード」、上記の「トラヴェラーズ・ラウンジ」のライヴ、フォレストのデルマークの「ナイト・トレイン」、そして最後に「ライヴ・アット・リックス」というアルバムが紹介されているが、最後のやつは「トゥルーリー・ワンダフル」としてCD化されたやつ。とりあえず全部持ってます(自慢)。

「GREY’S MOOD」(CLASSIC JAZZ CJ118)
AL GREY

 フランスのブラック・アンド・ブルーが原盤だが、うちにあるのはアメリカのクラシックジャズの絵のジャケットのやつ。コブやジャケーのものよりも絵はましだが、どうして同じジャケットにしないのか理解に苦しむ。ふたつのセッションから成り立っており、ひとつはヨーロッパのトランペット、トロンボーン、アルト・サックス、それにテナーのハル・シンガーを加え、オルガン、ギター、ドラムスというリズムセクションを配した、ヨーロッパ勢によるリトルビッグバンド編成でスウィングジャズを再現するという趣向。これはブラック・アンド・ブルーでよく試みられているが、グレイの本作はけっこう成功したほうではないか。というのも、ギターの参加が鍵である。そう、ギターはクラレンス・ブラウンと表記されているが、もちろんゲイトマウスのことであって、彼のペンペンいうブルースギターが本作に「本物さ」を与えている。もうひとつのセッションはがらりとメンバーがちがい、テナーにジミー・フォレスト、ピアノにトミー・フラナガン、ベースがジョン・デューク、ドラムがボビー・ダーラムという「トラヴェラーズ・ラウンジ」と似たメンバーでの演奏。A−1は、小編制のほうで、超アップテンポのブルース。いきなりフォレストのえげつないソロが炸裂して、気持ちいいっ。リフを挟んでややもつれ気味のフラナガンのピアノソロのよれよれ加減もいい。主役グレイのトロンボーンもキマッてます。2曲目は大編成のほうで、グレイが咆哮しまくり、ゲイトマウス・ブラウンのギターも快調。3曲目も大編成のほうで、アップテンポのブルース(ブルースばっかりやん)。これがめちゃめちゃかっこよくて破壊力抜群。まず、ハル・シンガーのテナーがブロウし、ゲイトマウスのギターが疾走し、そしてアル・グレイのオープントロンボーンが吠えに吠える。あおるアンサンブルも最高……なのだが、なぜか最後は尻切れトンボのように終わる。4曲目はスローブルースで(うわあ、A面全部ブルースやん。すげー)、小編制のほう。トミー・フラナガンのピアノがいつになくブルージーに間をいかしたプレイで2コーラスをしみじみ語っていく。そのあとプランジャーでアル・グレイが登場し、じっくりと噛みしめるようにブルースをつむぐ。ええなあ。これが器楽によるブルースなのです。フォレストのソロはあいかわらず完璧といっていい表現力で、もはや言うことなし。おなじフレーズを少しずつ変化させながら重ねていくあたりの呼吸とリズムのすばらしさは筆舌に尽くしがたい。最後にアル・グレイがからんでくるあたりも、ジャズを聴いたなあ、というよりブルースを聴いたなあという気持ちになる。B面に行きまして、1曲目は小編制のほう。フラナガンの調子の良いピアノに誘われるようにはじまるミディアムのブルース(え? またブルース?)。リフのテーマのあとプランジャーで登場するグレイのお手の物のソロ。フォレストも快調にブロウする。絶好調のスクリーム。ふたたびグレイが登場してアンサンブルが終結する。2曲目は、タイトルチューンで「グレイズ・ムード」という曲。大編成のほうで、ちゃんとした譜面があるらしく、お洒落なハモリによるアンサンブルがテーマを奏でるが、えっ、これもブルースかいな。おいおい、おまえらなに考えとんねん。アル・グレイの先発ソロもどことなくお洒落な雰囲気で歌い、あまりドブルースという感じではないが、ブルースはブルースっす。続くゲイトマウスのギターソロは、非常に技巧を使った「なるほど」という箇所が多い。そのつぎは(たぶん)アルトが軽い音色でうまくブルースを表現する。最後はふたたびアル・グレイ登場で歌心あふれる快演を繰り広げて、アンサンブルによるテーマに戻る。最後の曲は、「メロウ・フォー・ラヴ」というタイトルで、訳せば「愛にメロメロ」ということ? このタイトルならまさかブルースということはないだろう、と思って聴いてみると、ミディアムテンポの、吹き伸ばしを多用した変な曲でした。ここまで来たらもう全曲ブルースにすればいいのに。同じコードの部分が長ーく続くのでソリストはちょっとやりにくそうに聞こえるのは私の気のせい? 悠揚迫らぬグレイのソロが延々と吹きまくって貫禄勝ち。つづくフォレストのソロもスウィングジャズの定番フレーズを織り込みながら、見せ場のないところにちゃんと見せ場を作る持っていきかたで、さすがに上手に処理していて圧巻。というわけで、ふたつのセッションが聴けるお得なアルバムでした。

「TRULY WONDERFUL」(STASH RECORDS ST−CD−552)
AL GREY−JIMMY FORREST QUINTET

 シカゴのリックスという店でのライヴ。メンバーは、ピアノがシャーリー・スコット、ベースがジョン・デューク、ドラムがボビー・ダーラムという「グレイズ・ムード」の半分と「トラヴェラーズ・ラウンジ」をあわせたようなメンバー。1曲目は「O.D.」を彷彿とさせるようなジャズロックっぽい曲ですばらしい。8ビートと4ビートが交錯する趣向で、グレイもフォレストもいいソロをする。2曲目は「ジャンピン・ブルース」となっているが「ジャンピン・ザ・ブルース」でしょう。先発のグレイもいいが、つづくフォレストが火山か爆発したかのようなものすごいブロウを展開してすべてをさらう。シャーリー・スコットのソロもいい。3曲目はアル・グレイのよく歌う(しゃべる?)プランジャーをフィーチュアした「サマータイム」をバラードで。ほとんどテーマを吹いているだけなのだがかっこいい。4曲目はボサノバ風「ユー・アー・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」で、「O.D.」でも演ってますよね。とくにフォレストのソロがあまりに奔放で驚く。ピアノソロの途中でメンバー紹介が入る。ワンステ目終了ということか? 5曲目はフォレストをフィーチュアしたバラードで「ファッツ・ニュー」。デルマーク盤でもやっている十八番のバラードなのだろう。高音を中心に嫌らしいまでにねちねちと歌い上げていくフォレストは、自分のテナーの「音色」の魅力を十分熟知していて、一番かっこよく、美しく、聴き手が気持ちいいメロディーの歌わせ方をみせてくれる。テーマからソロに移るところのフレージングの良さ。ソロは倍テンになる。6曲目「ミスティ」をミディアムテンポで。AABAのAの部分はどんつくどんつくというリズムでサビだけ4ビートというアレンジ。フォレストがバリトン的な音域でリズミカルなヴァンプを吹く。ソロは全部4ビートだが、グレイがよく歌うロングソロを展開して耳をさらう。うまいよなあ。フォレストも濁った音色で吹きまくり、引用フレーズ出まくりで盛り上がる。こうなるともはや「ミスティ」のかけらもないノリノリの演奏。全部で14分もあるのだ。ラストテーマに入ってからも延々盛り上がりまくる。このライヴのときはグレイもフォレストも絶好調である。このときの演奏がライヴ録音されていたというのは僥倖としかいいようがない。7曲目は「トラヴェラーズ・ラウンジ」でも演っていたシャーリー・スコットの「どこでもブルース」。演奏しているほうがやけに楽しそうに聞こえる。8曲目はグレイをフィーチュアしたバラードで「アイ・キャント・ゲット・スターテッド」。ベイシーオケでも存分に聞かせてくれたあの美しい音色をいかしたプレイで涙涙。というか音色のみで表現している感じの演奏。こういうのもスウィングの魅力。それにしてもハイノート出るなあ。最後は「A列車」。のっけから、フォレストのブロウ爆発。トリッキーなフレーズ、引用フレーズ(めちゃめちゃ多い)、ダーティートーン、ホンキング……もう言うことありません。フォレストにしてはかなり荒いソロだが、おそらくステージの最後ということでノリノリの出血大サービスなのだろう。ソロって人柄出るなあ。つづくグレイも楽しくも荒いソロで異常に盛り上げる。

「AL GREY FEAT.ARNETT COBB」(BLACK AND BLUE 33.143)
AL GREY

 この大傑作について、なにかを書くという作業自体が、もうしんどいなあ。あまりに好きすぎて、なんも書けん。とにかくこれも宝物のように大切にしているアルバム。白黒ジャケット一杯に写っているプランジャーを吹くグレイの雄姿は、CDサイズでは味わえない迫力。この作品は昔から、アル・グレイの最高傑作ではないか勝手に思っている。アル・グレイというトロンボーン奏者ははいつもハッピーでユーモラスでノリノリだが、このアルバムではちょっとちがう。もちろんハッピーでユーモラスでノリノリでもあるのだが、なんとなく渋いというか、きちんと「聴かせる」作りになっている。ピアノにレイ・ブライアント、そしてテナーにいつものフォレストではなくテキサスの重鎮アーネット・コブを迎えたことが一因かもしれないが、とにかくどの曲も楽しくガンガンスウィングしましょう、みんな難しく考えずに踊りながら聴いてやー、みたいなノリではなく、じつにしっかりした、ある意味シリアスな部分も感じられる作品だ。そして、ここでのコブがまた最高なんです。テナーの音をねじ曲げ、どこを切ってもブルースの味がするすばらしいテナーブロウを聴かせてくれる。このアルバムはコブにとっても最上のアルバムである。この録音の日、ふたりともとにかく超絶好調だったのだろうなあ。こういうのを、かしこまっていて本当の奔放な魅力が出ていない、とかいうのはアホだと思う。グレイもコブもやりたいように吹いているが、いかなる神の配剤か、たまたまこういう凄いことがジャズの世界では起きるのだ。レコードなので(CDも出ているのかもしれないが持ってない)、あんまり聴くとスクラッチが入るのでできるだけ聴かないようにしたい、でも聴いてしまう、そしてフレーズのはしからはしまで覚えてしまう……そんな魔力を持ったアルバム。個々の曲については、とにかく聴いてもらうしかないので簡単に。1曲目はグレイ作のブルース……といっても、超シンプル。Cジャムブルースよりシンプルかも。これを作曲といっていいのかと思うほど。でも、そのテーマがめちゃめちゃかっこよく聞こえるというのは、ダイナミクスとかリズムとかもあるだろうが、やはり腕やな。アル・グレイの先発ソロはプランジャーでストーリーを語っていく感じ。レイ・ブライアントのめちゃめちゃ美味しいソロを挟んで、コブ登場! この音のねじ曲げかたは、ある種、グレイのプランジャーに通じるものがあるかも。だからこのふたりは合うのかな。およそテナー吹きと生まれたからには一度でいいからこういうソロをしてみたいもんです。2曲目は「アイント・ザット・ファンク・フォー・ユー」というタイトルだが、ファンクというより「つっかつっかつっか……」というシャッフルのブルース。先発ソロは火付け役のレイ・ブライアント。このピアノが、すごくいい雰囲気を設定して、コブがグジャッとした感じで出てくる。かーっこいいっすーっ! このひとはほんと、テナーのモンスターですよ。およそテナー吹きと生まれたからには……あ、これさっき書いたっけ。ここでのコブのソロは、マジ本領発揮。このままコピーして吹いても、ぜったいこういう風には聞こえない。フレーズだけじゃないのだ、コブの音楽は。そのあと御大アル・グレイ登場。ここでもプランジャー。まあ、グレイは「ラスト・オブ・ザ・ビッグ・プランジャーズ」ですからね。3曲目は小唄っぽい曲。洒落た感じのテーマが終わると、アル・グレイのタンギングが炸裂。冒頭でびっくりさせておいて、そのあと歌いまくるという憎いやり方。憎いよ、このど根性ガエル! そのあとはピアノソロ。こういう曲をやらしてももちろんレイ・ブライアントはうますぎる。そして、コブが出てくるが、同じように、こういう歌物をやらしてもコブはええ感じでブロウしてくれる。それにしても、このアルバム、グレイとコブのあいだにかならずといっていいほどピアノソロを挟むのはなぜ?4曲目はレイ・ブライアントの軽快なピアノソロのあと半音で降りていってトロンボーンのアドリブが始まるという「ワン・オクロック・ジャンプ」のパターン(というか、そのもの)のブルース(またブルースか。A面は四曲中三曲がブルースでした)。グレイのソロもすばらしいが、コブが爆発している。短い演奏だが、ここにコブのすべてがあるといっても過言ではない。この曲はいつ聴いても興奮する。B面に参りまして、一曲目は……えっ、これもブルースっすか。コブの曲で「ブルース・アブラプト」というタイトルになっているが、実際はコブの「あの曲」でしょうね。ちょっとだけテーマの吹き方がちがうというだけでほとんど一緒である。ピアノソロがイントロがわりにあって、テーマのあとの先発ソロはコブ。もちろんすばらしいソロで圧倒的。こういうゆったりしたテンポのブルースをやらせるとコブの右に出るものはおらん。ここでピアノを挟まずにグレイのプランジャーソロ。これもすばらしい。二曲目「セント・ルイス・ブルース」。これはブルースといっても本当のブルース構成ではないのだが、ここではマイナーのあのテーマをプランジャーでグレイが奏でたあと、すぐに普通のブルースになってコブがなぜかワンコーラスだけ吹いて、ピアノは2コーラス。そしてグレイがプランジャーでソロをする。結局ただのブルースやん! かっこいいからええけど。三曲目はバラードでエリントンの「アイ・ガット・イット・バッド」。グレイのプランジャーが切々と美しいメロディーを歌い上げる。つづいてコブがこれも個性の塊のようなソロでしみじみさせてくれる。うまい。四曲目はレスター・ヤングの「レスター・リープス・イン」。コブがテーマ後のブレイクで妙技をみせる。ソロもコブ節全開で楽しすぎる。グレイのソロはこのアルバムでは珍しくプランジャーではなくストレートアヘッドなもの。いやー、かっこいいよねえ。というわけで八曲中五曲がブルースという強者アルバムだが、アル・グレイ・ファンが最後にたどりつくのはここじゃないかなあと私が勝手に思っている作品であります。家宝!

「THE LAST OF THE BIG PLUNGERS」
「THE THINKING MAN’S TROMBONE」(FRESH SOUND RECORDS FSR−CD 590)
AL GREY AND THE BASIE WING

 もともとは単独のアルバム二枚をカップリングしたCDだが、ほぼ同じメンバーでの録音。ベイシー・ウイングという名義になっているが、アル・グレイは70年代のベイシーバンドでの活躍はよく知られているが、じつは60年代も途切れとぎれにベイシーオケのメンバーして演奏していて、本作はそのころのもの。ドラムがソニー・ペインであることが目に付くが、個人的にはチャーリー・フォークスの参加が珍しく思う。「ラスト・オブ・ザ・ビッグ・プランジャーズ」のほうはレコードで持っているのだが、もうひとつのアルバムは今回はじめて聴いた。まずは前者のほうから。タイトルは、トリッキー・サム・ナントンやクウェンティン・ジャクソン、ローレンス・ブラウン……といったエリントニアンや、ブーティー・ウッド……といった「プランジャーミュートの達人たち」の系譜に連なる最後の名手というような意味だと思う。たしかにビッグトーンで雄弁に「しゃべる」プランジャーというものは上手いひとがやればめちゃくちゃ表現力があるが、モダンジャズ以降になると、プランジャー特有の泥臭いユーモア感覚というかガットバケットな雰囲気がシリアスなモダンジャズに合わない、ということになったのか(これは想像ですが)あまり使われなくなった。だが、たとえばミンガスなんかはエリントンのジャングルサウンドをモダンジャズとして再生したようなところがあるが、そういうときにプランジャーは不可欠である。私のように、いまでもスウィングジャズも聞いているようなひとはけっこうな数がいるはずだが、そういうリスナーにとってプランジャーは昔のものどころかまだまだ親しい表現方法である。しかも、最近のトロンボーン奏者は(トロンボーンに限らず、トランペットもそうだが)モダンジャズだろうがフリーだろうがインプロだろうがロックだろうがまったく気にせずプランジャーを使いまくる。そういえば大原さんも、どん兵衛のカップをプランジャーがわりにしていたなあ。アル・グレイ亡きあとも、ちゃんとプランジャーは後輩たちに引き継がれているのである。メンバーは、ジョー・ニューマンのトランペット、グレイとベニー・パウエルのトロンボーン、ビリー・ミッチェルのテナー、チャーリー・フォークスのバリトン……とまさにイン・ロンドンあたりのベイシーオケのピックアップメンバーによるリトルビッグバンドだが、ドラムがソニー・ペインなのだ。すごいメンツだなあ。そして、約1年後に行われた続編の「シンキング・マンズ・トロンボーン」(「考えるひと」のトロンボーンという意味? なんのこっちゃ)もピアノがエディ・ヒギンズ(ビリー・ヒギンズという表記はたぶん誤記)以外はほぼ不動のメンバーで、しかもフレディ・グリーンが参加している、という、ほぼカンサスシティナインと呼んでもいいメンバー。これならピアノもベイシーが弾けばよかったか? それだとベイシーのリーダー作になってしまうか。とにかく参加メンバーが一人残らず全員凄腕、というのは、人選の妙である。今の目でみると、超オールスターバンドなのだが、この録音当時はみんな若手のバリバリだったのだろう。だからこそ、アル・グレイの人選の的確さに驚くわけである。中身はすばらしく、中間派(ちゅうんですかね?)が好きなひとにはこたえられん極上の演奏ばかり。正直言って、ジョー・ニューマンやビリー・ミッチェルを筆頭にモダンベイシーのなかでもとくに私が好きなソロイストばかりなのである。とくにいぶし銀のビリー・ミッチェルは黄金時代のベイシーオケのなかでもけっこう重要なソロをしているのに、2フランクスやロックジョウらと比べてもいまいち目立たない存在で、自分のリーダー作(どれもいぶし銀!)はともかく、こういうベイシーパル的な企画でこれだけ目立つビリーというのも珍しくないか(9曲目「ケニー・コニー」のソロなんて超スタイリッシュ!)。そして、なんといってもアル・グレイである。アル・グレイというひとは、その音色自体がブルースであって、しかも、フレーズからなにからなにまでブルースなひとで、もちろん歌ものやバラード(何曲か入ってるがどれも極上!)もめちゃくちゃ上手いが、やはり根底にあるのはブルースだと思う。この作品は、アル・グレイがいかに彼独自のブルースをつぎつぎぶつけてくるかを享受すればいいのだから、そういった姿勢で聴けば、アルバム2枚分を通して聴いたとしても飽きたり、長いなあと思ったりすることはない。スウィング系のトロンボーンって、ババッ、ババッ、ババッ、バババババ……という、スタッカートでリズミカルに積み上げてくようなフレーズとかがめちゃくちゃかっこいいな。アンサンブルもあまりでしゃばらずにソリストを引き立てていて洒脱だが、なかでもチャーリー・フォークスのバリトンが要所要所を引き締めている。このひとの参加はほんと意義深い。しかも、珍しくソロもとっていて(ベイシーオケではほとんどない)貴重。二枚目のほうはフレディ・グリーンの四つ切りギターがものすごく生々しく録音されていて感涙。カップリングアルバムというのはじつはあまり好きではないのだが、この二枚のカップリングというのは意味あるなあ、と思う。最初から双子のような関係にあるアルバムだからである。傑作。

「AL GREY ET WILD BILL DAVIS」(BLACK & BLUE CDSOL−46077)
AL GREY

 アル・グレイはビッグバンドのひとなので寡作なのかもしれないが、長いキャリアのあいだにぼつぼつとリーダー作としての良作を残してくれている。「ラスト・オブ・ザ・ビッグ・プランジャーズ」とかビリー・ミッチェルとの双頭バンドでの諸作、ジミー・フォレストとの双頭バンドでの諸作など記憶に残るが、なんといってもこのブラック・アンド・ブルーにおける作品群がすごい。フォレストやハル・シンガーを擁した「グレイズ・ムード」とか、アーネット・コブをフィーチュアしたその名もずばりな「アル・グレイ・フィーチュアリング・アーネット・コブ」のほか、ゲイトマウス・ブラウンの「モア・スタッフ」やコブの「キープ・オン・プッシン」など名演が相次ぐ。ブロウテナー、タフテナー、ホンカー……などというが本作でのグレイはまるでテナーブロワーのように豪快な音色で縦横無尽にブロウしまくり、ブルーズのツボを抑えまくった圧倒的な演奏を繰り広げ、聴いているものの度肝を抜くようなプレイを展開する。これこそアル・グレイの本領である。正直、アル・グレイがいたらしょうもないテナーは必要ない。プレイといい、ブルーズ感覚といい、音色の心地よさといい、アル・グレイはテナーを必要していないワン・ホーンで十分な化け物じみたトロンボーン奏者なのだ(だからこそ、グレイが選ぶテナー奏者は「すごい」ということにもなるのだが)。グレイの美味しいところばかりが詰まっている本作は、めちゃくちゃ傑作で、このアルバムで飯10杯は食える。9曲目におけるような、バップ的な16分を吹きまくったり、高音を駆使したり……という凄みもあるのだが、もちろんベイシーオケでのフィーチュア曲(「モントルー77」での「モア・アイ・シー・ユー」とか……)のようにワイルドなトロンボーンの音を極限までに突き詰めて聴くものの涙腺を刺激するようなすばらしいバラード奏者でもある。本作でいうと5曲目とかがまさにそんな感じ。トロンボーンの音を細く細くしてもきちんと音の美しさや音程を保ち、聞き手を泣かせにかかるのである。そしてつぎの6曲目でワイルド・ビルのオルガンがイントロから炸裂し、エディ・クリーンヘッド・ヴィンソンのシャウトがぶちかまされる。かっちょええーっ! つづく7曲目もシャウトとブルーズギターとアル・グレイのトロンボーンがなんの違和感もなく融合してすばらしすぎる。クリーンヘッドはクレジットには「ボーカル、アルト」となっているが実際はこの曲のイントロでちょこっとアルトを吹いているだけなので、本作はほぼアル・グレイのワン・ホーンといっていいが、まるでビッグバンドのような迫力があるのはほんとうにすごいことだ。ブラック・アンド・ブルーにおけるクリーンヘッドは例のしゃくりあげ唱法は封印(?)している感じだが、そんなことは関係なく最高です。クリーンヘッド参加曲はこの2曲だけ。そのつぎのブルーズなんかは「ひとりベイシー」みたいな感じで表現力ありすぎる(日本語ライナーを読んだらおんなじようなことが書いてあった)。全編にわたって、ゲイトマウスのトリッキーなのにブルーズの塊のようなすばらしいギターとワイルド・ビルのファンキーの権化のようなオルガンが爆発しまくっている。我々はワイルド・ビル・デイヴィスというと、ミルト・バックナーとともに「ジミー・スミス以前のひと」みたいな感じに思うが、ブラック・アンド・ブルーはこのふたりがいかにモダンで凄いかということを音盤に刻んでみせた。まあ、当分このアルバムを聴いて聴いて聴き倒したいと思いますね。傑作!