lars gullin

「LATE SUMMER」(DRAGON DRCD244)
LARS GULLIN 1954/55 VOL3

 バリトンサックス奏者は、ジェリー・マリガンのように軽い音を出すタイプとペッパー・アダムスのようにごりごり吹くタイプがいるが、聴いていてスカッとするのはやはり後者で、バリトンをバリトンらしく吹いている感じがする。しかし、ラーシュ・グリンの場合は、ちょっと聴くとマリガン的な軽い感じに聞こえるのだが、その音色、アーティキュレイション、フレーズ、リズム……すべてがかっこよく、しかも、しっかりした奏法なので、物足りなさが全然ないし、心にずんと響く。また、ペッパー・アダムス(ばっかり引き合いに出してすまんが)なんかだと、二、三曲聴いたら「ももええわ」と腹一杯になるのだが、ラーシュ・グリンの場合はいつまででも聴いていられる感じ。もしかしたらバップ系のバリサクのなかではいちばん好みかも。バラードも最高で、歌心もバップ魂もあり、ほんと、この人はうまい。夭折が惜しまれます。マッツ・ガスタフソンがラーシュのことを尊敬しているらしいが、わかるような気がする。写真を見るかぎりでは、めっちゃ男前。

「BARITONE SAX」(ATLANTIS RECORDS ATLANTIC1246)
LARS GULLIN

 タイトルがすごいですよね。ラース・ガリンのバリトンは大好きなのだが、できればワンホーンがいいなあ、ということで本作は聞いたことがなかったのだが、いやー、本作もすばらしかったです。バップというより、なんか中間派的な味わいもある楽しい作品で、アレンジもシンプルだが随所を引き締めるストレートアヘッドなもので(やや、大げさか)ソロを引き立てる。ガリンのバリトンソロもたっぷり楽しめるのだが、テナーのカール・ヘンリク・ノリーンというひとのソロもすごくいいし、トロンボーンも洒落たフレーズを吹くなあと思っているとアケ・ペルソン(だとばっかりずっと思っていたが、オッケ・パーソンと発音するらしい)だった。1曲目の「サマータイム」のテーマを愛おしそうに吹くガリンのバリトンがなんともいえないっす。やや力んだトランペットソロを挟んで二回にわけて演奏されるガリンの、サブトーンでのアドリブの歌心はしみるしみる。2曲目のガリンのソロもほんとすばらしい。マイナーからメジャーにいくあたりは、お手本のような演奏。アルトのアルネ・ドムネラスのソロとカール・ノリーンのソロも聴けるが後者はとくに秀逸。3曲目は軽快なスウィングナンバーとしての「フォギー・デイ」。ここでもガリンの歌心が炸裂する。トランペットと交互にフィーチュアされるトロンボーンソロもいいっすね。4曲目も楽しい曲で、アルトのドムネラスのソロ(なかなかええ感じ)とテナーのノリーンのソロ(私好みです)もフィーチュアされる。5曲目は本作の白眉ともいうべき「オール・オブ・ミー」で、ガリンのワンホーン。いやー、マジで歌心を見せつけるようなすばらしいソロ。ビバップのコード分解的なソロと歌心というのはじつは対極にあるのではないか、という気もするが、それを傑出したプレイヤーはちゃんと融合するわけで、たとえばクリフォード・ブラウンやワーデル・グレイ、そしてラース・ガリンなどはそういうことのできるプレイヤーだと思う。まあ、この曲を聴いているとほんとほれぼれするのです。6曲目はミディアムの曲で、3管がからみながらテーマを奏でる。ラストの7曲目はマリガンの曲で、マイナーの循環みたいなやつ。トロンボーンがめちゃくちゃがんばる。つづくガリンのソロがこれも歌いまくりで最高。全体にガリンの吹き方はあくまで軽く、バリトンの重たさを感じさせないという点ではマリガンっぽいのだが、マリガンはものすごくバップ的なのに比してガリンは歌いまくるのだ。こんなに軽く吹くのならバリトンでないほうがいいじゃん、という意見は無視無視。全体的にドラムがちょっとなあ……と素人ながら思うけど、いいアルバムだと思います。