masahiro hama

「アガルタ通信2008」
アガルタ通信

 濱雅寛というギタリストが率いる北海道のバンド「アガルタ通信」にサックスの奥野義典がゲストで加わった、「くう」という店でのライヴ。CD−Rだし、ジャケットは文字がベタ打ちされているだけだし、ライナーノートはなんとそこには載っていなくて、ネットで見ろというそっけなさだし、肝心の盤は何の記入もない真っ白状態でうっかりすると家の未使用のCD−RやDVD−Rと混じってしまいそうな、あまりに手作りなアルバム(?)だが、中身は凄かった。いやー、びっくりしました。これはちゃんとプレスして売ってほしいなあ。もったいない。ツインギターでフロントはトランペット、トロンボーン、バリサクという変則だが、そこにアルトが加わることによって実にバランスがよくなっている。ラッパもボントロもいいけれど、なんといっても奥野のアルトは、どの曲でも爆発しており、あるときは朗々と歌心を示し、あるときはフリーキーに暴れ、あるときはたった一音で存在感を示す。とくに吹き伸ばしの音色の見事さにはほれぼれする。また、バリサクのかっこよさも特筆すべきで、低音部のリフの吹き方や咆哮するソロなど、このひとはうまいわー。ふたりのギタリストのカッティングもいいし、ギターとアルトのデュオパートにも聞き惚れた。そしてなによりキーボードの変態的なソロはエレクトリックマイルス期のキース・ジャレットを彷彿とさせるほどの異常さ。全4曲、曲もいい(二曲がリーダーの、一曲がもうひとりのギタリストのオリジナルで、残る一曲がローランド・カークの曲)が、演奏も最高で、多くのひとに聴いてもらいたい。札幌はあなどれんなあ。意欲というか志の高さが尋常じゃないだけでなくて、それを具体的に実現してしまっているところがすごいと思う。

「続・アガルタ通信2008」
アガルタ通信

 濱雅寛率いるアガルタ通信の「くう」におけるライヴの2ステージ目を収録したアルバム。正編同様、通販で入手できる。相変わらず、ライナーノートはネットで見なければならないし、盤も真っ白というそっけなさだが、内容は正編に劣らない。正編のほうは、電化マイルスを思わせるサウンドなのにマイルスの曲はなかったが、続編には電化マイルスのレパートリーから2曲がピックアップされている。いやー、これは、ちゃんとマスタリングして、二枚組として世に問うべき音源ではないか。しょうもない演奏が続々と商品化されている昨今のジャズ界、このように志高く、かつ内容最高の刺激的な音楽が多くのひとの耳に届かないというのはおかしい。一曲目はジョン・ゾーンのマサダにインスパイアされたという曲だが、思わせぶりのイントロから奥野のアルトソロになる。このアルトソロの出だしのなんとまあ心配りが行き届いていることか。ドルフィーを思わせるような、考えつくされたいびつなフレージングをゆっくり、じっくりと積み重ねていき、しまいには凄まじい大ブロウになる。もうめちゃめちゃかっこいい。二曲目はマイルスの有名な「IFE」だが、ゆったりしたグルーヴのなかにさまざまな局面が展開して飽きないし、ミュージシャン個々が楽しんで演奏しているのが伝わってくる。聴いていて、心が遊ぶというか、たとえばアート・アンサンブルを聴いているときのような解放感にひたることができるのだ。特筆すべきはバリサクソロで、このひとはめっちゃうまいですわ。ロングトーンと不協和音ぎりぎりのフレーズを冷静につむいで、聴衆をゆっくりとクライマックスへ誘導していく。3曲目はなんと「スリープウォーク」でちょっと驚く。管楽器も休みで、非常に短い演奏だが、うまいチェンジ・オブ・ペースになっている。そしてまたマイルスの「ブラック・サテン」。これはたぶんこうなるだろうな、と思っているとやっぱりか! という感じの「期待どおり」の演奏で、つんのめるようなファンクリズムに乗ってボントロを先頭に全員が熱いソロを展開するが、白眉となるのは豪快にみえるがリズムにしっかり両足をつけたバリサクソロ、そしてそれを受けてのアルトソロである。やはり奥野のアルトが首ひとつ抜けた感じで、スケールの大きいソロを繰り広げ、そこにほかの楽器がからんでくる瞬間のかっこよさをなんと表現したらいいのか。アルトはゲストなのに完全にバンドと一体になっとるなあ。ドラムとのデュオで、クライマックスのうえにクライマックスを積み上げていくような白熱の演奏が展開し、ついには絶叫、また絶叫。いやー、これはすばらしい。最後はドラムソロで長尺の演奏が終わるが、ミュージシャンも疲れただろうが、聴いているこっちも疲れた。これは汗みずくでへとへとになりながら聴くべき演奏だ。そしてラストの奥野とキーボードのデュオによる「イン・ア・センチメンタル・ムード」には泣けます。

「アガルタ通信2009」

 おなじみの「アガルタ通信」+奥野義典による札幌は「くう」のライヴ。今回は二枚組。バリトンサックスのソロが若干オフマイク気味で聞こえにくいのが残念(ほんとに残念! とくに二枚目の一曲目)だが、そのほかは客席からのワンポイント録音にもかかわらず、バランスはよい。これは、ミュージシャンの個々の力量がすぐれていることの証拠でもある。相変わらず刺激的な音が詰まっていて、二枚組という長尺を楽しく聴けた。モーダルで直情的なラッパもドスのきいたバリサクも変幻自在のギターも変態キーボードもベースもドラムも……みんなすばらしい。ときどき期せずしてフリーに突入して、めちゃめちゃになって盛り上がるところはまさにマイルスバンドを彷彿とさせてヨダレダラダラだが、そのあと何気なく元に戻るあたりも、たぶんなんの決めもないのだろうが、こういう修羅場を楽しめるだけの力のあるひとたちの集まりだからこそだと思う。これが札幌で、10人前後の少数の客をまえに行われているギグとはなあ……世の中まちがっとるよ! しかし、やはりアルトの奥野は飛び抜けていて、引き締まったディープな音色でスウィングからビバップ、モード、フリージャズ、その他……というジャズの歴史を一瞬で駆け抜け、返す刀でファンク、ブルースをもぶった切るかのようなプレイをする。激情的な演奏、静かな、深い演奏、どちらもすばらしい。一曲目の途中での、ハーモニクスをじっくり試す、みたいなロングトーンの部分など、このひとがいかに冷静に自分の音を見つめながら演奏しているかわかるし、テナーのフィーチュアリングナンバーの2曲目(カークの曲)のファンキーなブロウ、2枚目2曲目の歌心あふれるソロ、二枚目の3曲目「ヘキサゴン」におけるモーダルなソロ、ラストのキーボードとのデュオもいいが、今回はとくにある曲のある部分におけるフレーズ(どことは特定しません。なんとなく恥ずかしいから)にハマッてしまい、そこばっかりしつこくしつこく聴いていた。もちろんそのフレーズがいいというだけでなく、タイミング、アーティキュレイション、音色その他もろもろの要素が合わさってのことだろうが、とにかくしびれた(古い言い回し)。私はたまにこういう聴き方をしてしまい、それはあまりよいことではないかもしれないが、麻薬のように引き寄せられ、何度も何度も聴いてしまうのである。以前、アルト〜ソプラノの塩谷さんの「イントゥ・ジ・エア」というバンドのCDで、同じように一箇所のフレーズがめちゃめちゃ気に入ってしまい、毎日そこばっかり聞いていたことがあった。まあ、いろいろな要素がつまっていて、いろいろな聴きかたのできる音楽だということだ。まるで、マイルスバンドのように。