「STEPPIN’OUT 1942・1944」(MCA RECORDS MCA1315)
LIONEL HAMPTON 1
アーネット・コブやイリノイ・ジャケーに興味をもった大学生の私がいろいろ探してようやく買ったアルバムがこれ。つまり、一世を風靡したジャケーの「フライング・ホーム」のオリジナル録音と、そのあとを継いだコブの「フライング・ホーム・パート2」が両方入っているのだ。これはほんとによく聴いたなあ。最初の4曲が8重奏団によるもので、メンバーはハンプトンのほか、マーシャル・ロイヤル、ジャック・マクヴィー、ミルト・バックナーなど。42年の録音なので、まだパーカーなどはマクシャンバンドでうろうろしていたころである。そのときのこれだけの音楽的成果はすばらしい。とくにマーシャル・ロイヤルとジャック・マクヴィー(バリトン)がすごくて、感動する。5曲目はビッグバンドになって、いきなり「フライング・ホーム」でジャケーがブロウする。このソロをしらないジャズファンはいませんよね。いたら、すぐにこのアルバムを買って(って無理か。LPだもん)熟読じゃない、熟聴すること。アーニー・ロイヤルのラッパソロもすげーっ。メンバーも超一流で、主要なメンバーだけひろっても、アーニー・ロイヤル、ジョー・ニューマン、マーシャル・ロイヤル、(なんと)デクスター・ゴードン、イリノイ・ジャケー、ジャック・マクヴィー、ミルトン・バックナー、アーヴィン・アシュビー……すごすぎる。つづく「イン・ザ・バッグ」ではマーシャル・ロイヤルの熱いクラリネットソロがすばらしい。そのつぎのビッグバンドのメンバーは、2年後だというのにがらりと一新されて、これまたきら星のごときメンバーが並ぶ。主要メンバーをあげると、(なんと)キャット・アンダーソン、ジョー・モリス、ブーティ・ウッド、アール・ボスティック、アル・シアーズ、アーネット・コブ、チャールズ・フォークス……うぎゃあああっ、その後のビッグバンド界を形作る猛者ばかり。アーネット・コブのソロは、いきなりすごすぎて口をあんぐりあけるようなドスのきいた猛烈なもの。B面にいって、ボスティックやシアーズ、ジョー・モリスらのソロももちろん悪くないが、2曲目「フライング・ホーム・パート2」のコブのソロは突出してすごい。おなじみの「ハンプス・ブギウギ」を挟んで、B−4以降は同じ年の録音だが、またまたメンバーがかわり、あのスヌーキー・ヤングやウェンデル・カリーなどが加わっている。コブのソロは「オーバータイム」でも衆を圧して鳴り響く。アルバム最後の「テンポズ・ブーギー」はハンプトンひとりがフィーチュアされた曲で、どっしりしたブギ。リーダーの貫祿である。正直、ハンプトン楽団のアレンジというのは異常にシンプルなものが多く、学生でも楽勝で吹けるようなものばかりなのだが、それが死ぬほどかっこよく聞こえるのは、個性豊かなメンバーがアンサンブルではバシッとそろえる、その鳴りが楽器を震わせ、会場を震わせ、客席を震わせるのだ。
「RARITIES」(MCA RECORDS MCA1351)
LIONEL HAMPTON 1
46年の録音が中心なので、上記「ステッピン・アウト」よりちょっとあとの時代のもの。10曲中8曲にアーネット・コブが参加しており、そのほとんどの曲でフィーチュアされていて(大スターなのだから当然です)、コブファンにはたまらん内容。上記「ステッピン・アウト」も超豪華メンバーだが、こちらもすごくてウェンデル・カリー、ジョー・モリス、ジョー・ワイルダー、ベニー・ベイリー、ブーティー・ウッド、アル・グレイ、ボビー・プレイター、ジョニー・グリフィン(!)、ジョン・スパロウ、ャーリー・フォークス、ミルト・バックナー、アルバート・アモンズ(!)、ウエス・モンゴメリー(!!)……などなどという豪華すぎるぐらい豪華なメンバーがそろっている。このうちのかなりのメンバーがのちにベイシーに参加している。内容はもちろんすばらしいです。
VIBE BOOGIE」(CARACOL 440)
LIONEL HAMPTON AND HIS ORCHESTRA
なんだかよくわからないレーベルのレコードで、学生のころ、とにかくアーネット・コブの音源を集めたいと思っていたころに買ったのだと思う。音源としては、入手しやすい形で出回っているものばかりだ。ジャケットは、マイクのまえでおっさんふたりが寄り添っているという、どう考えても購買欲を刺激しないようなものだが(ハンプトンとコブです)、とにかくコブ聴きたさに買ったのだ。ていうか、このジャケット欲しさ……ということもあるかもな。吾妻光良さんのエッセイで、このジャケットのコブが「俺のおじさんに似ている」とか書いてあったのを読んで(記憶ちがいだったらすいません)買った記憶がある。メンバーはものすごくて、アール・ボスティックがリードアルトというのもすごいが、テナーがアーネット・コブ、アル・シアーズ、バリトンがチャーリー・フォークスっていうサックスセクションは驚異である。まあ海賊盤だと思うが(短い曲が9曲しか入ってないし、SP起こしだと思うがスクラッチノイズがすごいです)、「フライング・ホーム」はいわゆる「フライング・ホーム・パート2」というやつでテーマの吹き方がちょっとちがって、バンドメンバーの「フライン・ホーム!」という掛け声がはいる「あれ」である。テーマのあと、ハンプトンのビブラホンのソロ、そしてコブのグロウルしまくりのソロにしびれる。バージョン2は、ミルト・バックナーのピアノのイントロのあとコブが悠揚迫らずアドリブを吹き始める……という展開で、そのあと(たぶん)トランペットふたり、ハンプトンとソロが続いてから、コブがジャケーの例のソロをなぞって吹いたあと、やっとアンサンブルになる。結局「フライング・ホーム」のテーマは出てこない。「アイ・ワンダー・ブギー」はミルト・バックナーのブギウギっぽいピアノをフィーチュアしまくって、バンドメンバーの掛け声などが盛大に入ったハンプトンバンドらしい演奏。管楽器ではトロンボーンがフィーチュアされる(わからんけど、ブーティー・ウッドか?)。シンプルかつワイルドなジャンプサウンドが売り物のハンプトンバンドだが、4曲目「メジャーとマイナー」という曲では、スウィングジャズの神髄ともいうべき演奏が披露されるのでびっくりする。とくにサックスのソリの見事さはすばらしい。まあ、このメンバーだからあたりまえか。フィーチュアされるアルト(アール・ボスティックでしょうね)はすごい。A−5「ヴァイブ・ブギー」はそれまでの約1年後の演奏だが、メンバーがやや入れ替わっている。ホーンセクションはユニゾンでリフを吹くだけでほぼお休みで、ハンプトンをフィーチュアした演奏。バックナーのコードソロを挟んでまたハンプトンが登場する。B面に行きまして、1曲目はA−5と同じときの録音。バンドメンバーが騒がしい1曲。プランジャーのトランペットソロ(ジョー・モリスか? ウェンデル・カリーか?)がめちゃくちゃ快調。そのあとコブがちらっとソロを吹く。リフをバックに吹きまくるトロンボーンはだれだかわからないけど豪快。そして、クラリネットソロ(たぶんハービー・フィールド)も美味しい。B−2以降はたぶん放送録音で、司会者の声が入る。「ルーズ・ウォーク」といういう曲はほかのアルバムでも聴いたことがあるが、メンバーの掛け声(悲鳴?)が入るマイナー曲。司会者がなんといってるのか聞き取りにくいが、たぶん先発の太い音のアルトはベン・カイナード(ボビー・プレイタ―も入ってるのだが、たぶんちがう思う)。つづく見事なトロンボーンはブーティ・ウッド。引用フレーズもかっこいい溌剌とした職人芸的なトランペットはデイヴ・ペイジ(ベンドも見事)、クラリネットはだれでしょうね。ハンプトン御大のソロで締めくくられる。3曲目「ムーングロウ」はなんやかんやいってもこのひとのビブラホンはすばらしいなあと思わせてくれる最高のバラード。ひたすらハンプトンをフィーチュアした演奏で、途中からは倍テンになってほとんどゴリゴリのスウィングジャズに変身。ブレイクでのハンプトンのマレットさばきに観客も思わず拍手(というかライヴだったのか……)というあたりはすばらしすぎる。超ゴージャスなホーンセクションがラストにちらっとしか登場しないというのもこのひとのこだわりなんでしょうねえ。ラストはアップテンポのマイナー曲。ドラムはずっとベードラを踏んでいる。派手なドラソロに観客は熱狂……って、終わりかい! まあ、海賊盤的なものなのでなにも言えんが、内容はいいし、ジャケットも秀逸。ただし、中身は今どこでも入手できる、ということは言っておきましょう。