「LIFE MUSIC」(CAROSELLO RECORDS YX−7038)
SLIDE HAMPTON QUARTET
スラハンは、JJジョンソンのフォロワーのなかから最初に抜け出したトロンボーン奏者のひとりだと思うが、「ファビュラス・スライド・ハンプトン」をはじめ、リーダー作もけっこうあるなかで、本作は個人的にはいちばん好きな一枚。というか、これさえあれば、もうほかはええわ、という程度のスラハン好きである(あかんやろ)。なんといってもB面の「ソー・ファット」が人気だと思うが、これがジャズ喫茶でかかると、本作のことを知らないひとも自然と立ち上がって、ジャケットを確認する……というぐらい、この曲の演奏はリスナーに対する説得力がある。アトランティック系の諸作では、トロンボーン奏者+アレンジャー的な、やや編成が大きいものが目に付くし、ハードバップ的、ジャズロック的な演奏も多いが、本作はトロンボーンのワンホーンでとにかく徹底的にブロウを聴かせる。一介のアドリブプレイヤーに戻ったような感じか。しかも、めちゃめちゃうまい。こんなにうまかったのかと思うぐらいうまい。そして、ほぼ全曲モードを取り入れた斬新かつパワフルなサウンドの演奏ばかり。そのうえイタリアのリズムセクションも超強力で、言うことなしの傑作。スラハンは高音もバリバリだし、音色も美しいし、モダンな音使いでリズミックなパッセージも多用し、しかもコードをひとつも外さない几帳面なフレージングで、脱帽。テクニックありすぎ。バラードもすばらしいし、5曲中4曲のオリジナルもめちゃかっこいい。そして、ラストの「ソー・ファット」だが、この曲はマイルスの「カインド・ブルー」における「ベースがテーマを弾き、管楽器がリフを吹く」みたいなテーマの提示のやりかたではなく、トロンボーンがベースの部分を吹く、という逆転したやりかたで、今では当たり前となっているこういうテーマ提示は、もしかするとこの演奏が嚆矢なのではないかとも思う。学生のころ、はじめてこういうテーマの吹き方を聴いたとき、すごく斬新に思え、ワンホーンで「ソー・ファット」をやるというときは「これやな」と思ったもんであります。とにかく傑作としかいいようがないアルバム。ジャズのトロンボーンをやろうと思っているひとは、みんなコピーしたらええんちゃう?