「LIVE!」(MUSIQUE69 MCD−5004)
華村灰太郎カルテット
華村灰太郎のボーカルとギターを中心にした演奏だが、ボーカルのいるロックバンドというくくりとしてはめちゃくちゃ自由で、いや、自由というより、4人のメンバーの熱気みたいなものが音楽としての枠組みをぶち破ってあふれ出て、噴火のような状態になっているのだと思う。パッションのまま喚き、叫ぶ華村のボーカル、しなやかな鞭のように唸りをあげる今福知己のベース、こういう演奏にはぴたりと合うつの犬のドラム、そして、伴奏に徹するでもなく、フロントとして吹くでもなく、ひたすら自分を主張しながらバンドに完璧に解けこんでいる高岡大祐のチューバ。この最高にヒップな4人の演奏が、コロナ禍の最中に発売されたことは私にとってはひとつの「救い」だった。シンプルな編成の三人に、なぜチューバが加わっているのか……ということへの答は、「聴けばわかる」である。だれひとり欠けてもこの音にはならんのやろなあと思う。こういう音楽があるということは、クソみたいな今の世の中、政治、コロナ、なにからなにまで鬱陶しい状況のなかでほんとうに救いである。「菩薩」とか「観音」とかいうレベルでの救いである。演奏しているひとたちがどう考えているかはわからないが、聴いている私にとってはめちゃくちゃ実感のある、具体的な「もの」であって、今聴いても、最初に聞いたときの「助かった……」という感じを思い出す。私事ではあるが、大学でジャズをずーっとやってて、卒業して会社員になったころ、こういうバンドをかなり長いあいだやってたことがある。それはアナーキーなファンク〜フリージャズバンドみたいな感じで、サックスがなにをやっても許された。あれは確実に自分の音楽体験のなかではでかかったなあ。演奏レベルはまるっきりちがうだろうが、このバンドの「歌詞」とそれにからむメンバー個々の音、そして、一体感とか昂揚とか気が狂ったみたいな熱気を聴いていると、どうしてもあのバンドのことを思い出さざるを得ない。どの曲もすばらしいが、「扇風機のブルース」「トーキングブルースビスケット」などにノックアウトされている。つの犬さんは相変わらずどファンクでパワフルである意味ジャズでレスポンスも凄いし、ベース(フェンダージャズベース)もこのバンドのグルーヴを中心になって作り出していてめちゃくちゃかっこいいが、全体のリズムを(おそらく汗だくの)ボーカルが(客も含めて)全員を引きずり倒すみたいに作り出しているところがほんとにすごい(ギターもすごい)。そして、高岡大祐の、なんというか世界でひとつだけのチューバが、リズムにオブリガードにノイズにメロディにと八面六臂の最高の演奏をしている。録音のすばらしさもあって、ボーカルの歌詞をはじめすべての楽器の細かい音が生々しく聞こえるし、バランスもいいので、とにかくみんなにお勧めできる。「あー、生きてるとかこの世のなかとか仕事とか政治とか金とか全部うっとうしいことばっかりだよ」と思ってるひとはいっぺんこの音楽を聴いてほしい。もしかしたらなにかが変わるかもしれない。傑作。