hervie hancock

「DIRECTIONS IN MUSIC〜LIVE AT MASSEY HALL CELEBRATING MILES DAVIS & JOHN COLTRANE」(VERVE UCCV−1030)
HERVIE HANCOCK/MICHAEL BRECKER/ROY HARGROVE

 最初、かなり期待して聴いたとき、なんやこれしょーもなーと思ってしまった。ハンコック以下、たいへんなメンバーを集めているわけで、期待しないほうが無理だと思うが、もちろん悪くはないけれど、「これだけのメンバーなら、もっともっともっとすごいことできるんじゃないの?」と思ってしまったのだろう。今回、何度か聴き直してみて、やっぱり凄いなあと素直に納得できる瞬間も多々あることに気づいたが、全体の印象としては変わらない。やっぱり「もうちょっとすごいことが……」なのである。メンバーのうち、ハンコックはめちゃすごいし、ブレッカーもがんばっている。リズムセクションは言うまでもない。では、何がいかんのか。もしかして、ロイ・ハーグローブの存在なのか。彼の演奏は悪くない、というか、すごくいいと言っても過言ではないのだが、コルトレーンのトリビュートなのに、なんでトランペットがいるの? と、ついつい思ってしまうのかもしれない。まえに、エルビンの「至上の愛」コンサートで、「なんでフレディ・ハバードがいるの?」と思ってしまったのと同じかも。コルトレーンのトリビュートなのだから、テナーのワンホーンで勝負してほしかったという気持ちがどこかにあるのかもしれない。このアルバムはマイルスへのトリビュートでもあるから、トランペットは不可欠なのかもしれないが、マイルスとコルトレーン両方へトリビュートしようという企画自体がそもそも欲張りである。結局、こういうことでしょうね。個々のメンバーの演奏はほんとすばらしいのだが、コルトレーンやマイルスへのトリビュートならば、そういうことを超越した精神性というか、「言葉も出ないほどめちゃめちゃに凄いもの」をつくりあげてほしい、と。だって、悪いけど、この演奏なら、レコード棚から「トランジション」でも「フォア・アンド・モア」でも引っ張り出してきて聴いたほうがずっとすごいから。それって無い物ねだりか? それともここだけの話だが、そもそもこういった音楽に対して感動する心を私はすでに失ってしまったのではないか。(ジャケットにはハンコック、ブレッカー、ハーグローブの名が並記されているし、プロデュースはブレッカーなのだが、音楽的にはハンコックが主導権を握っているように思われるので、ハンコックの項に収録しました)