「INTRODUCING THREE FOR ALL + ONE」(ARABESQUE RECORDINGS AJ0109)
CRAIG HANDY
たぶんクレイグ・ハンディの最高傑作。ロイ・ヘインズバンドでの演奏を聴くかぎりではバップもばりばりいけるひとだと思うが、本作では基本的にピアノレスで(12曲中4曲にデヴィッド・キコスキーのピアノが入っている)。メンバーのオリジナル中心だが、4曲目はジョージ・アダムスに、6曲目はクリフォード・ジョーダンに捧げれられており、2曲目はジョー・ヘンダーソンの曲だったり、と伝統を感じさせる選曲。内容は、超最高で、あっけにとられるほど。狙ってる音がめちゃくちゃ高いところにあるのだが、それを全曲実現させているところがもうすごい。このメンバーならそりゃすごいだろう……というようなレベルを超えていて、いかにもテナーらしい、というか、「テナーサックス」という楽器の魅力が最大限に引き出された演奏である(ソプラノも9曲目で吹いているが)。ピアノレスの曲もそうでない曲も、やはりロリンズのトリオを連想させるテイストがあるが(少しは意識しているのかもしれない)、すべてがハンディの血となり肉となっている(すばらしいリズムセクションの作り出すリズムに乗っかる、という感じではなく、ごりごり吹きながらも自分自身が作り出すリズムで全体を引っ張る……みたいなところがロリンズっぽさを感じるのかもしれない)。フリージャズ的なほどのフリーキーな表現もあるが、全体的に伝統的なバップ〜モードジャズの語法のなかで存分に暴れまわっている。これがスタジオ録音なのか、と驚くほどに熱気があふれている。(ロリンズのトリオ同様)武骨な雰囲気だが、じつは細部まで気持ちの行き届いた繊細さも十分にあり(遠くからマイクに近づいてくる感じの12曲目の無伴奏ソロの演出も最高です)、しかも自由奔放で気持ちのおもむくままぐいぐい進んでいく大胆さもあって、テナートリオにこれ以上なにを求めるのだ、というぐらいの気持ちになる。世が世なら大スターになってもおかしくないぐらいの魅力をもったテナー奏者だと思う。だが、この演奏はもう15年もまえのものであり、ハンディは今も前進をやめていない……と思う。5,6年まえに出たニューオリンズに題を取ったアルバム(ウィントン・マルサリスと共演している)は、ベースのかわりにスーザホンが入った意欲作だった。とにかく本作は完全に私の好みにぴったりの傑作であります!
「CRAIG HANDY & 2ND LINE SMITH」(OKEH−RECORDS/SONY MUSIC ENTERTAINMENT 88883721832)
CRAIG HANDY
セカンドラインというのだからニューオリンズ関係の曲を演奏したアルバムなのかと思ったが(ウイントン・マルサリス(とその弟のジェイソン・マルサリス)も入ってるし)、「スミス」というのはなにか、と思って英文ライナーを読んだ。よくわからん。どうやらジミー・スミスに捧げる、というか、ジミー・スミスが演奏した曲などをニューオリンズ的に解釈した、というような作品なのだ(この録音に際しても、テナーだけでも曲やスタジオに合わせて5本ぐらいを持ち換えている)。ライナーを読んで、クレイグ・ハンディが異常なサックスオタクであることはわかった。しかし、そういうことがすべて良い表現につながっているところがすごい。まあ、ざっくり言うと、クレイグ・ハンディの考えでは、ジャズにおけるダンスミュージックの側面が失われかけているので、それを取り戻したい、という気持ちと、ジミー・スミスの音楽とニューオリンズのブラスバンド的なものを組み合わせたい、という気持ちがあいまって、本作を作ろうとした……ということではないかと思われるが、けっこう発想に飛躍があって、そのぶっ飛んでる感じが面白いといえるのかもしれないが、今でも「?」という気持ちにはなる。ただし、演奏は本当にめちゃくちゃすばらしいのだ。1曲目はスタンリー・タレンタインの「マイナー・チャント」で、ジミー・スミスのブルーノート盤に入っている。ハンディはテナーで、スーザホンが全編ベースを担当している(これがカッコいいんだよねー)。8ビートだが、ジェイソン・マルサリス(マルサリス兄弟の一番下らしい)はニューオリンズ風のいなたくはずむ8ビートを刻んでいる。ハンディのソロは太い音色でよどみない。オルガンソロがあってテーマに戻る。2曲目はジミー・スミスは何度も取り上げているはずの「サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」で、エキゾチック(?)なイントロがあって、ディー・ディー・ブリッジウォーターのボーカルからテーマになる。ハンディのテナーソロもいかにもスウィングな感じ。アリ・ジャクソンのドラムソロもスネア中心の弾む、というか、つんのめった感じのもので、ニューオリンズのR&Bのビートだなあと思う。3曲目はジミー・スミスファンにはおなじみの「オルガン・グラインダー・スウィング」で、ヴァーヴの「インクレディブル……」に入ってるブルース。ドラムがニューオリンズR&Bの跳ねるビートで、ハンディはノリノリのソロをぶちかます。ギターも同じフレーズを繰り返す感じのめちゃくちゃかっこいいソロ。オルガンソロのあとテーマに戻る。4曲目はゴスペルっぽいけどスローブルースで、アイヴォリー・ジョー・ハンターの曲だそうです。ジェイソン・マルサリスの荒いロールが、いかにもニューオリンズのビートを感じさせる。上手い下手は関係なく、地域性というかそういうノリなのである。このひとはしっかりとそれを守っている。ミシシッピ川の流れを連想させるようなクレイグ・ハンディのテナーも、わかりやすいスウィングスタイルでゆったりと歌い上げている。やはり耳に残るのはギターソロで、短いがすばらしい。5曲目はおなじみの「ハイ・ヒール・スニーカーズ」でシンプルなロックンロール的ブルース。ハンディは、ものすごくシンプルな、イリノイ・ジャケー的というかホンカー的というか、そういうソロに徹していて潔い。オルガンソロからのスーザホンとドラムのからみはすばらしいです。6曲目は本作のなかでいちばんモダンな曲調かも。ジミー・スミスの曲で、ちゃかぽこいうギターのリズムに乗せてバップ的なのにヘンテコなところがある面白い曲。クレイグ・ハンディも本作でいちばん(いつものハンディに近い)モダンジャズ的なフレーズを吹きまくる。おそらく本作中の白眉といっていいすごい演奏。ギターソロもかっちょええ。ハーラン・ライリーのドラムが凄まじい。7曲目はウエスの「O.G.D.」(ロード・ソング)で、ハンディのソロのあと、ここぞとばかりにギターが活躍する。8曲目はマディ・ウォーターズのおなじみ「モージョ・ワーキン」で、クラレンス・スペイディーというひとのボーカルをフィーチュアしている。トランペットはウイントン・マルサリスでさすがに完璧といっていい、一か所の破綻もない見事なソロを披露している。つづくハンディのテナーはかなり暴れていて、私の好みである。そのつぎに出てくるギターソロはクラレンス・スペイディーのものだが、これも超かっこいい。最後のドラムソロはシンプルなリズムを押し出したもの。9曲目はジミー・スミスの曲で「メロウ・ムード」というタイトルだが、ここでの演奏はあまりメロウではない(マイナーブルース)。けっこうヘヴィなリズムで、ハンディはソプラノでシリアスなソロ。ギターがここでもかっこいい。スーザホンのソロもあります。ラストの10曲目はスタンダード「アイル・クローズ・マイ・アイズ」で、ジミー・スミスも取り上げている。やっぱりギターソロがええなあ。オルガンもええ感じ。ハンディはけっこうブロウしているが、じつはものすごいテクニックが詰め込まれたすごいソロで圧倒的である。というわけで、クレイグ・ハンディ渾身のプロジェクトだと思われるが、ジミー・スミス+ニューオリンズという根幹の部分がいまいちよく理解できないのが難点かも。あと、ダンスミュージックということへのこだわりのせいかもしれないが、ハンディがここまでスウィングに寄せるソロをするというのも(めちゃくちゃ完璧だし、これはこれで超かっこいいけど、ハンディの本来の資質としてはどうか)、もっとゴリゴリにいつもどおり吹きまくってもよかったのでは、と思った。でも、おそらく本作はハンディの作品としては多くのリスナーに届くだろう。それによってハンディファンが増えればうれしいことだ。傑作。