「AFRICAN DRUMS」(OWL RECORDS OWL09)
BEAVER HARRIS QUARTET
全編ビーバー・ハリスとデヴィッド・ウェアのデュオなのか、と思いきや、じつはウェアが登場するのは、A面の後半半分ほど。A面の前半とB面全部がハリスのドラムソロである。しかし、それならウェアのファンには物足りないだろうと思うかもしれないが、いやいやそんなことはありません。このウェアの10分ほどのブロウはじつに凄まじいものなのである。オープニングからいきなりビーバー・ハリスのドラムソロが延々とつづく。ちょうどA面の半分、どないなるんや、というあたりから、デヴィッド・ウェアのテナーがくわわり、暴走しはじめるのだが、リーダーであるビーバー・ハリスのドラムが、ほとんど「ドンドコドンドコ、ドンドコドンドコ」……というワンパターンのものになり、そこにウェアの気の狂ったようなテナーのブロウが乗っかって……という、まさに狂気の演奏である。これを手に汗握りながらじーっと聴いていると、ほんとヘトヘトに疲れる。心地よい疲れである。ウェアは、野太い音だが、あまり高音でスクリームせず、中音域を中心に勝負するので、なんというか、ボクシングでボディを散々叩かれたような気分になる。さっきも書いたが、B面の二曲はどちらもビーバー・ハリスのドラムソロ。こちらはいわゆるジャズドラムっぽい演奏ではあるが、なかなかイマジナティヴかつ粘りのあるソロで、しかも大迫力であって、聞き飽きることはない。
「BEAVER IS MY NAME」(TIMELESS RECORDS/SOLID CDSOL−47116)
ビーヴァー・ハリスのリーダー作。タイムレスでこんなものが出ていたとは知らなかった。しかも、カルテットといいながら、基本はテナー〜ベース〜ドラムのピアノレストリオで、そこにピアノの代わり(?)になんとスティールドラムが加わるという編成。しかも、テナーがアンドリュー・ホワイトという異色づくめの作品。だが、聴いてみるとめちゃくちゃかっこいいのである。いわゆるスピリチュアルジャズ的なテイストもあり、とくにミスマッチかと思えたアンドリュー・ホワイトがすばらしい演奏をしている。1曲目でのこの音圧には圧倒される。芯のある音で吹き上げるテナーの迫力はすごい。けっしてフリーキーに吹くわけではないのに、ビーヴァー・ハリスのドラムとの相性もよく、数々のフリージャズサックス奏者と共演作のあるハリスのフロントとして完璧な演奏をしていると思うが、いやー、まさかアンドリュー・ホワイトがここまでハマるとはなあ……。2曲目はスティールドラムをひたすらフィーチュアしまくった曲で、言ってみればスティールパンの無伴奏ソロなのだが、タイトルが「アフリカン・ドラム・メドレー」となっていて、よくわからない。「さくらさくら」に似た和音階みたいなのも出てくるし、あんまりアフリカっぽくはない。そもそもスティールパンというのはトリニダード・トバゴなのでアフリカではなくカリブなのであるが、ハリスはあまりそういうことを気にせず「結果オーライ」的に考えているようだ。しかも、リーダーであるハリスも参加していないようだし、どうしてこの曲がここに収録されたのかはよくわからん。まあ、おもろいからええけど。3曲目はスティールドラムがモーダルなパターンをずっと叩き続け、そこにほかの楽器が乗ってくるような呪術的といっていいサウンド。アンドリュー・ホワイトのソロはスパニッシュモードに近い音階でじわじわ熱くフレーズを積み重ねていく。ホワイトはコルトレーン的な複雑なコード分解の超絶テクニックのソロをさせても、ファンキーなR&B的な大ブロウをさせてもすごいが、こういうモード的な曲での演奏もめちゃくちゃすごい。そのあとのフランシス・ヘインズのスティールパンのソロもかなり過激で、ざっくり言うとアラビアっぽいモードで3拍子で行きまっせ、という程度の取り決めで始まった演奏なのかもしれないが、雰囲気は濃厚。そのあと、ハリスの「あー、いかにも……」という感じのぼわーっとしたソロがあり、テーマに戻るが、なかなか複雑な曲であります。4曲目はなんと、アンドリュー・ホワイトの無伴奏テナーソロだけをフィーチュアした演奏。これもハリスの作曲なのだという。サブトーンをはじめとする音色の変化を駆使して表現するホワイトのソロは、前衛っぽさは皆無なのだが、ひたすら美しく、ジャズテナーの王道を行く感じの演奏(ハリスのリーダー作なのに、なぜこんなソロ演奏を収録したのか、というのも不思議といえば不思議)。ラストの5曲目はタイトルが意味深だが、聴いてみるとハードバップ的な楽しい曲。この曲だけ聴くと、各人のソロも含め「ふつーのジャズ」に聞こえるがそれもまたよし。これがオランダで吹き込まれたというのも面白いが、とにかく5曲中3曲にしか参加していないリーダーというのもなかなかないのでは。アンドリュー・ホワイトのファンには断然おすすめであります。