donald harrison

「INDIAN BLUES」(CANDID CCD79514)
DONALD HARRISON FEATURING THE GUARDIANS OF TH FLAME MARDI GRAS INDIANS DOCTOR JOHN

 ジャズ以上にブルースやR&Bにはうとい私だが、かろうじてニューオリンズR&Bには少なからず興味を抱いている。ドナルド・ハリソンというとジャズファンにはメッセンジャーズとかテレンス・ブランチャードとのコンビで新主流派(?)というかウイントン・マルサリスの影響を受けたような演奏をしていたひと、というイメージなのではないかと思うが、ドルフィーのファイブスポットの再現を聴いて、はあ? と思って以来、正直あまりいい印象を抱いていなかった。しかし、あるときこのひとがじつはニューオリンズR&Bに真剣に取り組んでいることを知った。そうなると180度、コロッと印象が変わるのだから勝手なもんですね。本作はドクター・ジョンと組んだ本格的ニューオリンズR&Bと、ストレートアヘッドなジャズの両方をうまく配置した演奏である。ドクター・ジョンや(父親だと思われる)ドナルド・ハリソン・シニアがボーカルをとった曲は、ワイルド・マグノリアス的というか(ハリソンはマルディグラ・インディアンの子孫らしいのでそれも当然か)、パーカッションを強調したうえでボーカルがカラフルにコール・アンド・レスポンスを繰り返すことでオーケストレイションができあがっていくような演奏が多い。また、ジャズ的な演奏のほうも一筋縄ではいかず、いわゆるニューオリンズのスネアが跳ねるビートをしっかり前面に押し出しているので単なる4ビートジャズとはちがう味わいがある。「チェロキー」はチャーリー・パーカーへのトリビュートだと思うが、リズムセクションを聴くと、ニューオリンズ的にアレンジされていることがわかる。メンバーも、重鎮ドクター・ジョンや父親と思われるるドナルド・ハリソン・シニア、サイラス・チェスナット(めちゃくちゃかっこいい。「アップタウン・ルーラー」を聴け!))、カール・アレン……といった大物を起用しているにもかかわらず、そういったひとたちを見事に自分の音楽にあてはめている点は本当にすばらしいと思う。テナーもいいっすね! ドクター・ジョンが入ったドストレートなニューオリンズR&Bとニューオリンズ風味のある硬派なジャズとの境がないという点で、マルサリスたちの演奏とはちがった方向からニューオリンズの音楽をとらえた作品かと。聴いて楽しく、しかも深い。ジャズミュージシャンとしてのハリソンだけしか知らないひとにはぜひ聴いてほしいめちゃくちゃな傑作だと思います。

「NEW ORLEANS GUMBO」(CANDID RECORDS CCD71806)
DR.JOHN MEETS DONALD HARRISON

「あまりに芸のないタイトルのような気もするが、いやいやこのとおりの内容でしょう、という気もする。「INDIAN BLUES」でドクター・ジョンとのがっつり共演を果たしたドナルド・ハリソンが同じ時期にバードランドで(ほぼ)同じメンバーでライヴを行ったその模様をとらえたアルバム。曲もかぶっていて、ファンにはスタジオとライヴを聴き比べられる楽しさもある。いきなりカズン・ジョー(私でも名前を知ってるのだから有名人なのだろう。ニューオリンズの、どっちかというとオールドジャズのひと?)のこってりしたミディアムのブルースではじまる。ドクター・ジョンのピアノがロールし、あの「声」が炸裂する。そのあとハリソンのやけにリラックスしたアルトが登場するが、これがいいんですねー。ゆるゆるではじまり、ビバップになり、最後は手際よくもりあげる。ああ、全編こういう感じなのか……と思うと楽しくなってくる。豪華メンバーで、意欲作でもある「INDIAN BLUES」に比べるとゆるい雰囲気だが、こういう音楽についてはそれがマイナスにならない。全体にハリソンのアルトはビバップ〜新主流派的で普段はどちらかというとジャズ的なクリシェに聞こえるが、この音楽〜メンバーだとソロが熱く、はじけていて、どんなにジャズっぽく吹いても演奏に溶け込んでいる。ピアノのステファン・スコットやドラムのカール・アレンも同様である。全員、この音楽を楽しみながら演奏しているのがわかる。ブルースありニューオリンズR&Bありバップありモードジャズ的な曲ありでバラエティに富んでいる。ハリソンは、ドブルース的な曲でもそういう感じのオブリガードやソロをせず、あくまで自分を通すが、そのあたりが逆にいい感じのマッチングになっていると思う。こういうのがこのひとの本音というか本質なのだろう。かなりハードな演奏もあるが(7曲目とか)、そういう曲にもニューオリンズの味わいが感じられる。全編にわたってパーカッションのスマイリー・リックスが活躍しまくっている。超かっちょいい。いいアルバムでした。ドクター・ジョンの名前が先に出ているが、基本的にはドナルド・ハリスンのアルバムだと思うので、この項に入れた。