「LIVE AT VISION FESTIVAL Y」(CLEAN FEED CF115CD)
TRIO VIRIDITAS
このグループはもう一枚出ているはずだが、そちらは未聴。ライヴだし、メンバーもいいし(ベースがなんとウィルバー・モリス)、なんとなく購入したが、これはめっちゃよかった。アルトが中心のように聞こえたが、とにかくアグレッシヴで心地よい。アルフレッド・ハースは楽器が良く鳴っているので聞いていてスカッとする。決して野太い、黒人ぽい音ではないが、無理なく鳴らしきっている感じがあり、そのあたり、たとえばジョン・ゾーンの音を連想したりする。曲によって3人のさまざまな局面がどんどん出てきて、引き出しの多さにも驚くが、複雑にからまりつつも古い表現だが「一丸となって」のぼりつめる姿はやはり現代ジャズだなあ、こういうものは古びないなあと思う。ひじょうにストレートアヘッドで、手に汗握る瞬間もあり、なんともいえない満足を得られる好盤。
「WAXWEBWIND@EBROADWAY」(CLEAN FEED CF003CD)
TRIO VIRIDITAS−ALFRED HARTH WILBER MORRIS KEVIN NORTON
ハルトは、テナーをサブトーンで吹く曲と太い、濁った音色でブロウする曲を意図的に分けているような気がする。前者は、8分ほどの力の入れ具合で、トリオ間の濃密なインタープレイに集中力を傾ける。後者は、いわゆる黒人系フリージャズ的な演奏で、ウィルバー・ウェアの骨太なベースと相まって、デヴィッド・ウェアやチャールズ・ゲイルなども連想させるような阿鼻叫喚の世界。それらふたつが巧妙に配置されたアルバムなのだ。1曲目から5曲目まではまさしく前者で、室内楽的な抑えた音量での会話がシリアスにつづられる(2曲目〜5曲目はケヴィン・ノートンはヴィブラホンを弾いていて、一層その感じが強まる。それにしてもこのひとのヴァイブは超うまい)。もちろん、そういうなかでの微妙な盛り上がりは、大音量での派手な演奏同様、ちゃんと聴いていれば昂揚するものなのだが、かなり真剣に注意深く聴いていないと、ちょっとだれるかもしれない。私も何回か繰り返し聴いたのだがいつもこの、ヴァイブ入りの曲のあたりで集中力がそれて、あ、もっかい聴き直しや……となる。聴き直すとすごくいい、私好みの演奏なのである。ハルトのテナーの音は、抑制した表現のときもオーバーブロウのときもどちらもめちゃめちゃ好きなタイプの音で、私の理想とするものに近いかも(そんなことはどうでもいい? 失礼しました)。6曲目は、それらとはうってかわって、モーダルな演奏。野太いウッドベース、力強いドラム、そしてなんだかわからんアフリカンなヴォイス(ウィルバー・ウェアでしょうね。あ、今見たらちゃんとジャケット裏に書いてあった)に支えられて、ハルトが朗々とテナーをブロウする。ねちっこく吹いているうちに次第に熱くなっていき、3者が一丸となって燃え上がっていくさまは圧巻だ。結局、なんだかんだ言ってもこういうシンプルな演奏がいちばん好きだ。7曲目、8曲目はまたクラリネット〜ベース〜ヴァイブという編成に戻り、静かで、ぐっと重い演奏(8曲目はウッドベースがフィーチュアされる)。9曲目は、テナー、ベース、ドラムで、またモーダルな曲(中国っぽい)。フルトーンでのブロウが聴ける。典型的な「フリージャズ」で、この曲は最高っすね。10曲目はクラリネット〜ベース〜ドラムで、ドラムはブラッシュからスティックでさまざまなリズムパターンが試される。後半は軽快な4ビートになる。アブストラクトなジャズという感じの不思議な演奏。11曲目はテナー〜ベース〜ヴァイブによる室内楽的な演奏に戻り、曲調はドルフィーっぽいが、ハルトはサブトーンを効果的に使いながらくねくねしたソロを繰り広げていく。途中でビート感がなくなってふわふわ浮遊するような感じになる短い演奏。ラストは、テナーとバスクラ(?)の2本吹きではじまる。フリーフォームな演奏で、3人ともビートのないなかでのインプロヴィゼイションが続く。ハルトは、テナーとバスクラを交互に持ち替えるような感じでソロをしていて面白いが、かなり具体的なフレーズを重ねてはっきりと自己主張しており、ウェアの太いベースがそれに応える。相当聴き応えのある演奏であります。後半、ベースがパターンを出して、攻撃的なモーダルな展開になってからのハルトのブロウは知的な部分をかなぐり捨てたような八方破れさがあって、すばらしい。1、2回聴いただけではわからないような、かなり重いアルバムだと思う。それにしても、ハルトというと我々(「ジャズ批評」世代というか)は、ゲッペルスとのデュオやカシーバーを連想して、ぶっ飛んでる最先端の即興やらなにやらをやってるひと、というイメージがあるが、こういう伝統を踏まえた、というか、ほぼ伝統的なといっていいようなジャズを演奏するとはなあ。韓国に住んでいるとまえにきいたけど、今はどうなんだろう。