「COOL MOON」(SLAM SLAMCD319)
ANGLO−KUOPIO QUARTET
有名なひとだが、じつははじめて聴いた。フィンランドのKUOPIOという場所でのライヴ。力強いバリトン(曲によってはタロガトも)ですっかりファンになってしまった。ブラックでディープなハミエット・ブルーイットや明るいカルロ・アクティス・ダートとはまたちがう、叙情性というか精神性(ブルーイットやダートが精神性がない、ということではないっすよ)を強く感じるが、聴く前に私が勝手に思っていたような、ナルシスティックな演奏ではなく、ベクトルの定まった、腰の座ったガッツのあるプレイで、バンドとしてもピアノトリオ+サックスというふつうのカルテット編成なのだが、じつに柔軟かつアグレッシヴで聞き飽きない。なんというか、ガーッと盛り上がって、ふつうのフリージャズならここからギャーッと叫ぶところの寸前でとまる、というか、非常に抑制がきいていて、それなのに聴き手に非常に満足を与える、中身の濃い演奏だ。このリズムセクションのひとたちは全然知らんけど、有名なのかなあ……。
「EARLY OCTOBER」(SLAM SLAMCD216)
THE BRITISH SAXOPHONE QUARTET
中古屋でなにげなく買った一枚だが、これがめちゃめちゃよかった。エルトン・ディーン、ポール・ダンモール、サイモン・ピカード、ジョージ・ハスラムというイギリスを代表するフリー系サックスの雄が集まったサックスカルテットだが、コンポジションはなく、すべて即興である。しかし、ダレる瞬間はまったくなく、ひたすら楽しく、面白く、興奮しながら聴ける稀有な盤である。この4人に共通するのは、「うまい」ことである。音色も、アーティキュレイションもしっかりしていて、とにかく技術がある。フリー系の音楽は情念が優先するから、そういう技術はいらんのではないか、と言うひとがいたら、それは大間違いであって、こういう技術が表現力とぴったりと裏表になっている即興演奏を聴くのは心地よいものなのだ。とくに、エルトン・ディーンのサクセロは見事の一言。二曲という長尺の演奏で、しかもライヴという、ともすれば荒っぽくなる状況にもかかわらず、彼らは丁寧に即興を重ね、相手と交感しつつ、自己を主張していく。そして、なによりもエキサイティングなのだ。すっかりはまってしまい、しばらくこればっかり聴いていたなあ。聴くたびに発見があるのだ。ワールド・サキソホン・カルテットやローヴァともまったくちがうタイプの演奏だが、精神性というか狙いが似ているものといえば、日本のSXQぐらいしか思いつかない。ジャケットはダサいが、そういう見かけに惑わされてはいけません。傑作! なお、だれがリーダーというのはよくわからないが、レーベルがスラムだし、ライナーもハスラムが書いているし、ジャケットデザインも彼なので、ジョージ・ハスラムの項にいれた。
「PARKER/HASLAM/EDWARDS」(SLAM SLAMCD314)
EVAN PARKER/GEORGE HASLAM/JOHN EDWARDS
2000年にオックスフォードで行われたインプロヴァイズド・ミュージック・コンサートのライヴ。6曲中、2曲がハスラムのバリトン〜タロガトのソロ。1曲がパーカーのソプラノソロ。1曲がエドワーズのベースソロ。1曲がパーカーとエドワーズのデュオ。最後の1曲が3人によるトリオという構成。1曲目はハスラムのバリトンサックスによる、かなりまともな、つまり、メロディラインとリズムを意識したソロサックス。過剰さや過激さを感じる箇所はあっても、フリーキーになることはない。2曲目はタロガトによる、哀愁を帯びた素朴な、まるで民族音楽のようなソロ。どちらも随所にハスラムという人間が感じられるうえ、さまざまな場面が用意されていておもしろい(とくにタロガトのほう。バグパイプや、カークのマンツェロを連想させる)。3曲目は、おなじみのといってはなんだが、いつものエヴァン・パーカーの循環呼吸ソプラノソロ。もちろんレベルはきわめて高い。このひとの凄いところは、どれだけ多くの回数、演奏を重ねても煮詰まったりしている感がないところで、おそらく本人は毎回新鮮な気持ちで演奏しているのだろう。でも、考えてみたら小説家も、どれだけ多作しても、毎作品新鮮な気持ちで書いているわけで、それはむずかしいことではないのかもしれない。というか、そういうことができるひとだからこそ即興演奏家になったのか。そして、長いソロがじわじわと速度と熱気を上げていき、音楽的クライマックスに到達するあたりもすごく自然で、なんというか「腑に落ちる」のである。毎回毎回、ちゃんと「衝撃」を与えてくれる。やはりパーカーはすばらしい。4曲目はウッドベースのソロで、どちらかというとオーソドックスで「ジャズ」を感じさせる演奏。なぜかとてもブラックミュージックを感じる。ダイナミクスや、弦のはじきかたの強弱によるインパクト、無音の部分を効果的に使うやりかた、低音の響きと高音の対比、うめくような、きしむような音の反復……などを統合して、ひとつの世界を作っているが、これも非常に「出たとこ勝負」な感じの、すごくナチュラルな即興で楽しい。5曲目はパーカーのテナーとベースのデュオで(ジャケットには、パーカーはソプラノしか吹いていないことになっている)、これも超かっこいい。エドワーズはスラップベースみたいに弦を叩きつけるような奏法やアルコでリズミカルなフレーズを繰り出し、パーカーはサブトーンからリアルトーンまでを駆使して吹きまくる。循環呼吸やオーバートーン、重音奏法はほとんど使っていないので、これもじつにジャズを、それも重量級の奏者同士の激突を思わせる黒々とした演奏に聞こえる。パーカーって、いつも思うけど、テナーだとジャズだよなー。このデュオが本作中いちばん長尺。最後はトリオで、めちゃくちゃかっこいい、かみ合いまくった演奏。3人とも自分の立ち位置とか楽器の特性などなどを心得ていて(あたりまえだが)、見事なトライアングルを形作っている。興奮のるつぼ。ものすごく面白い演奏。うーん、最初からずっとトリオでやればよかったのに、と思ったり、いやいや、ソロもよかったからあれはあれでいい、と思ったり、いろいろ考えさせられる最終曲でした。それにしてもハスラムのかかわっているCDはこれまでどれひとつとして面白くないことがなかった。これからもコツコツ集めよう。パーカーの名前がいちばん先に出ているが、プロデュースがハスラムなので、ハスラムの項に入れた。
「SOLOS EAST WEST」(SLAM PRODUCTIONS SLAMCD308)
LOL COXHILL GEORGE HASLAM
ハスラムのバリトン〜タロガトソロ5曲とコクスヒルのソプラノソロ1曲を収めた「サックスソロ」アルバム。コクスヒルは1曲だけだが、20数分ある長尺の演奏。なぜ「イースト・ウエスト」なのか。どちらもイギリスじゃん、と思ったら、ハスラムの演奏はウクライナでのライヴなのだった。まずはハスラムの端正で、よくコントロールされたすばらしいバリトンソロ。前衛精神を忘れることはないが、ぐじゃぐじゃに乱れることもない。完璧な演奏。なぜかエリントンの曲がときどき現れては消える(「スウィングしなけりゃ意味ないよ」とか「アイ・ガット・イット・バッド」とか……)。サブトーン、リアルトーン、音程、ダイナミクス、ビブラートなど、完全にお手本的な演奏だが、それがタロガトに持ち替えると、よれよれの酔いどれ八方破れ的演奏になるのだから面白い。タロガトの演奏では「ソフトリー」のメロディが現れるが、ちゃんと吹けずにさぐりさぐり吹いているように聞こえるのも一興。そしてコクスヒルは、朗読とのジョイントだったらしく、それをプライベート録音したものがソースだそうだが、音もすごく良くてすばらしい。気ままで奔放なソプラノを聴いていると、心が同化してぴょんぴょんと飛んだり跳ねたりする。スラム(ジョージ・ハスラムのレーベル)は、私が聴いたことあるものはどれもすぐれた演奏ばかりて、しかも私が持っていないやつでめちゃめちゃ面白そうなアルバムがいっぱい出ているので、ぼちぼち聴いていきたい。
「CUBAN MELTDOWN」(SLAM PRODUCTION’S SLAMCD515)
GEORGE HASLAM
これはほんとにわけのわからないアルバムで、ジョージ・ハスラムといえばイギリスフリージャズ界の重鎮でスラムという自主レーベルから数々の傑作を世に送り出しているバリトンプレイヤーという認識でよかったですかね、という感じのひとと思っていたら、このアルバムはなんだ! いきなりご陽気なリズムと能天気なホーンセクション、そして、わけのわからないビバップスキャット……。きっとアルバムを間違えたにちがいない、と思って確かめたが、そうではなかった。ハスラムのライナーによると、この「メルトダウン・プロジェクト」というのは1990年代から行っているプロジェクトで、異なったジャンルのミュージシャンを一緒に演奏させる試みで、その成果は「メルトダウン」というアルバムとして結実したが、今回はトランぺッターでボーカリストのボビー・カルカッセス(と読むのか?)との「キューバン・メルトダウン」なのだそうだ。1986年にハスラムがイギリスのジャズミュージシャンを連れてハバナに行ったことから交流がはじまり、「キューバン・メルトダウン」も2004年から続けていて、今回のレコーディングとなった。めちゃくちゃ陽気で、アホらしいほど楽しく、ボーカルも管楽器のソロもはじけていて、ハスラムもドスのきいたバリトンを吹きまくってソロにアンサンブルにと活躍するが、正直、私が聞くような音楽ではなく、どうしたらよかろうかと今うろたえているところである。しかも、ポール・ラザフォードまで参加していて驚く。このひとは、ラテンミュージックはおろか、ジャズすらやらないようなインプロヴァイズドミュージックの鬼かと思っていた。2曲目などはラテンボーカルの無伴奏ソロトラックであり、驚異の世界である。3曲目(ハスラムの曲)はちょっとモードジャズ風だなあと思っていたら、やはりスキャットは出てくるのだった。こういう曲でソロをとるポール・ラザフォードもなかなか味わい深いですなあ。4曲目はパーカッションが主体で、こうなるとキューバ音楽というよりアフリカっぽくてかっこいい。5曲目はサルサ的なスイートな曲。こういう真っ当な曲でのハスラムのバリトンソロはなかなか苦労しる感じ。6、7曲の2曲は、イギリス勢が入らない純粋なキューバンミュージックで、ハスラムが、「彼らの日頃演奏している典型的なキューバ音楽も収録したい」ということで収録されたらしい。7曲目などは完全にラテンジャズで、我々の耳になじんだ音楽である。ピアノのロベルト・カルカッセス・ジュニアはトランペットのボビーの息子だが、凄いピアノを弾く。同じくフィーチュアされるアルトのロベルト・マルティネスも直情的だがめちゃくちゃ上手いソロを吹きまくる。ボビー・カルカッセスのトランペットソロもとにかく押せ押せのパワーに満ちた凄いものである。最後にフィーチュアされるドラマーも、とにかく聴衆を満足させずにはおかん、というショーマンシップと気迫を感じる。そしてラストの8、9曲目はカルカッセスのトランペットとピアノとハスラムのバリトン、そしてソプラノ奏者とボーカルという異色のカルテットで吹き込まれた演奏だが、多重録音がほどこされているらしく、パーカッションやピアノ、トランペット、リコーダーなどが同時に聞こえる。9曲目はピアノとボーカルのデュオ。まあ、ハスラムということで購入したのだが、その結果として知らないキューバのすごいミュージシャンを知ることができた……ということでいいのだろうか。やっぱり「SLAM」というロゴマークを見ながらこの音楽を聴いていると不思議な違和感が満ちてくるなあ……。