hampton hawes

「HAMPTON HAWES,VOL.1:THE TRIO」(CONTEMPORARY RECORDSVICJ−2041)
HAMPTON HAWES

 うわー、これが千五百円だというのだから、昨今の廉価CDブームはまちがっとるよなあ。安すぎる。中身は一万五千円でもいいぐらいのすばらしさなのに千五百円……。まあ、よいものが安く入手できるのは悪いことではないのかもしれない。中古で買った八百円のLPで人生変わる……みたいなこともなきにしもあらずである(私も、そういう経験がある)。しかし……やっぱり安すぎるでー。その昔(二十年もまえ)に先輩にレコードを借りてテープに入れてさせてもらったので、レコードは持っていなかった。ということで今回、CDを買ってみる気になったのだが、何度聴いても傑作は傑作。リズム、跳ねまくり、歌心、あふれまくり。粋で、しかも深い。ブルースもスタンダードもバラードも、どれも美味しすぎる。ピアノトリオなんかこうやって買って聴く日がくるとはなあ。ジャケットもいいので、やっぱりLPのほうがいいかも。

「MEMORY LANE−LIVE」(JAS RECORDS JAS−4005)
THE HAMPTON HAWES ALL−STARS

「ジャズ・オン・ステージ」というテレビのシリーズの放送録音が音源で、映像も発売されている。学生時代、このアルバムを見つけて狂喜乱舞した。というのは当時私はソニー・クリスにはまっていて、クリスの知らない演奏は全部聴きたかったうえ、ほかのメンバーも凄いし、しかもビッグ・ジョー・ターナーが(なぜか)入っていて「シェイク・ラトル・アンド・ロール」を歌っている……というのはまさに私のためのアルバムでは、と思ったものだ。実際聴いてみると、やはりテレビの尺というのがあって、(ジャスト・ジャズ・コンサートのように)全員がこれでもかと弾き倒し吹き倒す、というわけにはいかず、ジョー・ターナーの参加もちょっと違和感がなきにしもあらずなのだが、それでもほぼ最高に近い傑出した演奏ばかりだと思っている。あんまり話題にならないような気もするが、ハンプトン・ホーズ、ソニー・クリス、テディ・エドワーズが西海岸のハードバップ的な要素をぶちかまし、そこにハリー・スウィーツ・エディソンとビッグ・ジョー・ターナーがカンザスシティジャズの要素をぶちまけ、それがちゃんと融合しているすばらしい演奏ではないか。A−1はアップテンポのブルースで、ハリー・エディソンが手堅いソロで先発したあと、リズムセクションがちょっと間を埋めたあと、ソニー・クリスのソロ、ドラムソロのあと、ホーズのすばらしいソロになり、そのあとなぜかまたクリスのソロになる。ここでのクリスは完全燃焼に近いブロウで超かっこいい。そのあとまたリズムセクションが間を埋める感じになり、リフが入る……というちょっといまいち構成がちゃんと共通認識されていなかったのかも、という感想だが、個々のソロはすばらしいと思います。A−2はミディアムスローのブルースで、テーマはない(「ブルース・フォー・J.L.」というのは番組プロデューサーのジャック・リワーク(と発音するのか?)のことだと思われる。ソニー・クリスがブルースシンガーのように歌いまくり、泣きまくる。そうなのだ。こういうクリスが好きなんです。ひたすらクリスが泣き叫んだあと、ハンプトン・ホーズのこれもめちゃくちゃ最高のピアノソロになる。この曲が本作の白眉でしょうか。スウィーツ・エディソンのソロは、ジャズとブルースが分かれていなかったころのカンサスシティのジャズ〜ブルースを聴かせてくれているように思う。ルロイ・ヴィネガーのベースソロはなんとなくホッとする感じ。A−3はジョー・ターナー登場で、一気にカンザスシティジャズというかブルースの世界観になる。いつも思うのだが、このターナーの一種強引ともいえる「自分の世界に持っていく」感は凄まじい。自分好みのリズムとブルース進行さえあれば、いつでもジョー・ターナー・ワールドが確立されるのだ。すごくないですか。それもほんの1コーラスぐらいで完成してしまう。ここではスウィーツもクリスもターナーの音楽的下僕になっていて、しかもそれを楽しんでいる感じが伝わってきて楽しい。B−1はターナーの大ヒット曲であり、ブルース〜ジャズ〜R&B〜ロックンロール……の世界を変えてしまったあの「シェイク・ラトル・アンド・ロール」だが、そんな堅苦しい曲ではまったくなく、ただのブルースである。ただのブルースがポピュラーミュージックを変えたのだ。オブリガードをつけているのがソニー・クリスというのも(なぜか)泣ける。スウィーツ・エディソンのトランペットソロもまったく違和感はない。ラストの「テディズ・ブルース」というのは文字通りこの曲のみ参加のテディ・エドワーズをフィーチュアしたブルース……ではない。タイトルはブルースだが循環の曲(それにしてもブルースばっかりのアルバムだ)。アップテンポのブルースをテディ・エドワーズが冒頭からぶりぶり吹きまくる。めちゃくちゃ上手い。ホンキングもまじえてライブ感があるブロウを展開している。そのあとソニー・クリスが超快調なソロをぶちかます。いやー、すごいです。聴き惚れるというしかないぐらい、指使いとアーティキュレイションと音楽性がばっちりマッチしている。スウィーツ・エディソンもリフを主体にしたソロで、これだけアップテンポで観客も多数……となるとキャリアとか関係なくその場かぎりの勝負になるわけだが、そのあたりをきっちり筋を通したカンサスシティの大物に拍手である。ハンプトン・ホーズもこの速いリズムをちゃんと乗りきリ、迫力だけでなく音楽性も保っていてすばらしい。ルロイ・ヴィネガーのウォーキングなのにすごい迫力のソロ、そしてボビー・トンプソンのソロを経て(かなり走った状態で)テディ・エドワーズのソロになり(かなり崩壊している)、スウィーツのソロになり、全員のリフが入ってエンディング。まあ、最後はめちゃくちゃといっていい。このぐだぐだ感も含めて好きなのだが……。個人的にはA−2のソニー・クリスのスローブルースでの泣き節が心に染みるが、ほかも楽しいアルバム。