sachi hayasaka

「EAST VILLAGE TALES」(NBAGI RECORD N009)
SACHI HAYASAKA TOSHIKI NAGATA NEW YORK SPECIAL UNIT LIVE IN NEW YORK

 ジャケットには「イースト・ヴィレッジ・テールズ」としか書いていないので、これがグループ名だとは思うが、一応上記のようにしておいた。早坂〜永田グループの気合いの入ったライヴ。早坂さんのアルトの魅力は、まずその音色にある。本作も、その太くて芯のある音でアルトを吹きまくっている。ソプラノも同様で、おそらくかなり基礎的な実力があるのだろう。音色がいいなんて、そんなことプロとしてあたりまえじゃん、と思うかもしれないが、なかなかそうではない。「音の説得力」という言葉が真実味を持つには、プロサックス奏者という「いい音を出してあたりまえ」という人たちのなかでも、選りすぐりの「いい音」でないとそうは思われない。しかも、単にいい音ではなく、個性的な音であってほしい。早坂紗智の音はまさにそういう音で、聴くたびにほれぼれする。本作は、例の二本吹きもふんだんに聴けて、この稀有なオリジナリティをもつサックス奏者の本領が全開になっている。ニューヨークのライヴということで、かなり先鋭的な演奏かと思っていたら、伝統と最先端が心地よく混合され、しかも躍動感にあふれた最高の内容だった。ニューヨークの客がぶっとんでいるのが伝わってくるクレイジーなライヴだ。共演者のなかでは、やはりフェローン・アクラフのたたき出すカラフルかつパワフルなリズムがミュージシャンを、そしてその空間を煽っている。また、ヴァイオリンがめちゃめちゃかっこいいのだ。あと、コンポジションもすばらしいのだ。楽しいーっ! なお、対等の双頭バンドだとは思うが便宜上、先に名前のでている早坂の項にいれた。それにしても、うちにはたくさん早坂さんのアルバムがあるのに、これが初レビューとは。

「THE PRIVILEGE CD」(NBAGI RECORD)
MAU

これは、上記早坂〜永田グループのライヴ盤のおまけ的CDなのだが、内容はめちゃめちゃよくて、正直、こっちのほうがよく聴いてるかもしれない。一時的に中毒になり、毎日何回も聴き倒していた。ある日など、朝まで何遍も何遍も聞き返したが、それでも飽きなかった。エレクトロニクスと強烈なビートとミックスとDJとヴォイスと……そして早坂の凶暴なブロウがものすごく心地よいのだ。音の玉手箱というかおもちゃ箱というか、どんどん場面が変わっていき、ダンシング・フリージャズ! と叫びたいような、ファンキーで自由でおもしろい内容。これでまるまる一枚やってほしい。なお、こちらのほうは明らかに永田さんのリーダーシップなのだが、上記のおまけ的に入手した関係で、便宜的に早坂さんの項にいれておきます。

「ARDIENTE!」(NBAGI RECORD N−010)
MINGA4+1 TOUR 2010

 いやー、これはいいっすよ。最初に聴いたときの印象は、ちょっと荒っぽいかな、というものだったが、何度も聞き返しているうちに、いやいや、荒いどころか、隅々にまで気配りされた、ていねいな演奏だという風に変わった(だから、最初の印象なんかあてにならんのだ)。しかも、よい意味でのライヴ感があり、じつに楽しい。当日の客が演奏を楽しんでいる雰囲気が、ちゃんと我々にも伝わってくる。いつも思うことだが、早坂紗智のサックスはアルトもソプラノも、非常にリアルでガッツのある、個性的な音だ。サックスをうまく、たくみに鳴らすひとは、今はアマチュアも含めてごまんといるが、こういう音が出せるひとは少ない。それと、これもいつも思うのだが、アルト吹きでも、持ち替えでソプラノを吹くとコルトレーン風の表現が中心になるひとが多いが、早坂さんはアルトもソプラノも基本的にはあまりかわらない。あたりまえやんけ、と思うかもしれないが、実際にはアルトとソプラノで個性が切り替わるひとが多い。どちらがよいというわけではないが、早坂さんはアルトもソプラノも早坂紗智というひとりの個性のうえでつながっているように思う。ベースの永田さんは、ずしりと腹に響くような、いわゆるモダンジャズのベースというより、もっと先鋭的で軽快な現代の音で、このグループではウッドベースを使っていると思うが、誤解を承知でいえば、それがエレベの軽快さや複雑さをも併せ持っている。だが、なぜか印象としては、ずしんと来る感じなのがすごい。安定感もグルーヴも抜群で、しかもソリストのプッシュが最高で、ほんと、このバンドの要だと思う。ピアノの吉田圭一もテクニックとシャープさと豪快さを持った、すばらしいピアニスト。そして、ドラムとパーカッションを聴くと、このグループがカラフルかつパワフルなリズムをものすごく大事に考えているのだなあということがわかる。長く愛聴したいアルバムです。

「LA MARAVILLA」(NBAGI RECORD N−001)
MINGA

 早坂紗知〜永田利樹によるミンガの第3弾(のはず)。新作が出るたびにすごくなっていく。もはや日本を代表するジャズグループでしょう。曲がいいし、アレンジがいいし、ソロイストが強力だし、リズムがすごいし、正直言って、言うことなしのバンドなのだ。両腕を剥きだしにしてアルトとソプラノを情熱的に吹きまくる早坂さんのソロは、本当にすばらしい。何度も言ってるけど、私にとってはその「音」が早坂さんの魅力のかなりの部分をしめる。音だけ? フレーズとか作曲とかほかにもいいところいっぱいあるでしょ? という意見もあるだろうが、そりゃもちろんそのとおり。でも、芯があって、ぶっとくて、上から下まで轟くような、こういう「音」はなかなか聴けないよ。一人のミュージシャンに惚れる理由として、「音がすごい」だけでも十分すぎるほど十分だと思う。うまいサックス奏者はそれこそ電話帳ができるほどいるが、存在感という意味では早坂さんのサックスは頭抜けている。それを際だたせているのが、このミンガというグループなのだ。というわけで、私が書いたライナーをここに引用いたしましょう。

 私は、ミンガの演奏なら、いつどこで聴いても言い当てる自信があるが、先日、あるひとから「ミンガってどんなバンド?」ときかれて、答に窮した。これまで出ている二枚のアルバムを繰り返し聴き、ライヴも何度か体感しているのに、そうきかれても、こうこうだよと答えられない。これは不思議なことだ。今からミンガの不思議さについて語ろうと思う。
 野卑で祝祭日的な愉しさ、たくましいラテン的な明るさ、一音一音に意味がある緻密さ、ジャズ的にバウンスする弾力、スピリチュアルで呪術的な暗さ、幻想的で官能的な柔らかさ……このグループの音楽には、世界中の音楽を俯瞰するような膨大なアイデアがでかい豚まんのように詰まっていて、毎回圧倒される。媚びるように耳馴染むメロディがあったかと思えば、安易なノリを拒否する複雑でバッピッシュなテーマも現れる。ぎゅーっと押し込まれた音塊が爆発するときもあれば、静寂を歌うような「間の美」を感じるときもある。古代のプリミティヴな咆哮から、現代の最先端の感性まで、タイムマシンを使わなくても、悠久の時の流れを一時間で経験できるのだ。頭がおかしくなるほど楽しい大騒ぎのなかにふと感じる悲哀、しみじみ、訥々としたストーリーテリングのなかにふと感じる陽気なギャグ。そうだ、ミンガはなんでもありなのだ。
 しかしもちろん、世のなかの音楽の「ええとこどり」をしたバンドではない。ミンガの音楽は四方八方どこから見ても「ミンガーッッ!」という、消そうに消せない「ミンガ色」に塗り固められていて、個性は数あるバンドのなかでも突出して強い。そして、サックスの早坂紗智とベースの永田利樹のラインがベースになっており、本作ではご子息であるRIOまでもバリトンサックスで参加しているが、ほかのメンバーも同じぐらい重要かつ不可欠だ。吉田圭一の千変万化かつスウィングしロールするピアノ、大儀見元とコスマス・カピッツァのパワフルで複雑で単純なパーカッション、そしてそして、ゲストの高橋香織の「弦の快感」としか言いようがない濡れ光るヴァイオリン(ラスト曲を聴け!)。全員がめちゃくちゃ自己主張して全員が手を取り合って全員が互いを愛している。だれが欠けてもこのサウンドにはならない。そういう意味で、ミンガは「みんなの楽団」なのだ。あれ? なるほど……「みんなの楽団」を略して「ミンガ」なのか? などと書きつつも、「ミンガってどんなバンド?」という問いにはいまだに答えられない。不思議だが……聴けばわかります!

「サンガ」(OHRAI RECORDS JMCK−1023)
早坂紗知 永田利樹 フェローン・アクラフ

(CDライナーより)
 赤裸々な音。
 早坂紗知の演奏を一言でいうとそうなる。
 まず、サックスの音が剥きだしだ。虚飾や甘さをことごとく削ぎおとした、芯だけのような音質。テナーと聴きまがうばかりの骨太な中低音と輝かしい高音。どれだけ過激な演奏をしても、肝心の音が弱かったら聴いていられないが、早坂紗知にはまず、この鋼のような「音」がある。身を削るようにして吹いているであろう、その音の説得力は計りしれない。
 演奏自体も、その音同様、剥きだしである。なんのギミックも用いず、熱い音塊をサックスのベルから噴出することだけにひたすら集中している。「うまく演奏しよう」などと考えていないに決まっている。その瞬間瞬間、頭のなかにあるのはおそらく「飛翔しよう」ということだけだろう。共演のふたりも、このライヴの場で、早坂紗知とまったく同じ状態で向きあい、演奏しているように聴こえる。三人ともあまりに飾り気がないので、はじめて聴いたひとには「そっけない」と思えるかもしれないほどのシンプルさだ。三人の奏者が、それぞれに自分を剥きだしにして、音をぶつけあう。そこに新しい何か……どろどろした未知のものが生まれ、育っていく。機械が、ではなく、人間が音楽を作っているのだ、ということを思いださせてくれる演奏である。
 そうだ。この演奏は……この三人はなにも隠していない。この種のジャズは、演奏者の「自分」というものが露骨に音に出てしまう。人生が、といってもいい。ピアノやギターといったコード楽器がないせいもあるだろうが、ここでは三人のすべてが、ガラス越しに海底を見たときのように、くっきりと「見える」のだ。もちろん、どんな種類の楽器でも、音楽でも、演奏者の自我が出ないものはないはずだが、それをさまざまな加工によって覆いかくし、塗りつぶし、誰の口にでも合うものに作りかえてしまう。「真実」だったはずの演奏が、いつのまにか「嘘」になってしまう。「真実」は、ときに苦く、ときに過剰で、ときに重いものだからだ。
 ここには「真実」しかない。だから、ドキドキするのだ。

「30TH ANNIVERSARY OF”2.26”BIRTHDAY LIVE FEAT.YOSUKE YAMASHITA」(NBAGI RECORD N−015)
SACHI HAYASAKA

 誕生日である2月26日に毎年行ってきたバースデイライヴが30周年(!)になった記念のライヴアルバム。TReSのメンバー(つまり家族ですね)に、同じく2月26日が誕生日の山下洋輔(「田中くん、さっちゃんのライナー書いたでしょ。読んだよ」などと早坂紗知のことを「さっちゃん」と呼んでいる。おかしいね、さっちゃん)、本田珠也、類家心平という強力無比なメンバーが加わってのライヴ……よくないはずがない。1曲目は低音を強調したミッション・インポッシブル的なアンサンブルがいきなり炸裂。早坂のアルトがハードかつ歌心のあるソロを展開する。続くトランペットソロもアグレッシヴで力強い。強烈無比なリズムセクションに煽られてブロウしまくる類家。そして、RIOのバリサクのバックで本田珠也のドラムが噴火する。かっこよすぎる1曲目につづき、2曲目は山下洋輔がフリーなイントロを弾いたあと、おなじみの「バンスリカーナ」のテーマに突入。RIOのバリトンとピアノがガチで激突。大ベテランと若者の真剣勝負。ふたたびテーマのあとはひたすら全員でフリーに。3曲目はオリジナルで「カナビスの輪」という曲。かなり長いドラムソロからテーマに。バリトンとトランペットによるリフが繰り返され、ソプラノがメロディを吹くめちゃくちゃかっこいい曲。ドラムと一体になって突っ走るRIOのバリトンソロが熱い。そのあとピアノのフリーなソロ。これも信じられないほどのかっこよさ。さすがとしか言いようがない。そして、3拍子になって早坂のソプラノが歌う……という場面転換も見事。本田珠也の凄まじい煽りを受けながら吹きまくる。それを受け継ぐトランペット。そのあとテーマのリフをバックにドラムソロ。異常なボルテージとテクニック。リズムの塊が押し寄せてくるかのような迫力。4曲目はドボルザークの「新世界」をアルトとピアノのデュオでフリーな感覚をまじえつつやりきる、という試み。「ゴーイン・ホーム」だけ、というのはよく演奏されるが、こういうのはちょっとないんじゃないでしょうか。ラストはミンガスのブルース「ベター・ギット・イン・ユア・ソウル」で、永田利樹のベースソロからはじまり、ここで全員がソロをする。まずはピアノからで、短いが山下洋輔以外のなにものでもない個性が聞こえてくる。つづく早坂のアルトソロはバップとフリーのあいだを行き来する。そして、RIOはバリトンとドラムのデュオではじまり、きっちり最後におとしまえをつける見事なソロ。類家心平のソロは非常にストレートアヘッドなジャズ。最後は力強いドラムソロでテーマ。いやー、ライヴの場所に自分もいたような気になる、臨場感のあるアルバムでした。早坂さんのこれまでの総決算であり、今後にも大いに期待させるような充実の内容。傑作。山下犬と早坂猫のデュオになっているジャケットもいいが(山下さんは猫好きなのになぜ犬?)、内ジャケの黒猫が火を吹いている絵がいいですね。最後に一言。ライナーを池上比沙之氏が書いているがそのなかに「早坂紗知の生音は驚くほどデカイ!」と書いておられるがそのとおりで、この音の説得力は半端ではない。その音のでかさをちゃんと伝えてくれる録音だと思います。

「BLACK OUT」(NBAGI RECORDS N−004)
SACHI HAYAKAWA’S DYNAMITE SAXOPHONE QUARTET + 1

 日本のジャズ史上、いやいや世界のジャズ史上、屈指の名盤といってもいいすばらしい作品。ソプラノとアルトが早坂紗知、アルトが林栄一、テナーが川嶋哲郎、バリトンが吉田隆一、ベースが永田利樹というメンバーであり、サキソフォンアンサンブルを前面に押し出した作品であるが、いやー、とにかく、正直、この作品を愛することに関しては、私はかなりの自信があるのです。この4人のサックス奏者の人選がまずすばらしい。ジャズにおけるこういうサックスアンサンブルはひとによって音色もアーティキュレイションもなにもかもちがうし、もちろんソロイストとしても個性がバリバリなひとが多いので人選はめちゃくちゃ重要である。いくら緻密な譜面を書いても、超腕達者を集めても、同じ結果はぜったいうまれないし、それをリーダーも求めているような状況がジャズ的なサックスカルテットのすばらしさなのだ。一曲目(早坂がパスコアールに捧げた曲)、冒頭、たぶん吉田隆一氏の「今のでいきましょうよ」という言葉にゲラゲラと笑うメンバーの声ではじまる。明るく、ポップな曲調だなあ、と思ったのは最初のテーマだけで、そのあと超アップテンポになり、安定感とグルーヴ抜群のブンブン唸るベースをバックに早坂のソプラノが爆発。ハーモニクスも駆使した凄まじいブロウに、購入者ひとはこの時点でたぶん「うわー、ええもん買うた!」と確信しただろう。そこからさまざまなアレンジ上の展開が目まぐるしくあり、バリトンの無伴奏ソロに林栄一のアルトがからむ、という2サックスのパートになり、容赦のないデュオが展開する。そして、ゆったりしたリフが入ってきて、そこから最初のテーマに戻る。うわー、完璧な構成と熱いソロ、そしてエンディング。テーマの吹き方のノリだけでも飯三杯いける。これでまだ一曲目か。あと10曲もあるのだ。しかし、この1曲目だけで十分もとが取れたような気がする。2曲目はそのパスコアールの曲で、一曲目と雰囲気を同じくする明るくポップな感じの演奏。テーマのアンサンブルだけで終わる。3曲目もパスコアールのマイナーとメジャーを行き来する曲。ええ曲やなあ。こうしてサックスアンサンブルで聞くとよけいに良さが際立つ。ソプラノとバリトンが効いているが、ソプラノは林栄一だそうです。アンサンブルをバックにしたアルコベースのソロがめちゃくちゃよく、そこにからむ林のソプラノのフリーキーさがなんともいえない哀愁を醸し出している。めちゃくちゃいい。そしてテーマに戻るが、このテーマはけっこう複雑でむずかしそうだが、サックスで挑戦したくなるような匂いがあるなあ。ラストのアンサンブルも絶妙。4曲目はバリトン(とテナー)の低音を押し出したサックスの咆哮によるシンプルなテーマのあと、アップテンポなベースに乗って川嶋哲郎のテナーが硬派なブロウを展開する。即興的(?)な掛け合いの果てにベースがパターンを弾き出し、バリトンのフリーなソロになり、新たなリズミカルなリフが登場してエンディングに怒涛の勢いで雪崩れ込む。5曲目はモンクの「パノニカ」で、林栄一のアルトの絶妙の無伴奏ソロではじまり、そこから分厚いアンサンブルになる。エリントン楽団のサックスセクションのような味わいがある。そう思って聴くせいか、そのあとベースが入ってからの川嶋のテナーソロもオールドスタイルのジャズに通じるコクというか芳醇さを感じる。続く林のアルトソロはまさに林栄一としか言いようがない個性の塊のようなすばらしい音楽性が短いなかに凝縮されている。6曲目は早坂作曲のタイトル曲「ブラック・アウト」で9拍子ではじまるが、そのあとの部分は途中で腰砕けになるような仕掛けがほどこされているリフで、そのうえで川嶋のソプラノが重厚なソロをしたあと、アンサンブルになり、ブレイクがあって早坂のアルトとソプラノ二本くわえたあの演奏にほかのサックスがからんできて、そこからまたドラマチックな展開になり(なんという雑な書き方)、リフとともにアルコベースが狂ったようなソロをしていきなりエンディング。かっこいいーっ。7曲目はデヴィッド・マレイの「フラワーズ・フォー・アルバート」で、吉田隆一のバリトンのフリーキーな無伴奏ソロではじまり、落差のあるさわやかなアンサンブルによるテーマになる。サンバっぽいリズムのうえでそれぞれのサックスがコレクティヴインプロヴィゼイションを繰り広げるが、その暑苦しさが曲調のさわやかさをいささかも殺していないのは驚き。「フラワー・フォー・アルバート」となっているがたぶん「フラワーズ」の誤記。8曲目はピアソラのおなじみの曲で早坂のソプラノが切々としたメロディ〜ソロを吹きまくる。音色といい楽器コントロールといいフレーズといい……なにもかも完璧でしょう! 本当に清らかな水がベルの先端から滴っているのが見えるような瑞々しい演奏(唾かもしれないけど)。名演ぞろいのこのアルバムのなかでこの曲がいちばん好きかもなあ。ラスト、リタルダンドしていくところもかっこいい! 9曲目は早坂がオーネット・コールマンに捧げた曲。全員で順番にソロをしていくという趣向で、それぞれの個性が出まくりでめちゃくちゃ面白い。早坂さんは私のオーネットに対する「?」という思いをぶっ壊してくれた恩人のひとりなので、この曲は本当に興味深いのです。即興パートからバシッとしたテーマへの変貌が鮮やか。10曲目は永田のアルコベースが重く響く冒頭部から、鋭く、また哀愁を帯びたリフが入り、なんというか、いてもたってもいられないような焦燥感が演出される。バリトンの低音ヴァンプ、テナーとアルトがからみつくようなメロディーなどアレンジ的にも聴きどころが多い。林栄一の飛翔するようなアルトソロのあとアンサンブルになり、ここがまたかっこいいのであります。そして、川嶋のテナーソロが炸裂し、聴いているひとたちは(私も含めて)「うぎゃーっ!」と叫んでエンディング。ラストはあの「ファッツ・アップ」で、かなりオーソドックスに、ベースのランニングとサックスアンサンブルをバックに早坂のソプラノが熱く響く。川嶋のテナーがそれを受け継ぎ、サンバのイントゥーのリズムのうえで一筋縄ではいかない、ちょっとずらしたフレーズをバシバシ決めまくる。あー、かっちょええ! どの曲もあまりにたくさんの要素が詰まっていて、何度聴いても「えっ、こんなところあったっけ」と思うように情報量が多い。アレンジメントの部分は、サックスアンサンブルの譜面として発売してほしいと思うぐらいすばらしいと思う。選曲、作曲、アレンジ、人選、即興、アンサンブル、ノリ……などが完全に調和した大傑作だと思っています。このバンドは今もメンバーを変えてたまに継続しているようなので、ライヴに接することができれば……と念願していますが、とにかくこのアルバムがすばらしいことには変わりがない。傑作!

「PALPITANTE!」(NBAGI RECORD N−008)
MINGA

 買ってから何度聴いたかわからない、ミンガの初期作にしてとんでもない傑作。バリトンサックスのRIOが永田遼介の名ではじめて録音に参加している(1曲だけ)。パーカッション軍団も含めてゲストも多彩だが、絶妙に配置され、作・編曲もすばらしく、空前絶後の傑作となった。どの曲も美味しさがギューッと詰まった最高の完成度である。1曲目は映画音楽だそうだが、スパニッシュの香り漂う激しくも哀愁のピアノソロからギターのカッティングと手拍子が印象的なスペイン的なメロディがアルトとトロンボーンの2管で奏でられる。ゲキ熱のテーマのあと、ギターが皆をクールダウンするが、それも次第に熱気を帯びていき、太いトロンボーンの豪快なソロが地響きを立てる。そこに切り込む早坂のアルト。そして、突然パーカッション軍団によるポリリズムの饗宴がはじまり、一気にスペインからアフリカンテイストになる。パーッカションとアルトの激烈なぶつかり合いのあとスパニッシュなテーマに戻る。めちゃくちゃかっこいい。この曲、何度聴いたかわからんぐらいです。とにかく聴いていて「うぎゃーっ」となる。最後になにかがパリンと割れる音がするがなんだかわからん。2曲目は同じ監督による映画からのインスピレーションを受けた早坂の曲だそうで、アルコベースとソプラノによる静謐なメロディが奏でられ、そこにさまざまな音がつどっていく。一転してリズミカルな展開になる。このあたりの「機微」といったらいいのか、こういうアレンジの妙をどう表現していいのか私にはわからないが、さまざまなアイデアや民族音楽的要素がぶちこまれ、しかも整然と整えられているのが見事である。早坂のサックスがすばらしいが、正直、こうなってはもう、ソロがどうとかリズムがどうとかいうような次元ではなく、すべてが混然一体となってクライマックスに向かって突進している感じである。3曲目は5人のパーカッションが加わった永田のオリジナルで、テーマは早坂のソプラノが奏でる。3拍子だが、なんともいいメロディではないでしょうか! パーッカションのグルーヴに乗ったすばらしいギターソロ、ソプラノソロ、ピアノソロがあって、ただただ聞き惚れる。4曲目は冒頭、短いイントロのあとアフリカンパーカッションの競演があって、そこに早坂のアルトが斬り込む形でテーマを吹く。あー、かっこいい! ちょっと「ソー・ファット」とか「インプレッションズ」を思わせる構成。すぐにトロンボーンソロになり、そのあとフリーキーなアルトとのバトルになり、ここはもうノリノリのところである。バシッとテーマに戻り、パーカッションが前面に出たギターソロになる。最後はパーカッションがひたすらグルーヴしまくり、あきれるほどかっこいい展開になる。ひえーっ、これはすごい! 5曲目は「ピパの夢」というタイトルだが、ピパというのは例のコモリガエルである。写真などで背中の部分を見るとかなりキョーレツに気色悪いのだが、私は好きである。ちょっとフリージャズ的に混沌した感じの演奏で、ピアノが活躍して、すごく楽しい。短い演奏だが、RIOのバリトンがアンサンブルに加わっている。アルトとトロンボーンがマーチっぽいリズムのうえで好き放題に吹きまくる。6曲目は複数のパーカッションの見事な絡み合いではじまり、ソプラノサックスによるテーマになる。しかし、解説を読まないとこれが「5565546」という「韓国伝統」(!)のリズムパターンの曲だとは絶対わからないと思う。なぜかというとノリノリだからである。サムリノリとかもそうだが、韓国のこういうリズムは凄いですね。プログレとかとはまたちがう変拍子の快感である。「ちがう」と書いたが共通項もある。こういうリズムをベースにしてまるでラテンミュージックのようにぶちかますのがミンガなのだ。かっこいい。本当に「5565546」になっているのか、と思って何度も何度も聴き直したのだが……よくわからない! 7曲目はベースのハーモニクスの美しい音とギターがからむ。早坂のアルトが入って、フォーキーな牧歌的な雰囲気が終始保たれる。前曲で頭がキーッとなっているところなので、このチェンジ・オブ・ペースはうれしい。とにかくベースとギターが歌っている。アルトのサブトーンも、テナーかと思うぐらい太く、美しい。8曲目はほぼ全員といっていい10人の参加による演奏。いきなりアルコベースと笛、シンセによるスピリチュアルジャズ的なイントロがはじまり、それが激しいパーカッションによる躍動によって新展開になる。トロンボーンの朗々としたフレーズに導かれ、アブドゥー・バァイファルのボーカルが炸裂する。激しいリズムのうえでボーカルは複数になり、バックのコーラスとコール・アンド・レスポンスになる。まさにアフリカンミュ―ジックである。早坂のソプラノは「これしかない」という切実さにあふれており、感動的だ。トロンボーンも豪快に活躍してハマりまくっている。ボーカルがずっと叫んでいる「サマ・ドゥーム」というのは「私のベビー」という意味だそうで、アブドゥーの子どもが生まれた喜びが込められているのだ。最後はジャンベのバトル(?)になるがカラフルですばらしい。ラストの9曲目は早坂のオリジナルで、アルトで吹きまくる。当時、入院中だった早坂が外泊許可をもらってコンサートでこの曲を演奏したというが、すごいことです。フリーな感じの演奏だが、曲としては非常にシンプルでわかりやすい。短い演奏で締めくくられる。傑作としか言いようがない。ほんと。