「HIP ENSEMBLE」(MAINSTREAM RECORDS/SOLID CDSOL−45259)
ROY HAYNES HIP ENSEMBLE
ロイ・ヘインズのヒップアンサンブルといえば、ジャズロック的な作品だというイメージがあって、これまでまったく聴いたことがなかったが、これが2枚とも廉価盤で再発され、しかも、フロントはジョージ・アダムスとハンニバルというミンガスのところから借りてきたようなメンバー。そして、ベースは中村照夫。これは聞いたことのなかった私が悪かった。ぜひ、拝聴させていただきます。というわけで、さっそくスピーカーのまえに正座して聴きはじめたが(嘘)、正直、もうちょっとダサい感じをイメージしていたのだが、さにあらず。ロイ・ヘインズの16ビートとか、あんまり聴きたくねー、とか思っていた私がまちがっていました。1曲目(スタンリー・カウエルの曲。ジャズロックというよりサンバっぽい?)で冒頭からでかい音でドカドカと情け容赦もなく叩きまくられるリズムは、ダサいとかイモいとかかっこいいとかそういうのを超えた面白さがある。しかも、ジョージ・アダムスが入っているので、テナーの中音域のサウンドが独特で、そのせいかテーマのアンサンブルが黒々としている。フリージャズ寄りのこのふたりのフロント、中村照夫のファンキーなベース、そして、時代を感じさせるエレピ……それらを支えるのがチャーリー・パーカーのころから第一線でビバップを叩き続けてきたあのロイ・ヘインズなのだ。このカオス感はすごい。しかし、全部がジャズロック風というわけではなく、2曲目(ヘインズの曲)はショーターが書きそうな感じのモードジャズ的な4ビート曲。コンガがぽこぽこいうのもかわいいが、なんだかよくわからないエレピソロのあとにハンニバルとアダムスが同時に小さな男でごちゃごちゃとソロをはじめ、それがだんだん大きな音量になっていくという趣向。ハンニバルはファンキーに、アダムスはフリーキーに、ずっと同時に吹いていて、なんやねん、これ……という変な曲。3曲目もロイ・ヘインズの曲で、ドラムソロではじまり、パーカッションとドラム主導の混沌としたコレクティヴインプロヴィゼイション(アダムスはフルート)が延々続く。一応、前半はロイ・ヘインズ対ハンニバルで、後半はロイ・ヘインズ対ジョージ・アダムスという風にソロイストを分けているのかもしれないが、よくわからない。そのあとけっこう力任せなドラムソロになり、このあとどうなるのか……と思ったあたりで妙なエンディングを迎える。いやー、これもよくわかりませんなー。おもろいけど。4曲目はスタンダードを倍のテンポで。ハンニバルの先発ソロがあまりにパワーのみ、な感じなので、つづくアダムスのソロがすごくちゃんとしているように聞こえるが、じつはこれもぐしゃぐしゃなのである。それに続くエレピソロは、これこそ普通のソロ。いやー、全体に激しいなあ。ガンガンいきまっせ、という感じだ。5曲目はアダムスの曲で「サタンズ・ミステリアス・フィーリング」という思わせぶりのタイトルだが、そういうオカルトな感じはなく、ファンキーな、これぞジャズロック、という16ビートの曲。ハンニバルはハイノートを駆使しまくった、悪くいえば相当雑て力まかせ、よくいえばパワフルで気合いに満ちたソロ。というか、これこそハンニバルなんだよなー。ジョージ・アダムスもアダムスだとしか言いようがないソロ。このあたりまで来ると、ドラムがロイ・ヘインズであることはほぼ忘れてしまっている。それぐらい自然にこういう曲を叩きこなしている。ラストはアダムスの曲でこれもジャズロック的な16ビートの曲だが、こういう曲でもアダムスはテナーの最低音あたりの音域でテーマを吹いたりするので、洗練とはかなり遠い雰囲気の演奏になる。そこがいいのだ。先発のアダムスのソロは本作ではいちばんいい、と思える豪快で個性発揮しまくりの重量級のソロ。ロイ・ヘインズも後ろで叩きながら大喜びしている様子が伝わってくる。ハンニバルもその熱気を受けてこれも豪快なぶっちぎりのソロ。ライヴで観ていたら超興奮しただろうな。エレピソロのバックに2管のリフが延々入り、シンプルに盛り上げたあと、パーカッションとドラムのデュオ→ドラムソロに。このソロは、ジャズロックとか16とか関係ない、ロイ・ヘインズのいつもの自由奔放なソロで、聴きごたえ十分です。なぜかラストはべつの曲のテーマが演奏されてエンディング。というわけで、時代性とかメンバーとかいろんなところにひっかかりがあって、そこがまた面白いというアルバムでした。
「SENYAH」(MAINSTREAM RECORDS/SOLID CDSOL−45259)
ROY HAYNES
ロイ・ヘインズ名義だが実質「ヒップ・アンサンブル」の第二弾ということでいいっすか? フロントは同じでジョージ・アダムスとハンニバルというアクの強いふたり。ふたりとも作曲でも貢献していてアダムス2曲、ハンニバル1曲を提供している。「アンティグア」の作曲者として有名なローランド・プリンスが参加している。1曲目はアダムスの曲で、最初と最後にルバートの部分があり、「ソング・フロム・ジ・オールド・カントリー」を彷彿とさせる。ストレートなマイナー3拍子の曲で、アダムスもハンニバルも個性丸出しですばらしい。2曲目はハンニバルの曲で、バラード風にはじまり、いかにも70年代的なモーダルな展開になるのだが、そのあと今の耳からするとちょっと苦笑交じりな8ビートになり、それぞれのソロが聴かれる。全員手探りというかいまひとつ爆発せず。ラストにハンニバル主導のカデンツァあり。3曲目は(本作には入っていない)ジョー・ボナ―の曲でモード風サンバみたいな感じ(?)。ローランド・プリンスのソロは快調だが、つづくハンニバルのトランペットもハイノート主体で気迫のこもったもの。アダムスも晩年とほぼ変わらない個性的なソロ。なんかこねくりまわしてるようなピアノソロも面白い。でも……ソロが短い。もうちょっとたっぷりソロスペースがあればなあ……。4曲目はアダムスの曲でドラムソロで幕を開ける4ビートの曲。ピアノソロとトランペットソロに続くアダムスがロングソロを与えられていてなかなか充実のソロを展開する。そのあとのベースソロはかなり変態的だが、ヘインズのドラムソロもけっこう変。そしてテーマへ。ラスト5曲目はロイ・ヘインズ作曲のナンバーだが、要するにドラムソロである。途中1回とラストに1回、管楽器が入ってくるが、それだけ。変わった演奏である。
「TRUE OR FALSE」(FREE LANCE RECORDS FRL−CD007)
ROY HAYNES
80年代のロイ・ヘインズは神がかっていた。なんのことはないカルテットで、なんのことはない選曲で、なんのことはない演奏なのだが、その人選の妙によって、ここまで圧倒的な音楽が生まれるのか、というのは奇跡に近いと思う。本作はヘインズの他、ラルフ・ムーア、デヴィッド・キコスキー、エド・ハワードという人選だが、とにかくラルフ・ムーアの最高のテナーが最高のリズムセクションのうえで活躍しまくっている。「躍動感」というやつですね。ムーアのテナーは高音から低音までまったく無理がなく、しかも芯のある音で鳴っているうえ、ちょっとスケールを吹くだけでアーティキュレイションの良さがわかる。この愛想のない感じの、なんの装飾もギミックもない、シンプルでストレートなテナーのどこがええねん、と言うひともいるかもしれないが、私にとってはある意味こういうテナーの理想形だと思う。1曲目「ライムハウス・ブルース」がごくフツーにはじまりシンバルが4ビートをチンチキチンチキと刻み、テーマのあとラルフ・ムーアがこれもまたフツーにソロを吹き始めるのだが、そのすばらしさはなんとも筆舌に尽くしがたい。ロイ・ヘインズのごくごく自然なドラミングに乗ってムーアが「きちっ」と吹き、デヴィッド・キコスキーも「きちっ」とピアノソロを弾く。そのあとのテナーとピアノのチェイスになるところもめちゃカッコいいのだが、すべてはバックでビシーッ! とビートを送っているヘインズのコントロールだろう。2曲目はテナーの無伴奏ソロではじまる「イン・ナ・センチメンタル・ムード」だが、サビから全員が入ってくるのだが、それまでの部分の美味しさよ。とにかくラルフ・ムーアが好きなんですねー、いや、もうめちゃくちゃ上手くないですか? こういうソロを聴くと私はぞくぞくっとするのだ。そしてキコスキーのピアノも超かっこいいよね。エド・ハワードのベースもいいっすね。3曲目はロリンズの「エヴリウェア・カリプソ」だ。「ネクスト・アルバム」に入ってるやつの速いバージョン。見事なテナーソロで、これを聴いてた当時はこういうのが本当にツボに入ってたんだよなー。美味しいフレーズを吹くだけでなく、楽器をきちんとコントロールし、アーティキュレイションで表現できるひとが好きだった。まあ、今でもそうですが。キコスキーの溌剌としたピアノも聞きものであります。ヘインズのドラムソロも、あまりに見事なので声もない感じ。ちょっとくらくらするぐらいの凄さ。全員でスキャットするエンターテインメント加減もいいですね。4曲目はパーカーのブルースで、真っ向勝負の4ビート。ムーアのテナーソロ、キコスキーのピアノソロ、いずれも圧倒的なのだが、続くベースとドラムのバースは声も出ないぐらいの見事さで、本作の白眉といっていいかも。5曲目はチックらと演奏した曲たそうです(よく知らない)。6曲目はタイトルチューン(スティーヴ・スワロウとの共作)で、ヘインズのすばらしいロールからはじまるドラムソロをフィーチュアした曲。1分で終わるが、そのあとたぶんヘインズによるしゃべりが入る。7曲目はモンクの有名曲だが、あまりほかのプレイヤーが取り上げないかも。ラルフ・ムーアのテナーは「いかにも」という感じでめちゃくちゃすばらしいです。ピアノソロもええ感じ。そのあとテナーとピアノの4バースがあるのだが、これもモンク曲であることを踏まえたチェイス。かっちょええ。8曲目はチック・コリアの「バド・パウエル」で、「クリスタル・サイレンス」でやってた曲だと思う。タイトルどおりバップ曲なのだが、バップのパロディではなく、バップそのものな感じであるのがいいですね。ムーアのテナーは8分音符の吹き方を聴いているだけでもう最高であります。バップ〜ハードバップをやろうというテナー奏者はみんなこんな具合にアーティキュレイションにもっと神経を配ってほしい。「そこ」にじつは4ビートジャズのテナー演奏のなんやらかんやらが詰まっているのだから。あー、かっこいい! ベースとからみ倒す絶妙なピアノソロを経て、テナーとピアノの超濃厚な4バースの延々と続く応酬からのテーマです。快演! すごすぎる! ラストの9曲目はショーターの「フィー・ファイ・フォー・ヒム」で、私も昔バンドやったことがある。じつはJJジョンソンクインテットが来日したとき、JJは奥さんが病気で演奏できず、ラルフ・ムーア・カルテットでの演奏になったことがあったのだが、そのときムーアがワンホーンでこの曲を演奏して、非常に感激しました。なんだかよくわからない変態的なテーマの曲なのだが、聴き込むとめちゃくちゃかっこいいのだ。どんな風にも変化する曲ではあるのだが、ここではけっこうビシッとした感じでの演奏になっている。テナーソロもピアノソロもすばらしいです。ベースソロもフィーチュアされ、テーマ。このアルバム、1枚聴きとおすのはマジであっという間で、ひたすら楽しい楽しい楽しい……と言ってるうちに終わってしまう。それぐらい気に入っている。私が持っているアルバムはなぜかジャケットが2枚入っていて、そこになにも印刷されていない、という状態なのだが、これは何なんでしょうね。まあ、ええけど。傑作!
「HOMECOMIMG」(EVIDENCE ECD 22092−2)
ROY HAYNES
ボストンのシュラーズ・ジャズ・クラヴというところのライヴ。この時期のロイ・ヘインズグループは本当に充実していたと思う。サックスがラルフ・ムーアだった「トルー・オア・ファルス」もエグいぐらいすごかったが、本作も鳥肌ものの演奏ばかりで、クレイグ・ハンディとデヴィッド・キコスキの魅力が突出していて、どの曲を聴いてもよだれがだらだら垂れるような最高の演奏ばかりだ。もちろん親分であるヘインズの仕切りがしっかりしているからなのだろうが、ヘインズというひとは、正直、共演者にはそれほどこだわらない(つまり、自分の音楽というものを構築しようという気があまりない)ひとのように思えており、その場での、凄い相手とのやりとりに命をかけるようなドラマーなのかと思っていたが、ラルフ・ムーア、クレイグ・ハンディ、ドナルド・ハリソン……といった若手サックスを擁していたこの時期のバンドは、グループとしての表現にもこだわっていたような気がする。とにかくこのアルバムがめちゃくちゃ好きで、聞くたびにハンディというひとのサックス奏者としての凄みを感じるし、キコスキの才能も伝わってきて、このふたりのすばらしい演奏を延々頭から浴びて最高なのであります。もちろんそういうひとたちをバックアップするベースのエド・ハワードも凄腕なのだろうし、御大ヘインズがいちばんすごいのはわかったうえで、やはりヘインズとキコスキのプレイに耳が行ってしまう。1曲目はコルトレーンの有名なマイナーブルースで、オスティナートが重く、かっこいい。クレイグ・ヘインズのテナーはいぶし銀のようなダークな音色だが、音としては鳴りまくっているので、ロングトーンを聴くだけで快感だ。フレージングもバップ的なもの、歌心あふれるもの、メカニカルなもの、アグレッシヴなものなどを見事に組み合わせており、フリーキーな高音も含めてとにかく「テナー!」という感じがする繊細かつ豪放なプレイである。正直、クレイグ・ハンディに関しては本作を聴いて一発でとりこになった。そして、キコスキもほぼ同等のすばらしい、というかすさまじいソロを繰り広げる。途中で延々とブレイクになるところのかっこよさはたまらん。そのあとのトリオになってからの演奏も超かっこいいが、ヘインズのバックアップも大いに貢献している。そのあと、ベースとヘインズのドラムのワンコーラスずつのバースになるがこの緊張感もなかなか……である。2曲目はモンクの曲で、「アンダーグラウンド」に入ってるけっこう珍しい曲かも。ハンディのソロは真っ向勝負で、ひたむきな演奏。ものすごく上手いし、かっこいい。キコスキもおなじくひたむきで上手くてかっこいい。つまりはヘインズの方法論としては、ひたむきで上手くてかっこいい若手を連れてきて、自分がそういう連中に比してジジイにならないような演奏をする……というバンドをずっと続けてきたのではないか。なかなかむずかしいことだが、ヘインズはそういう風に自己研鑽をしてきたのだろう。ヘインズは、ときに若手を驚かせるようなオーソドックスでパワフルなバッキングをかましたり、逆に若手の先を行くような新しいバッキングをしたり、と変幻自在だが、そこがブレイキーやエルヴィンとちがうのだ。ブレイキーやエルヴィンは良くも悪くも「俺が親分だ。俺にあわせろ」というドラミングだったが、ロイ・ヘインズはちがう。パーカーの時代から今日にいたるまで、俺にあわせろ、俺もおまえにあわせる……というスタイルなのだ。すごいことだと思います。2曲目でのハンディとキコスキのクリエイティヴなチェイスなど、このグループならではだと思う。3曲目はハンディのサブトーンなどを駆使した無伴奏ソロではじまるバラードで、こういう「技巧を尽くしたバラード」っていいですね。もちろん「感情を露わにしたバラード」もいいんだけど、この演奏は適度にクールだしサキソフォンのさまざまな表現がたっぷり味わえてよい。ラストでテナーがカデンツァに入ろうとしたとき、何人かの客が終わったと思って手を叩いてしまい、余韻という点でちょっと聴いててつらかった(それでもアルバムに収録したのはロイ・ヘインズがこの演奏は価値があると判断したからだろう。それぐらいすばらしいのだが、それだけに惜しい)。4曲目はおなじみの「バド・パウエル」で、チック〜バートンで聴くと「美しく透明感のあるメロディだがちょっとバップも感じる曲」みたいな感じだが、こうしてテナーがテーマを吹くとかなりバップ味がある曲だ。ハンディはこういうバップ的なソロもめちゃくちゃ上手く、どこを切っても飛び出す美味しいフレーズの数々には快感しかない。本当に流暢に吹きまくるのだが、それがつるつるっと耳に残らないタイプではなく、すべてのフレーズがしっかりと耳に焼き付く。最後のほうはホンカー的なブロウも展開して盛り上げる。かっちょえーっ! キコスキも快調で、説得力のあるフレーズをばんばん繰り出し、大歓声を浴びる。そのあとテナーとピアノの4バースになって、ここもめちゃ面白い(とくにハンディが頭のぶっ飛んだ感じになるあたり)。最後はバシッとテーマに入ってエンディング。バップ曲と見せかけていろいろひねりがあるあたり、チック・コリアはやはり天才的なコンポーザーですね。5曲目はスタンダードで「スター・アイズ」。チャーリー・パーカーも演奏したこの曲をパーカーのバックでロイ・ヘインズが叩いている録音もあるわけで、そう考えるとジャズの歴史を体現しているロイ・ヘインズはすごい! と思ってしまう。ラストはデューク・エイセスでおなじみ「アニバーサリー・ソング」を3拍子で。ハンディのソロはかなりアグレッシヴでかっこいい。ヘインズの長尺のドラムソロもあり(かなり派手め)。というわけで大好きなアルバムであります。選曲の妙もある。傑作!
「WHEN IT’S HAYNES IT ROARS!」(DISQUES DREYFUS 191151−2)
ROY HAYNES
ライヴ盤「HOMECOMIMG」とまったく同一メンバーでの録音だが、一カ月後のスタジオ録音。ラストの「アニバーサリー」を除いて曲のかぶりはない。デヴィッド・キコスキはエレピも弾いている。1曲目は「ブラウン・スキン・ガール」でカリプソの曲。ロリンズも演っている。ハリ・ベラフォンテとかが歌っている曲で、ビヨンセのあの曲とは関係ない(はず)。ハンディはめちゃくちゃ快調で、歌いまくったあげく最後のほうはリズミカルに高音を連発して盛り上げる。キコスキはエレピで、明るく楽しい曲調ながら適度にアウトしてテンションも高い。だいたいハンディとキコスキはソロイストとしてのタイプが少し似ていると思う。1曲目からこのクオリティ。ヘインズは「トゥルー・オア・ファルス」でもカリプソを取り上げていたが、カリプソ好きなのかなあ。2曲目はチック・コリアの「ステップス」。あの「ナウ・ヒー・シングス、ナウ・ヒー・ソブス」の1曲目として超有名曲。ということはロイ・ヘインズがドラムだったわけで、「ジャズ史を体現している」という言葉はこのひとにこそ当てはまる。巨匠ですなー。しかも、ここで聴かれるとおり、キコスキのバックで本当に叩きまくっていて、凄まじい。キコスキがどれほどモダンなフレーズを弾きまくっても、ヘインズのドラムがしっかり対応しているから成立する演奏であって、つづくハンディのソロも絶叫をまじえたエグいやつで超かっこよく、思わず拳を突き出してしまう。ヘインズの短いソロでフェイドアウト。3曲目はバラード「イージー・リヴィング」で、この曲好きなんっすよ。ハンディは例によってサブトーン、グロウル、ベンドなどサックスのさまざまな技巧をぶちこんで、ときにあざとく、ときにクールに歌い上げる。ほんま上手いよなあ。スウィングジャズ的なアクの強い表現を盛り込んだバラードで、最高としか言いようがない。ハンディのソロのあとのキコスキのソロから「ネヴァー・レット・ミー・ゴー」になる。バラードメドレーということか。そして、最後はまた「イージー・リヴィング」に戻るのだ。不思議。4曲目はスタンダード「サマー・ナイツ」で、ヘインズはチック・コリアのトリオでも演奏している。ハンディはソプラノ。最後に派手めのドラムソロあり。5曲目はマイルスのバップ曲「シッピン・アット・ベル」で、この曲名を聞くたびに「親のクッピン、子のシッピン」という言葉を思い出す。最初はベースのエドワード・ハワードとヘインズの6バース(?)が延々フィーチュアされる。ブルースでこれは演りにくいやろう、と思うが、このときヘインズは70少しまえだったことを思うとすごいですよね。そのあとハンディとキコスキのソロになり、ふたりの(これは普通の4バース)チェイスからテーマ。6曲目はモンクの「バイ・ヤ」でハンディのソロ、めっちゃかっこええ! もう聴き惚れる。テナー、ピアノ、ドラムのバースもあり。7曲目は「アイ・ソウト・アバウト・ユー」だが、バラードではなくミディアムテンポでスウィングする感じでの演奏。ラスト8曲目は「ホームカミング」でも取り上げていた「アニバーサリー・ソング」でドラムソロではじまる(どちらの盤でもラストに置いてあることから、もしかしたら当時はバンドテーマ的な感じで演奏していたのか?)。ハンディのソロはモードジャズ的な香りもあり、また歌心もあって最高。キコスキはエレピだが、ちょっとノイズが入ってるかも。最後はヘインズのドラムソロで締めくくられる。傑作だと思います。なお、タイトルは「WHEN IT RAINS IT POURS」という慣用句のもじり(ですよね?)。
「OUT OF THE AFTERNOON」(IMPULSE/MCA RECORDS A−23/VIM 4651)
ROY HAYNES QUARTET
ロイ・ヘインズの有名作だが実質的にはカークが主役といっていいぐらいローランド・カークが存在感を示す。フラナガンもすばらしいがベースがヘンリー・グライムズというのがなんともまた美味しい。たった4人だが、ここに詰まっている音楽の濃度はめちゃくちゃ濃い。1曲目「ムーン・レイ」(なんともいえない哀愁のテーマで、カークがそれをまた感情過多にならない絶妙のニュアンスで吹いている)におけるカークのソロは全編にわたって二管同時吹きを行っていてすごい。2曲目はラテンリズムのイントロではじまるがすぐに3拍子になる「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」だが、ロイ・ヘインズのすばらしいドラミングに耳が釘付けになる。カークの、あらゆるテナーの技をぶち込んだようなソロもすごいが、それをあおるような、突き放すようなロイのドラムもすごい。そのあと淡々とフレーズをつむいでいくフラナガンが全体をクールダウンするが、ヘインズのドラムはここでも止まらない。ヘンリー・グライムズも、どうしてこのひとがジャズシーンから姿を消さざるを得なかったのかさっぱりわからないようなすばらしいソロをする。そのあとカークとヘインズの4バースになるが、たがいに延々と技をぶつけあう強烈な演奏。3曲目「ラウール」はヘインズのオリジナルで、めちゃ速い4ビートの曲。カークのソロのバックでのヘインズの凄まじいドラムはよだれが出そうになる。ベースのアルコソロのときのスティックワークも壮絶である。そのあとカークのテナーとヘインズのデュオになり、ヘインズのドラムソロになる。B面にいって1曲目「スナップル・クラック」はヘインズ作曲でカークのフルートが大活躍する曲。そのあとヘインズのソロ(ベースはずっとランニングしている)になり、全員でのリフになってフェイドアウト。2曲目はおなじみ「イフ・アイ・シュッド・ルーズ・ユー」で、カークはストリッチで、個性全開のすごいソロをぶちかまし、ヘインズもそれをブラッシュであおりまくる。つづくフラナガンのソロも名演で、そこからカーク、フラナガンとヘインズの4バースになり、ヘインズのドラムソロになって、ビシッとテーマに戻る。3曲目もヘインズの曲で、超アップテンポのうえでリズムを強調したシンプルすぎるテーマが乗る。カークもフラナガンもグライムズも健闘しているが、いかんせん速すぎて、リズムから落っこちないようにフレーズをつらねていくだけでたいへんそうだ。しかし、ヘインズのドラムソロは「こんなことぐらいどうってことないんだ」とでも言いたげに平然として叩きまくっている。最後はきっちりテーマに戻る。ラストの4曲目はかなり変わったドラムのイントロではじまるので、またアップテンポの曲か、と思ったら、なんとバラードなので驚く。カークの淡白なテーマの吹き方がまたかっこいいのである。というわけで、カークとヘインズががっぷり四つに組んだアルバムで、ヘインズにとってはライナーノートには「最高傑作」とあるが、どちらかというと異色作になるのではないかと思う。カークが全面的に個性を丸出しにしているからだが、そのカークを絶妙に使いこなしている(?)あたりはヘインズはさすがの親分の貫禄である。傑作。