louis hayes

「AT ONKEL PO’S CARNEGIE HALL」(DELTA MUSIC N7062)
LOUIS HAYES/JUNIOR COOK QUINTET

 このレーベルからは同じ場所でウディ・ショウ名義のアルバムが出ていたが、そちらは相棒がスティーヴ・トゥーレで選曲も完全にショウのものであった。このころルイ・ヘイズは「イチバン」というアルバムを出していて、それはこのツアーの直後、ニューヨークで行われた録音である(ギレルメ・フランコのパーカッションが入っている)。また、ハイノートといレーベルから同時期のツアーからシュトゥットガルトでのライヴ「THE TOUR VOLUME ONE」「TWO」というのが出ていて(サックスは一曲だけルネ・マクリーン)、曲もちょっとかぶっている。で、本作はなぜ「ルイ・ヘイズ〜ウディ・ショウ」名義ではなく、「ルイ・ヘイズ〜ジュニア・クック」名義なのか、という問題だが、前述の「イチバン」がそういう名義になっている、ということもあるだろうが、とにかく聴いてみたらわかる。一曲目の「オール・ザ・シングス・ユー・アー」から、「まあ、スタンダードで軽く様子を見るという感じかな、と思っていたらさにあらず。先発ソロのジュニア・クックのテナーソロがとにかく熱い。熱過ぎる。「ザ・ツアー」を聴いたときは、ホレス・シルヴァー・クインテットで同僚だったウディ・ショウやルイ・ヘイズの縁で参加したが、こんなエグい曲ばっかりやらされるとは思わんかった、でも、がんばってついていってます……的なスタンスなんかと思っていた。だって、あの「ブローイン・ザ・ブルース・アウェイ」のすばらしい完璧なソロを歌い上げるひとですよ。ハンク・モブレーかジュニア・クックか……というぐらいにハードバップのひとだと思ってた。しかし、このアルバム一曲目の「オール・ザ・シングス……」を聞くと、ちゃんと歌っているのは最初の一瞬だけで、そのあとの吹き延ばしあたりからもうブロウモードに入っていて、あとはひたすらゴリゴリ吹きまくる。すばらしい。かっこいい。フラジオを多用し、ときにフリーキーになるその入魂の吹きまくりぶりは、ルネ・マクリーンやジョー・ヘンダーソンなんかよりこのグループにぴったりかも……と思われるほどで、いやー、ほとほと感心しました。すごいぞジュニア・クック! かなりのロングソロだがどんどん高揚していくさまは感動的ですらある。ミュージシャンのことを「誰々に似ている」と書くのはよろしくないと思うが、クックのこういったタイプの演奏は、ちょっとクリフォード・ジョーダン(のたとえばスティープルチェイスあたりのアルバム)を連想させる熱気がある。そして、つづくロニー・マシューズのピアノソロがこれまた超かっこよくて、もうたまらんのです。そのあとのウディ・ショウのソロが端正に聴こえるほどの白熱かつテクニカルかつ音楽的なソロだ。でも、ショウも負けてはいない。最初はややクールダウンした調子でしっかりはじめるが、次第にブリブリの「ウディ・ショウ節」を全編16分音符でかましまくってくれる。クールで、歌心にあふれ、新しい感覚に満ち、しかも燃え上がる最高のソロである。スタッフォード・ジェイムズのベースソロを挟んで、ジュニア・クック〜ウディ・ショウのワンコーラスずつ(あとで4バースに)のチェイスになる。これも互いに一歩も譲らないバトルで、凄い。そして、全編ソロイストを煽りまくるルイ・ヘイズのドラムも圧倒的である。一曲目のスタンダードが22分の長尺演奏。70年代ジャズは低調だったとか抜かしたのはどこのアホであろうか。2曲目は「サニー・ゲッツ・ブルー」で、バラードとしてジュニア・クックをフィーチュアしたナンバーなのだが、倍テンになってからの猛烈な歌い上げとパッションには脱帽。ロニー・マシューズのソロもいい感じ。そして、ラストの逆循になってからのクックの壮絶なブロウ、そしてテーマに戻ったあとのカデンツァを聞くと、誰だジュニア・クックを愛すべきB級テナーとか抜かしたやつは、全員謝れと叫びたくなる(マジで)。ときどき、モブレーに対してもそんなこと言うやつおるもんなあ。アホとしか言いようがない。3曲目は、やっと出ました、ウディ・ショウの「ムーントレイン」! この曲ではウディ・ショウが最初から水を得た魚のように溌剌としたソロをぶちかます。いやー、すばらしいです。何回演奏したかわからないようなこの曲だが、このバージョンはショウにとっての最高の演奏のひとつに数えられるのではないか。アイデア、テクニック、楽器コントロール、パッション……すべてが完璧だ。ショウが目を開き、まえをまっすぐ見つめて吹きまくっている光景が目に浮かぶようだ。かなりのロングソロだが、呆れるほどのパーフェクトな演奏だ。そして、ジュニア・クックは「ホレス・シルヴァー・クインテットでのハードバッパー」「ブルー・ミッチェルとの名コンビ」というレッテル(?)を捨てて(いや、捨ててというのも変な表現だな、もともとこのひとはこういうひとだったのだ)、コルトレーンが憑依したかのようなモダンで激烈なソロを繰り広げる。こんなにフラジオでフリーキーに吹くひとだったっけ……。いやー、もう土下座したくなるような凄まじい表現である。ウディ・ショウの凄まじいソロのあとにこの凄まじいソロが来るのだから、当日の聴衆はたぶん阿鼻叫喚だっただろう。拳を何度も振り上げたくなるような、とにかく暴風のような演奏だ。そして、ルイ・ヘイズのドラムもクックのテナーをプッシュしまくる。つづくピアノも、ふたりのソロのテンションの高さにあおられてか、最初からテンションマックスではじまり、カクカクしたノリで超絶かっちょいいフレーズを弾いて弾いて弾きたおす。リフのあとに主役であるルイ・ヘイズのドラムソロになるが、これもほかのメンバーと同様の熱い演奏で、そのあとびしっと全員でテーマに入るあたりの冷静さがまたかっこええわ! 2枚目に移り、一曲目はMCで紹介があるとおり、「グレイト・セロニアス・モンクのバラード」で「パノニカ」である。ジュニア・クックがテーマを吹き、無骨に歌いまくる(この「無骨」というのは、下手だかそういう意味ではまったくない。律儀に、そのとき考えたフレーズを忠実に吹こうという真摯さのあらわれである。流暢にぺらぺら吹くのがいいというわけではなく、そういうのは手癖かもしれません)。ピアノソロを挟んで再登場するクックのソロは高音を多用したかなりエグいもので、その直後テーマをしみじみと吹きはじめるときのギャップもいい。2曲目は、ロニー・マシューズのおなじみの「イチバン」。複雑なリフを中心にした曲でモーダルなナンバー。ウディ・ショウが本アルバム中でも1、2を争うすばらしいソロをする。これはまいったなあ……続くジュニア・クックはどうなのだろうか、と思って聴いてみると、これがウディ・ショウとタイマンを張るすごい演奏なのである。そして、そのつぎのロニー・マシューズのピアノもめちゃくちゃすごくて驚愕。このピアノソロはほとんど絶叫ものだ。――つまりは、全員すごいということなのだが、ソロイストが代わるたびにいちいち驚いてしまうというスーパーバンドなのだ。最後にドラムソロがあり、これは非常に正攻法のソロでした。そのあとテーマに戻ったとき、ぎゃーっ、という客の感極まったような絶叫があり、なんで? と思う反面、それぐらいウケてたのだな、と思った。3曲目は、ジュニア・クックのテナーをフィーチュアしてバラード的にはじまるヘンリー・マンシーニの哀愁の曲「モーメント・トゥ・モーメント」。このルバートな感じでの4分以上にわたる歌い上げはすばらしい。そしてはじまるテーマもかっこいいです。マイナーのサンバになって、テナーはテーマを崩した感じで短いソロ的な感じ。続くロニー・マシューズのソロは圧巻で、いやもう、そこまでしてもらわんでも……といいたくなるような頑強で「はっきり」した演奏。がんがん進む。ごんごん弾く。めちゃくちゃ盛り上がったところでジュニア・クックのソロ。これも凄すぎる。「勇ましい」といったら変か。ひたすら前を向いて突き進むようなひたむきなソロ。まるでコルトレーンやドルフィーやファラオ・サンダースのようなシリアスな演奏だ。フリーに片足を踏み入れたようなところまでいく。そして、13分を過ぎたあたりからテーマを崩したようなフリーリズムのエンディングになるのだが、これがすごいのです。ギャオーッと絶叫し、ゴリゴリと吹きまくり、エナジーの塊のようなとんでもない演奏で、ルイ・ヘイズのあおりとも合致して、とてつもない興奮の山を作り上げている。すぐにピアノが入り、メンバー紹介があるので、テーマ的な短い演奏がはじまるのかな、と思っていると、ラストの4曲目もけっこう長尺の演奏。まず、クックがアブストラクトなフレーズの断片を振りまきながらそれを回収していき、大きなうねりを作るようなソロをする。途中、ほとんどアーチー・シェップか、というようなフリーキーなフレーズを吹きまくるので注目。つづくマシューズのピアノソロとスタッフォード・ジェイムズのベースソロもええ感じだが、そのあとクックとルイ・ヘイズの4バースからドラムソロになり(本作のソロで随一といいたくなるほどめちゃくちゃかっこいいが、ただただ正統派である)、え? ウディ・ショウはどうしたの? 帰ったのか? と思ったりするが、メンバー紹介のあと(ちゃんとウディの名前も呼んでいる)もトランペットは出てこず、クックがひとりで吹きまくる。しかし、この部分だけ聴いたらだれもジュニア・クックとは思わんだろうな。傑作としかいいようがないです。である。