「MEXICAN GREEN」(MERCURY RECORDS UNIVERSAL CLASSICS AND JAZZ 983 1983)
TUBBY HAYES
カルテット(ドラムはトニー・レヴィン)による剛腕、豪放な感じの一枚。リンクのメタルのようで、リンクのそういう側面を代表するがごとくモリモリとしたポパイのようにマッチョな音色であり、演奏もそういう感じである。本作は超有名盤だが、タイトルの「メキシカン・グリーン」というのは強烈なマリファナの一種だとか。ほんまかいな。そんなもんタイトルにする? 1曲目はモードジャズ的な香りもするマイナー曲。タビーの友達のドラマーで、バミューダで自動車事故で亡くなったジョニー・バッツに捧げた曲。タビー・ヘイズはとにかく一瞬の躊躇もなく、運指の乱れもなく、ゴリゴリと吹きまくって圧倒的である。少しヒステリックな感じもするが、そのテンションはいい方向に働いている。マイク・パインのピアノソロもすばらしい。2曲目は歌もので1曲目のゴリゴリさに比べると楽しい雰囲気。テナーのアドリブも歌いまくりで圧巻である。3曲目はフルートによる三拍子の曲でソロも短く小品という感じだが、軽く流しているわけではなく、凝縮されていて聴きごたえがある。4曲目は超アップテンポのバップで、馬鹿テクかつパッションが凄すぎて腹いっぱいになる。豪快すぎて、笑ってしまうほど。こういうパワフルで馬鹿テクで圧倒するような吹き方というのはブッカー・アーヴィンやカークにも通じるものがあると思う。5曲目はちょっとモンクっぽさも感じるようなブルース。短い演奏だがギューッと中身は詰まっている。6曲目はヘイズの友人でシンガーのジョイ・マーシャルに捧げたバラードだが、ヘイズの緩急を心得た見事な歌い上げと音色の良さは感心するしかない。ラストの表題曲は軽快なドラムソロではじまる楽しげな曲だが、ピアノソロの途中からなんだかドシャメシャになっていき、そこにヘイズがファラオ・サンダース的に入り込んだあたりからリズムがフリーになる……という意表をついた展開に。トニー・レヴィンのドラムソロになり(かっこいい)、また唐突に4ビートになる。そのあとまたリズムがなくなって、テナーのカデンツァっぽくなり、ドラムソロに。そういう具合に同じパターンが何度も繰り返される趣向。つぎに出てくるロン・マシューソンのアルコ〜ピチカートソロ(かなり長いが聴きごたえ十分)は最初から完全にノイズでフリーっぽい。最後はまたまたスピリチュアルジャズっぽい、混沌とした雰囲気にある(混沌とした、といってもヘイズは常にしっかりフレーズを吹いているが)。そして、またまたまたドラムソロになって、明るく楽しくアップテンポのテーマが突然出て来て終演。うーん、なるほど……こういう趣向はマリファナによる悪夢のような幻覚的世界を表現しているのか……って、本当かなあ。さすがの表題曲で、すばらしかった。実を言うと、タビー・ヘイズのように「俺はこうだぜ。ブレないぜ」的にためらいなくひたむきにぶちかますような演奏は苦手だったりするが、本作はめちゃ好きです。