「YOU OR ME」(STEEPLE CHASE SCCD31370)
JIMMY HEATH
このアルバムはもちろん出たときに聴いたのだが(北川さんがベースだから)、ラストで演奏してる「ホットハウス」が私の思い入れの強さに比して、ひょいとはぐらかす感じだったので購入しなかった。思いかえせば、えーと、とにかくずっとまえ、はるかまえ、ジミー・ヒースのライヴでこの「ホット・ハウス」をテナーで演奏しているのを(テレビで)観て、あまりのかっこよさにのけぞって以来、「ジミー・ヒース=ホット・ハウス」みたいな方程式がかってにできあがっていたのが、このアルバムを聴いて、うーん、俺が見たのとはちょっとちがうなあ、という聴き手の勝手な感想によって、なんとなくオミットしていたのだ。今回、たまたまこの「ジミー・ヒース=ホット・ハウス」を思い出し、購入してみた。内容はよく知っているアルバムだが、じっくりと聞き直してみて、なるほどなあ、ヒースというひとは非常に軽く吹く。それは昔からこだわっているらしいラバーのマウピ(リンクか?)のせいもあるだろうが(よほど昔はリンクのメタルも使っているみたい)、とにかく低音から高音までまったく無理なく吹く。もちろんそれはいいことにちがいないが、あまりに涼やかに軽やかにさらりと吹くので、聴いているほうは聞き逃してしまう(かといって、スタン・ゲッツのようなか細いクールな音でもない)。太い音で、いかにも「がんばって吹いてます」という感じでブロウしてくれると、あっ、このひとはすごいなあと思うのだが、こういう風にあっさりとなんでも吹かれると、逆に「ふーん」とたいした感慨もなく聴きすぎてしまうかもしれない。しかし、じつはめちゃめちゃすごいことをやってはります! フレーズの積み上げかた、ひねりかた、常套フレーズをいかに斬新に聴かせるか、ちょっとした音色の変化、アーティキュレイション、適度なファンキーさ、バップ魂……などなど聞きどころを数え立てればきりがない。つまり、うますぎて、名人芸すぎるのである。本作はワンホーンでその名人芸をじっくり味わえるうえ、ベースが北川さんでこれはもうすばらしすぎる。ドラムのアル・ヒースもジミー・ヒース同様の「名人芸」でブラシとかの軽い、スウィングしまくるバッキングは最高。自作曲もよいが、ラストの「ホット・ハウス」にはさっきも書いたように個人的な思い入れがあり、この曲ばっかり聴いてしまうなあ。テナーでこの曲のテーマを吹く、というのがかっこいいのだ。