hijokaidan

「MADE IN JAPAN−LIVE AT SHINJUKU PIT INN,9TH APRIL 2012」(DOUBTMUSIC DMF146)
JAZZ HIJOKAIDAN

 ノイズミュージックの王様「非常階段」と、フリージャズの大御所坂田明、豊住芳三郎の顔合わせによるライヴ。どんな音が飛び出してくるか、と聴くまえからわくわくしていたが、聴いてみると、うわーっ、なるほど! という内容だった。非常階段サイドもフリージャズサイドも(おそらくは)ほぼいつものやりかたを変えることなく、そのままぶつけているにもかかわらず、結果として、数十年まえから一緒にやっていたような、ごくあたりまえに融合してしまう、という信じがたい音楽の法悦境が生み出されたのだ。40分に及ぶノイズとフリークトーンの嵐は凄まじいにもほどがあるが、そのなかに「うわっ、なにこれ」とか「めちゃめちゃかっこええやん」とか「美しい!」とか「えげつないなあ」とか「ここはシリアスやな」とか「ここはギャグだね」とかいった瞬間が山のように詰まっていて、裏ジャケットに「プレイ・イット・ラウド」と書かれているのもさもありなんと思う。できるだけでかい音でかけないと、そういった生まれては消え、消えては生まれるおもろい瞬間、おもろいアイデア、おもろいネタ、おもろい遭遇と離散……などを聞き逃してしまうからなのだ。とはいえ、いくらでかい音量で聴いても、すべてを享受することは不可能だから、いきおい何度も何度も聞き返すことになる。それでいいのだ! しかし、このJUNKOというひとは化けもんだな。つくづくそう思う。それに、豊住さん! すごいなあ。ほんというと、シンバルをバシッと手でとめて、共演者をぶった切るような往年のあのすごさはもう無理かもと思っていたがとーんでもない。失礼な話でした。一打一打に気迫がこもり、最後まで集中力もテンションも落ちないのだからすごいわ。それはほかのメンバーにもいえることで、演奏の最初から最後までひたすら駆け抜ける。この一丸となっての疾走感はハンパじゃない。坂田、豊住のふたりはこのライヴにおいては「大御所」感がまったくなく、メンバー全員横一線に並んだ状態でひたすらいい音楽をいい演奏をとそれだけを念頭に弾きまくり、吹きまくり、叩きまくり、叫びまくっている。演奏者側の体力・気力・集中力がそれぞれ100パーセントを超えていないと無理な演奏だが、聴くほうも同じ。そうなのだ。聴くにも体力・気力・集中力がないとだめですよ。とにかく「おそれいりました」としか感想の述べようがない。最後に、五分間におよぶアンコールを求める拍手が収録されていて、結局アンコールはなく、そのまま終演してしまうのだが、その拍手も含めてひとつのコンサートとして完結している感があってすごい。さすがダウトミュージック。高柳昌行の「ラ・グリマ完全盤」のラストの帰れコールを連想した。五分間のアンコール拍手を音楽の一部として収録することによって、その瞬間の、大げさにいえば「時代の空気」までも封じ込めてしまった。なお、「ジャズ非常階段」は「非常階段」とは厳密にはちがうユニットだと思うが、便宜上この項に入れました。

「MADE IN STUDIO」(DOUBTMUSIC DMF1467)
JAZZ HIJOKAIDAN FEATURING AKIRA SAKATA

 というようなライヴ盤を先に聴いてしまうと、いやー、スタジオ盤がこれを超えるのはむずかしいわなあと勝手に思ってしまったが、いやいやいやいやいや、スタジオ盤はライヴ盤と同等なぐらい、いや、それを超えるぐらいに凄かったのだから、これまた「おそれいりました」というしかない。とにかく一曲目が凄い。吹き荒れるノイズの嵐に対して、坂田さんはなんとクラリネットで対抗。しかもギャーギャーとフリーキーに吹くのではなく、徹頭徹尾フレーズで勝負。一種異様な音楽空間ができあがった。そのアンバランスさがなぜか見事なブレンドとなり、信じられないぐらいかっこいい演奏となった。この曲がいちばん好きかな。二曲目はいきなり登場して吹きまくり吹き倒し吹き壊し吹き過ぎる坂田のアルトが猛烈すぎるが、それをエレクトロニクスが侵食しはじめ、ついには壮絶なバトルになる。まるでマシンガンの銃弾とサックスのデュオ、というか戦争のような場面もあって、いやー、これは凄まじいわと呆れかえる。坂田のアルトはここでは完全にアコースティックな響きに徹していて、1曲目とまたちがった意味でのアンバランスさ、対比があって、かっこいいし、めちゃおもろいが、それだけではなく、なんかいろいろ考えさせられるのだ。アコースティックな坂田のフレージングがだんだんねじれてきて、ノイズの一部のように聞こえたり、ノイズのほうが坂田のサックスの一部のように聞こえたり……ようするに融合してしまっとるわけです。やっぱりこの2曲目のほうが好きかな。3曲目は坂田アルトとJunkoのヴォイスの壮絶な、いや、壮絶という言葉を安易に使いすぎると思われるかもしれないが、そう書くしかないようなデュオ。ライヴ盤でもそう思ったが、このヴォイスはほんと、喉壊れるんやないかと思うぐらいえぐいです。ひきつけを起こしたチンパンジーのようでもあるし、天上の天使の歌声のようでもある。うーん、やっぱりこのデュオが一番好きかな。4曲目は全員での壮絶な、あ、また壮絶と書いてしまったが、これはほんとにそう書くしかない30分の強烈な音の暴走劇。全員がひたすら疾走する。坂田さんは最初から最後まで吹き止めない。ここまで激烈に死ぬまでイキ倒した坂田明を最近聴いたことない(……こともないな。チカラモチのやつとか)。メンバー全員がいつ、どこで訪れるのかわからない「音の高み」を目指して突っ走る。ペース配分というのは演奏において大事なことだが、この演奏に関しては最初から最後までそういう小賢しいことを考えていないのではないか。このパワー、集中力、テンションにはただただひれふすのみ。高柳昌行の集団投射を連想したのは、おそらく演奏が似ているとかそういうことではなく、パワー、集中力、テンションのせいだろう。ライナーには、この演奏は勝負である、自分が誰とどういう演奏するかという問題は誰と勝負してどうやって勝つかという問題とイコールだ、と書いてある。それはある意味正しいのだろうが、私には、ジャズ側とノイズ側がおたがい相手に勝とうとしてぶつかりあっているというより、個々の細胞レベルまでの完璧な融合に思えた。諸星大二郎の「生物都市」や牧野修の「がしんじょ長屋」のように、共演者たちが最後には涅槃の境地に達するまでにしっかりと溶け合っているが、何度も聴き直すとじつはそうではなく、それはもう、演奏の最初からそうだったのだ。というわけで4曲目がやっぱり一番好きかなあ。……つまり、全曲大好きなアルバムなのです。いやー、これは当分聴きまくるしかないな。この2枚のアルバムを聴いていると、なんだかいたたまれなくなり、あー、仕事をしないと、もっといい作品を書かないと、という気持ちがかきたてられるのです。この作品にかかわった全員に、たんなるリスナーのひとりとして最大限の感謝を捧げたいと思う。それにしても「平家物語」といい、本作といい、ダウト+坂田のコラボで音楽史に残るような傑作が立て続けに生まれたことは、これは大々々々々事件だと思うのだが。あと、おまけCDの2曲(ギターデュオ)も聴いたが、これもおもしろかった。ノイズとかいうけど、私が日頃聴いている音楽となんの違和感もない。めっちゃ楽しくて、興奮できる、「いい音楽」でありました。