「VISIONS」(T−FRIENDS YGDS41)
THE HOKKAIDO BAND
何枚かアルバムの出ているこのバンドだが、発売された当時はあまりよい印象がなかった。というのは、これは完全に私サイドの問題なのだが、こういうストレートアヘッドで、どっちかというと朴訥というか、はったりのない演奏はあまり「入ってこない」感じがあったのだ。なにしろフリージャズばっかり聴いてたもんですから。だから小山さんがこういうきちんとした4ビートをやってるのを聴くと、もっとめちゃめちゃすればいいのに、とか勝手なことをおもったりして、2、3度聴いてずーっとそのままになっていたのを、最近なんとなく聞き返してみて、「え?」とおもった。昔抱いた印象は半分そのままだが、半分は180度変わっていて、こういった真摯で手抜きなく、一見ぶっきらぼうで無愛想だが、まっすぐにこちらを見据えて音を放ってくる、というそのエネルギーとベクトルに参った。とくに高橋知己は、じつにかっこよくて、無骨な野武士のようなテナーだと思った。そして、よく聴くと、流麗な部分もあるのだが、それをあえて表に出さずに隠しているような雰囲気もある。もっさりしたテナーの空気が、なんともいえない。小山さんのドラムも、めっさかっこいいではないか。そして、元岡さんのピアノもすばらしい。今、昭和ジャズの復刻がブームだが、このあたりのアルバムをちゃんと復刻してくれると、いろんな意味で今はすっかりベテランになってしまったひとたちの評価が変わるような気がする。今こそ北海道バンドを! なお、だれのリーダー作かわからないので、とりあえずバンドとして項をたてた。
「5 MINUTES AGO」(T FRIENDS TFC 0005)
THE HOKKAIDO BAND
「ザ・北海道バンド」のアルバムは何枚出ているか知らないが、うちには本作と「VISIONS」というのがあり、ほかに「クワイト・ア・ダンス」というのが出ているらしいがそれは聴いたことがない。本作は超久しぶりに聴いたが、昔聴いたときはけっこう地味な印象だったのだが、今回聴き直して、めちゃくちゃ良かった。いやー、傑作ですね。全9曲をすべてメンバーのオリジナルで固めているのだが、どれひとつとしてしょうもない曲がない。すごいクオリティだ(9曲中7曲が元岡の曲)。高橋知己はテナーもソプラノも鮮やかで軽やかで歌心もあるし、めちゃ上手い。しかし、つるつると耳に残らないフレーズを吹いていくような感じはなく、堅牢で朴訥な感じも受ける。ひとつひとつのフレーズが耳に残るのだ。3曲目のバラード(バリー・ハリスに捧げた曲)など、しみじみと胸を打つ。元岡一英(ほんま、ええ曲書く!)のピアノも炸裂していて、聴いているとその音列に巻き込まれてしまうような錯覚を覚える。4曲目はベースの米木康志の曲で、ベースを中心とした激しいリズムに高橋知己のソプラノのブロウが乗ると、スタジオ録音とは思えない熱気が充満する。挑戦的なピアノソロもすばらしい。6曲目のバウンスするファンキーな曲ではだれかがずっと叫んでいて面白い。高橋知己のソロもかなりフリーキーに振れているし、リフをバックにしたドラムソロもかっこいい。7曲目はテーマをベースが弾くバラードで、そのままベースのソロになる。あまりに美しい演奏なのに、ここでも叫び声が入るのすごいっす。ラスト9曲目でのピアノソロとテナーソロも圧巻(フェイドアウトが惜しい)。全体にセシル・モンローのドラムも田中倫明のパーカッションも最高であります。本当にいいアルバム。なお、CDの背中のところの表記が「HOKKIDO BAND」になっている。