「THE BURNER」(PRESTIGE RECORDS PRESTIGE 7299)
RED HOLLOWAY
これまでけっこうの数のレコードを買ってきたが、このアルバムは私にとってたぶん最高額を支払った数少ないレコードの一枚である(といっても4000円なのだが。個人的にはレコードもCDも2000円台まで、と思っている)。清水の舞台から飛び降りたつもりで購入した他のアルバムは、坂田明「カウンタークロックワイズトリップ」、イリノイ・ジャケー「ゴー・パワー!」ぐらいか。とにかく某中古屋の店頭に飾ってある本作がどうしても欲しかったのであるが、中身がわからない。私が当時行っていたジャズ喫茶にはどこにもなかった。ジャケットは、ラーセンのメタルを吹くホロウェイの横顔で、なかなか凄そうである。でも、しょうもなかったらどうしよう。何カ月も悩んだが、正直、何カ月も売れなかったのである。そして、あるとき、ホロウェイのほかのアルバムを何枚か聴いたことが後押しとなって、とうとう購入。おそるおそる聴いてみて……狂喜乱舞いたしました。いやー、すばらしい。6曲中、B−3だけは、トランぺットのホバート・ドットソンというひとが入った演奏で、メンバー的にもまるでほかの5曲と関係性がなく、なんでこんな演奏が入ってるのかまるで理解できないが、まあ、それは「プレスティッジだからしゃあない」と置いておくしかない。正直、私はホロウェイのテナーを聴きたいわけで、ワンホーンでよかったのに、ポール・セラノという、ぜんぜん聴いたことのないひとが入っていて、それも購入をためらう要因だったのだが、聴いてみると、いやー、なかなかええやん、と思った。このひとは知られざる名手、という位置づけでいいんですかね。調べてみると、シカゴの重鎮で、リーダー作もあるひとだった。すいません、知らなかったです。後年はレコーディングエンジニアとしてバリバリ活躍していたらしい。1曲目は、ほんまに「マジか?」と声をかけたくなるぐらいのジャズロックで、張り切って冒頭からぶちかますホロウェイのテナーには興奮しかない。ラーセンを見事に使いこなしている野太く芯のある音とブローテナーの伝統的なフレージングをすべて心得たうえで自分を出しているブロウには頭が下がる。まさに、マクダフバンドの前任者のジミー・フォレストを完璧に引き継いだうえで自己の表現を加えている奏者である(本作のオルガンはマクダフではなくジョン・パットンだが)。エリック・ゲイル(!)の力強いギターソロもめちゃくちゃかっこいい。2曲目は3拍子の楽しい曲だが、ホロウェイのドスのきいたソロはフォレストと比べても(あんまり比べたらあかんと思うが)まったく遜色のないすばらしいものである。1曲目と同じく、ゲイルのギターも炸裂している。3曲目は、こういうアルバムでは定番のスローブルースでパットンのファンキーというにはあまりに重くて濃い〜オルガンのソロ(かなり長い)で幕を開け、つづくエリック・ゲイルの、これも重いギターソロ、そして、ポール・セラノのまたまた重量級のずっしりくるトランペットが響き渡る。ドラムのハーヴィー・ラヴェルというひとのリズムが、これまた一拍目にずしん、というアクセントを置く感じで、重いのだ。そして、最後に登場する主役ホロウェイのテナーは、全員の「重さ」を一身に背負ったような、本当にヘヴィなノリのもので、ファンキーとかグッド・ロッキンというにはメガトン級のブロウである。途中で倍テンになってもその重さは変わらない。あーーーーー、こういうのを聴いているとこの世の極楽ですなー、と言いたくなるほど。最後はファイドアウトしてしまうのが惜しい。B面に移って、1曲目はタイトルナンバーで、A−3と同じくスローブルース。こっちは主役のホロウェイは最初に登場する。ぐっ……と拳を握りしめたような腰のすわったブロウで、ギャーッ……とホンカーのようにスクリームしないところが、ふつふつと噴火寸前の状態の火山のようで聴いていてもはらはらする。テナーを受け継いだゲイルのギターソロもセラノのトランペットソロも、ペンタトニックだけ、みたいなシンプルで自信に満ちたものですばらしい。ぐっ、と腰を落とした感じの深い深いブルース。B−2はシャッフルっぽい、跳ねる感じの4ビート。長尺な1曲目に比べて短い演奏で、テーマはアレに似た感じ。ホロウェイのテナーがノリノリなのに重たくて、リフを挟んでパットンのオルガンはやや硬めの、四角いノリ(これがこのひとの持ち味)。そして、テーマに戻ってあっさり終わるが、なんともすがすがしい。ラストはなぜかホロウェイ以外全員メンバーチェンジ(ジャケットの書き方だとホロウェイもいないみたいだが、いてはります)。ホロウェイの見事なテナーをフィーチュアしたバラードで、すばらしい。トランペットのホバート・ドットソンというひとはサン・ラにもいたひとらしく、ミンガスのドルフィーがいたころのバンドとかにも入っていたなかなかすごいひとのようである。メンバーがまったく違うこの1曲も、そう言われなければわからないぐらい溶け込んでいる。全体にオルガンがマクダフだともうちょっと派手というか明るいノリになるとも思うのだが、パットンのオルガンだと全体に重い雰囲気があって、これはこれでめちゃくちゃええなあ、と思った。傑作。
「COOKIN’TOGETHER」(PRESTIGE RECORDS PR7325)
RED HOLLOWAY WITH THE BROTHER JACK MCDUFF QUARTET
実質、マクダフバンドの演奏なのだが、ベースが入っている。ギターがジョージ・ベンソンでなかなかゴージャスなメンバーである。あのすばらしい「バーナー」に続くプレスティッジにおける2枚目のリーダー作のはずである……たしか。ホロウェイはテナーオンリーである。1曲目はバート・バカラックの三拍子の曲。オルガンをヘヴィなソウルジャズとしてではなく、ストリングスのように使って、一種のムードミュージックとしての新境地を開拓しようとしているのかもしれない。太い音色で奏でられるホロウェイのソロ部分は堂に入ったものだが(ものすごくエコーがかかっている)、それに続くなんだかよくわからないピキピキピキ……とした不思議な味わいのチェンバロみたいなソロはなに? オルガンのそういう音色なのか? ベンソンのギターソロのあと、またまたエコー過多(とくにテナーの低音)なテーマが奏でられる。この時点でこのアルバムについて、「え?」という思いになる。思っていたより「すがすがしい」のである。メンバーからいって、こちらはもっとコテコテなものを期待していたのだ。しかし、2曲目の循環の曲ではすぐにその期待通りの演奏になる。この曲はマクダフが(なぜか)オルガンではなくピアノを弾いている。右チャンネルでずーっと鳴ってるピアノのコードがマクダフである。ソロではマクダフの硬質なピアノがフィーチュアされて、なかなか味わい深い。ベンソンのソロはペンタトニック中心なのにさすがの歌心で、これはスターになるわ、と思わせる。それをバシバシ煽り、決めるところは決めていくジョー・デュークスのドラムもさすがであります。3曲目はブルースで、というか、もう「曲」ともいえないシンプルな音列。ホロウェイのソロもバップを基としたテクニカルな部分もあり、ソウルフルな部分もあって職人芸という感じ。つづくベンソンのソロは音使いといい四角いノリといい歌心といいグラント・グリーンを思わせるようなめちゃくちゃいい感じ。そして、弾きまくるマクダフのオルガンも最高であります。B面に移って1曲目はバップ的なリフではじまるアップテンポのブルース。いやー、これはすばらしいですね。ソロの受け渡しのときに4小節のリフが入るという洒落たアレンジがほどこされているが、基本的にぐいぐいいく感じのバップ曲。ベンソンのギターがソロにバッキングに炸裂している。2曲目はミディアムテンポの異常にシンプルなブルース……というかリフ……ではあるが、ある意味、本作の白眉といっていい演奏かもしれない。この曲も、各人のソロ終わりでリフが入る構成。全員、職人芸的なすばらしい演奏を繰り広げる。コルトレーン的な芸術とはほど遠いかもしれないが、これもまた最高の音楽である。3曲目はベンソンのギターのイントロからはじまり、ボサ的なリズムでマイナーとメジャーを行き来する曲調。サブトーンの軽い吹き方とフルトーンを自在に使い分け、おおらかにブロウするホロウェイはすばらしい。この曲もマクダフがピアノを弾いているが、きらきらとした輝かしい演奏でオルガンのときとは別人のようである。ラストの4曲目は「シャウト・ブラザー」というタイトルからもわかるようにめちゃ速いブルース+サビという変則な曲で、しかもアレンジもばっちりというかっちょいい曲。ホロウェイが「こんなのたいしたことないんだよ!」とばかりに涼しい顔で(かどうかしらんけど)吹きまくり、吹き倒す。リズムからフレーズから全部完璧。いやー、参った。このひとが「かなわない」と音を上げたスティットというひとの凄さを思う。というわけで、久しぶりに聴き直してみると、A−1のすがすがしい印象のせいで、全体に軽く明るいアルバム、という気がしていたが、それは7曲中2曲だけで、あとはいつものホロウェイ〜マクダフバンドでした。