「ELVIN JONES TRIBUTE BAND」(AKETA’S DISK MHACD2621)
ELVIN JONES TRIBUTE BAND
普通の意味のエルヴィントリビュートではない。エルヴィンの曲を、たとえば2テナー、ギター入り、ピアノレスでやるとかそういうやつではないのだ。帯に「ロック魂溢れる本田珠也が贈るエルヴィン・ジョーンズへの鎮魂歌」とあるが、そのとおりである。ここでのドラムにそもそもあのポリリズムのぐわーっとうねるような感じはまったくない。そういう「トリビュート」ではないのだ。エルヴィンゆかりの曲を、今の(といってももう10年まえだが)本田バンドの音楽性で真っ向から演奏した、というような内容。1曲目の冒頭からして、え? アルバムまちがえた? みたいな感じになるが、それぐらいエルヴィンに寄せていない。1曲目は「IN THE TRUTH」で「THE ULTIMATE」に入ってる曲。16ビートでなんの迷いもなく突っ走る。最初のギターソロがすばらしくて、「え? エルヴィントリビュートだったよね」というとまどいはすぐに吹っ飛んでしまう。つづくアルトサックス(テナーも吹くひとなのだが、エルヴィントリビュートなのにあえてアルトというのもミソ)のソロはのびやかで熱いブロウで心地よい。正直、エルヴィンがこんな曲やってたっけなあ、と思って、どの曲ももとのやつを聴きなおさずにはいられなかったのだが、聴いてみると、たしかに「こんな曲」なのだ。2曲目は「FOR ALL THE OTHER TIME」であの「GENESIS」に入ってる曲。この曲はそれっぽい(つまり原曲っぽい)ベースラインではじまるのだが、ギターがノイジーでかっこいい。本作では「エルヴィン・トリビュート」な外観の演奏かもしれない。吹きまくるアルト。からみつくベース。奔放なドラム。もうエルヴィンとかどーでもいーもんね的な気分でひたすら聴きいってしまう。つづくギターもすばらしくて聞き惚れる。だんだん暴れ出して最後には宇宙へぶっ飛ぶようなソロ。かっこいい! 3曲目は「GETTIN’ ON WAY」でインパルスの「ILLUMINATION!」に入ってるやつ。最初はしずしずとはじまるのだが、1、2曲目とはうってかわったじっくり聴かせるギターソロ、8ビートで歌いあげるアルトソロに続く自由奔放好き勝手な感じのベースソロがいいですね。ラストのアルトのカデンツァ(?)のか細い、繊細な音色がぐっとくる。4曲目はあの「オン・ザ・マウンテン」で、本田珠也氏もライナーで触れているように思い入れのある曲でありアルバムであるようだが、たとえば芳垣さんもその名もずばり「オン・ザ・マウンテン」というバンドをやっていて、自身でも「あのアルバムが一番好きや」と語っているように、あの変態的なアルバムがドラマーたちに与えた影響は大きそうである。ここでの演奏は、1〜3曲目とはちがい、まさにあの「オン・ザ・マウンテン」の精神が具現化したものであって、つまり、「過激」である。全員が自分たちの音楽をやっているにもかかわらず、それがエルヴィンのトリビュートになっている、というのはこの曲が一番かもしれない。わけわからんけどね。途中でどこかで聴いたようなロックのリフみたいなやつが出てきたあと、ワンコードのロックンロールみたいになる。そしてぐちゃぐちゃっとしたあと、なぜかツェッペリンのモビー・ディックのリフっぽい展開になる。なんじゃこりゃと思っていると、ギターが変なリフをドラムと合わせたあと、ベースの荒巻氏がツェッペリンの「ロックン・ロール」をシャウトする。おい、むちゃくちゃやないかい、とツッコミたくなるが、これでいいのだ。エルヴィンの「オン・ザ・マウンテン」はこんな風なわやくちゃな音楽に向かって開かれているのだ、というメッセージかもしれないし、そうでないかもしれない。どちらでもよい。5曲目はスタンダードでエルヴィンはインパルスの「DEAR JOHN.C」というチャーリー・マリアーノをフィーチュアしたアルバムで演奏していた「EVERYTHING HAPPENS TO ME」。最初のほうはドラムがおらず、アルト〜ギター〜ベースのトリオで、ルバートで展開する。まるでリー・コニッツのような空中をたゆたうような演奏だが、ドラムが入り、ギターやベースも次第にびしびしと暴れ出したあたりからめちゃくちゃ面白くなっていく。最後は、すべてを言い終えて、もうこれでよし、という感じで自然に終息していく。ラストの6曲目は「THE MAIN FORCE」に入っている「MINI MODES」という曲。そんなん知らんっちゅうねん。心地良い16ビートに乗ってアルトがひたすらブロウし、ギターが引き倒し、よくわからないブレイクがあったりして、じつにいきいきしていて楽しい。奔放すぎるぐらい奔放なライヴなので(ライヴかどうかはあまりわからない)、正直ちょっとダレるような箇所もあるのだが、それも含めてドキュメント的に面白いのは、さすがアケタズディスクである。ここに収められた「ナマ」の手応えはほかに替え難いものであり、それはまさにエルヴィンの演奏と共通するものだと思う。
「SAVE OUR SOUL」(PIT INN MUSIC PILJ−0013)
HONDA TAKEHIRO TRIBUTE BAND
亡くなった本田竹廣の曲を、ゆかりのメンバーとともに本田珠也が演奏するというバンド「本田竹廣トリビュートバンド」のピットインでのライヴ。テナーは当然(!)峰厚介、ベースは米木康志で、ピアノは同じ時代を生きた豪腕板橋文夫である。そして、もうひとりのサックスは守谷美由貴で、ギターは橋本信二という充実のメンバー。一曲目は「浄土」からの曲で、2管編成にするとよりいっそう「ええ曲やなあ」感が際立つ。テナーソロもすばらしい。いつもながらこのひとのソロはその場の思いつきを垂れ流しているのではなく、きちんとしたアイデアを自分流に発展させていくような、聴いていると自分もサックスを持ってアドリブに参加しているような気持ちにさせてくれる。高校生のときにはじめて聴いたのはまさに「ネイティヴ・サン」だったし、生で聴いたのも高校生のときのどこかのオールナイトジャズファスティバルだったが、そのときからずーっと私のアイドルです。本田珠也のドラムソロがフィーチュアされるが、よく歌うソロで、リーダーとしてもドラマーとしてもどんどん高みに向かっていることがわかる。聞き惚れます。2曲目はピアノの訥々とした2音からはじまる哀愁の曲だが、ピアノソロのあとに登場する峰厚介のテーマの吹き方が良すぎて、これがほかのひとだったら聞こえ方も変わっていただろうと思う。音色といい、アーティキュレイションといい、完璧。そのあと、またピアノが「2音」でソロに入るのだが、ここもすばらしい。板橋文夫ならではの「日本のジャズ」が展開する。そのあとのテナーソロもかっこいい。とにかく「あのころのかっこよさ」に満ちている演奏で、そして、そのかっこよさは今でもまるで古びていないのだ。3曲目はあの「サバンナ・ホットライン」をアコースティック編成で……という趣向。あのテーマに乗って守谷美由貴のソプラノと峰のテナーがジャズとしてのこの曲の魅力を引き出す。本田のドラムはずっとドラム全体を使って自分のソロのような手数でソロイストを鼓舞しており、それはピアノソロにおいてもその手をゆるめない。板橋のソロにいたってはピアノとドラムの真剣勝負のようだ。あのさわやかなCMの曲が……と思うと感慨深い。ギターソロも秀逸。そして、4曲目はアルバムタイトルにもなっている曲で、作詞が小室等だそうである。ゴスペルのようにも聞こえる名曲。ギターの橋本信二のソロと、それに絡みつくメンバーの音、音、音……が泣ける。そのあとのドラムソロもオリジナリティあふれるパワフルなものなのだが、曲調をいささかも壊しておらず、しっかり曲の一部となっているのがすごい。そしてラストテーマはそのドラムソロを飲み込んだ形で、最初の数倍もパワフルに聞こえる。本田竹廣の曲が新しい皮袋によって蘇った……という感慨がある。5曲目はふたたび「浄土」からの曲で、米木のベースソロから導かれる重い主題は、胸をぎゅううう……と締め付けられるようだ。ピアノソロは聴いていて口がふさがらず、よだれを垂れ流すような演奏だが、それにひたひたと付けていくドラムもまた……。ソプラノの哀愁……と見せかけての自由で過激なソロとそれをプッシュしまくるドラムも聞きものだが、続くテナーソロのふくよかなのにシリアスな「あの感じ」もすばらしい。そして6曲目はあの(!)「スーパーサファリ」だ。こういうのは「原体験」というのでしょうか、とにかくテーマを聴くだけでしびれるのである。原曲に比べると全体に重量感を増したヘヴィな演奏で、それがまたいいんだよねーっ。その重さはおそらくパワフルで手数の多いドラムに起因するもので、ハードロックのような直情的な迫力で迫ってくるが、そういうなかでマイペースでブロウしまくる峰厚介や橋本信二がまたかっこいいのである。板橋文夫もバッキングにソロに個性を発揮しまくっていて、この峰〜板橋というええ年のおっさん(ジジイと言ってもいい)が本田のドラムに対して涼しい顔で吹き倒し弾き倒すところが本作の最大の魅力なのかもしれない。私はこの原曲を高校生のとき、毎日、学校から帰ってくると習慣のようにラジカセのプレイボタンを押して、しつこくしつこく聴いていたが、こういう形で蘇るとはなあ……感無量です。ラストの倍テンになるところもきっちり再現されているし、客が熱狂するのもわかる。みんな楽々とやっているが、じつはかなりムズかしいキーなのである。そしてラストは「ヘイ・ジュード」。アルトソロがみずみずしい。そして、丁寧で歌いまくるテナーソロのかっこよさよ。ギターもピアノもいいが、とくにこの曲のピアノソロはなにかが乗りうつったような鬼気迫るものがある。ラストテーマの盛り上がりもライヴならでは。ドラムの手数が多すぎる? いいではないか、やりたいようにやってるのだ。私はめちゃくちゃ好きです。こういう企画なのだから、一曲ぐらいピアノトリオでやるとかドラムソロだけの曲を入れるとかピアノソロを入れるとかあってもいい、と思うかもしれないが、全曲きっちりセクステットで演奏したリーダーの気概にも拍手。このアルバムを聴いて興奮しない、泣かないひとはいないと思う。ノスタルジー? いや、絶対ちがう。これはこのアルバムの、このメンバーの持つ「今」の音楽の力であります。傑作です!
「SECOND COUTRY」(ANTURTLE ANTX−3101)
TAMAYA HONDA TRIO
本田珠也がリーダーのサックストリオ。アルトは守谷美由貴、ベースは須川崇志。めちゃくちゃ長文のライナーノートを本田珠也自身が書いているので、なにもつけくわえることはないが、10曲中4曲が守谷の作曲で、これがどれも印象的でかっこよく、ちょっとひねりがある、いい曲ばかりなのである。本田の曲も2曲(1曲は本田竹廣の曲に続くイントロ的な曲)。あとは祖父である本田幸八というひとの曲、本田竹廣の曲、スタンダード2曲という構成。1曲目は守谷の曲で、60年代というより70年代ジャズ的な雰囲気を持ったモードっぽい曲。ベースがパターンを刻み、ドラムが三連を基調としたアフロな感じで(途中で4ビートになるが)、そのうえに乗ってアルトが力強く吹きまくられる。ベースソロとそれに絡むドラムもいい。2曲目も守谷の曲で、めっちゃいい曲。バップ的だがモンクっぽい雰囲気も感じられる。どうも変な譜割だなあとテーマをコピーしてみたら、なるほど、最初の4小節とそのあと4小節では微妙にリズムが違っているのだ。ソロは最初、ドラムとのデュオで、途中からトリオになる。サックスソロはバップを逸脱したバップ、みたいな雰囲気でかっこいい。そのあとベースソロというよりベースとドラムのデュオになり、ここのからみも楽しい。最後はドラムソロになり、テーマ。3曲目も守谷の曲で、ベースソロからバラードに。ベースもドラムも必要最小限のバッキングしかしておらず、「むかしむかし」というタイトルがいかにもぴったりの曲調である。アルトの音色も繊細で、フレーズもしみじみと心に染みる。名演。4曲目は本田珠也の曲で、ジャズファンクというかジャズロックというか、ウッドベースがファンキーなラインを弾き、サックスがリフ的なテーマを吹く。ギターやキーボードなどが入ればフュージョン的なサウンドにもなっただろうが、それをあくまでアコースティックなトリオでやるところがいい。ごつい、岩みたいな感じの演奏で武骨さがかっこいい。5曲目「宮古高校校歌」は本田珠也の祖父(つまり本田竹廣の父)本田幸八が作曲したものだそうだが、これをインストで演奏。この曲だけ峰厚介がテナーで参加している。最初、本田の躍動感あふれるドラムソロからはじまり、これで「校歌」につながるのか? と思ったが、まるでエルヴィンの「ケイコズ・バースデイ・マーチ」とか「花嫁人形」のように、異質なものをぶつけることでめちゃくちゃかっこいい効果が生まれるのだなあと思った。全体にフリーな感じの演奏だが、峰と守谷の吹き合いをドラムが煽りまくるところはものすごくかっこいい。本作の白眉かも。6曲目も守谷の曲で、ノリのいい、ハネるリズムのブルース。守谷は一心不乱に吹きまくっていて爽快である。本田のドラムソロも重いのにファンキーでかっこいい。7曲目は本田珠也によるマリンバソロで、クラシック的なマリンバではなく、バラフォンとかガムランとかを思わせるようなプリミティヴな雰囲気がある。それから続く8曲目は本田竹廣の曲で、モード的なパターンをベースが提示し、サックス(守谷はこの曲だけテナーを吹いている)が訥々とメロディーを奏でる。ベースソロに対してドラムは抑制された最小限の手数だけでからみ、プッシュし、見事にベースを浮かび上がらせている。サックスはどうしてこの曲だけテナーにしたのかな、と思いながら聴いていたが、なんとなくその気持ちがわかるような気がしてきた(いかにも70年代モードジャズ的な曲調なのである)。アルト吹きがテナーを吹いた、というような感じではなく、いかにもテナーらしい音+演奏である。対する本田のドラムは小気味よいほどにツボにキマッている。9曲目は「サンバ・デ・オルフェ」。はじけるようなドラムのリズムに乗ってアルトがみずみずしい音で吹きまくられる。バップですなー。ズドドドドド……というひたすら激しいドラムソロも無我夢中とか必死とかではなく、余裕で叩いている感じなので楽しく聞ける。ラストはシナトラの曲でエルヴィンの「ディア・ジョン・C」に入ってる演奏を参考にしてたものらしい。この曲が本作ではいちばんストレートな4ビートジャズではないかと思われる。アルトも楽しげに歌い、スウィングする。アルバムの締めくくりとしては最高の演奏ではないか。なぜか本田のライナーのこの曲の紹介文はバロム1が出てくる。というわけで、久しぶりに聴き直してみたが、じつによくできたアルバムだと思った。まえに聞いたとき以上に、ずっと好きになった。全体をリーダーである本田珠也の音楽観がびしっと貫いており、ぶれていないので、完成度も高く感じる。傑作。