「THE COLOUR CIRCLE」(CADENCE JAZZ RECORDS CJR1041)
THE WILLIAM HOOKER ORCHESTRA WITH ROY CAMPBELL & BOOKER T
20年以上まえに買ったアルバムだが、今でも、このアルバム、「よくぞ買った」と思っている。あのころ、テナーのブッカーTウィリアムズがシルクハートからリーダー作を出して、それがなかなかの出来であり、同時期に出たデヴィッド・S・ウェアのアルバムとタメを張るような内容だったため、すっかりブッカーTのファンになった私は、ほかに参加作はないか、と虎視眈々と探していたら、このアルバムを見つけたのである。ドラムのウィリアム・フッカーのリーダー作であり、「ウィリアム・フッカー・オーケストラ」と大胆にも名乗っているが、ドラム〜トランペット〜テナーというたった3人なのである。しかし、たしかにその内容はオーケストラにも匹敵するような凄さがある。一曲目、ドラムソロのあと飛び出してくるロイ・キャンベルのラッパ! これがすごい。ハイノート中心に吹きまくるのだが、フッカーがあおりにあおっても、完全にそれに食いついて、激烈な応酬をくりひろげる。実際、トランペットではなかなかこうはいかない。B−2はフッカーのドラムとブッカーTのデュオ。ブッカーTは、かなりコルトレーン風のメカニカルでモーダルなフレーズも混ぜこみ、フリージャズというよりコルトレーン〜エルヴィンのデュオのようでもある。こういう風にも吹けるひとなのだ。B−2のラストになぜかブッカーTが「さくらさくら」的なフレーズを吹いて終わるのだが、そのあとドラムソロを挟んで、B−3は「さくらさくら」をモチーフにした曲……というより「さくらさくら」そのものである。これはどういうことなんでしょうね。曲名は「ザ・ライジング・カルチュア」となっていて、作曲もウィリアム・フッカーによるものとなっているが、そうかー、この曲って幕末に作られたというが、ウィリアム・フッカーってめちゃめちゃ長生きなうえに日本人だったのかー。そんなわけはないが、まあちょっと変わった演奏である。とにかく、ベースもピアノもいないの? 3人でオーケストラ? と外観で引いてしまうことなく、豪腕フリーが好きなひとはぜったいに楽しめると思う。このころのケイデンスのアルバムは、ほかにもいろいろ興味深いものが多いです。
「SHAMBALLA」(KNITTING FACTORY WORKS KFW151)
WILLIAM HOOKER
スタジオ録音で、ウィリアム・フッカーとギターのデュオ。1、2曲目がサーストン・ムーアとの、3曲目がエリオット・シャープとのデュオである。ふつうなら聴かない編成(サックスが入ってない)なのだが、フッカーにひかれて聴いてみました。1曲目は、ものすごく派手な演奏で、フッカーがバシャバシャした感じのエイトビートで一定のビートを提供し、それに乗っかってムーアのギターがカッティングでジャカジャカ暴れるような、パワフルだがちょっと単調な展開で始まり、けっこう長々と続く。だんだんそれが崩れていくところ(6分過ぎ以降ぐらいか。そのあたりからかみ合ってくるように思う)が聴きものといえば聴きものだが、ギターはビートを守ろうとし、フッカーはそれをずらそうとしているのはわかるが、うまくいってるかどうかはなかなか微妙。全体に、ムーアが主となり、フッカーは派手に叩きまくっているようだがムーアに合わせている感じ。2曲目のほうが自由なリズムでの即興でずっと面白かったが、それでも1曲目と同様、ムーアがひとつのこと(とくにビートとか)に固執し、フッカーがいろいろ仕掛けてもなかなかそこから抜け出さない部分もあり、そういうデュオなのだ、リズム主体の即興なのだ、と言ってしまえばそれまでだが。7分頃からそのままの路線でどんどん盛り上がっていくあたりはめちゃかっこいいです。そのあとフリーになってからの展開もすばらしい。そこからまたもとのパターンに戻ったりもするんだけど、ふたりとも演奏(の道筋)を揺らそう揺らそう壊そう外そうとしてがんばっているのも伝わってくるし、全体として「生のガチンコの即興」というドキュメントになっていて、そういう意味ではものすごく美味しい演奏でもある。3曲目のエリオット・シャープとのデュオは、迫力もあり、ドラマチックな展開連発で、ヴォイス(というか掛け声?)もまじえて好き勝手な世界が目まぐるしく繰り広げられ、とても気に入った。さすがシャープ。
「LIGHT 1975−1989」(NO BUSINESS RECORDS NBCD82−85)
WILLIAM HOOKER
初期ウィリアム・フッカーの4枚組。フッカーの自主レーベルから出ていた2枚組レコードをベースに、そこに未発表音源を加えたもの。クロノジカルに並んでいるのだが、期せずしてその並びが、一種の組曲のような構成に見える(4枚目ラストのドラムソロだけは、本来2枚目と3枚目のあいだに来るべきもので、少しだけ作為が感じられるか?)。
1枚目は、フッカーの18分にわたるドラムソロ曲で始まる。これが凄いのだ。最初は呑気に歌を歌っているが、そのうちに猛烈な勢いでドラムを叩き出し、しかも、叩きながら叫ぶ。ヴォイスとかボーカルといったものではない(たとえばハミッド・ドレイクがアフリカンなヴォイスを交えてソロをする、とか)。ひたすら絶叫し続けながら叩きまくる。これが延々と続く。えげつないです。終わると、なんというか「人間ってやつはさあ……」みたいな気持ちになる。プリミティヴな衝動を突き動かされる。2曲目はデヴィッド・マレイ登場。マーク・ミラーのベースも入ったトリオだが、マレイは朗々とは吹かず、切り刻まれた音塊をまき散らすようなソロ。次第に盛り上がっていくが、やはりフッカーのドラムソロの存在感が大きい。27分近い演奏。マレイのほぼ初吹込みに近い音源(初吹込みはテッド・ダニエルの「イン・ザ・ビギニング」というアルバムらしいが聴いたことはない。カッポ・ウメヅこと梅津和時も参加している)なのでしかたないとはいえ(「フラワーズ・フォー・アルバート」より、まだ一年まえ)、音色自体がまだまるでマレイらしくないし(マレイにおける「音色」は表現のかなりの要素を占めていると思う)、初期マレイによく感じられたアイラーの影響みたいなものもあんまり感じられない。まだ模索中なのだろうが、がんばっていると思う(上から目線ですいません)。でも、なにがやりたいのかよくわからないようなところもあるし、フッカーの強烈な指向性のあるドラムに対して、どう対処していいのか迷っているようなところもある。そのため、ちょっとダレる。いや、かなり……。マレイがあの、殴ろうが蹴ろうがびくともしないような巨大な個性を確立するのはこれより何年もあとのことなのだ。3曲目はいよいよデヴィッド・Sウェア登場で、冒頭の全身全霊を傾けた叫び一発で、圧倒的な存在感を示す。その音量、音色、アーティキュレイション……ゴスペル的な匂いをまき散らし、野太い音で蛇がうねるようなフレーズを積み上げていく。マレイとの違いは、フッカーと完全に対等に勝負しているということで、いや、それどころかウェアがフッカーを引っ張っているかもしれない。いやー、これは凄いなあ。血が滲むような渾身の演奏で、ウェアは圧倒的だし、フッカーも最高である。ウェアは完全に、こういう音でこういう風に吹きたいんじゃ、ワレ! という確固たる信念がこのときすでにあって、それをズドーン!と表出していて立派。マレイは最初からマレイではなかったが、ウェアは最初からウェアであった、ということか。この一曲のためにこのボックスを買っても損はないと思う。いや、もう、涙涙ですよ。かっこいい!
2枚目は、フッカーにレス・グッドソンというテナー奏者とハサーン・ドーキンスというアルトのひとが加わったトリオ。集団即興なのだが、めちゃめちゃ音がひずんでいる。フッカーは、ドラムをティンパニのような感じでフルボリュームで叩きまくり、テナーとアルトはひたすら吹きまくる。なにがなんだかわからないが、とにかくすごい熱気は伝わってくる……という、6〜70年代フリージャズにありがちな演奏といえば演奏。もう少し録音がよければもっといろいろわかるかもしれないが、とにかく茫洋とした靄のなかで煮えたぎるような演奏が行われている……というのがちょっと伝わってくる(18分も続く)。なお、レス・グッドソンというのは今でも活動しているニューヨークの伝説的なストリートミュージシャンで、昼間は地下鉄の構内などで吹き、夜は「パリズ・ブルース」というジャズクラブで、フランク・レイシーなどと演奏している有名なひとらしいです。YOUTUBEにたくさん映像があったが、うーん、よくわかんないっす。2曲目はフッカーのソロ。3曲目と4曲目は、アルト〜フルート奏者のアラン・ブラウフマンとフッカーのデュオで、3曲目は基本的にはアルトを吹いているが、これが超うまい。アルトが鳴りまくっているし、フラジオの濁らせ方やしゃくりあげ方などは堂に入っていて、デヴィッド・サンボーンみたい(たとえが悪いか)。基礎もしっかりしており、スピリチュアルジャズ系のひとらしいが、アイラー的なものも感じる。インディア・ナビゲーションにリーダー作もあるひとで、セシル・マクビーの「ムティマ」にも入ってる。4曲目は基本的にはフルートでのデュオで、こちらもなかなかいけますなー。素朴で、メロディを失わぬフルートと、フッカーのブラッシュの冴えが、たったふたりだが奥行きの広さを生んでいる(ドラムソロのあとはアルトに持ち替えるが、延々吹きまくるアルトとスウィングしまくるブラッシュとのからみも聞きもの。ただしフェイドアウトされる)。この2曲のデュオはすごく気に入った。5曲目はマーク・ヘネンというピアニストとのデュオ。ゆったりとしたフリーなリズムでのバラードだが、そういう曲調でもフッカーは見事なドラミングで応える。次第に演奏は狂熱化、複雑化していき、最終的にはフェイドアウトされるが、このピアノのひとはすごくいいですね。このころ、フッカーとかなりの録音を残しているみたいだ(一部は持っているが、全然このピアノのひとのことは覚えてないっす)。6曲目は未発表で、あのジェミール・ムーンドクと(さっきも出てた)ハサーン・ドーキンスが加わったトリオ。激しいドラミングをバックに、2サックスがゆったりしたテーマを歌い上げる。ここでのフッカーのドラムは凄まじいの一言。掛け声をかけながら、ひたすら爆走する。本作中の白眉といってもいい快演である。途中からトランペット(?)を吹いているのはだれでしょう。
3枚目は、まるごと未発表だが、これを聴くのが楽しみでしかたなかった。というのはロイ・キャンベル〜ブッカーT〜フッカーというトリオでまるまる一枚だからで、私はキャンベルも好きだが、なんといってもブッカーTウィリアムスのテナーがめちゃ好きなのだ。このトリオは、あの傑作「ザ・カラー・サークル」と同じメンバーだが、それもそのはず、どちらも1988年ニューヨークのルーレットクラブというところでのライヴで、「カラー・サークル」のほうは2月27日の、そして本作の音源は2月22日の録音なのである。そりゃあ悪いわけがない。「ザ・カラー・サークル」には、「ウィリアム・フッカーのオリジナル」として「さくらさくら」が入っているが、「ライジング・カルチャー」というタイトルになっている。本作でははっきりと「ジャパニーズ・フォーク・ソング」となっているので、まあいいか。いろいろなジャズの曲のテーマを入れ込むという趣向なのか、それとも適当にやっているのか、一種のパロディなのか、よくわからないがとにかくブッカーTのゴスペル的な要素のある野太いテナーとキャンベルの白い光が炸裂するようなトランペットのからみはすばらしい。フッカーのドラムソロも、フリーな感じではなく、かなりオーソドックスな感じで、しかもパワフルで重くスウィングする。最後はまた「さくらさくら」で締めるが、このあたりの感覚は「カラー・サークル」のレビューでも書いたがなんのこっちゃよくわからない。でも、ブッカーTがたっぷり聴けて満足満足。
これも未発表だという4枚目の1〜2曲目は、ルイス・バーンズというトランペットと、リチャード・キーンというマルチリード奏者が加わってのトリオ。キーンというひとは、ソプラノ、アルト、テナー、バリトン、オーボエ、フルートてとなんでも吹く本当のマルチリードで、フッカーとの共演のほかにもウィリアム・パーカーのリトル・ヒューイ・オーケストラの「サンライズ・イン・ザ・ワールド」に入ってるらしいが、あまり印象はない。しかし、ここではテナーを中心にかなり豪快に吹きまくっている。図太い音といい、音を割って倍音で効果を出す吹き方といい、ちょっと日本人のあるテナー奏者を思わせるところもある。ラストはまたドラムソロで、17分近くある、ブラッシュによるヘヴィかつスウィンギーな演奏からスティックでの激しいソロ(非常にオーソドックス)になり、そのあとポエム(?)の朗読を挟んで、またドラムソロになり、歌も歌い出す。4枚組の最初と最後がドラムソロで、フッカーのスペシャルボックスにふさわしい構成になっている。
こうして4枚聴いてみて、ドラムと管楽器ふたり、というトリオにウィリアム・フッカーはこだわっているが、その意味がなんとなくわかったような気がした。ベースもピアノもいないことで、コンポジションが一種異様な響きを帯び、演奏も自由度を増し、なんだかわけがわからないけどやめられまへんなあ的な麻薬的な空間が出来上がるのだろう。この編成にここまでこだわったミュージシャンはいなかったかもしれない。フッカーファンはもとより、デヴィッド・ウェアのファン、アラン・ブラフマンのファン、ブッカーTのファンはぜひ聴くべきアルバムですよ。
「THE HEAT OF LIGHT ”DREAM SEQUENCES”」(RABID GOD INDUSTRIES RGI003)
WILLIAM HOOKER
ウィリアム・フッカーのドラムソロアルバム……というか詩を朗読したりいろいろやってる。ライヴだが、どこで録音されたのかはわからない。朗読は少々大げさだがなかなか面白い。ドラムソロの部分もさすがにバラエティゆたかで引き出しも多く、パワフルなのだが、やはりさすがに飽きる。だが、だらーっと聴いているとフッカーはところどころで「シメ」を用意していて、その瞬間、おっ、と思って興味が復活する。買ってから4回聴いたが毎回そんな感じである。やはりフッカーは、いいテナーのひととやってるのを聞くのが好きかも。なぜ本作を買ったのかという中古で300円だったのであまりに不憫だと思い……もしかすると正しいリスナーのところに行けば、もっとちゃんとした評価が得られるのかもしれない。でも、海を渡って(おそらく)紆余曲折を経て私の手元に来たこのアルバム……大事にしたいです。