kazuko horiguchi

「アルケミー・テイスト」(OHRAI RECORDS/YOU RECORDS ORCD−9006)
味娘(AJIMS)

(CDライナーより)
 ハマる、というのはこういうことなのですね。
 一曲目の「コーヒールンバ」を聴いてショックを受けた。おおげさにいえば、魂の震えを感じた。ヴァイオリンを中心にしたグループだということと、曲目リストを見ての印象から勝手に、最近多い、ゴージャスでなめらかな弦楽器が美しい旋律を奏でる、癒し系の、ちょっと軽めのバンドかなあ、と思っていたが、その先入観はいい意味で百八十度ひっくり返された。
 重い。ものすごくヘヴィである。いきなりかっこいいイントロから、ずしん、と腹に響くようなヴァイオリンのボディブローが繰り出される。ゴージャスでなめらかどころか、無骨で野太い。この圧倒的な存在感は何なのだろう。ブツ切れの短いフレーズを積み重ねていくのだが、その短さが、誤解を承知でいえば、愛想がないようなそっけなさである。すごいなあ、と思って聴いていると、つづくピアノソロも過激な音づかいなのだが、ノリノリなのでそうは聴こえない。リズムセクションもすばらしくて、ドラムのよさは言うにおよばず、うねりまくるベースやパーカッションには、聴いていておもわず机周辺をボールペンで叩きまくってしまうほど。ラストに出てくるヴァイオリンの、フリージャズにまで踏みこんだような不協和音のクラスターも興奮をそそる。特筆すべきは、全体にほどこされたアレンジで、ある意味露骨といえば露骨なのだがアイデアが秀逸なのでアレンジ過剰には聴こえない。奔放な即興部分とアレンジがあいまって、こういうものを極楽音楽というのだなあ、と思った。
 アコースティックで、ずっしりと手応えのある、しかもポップで過激な……こういう音楽は、身体が水を欲しがるようなもので、頭ではなく全身の細胞がそれを求めるのだ。ストレスのたまりまくる日常生活において、このアルバムの音楽を聴くことは、暑いときにクーラーにどっぷりつかるのではなく、暑いときはより暑い刺激を浴びることで暑さをぶっ飛ばすような快感にひたることができる。一曲目が終わると、指が自然にCDプレイヤーの頭出しボタンを押してしまい、私は「コーヒールンバ」を五回ぐらい繰り返し聴いた。このままでは永遠に二曲目を聴けないのではないか、と思ったほどだ。
 何曲かでフィーチュアされるボーカルも、めちゃかっこいいだけでなく、ヒアリングがどちらかというと苦手な私が、ほぼ完璧に内容を聞きとれた。発音がいいだけでなく、よほど口跡がしっかりしているのだろう。選曲もよくて、五曲目の「フラミンゴ」など、高校時代にアール・ボスティックのバージョンを聴いて以来大好きな曲なので、よくぞ演奏してくれました、という感じだし、オリジナルもいい。この文章を書くためにサンプル盤をたぶん二十回ぐらい聴いたが、飽きるどころか、毎日一回は聴かないとおさまらない。
 ハマる、というのはこういうことなのですね。