peter van huffel

「BITE MY BLUES」(CLEAN FEED CF302CD)
PETER VAN HUFFEL’S GORILLA MASK

 ゴリラが咆哮している迫力ある印象的なジャケットに魅かれて、つい、予備知識なく買ってしまったが、めちゃめちゃ良かった。まあ、レーベル(クリーン・フィード)を信用したということもあるが、アルト〜エレベ〜ドラムというシンプルな編成で、エレベはぺんぺんした音で弾きまくり、ドラムはファンクリズムを叩きまくり、アルトはとにかくひたすら吹きまくる。すげーっ! と思わず叫んでしまった。これだこれだこれですよ。頭をぶっとばす過激なブロウ、スクリーム、シャウト。オディアン・ポープのトリオをもっと過激にしたような面も、マッツの一部の作品のような面も、ペットボトルニンゲンのような面も、もちろんジョン・ゾーンのネイキッド・シティやマサダのような面も感じるが、この3人、ゴリラ・マスクというバンド名やえぐいジャケットなどによってミスディレクションされているが、じつはテクニックと音楽性はめちゃくちゃハイレベルであり、アレンジにしてもソロにしてもアンサンブルにしても、かなり練り上げられたうえでの演奏である(さっき挙げたバンドは、どれもそう)。リーダーのアルトのひとは、(これも吉田のの子さんを連想するところだが)スクリーミングの技術というか、ここぞというところで最高のフリークトーンを出すテクニックをしっかりマスターしていて感心する。ああいうものは気合いと根性と情念だと思っているひともいるかもしれないが、正しい音程でスケールを均等に吹く、といったことと同じように、練習してマスターすべきことなのである。出ないと、聴衆をのけぞらせる凄いフリークトーンが、ここで欲しい、というところで思ったように出ませんから。もちろんスクリームだけでなく、モーダルなフレージングを完璧に身に付けているし、技も多彩で、相当実力のあるひとなのだろうな。周到に用意されたコンポジションもめちゃくちゃいいし、見せ場聴かせ場満載で、いやー、これはすばらしい。とにかくスカーッとします。

「HOWL!」
PETER VAN HUFFEL’S GORILLA MASK(BETWEEN THE LINES BTLCHR71232)

 クリーンフィードの「バイト・マイ・ブルーズ」という、ゴリラのジャケットが強烈なアルバムを聴いて、その前作にあたる本作も聴いてみた。いきなりハウリングのような音をバックにハッフルが吹きまくる。「バイト……」が、ファンクリズムの洪水にエレベという編成だったが、こっちはどちらかというと、ジャズっぽいドラム〜ウッドベース〜アルトという、より古典的な感じで、古いフリージャズ的な演奏が多め。ビートがファンクでも、ウルマーやオリバー・レイクのような「ブラック・ジャズ」的なものを連想するような雰囲気か。とにかくひたすらアルトが熱く、ときにストレートなトーンで、ときにグロウルしながら豪快にブロウしまくる。まさに「ゴリラ」的な演奏だが、決して大味ではなく、フレーズを積み重ねていくあたりはクールさもある。実際、めちゃくちゃ基本的なテクニックのある人だと思う。マハンサッパなどを連想する部分もあったりして。「バイト……」では、もっとフラジオでスクリームしまくっていたが、本作はそのあたりは抑え目で、中音域でじっくり聴かせるような展開が多い。でも、ガッツは十分。ジャズ的なフレーズを大事にしながらきりもみ状に狂っていく感じは、林栄一を連想したりする。ピアノレストリオでの、フリージャズ〜ファンクを混ぜ合わせたような状態で、おそらく本作でのコンセプトをより過激に発展させたものが次作になるのだろう。「バイト……」はもっと、いろいろ切り捨てて、「ぶっとばす」みたいな割り切り方で徹底的にやりまくっているのでそこが気持ちいいのだが、本作でのぐずぐず、どろどろと煮えたぎるような感じも好きだ。一番の違いはベースかなあ。あと、とにかくええ曲を書くひとだ。シンプルなリフの組み合わせが多いのだが忘れられない印象の佳曲ばかり。とくに8曲目。何度聴いてもかっこええぞ! ダブ的な音処理がほどこされている曲もあったりする。「バイト……」の次にあたる「ザ・スクランブリング・EX」というのもゲットしていてそちらはハッフルのリーダー作というわけではないようだが、ギターの入ったトリオで、すごく楽しみ。

「KRONIX」(FRESH SOUND FSNT488)
PETER VAN HUFFEL ALEX MAKSYMIW

 なんとあのゴリラバンドのペーター・ハッフェルが、フレッシュサウンドのニュータレントからの登場だ。あんなゴリゴリのゴリラアルトがなんでこんなちゃんとした(?)ジャズの新人をプロデュースすることで知られているレーベルから……と思って聴いてみると、意外や意外、ゴリラさはまるで影をひそめ、超馬鹿ウマアルトぶりを発揮しまくっているではないか。しかもギターとのデュオというかなりむずかしい編成なのに、めちゃくちゃ面白いしかっこいいので正直驚きまくり、感心しまくった。あれほど多用していたフラジオでのギャオーッというフリークトーンがまったく聴かれず、知的かつ複雑なフレージングで押し切っているが、それも必死で吹いているというよりかなり余裕が感じられる。よほど上手いのだろうな。ピッチも正確だし、アーティキュレイションも見事だし、言うことない。曲作りはあいかわらず変態的だが、ギターとのデュオという編成で聴くと、なんかめちゃくちゃ「今のジャズ」っていう感じに聞こえるのは不思議。ものすごく難しい、ぶっぱやいテーマをユニゾンでバシッと合わせるところなどは手に汗握る興奮がある(4曲目とか6曲目とか10曲目とか)。こいつらどれだけ指回るねん! という、ごく普通の、まあ言ってみればマイケル・ブレッカーを聴いているような感動があるのだ。こういう感覚をハッフェルのアルバムで味わえるとはなあ。また、ギターがディストーションをかけて煽っても、ハッフェルは決して激情的にならない。(テーマが変態とかテンポが速すぎるとか超絶技巧すぎるとかはあっても)基本的にはテーマ→アドリブとバッキング→テーマという、オーソドックスな演奏が多いなか、9曲目などはかなり過激な表現でめちゃかっこいい。一瞬CDがつぶれたのかと思ったぐらいである。収録時間も46分とええ感じ。うーん、これは傑作だ。クロニックスというのはバンド名でもあるようだが、ほとんどの曲をハッフェルが書いているので、ハッフェルの項に入れた。