daniel humair

「FULL CONTACT」(BEE JAZZ RECORDS BEE020)
DANIEL HUMAIR/JOACHIM KUHN/TONY MALABY

 ベースレストリオだが、それを感じさせない。ときどき、ベースがいるのではないかと思わずメンバー表を確かめたりしてしまう。つまり、ヨアヒム・キューンのピアノが強力なのだ。ダニエル・ユメールがリーダーだが、聴くまえに私が予想していたものより、ずっとハードなジャズだった。つまり、モードジャズ的な感じ、といいますか……。それはトニー・マラビーのせい(?)なのかもしれない。トニー・マラビーは、なぜかこのアルバムでは(かなりしっかりとジャズ的にばりばり吹いているにもかかわらず)茫洋とした印象を与える。逆にヨアヒム・キューンのピアノは、ときにセシル・テイラー的な演奏もまじえて、かなり過激な演奏をしているにもかかわらず、メリハリのはっきりした印象だ。マラビーは、フリーなパートでも、そうでないパートでも、常に醒めている感じだ。YOUTUBEなどで映像を見ると、結構熱くブロウしているが、ここでの演奏は、どんなにハーモニクスを使ったり、フリークトーンを出したりする箇所でも、どこかでクールな視線があるというか、すべてをコントロールしているような冷静さがある。これ以上やると全体の空気が壊れるな、とか、そういったあたりを微調整しながら吹いているようにも聞こえる。逆に(また「逆に」だが)、ヨアヒム・キューンの無伴奏ソロ部分やキューンとユメールのデュオ部分(5曲目とか最高)はものすごく熱く聞こえるのだ。不思議。実際には、マラビーのほうが、「ギャーッと」言い倒しているのになあ。具体的に思えるのに抽象的な印象の不思議な演奏なのだ。というわけで、続けて4回、通して聴いたが、いまひとつ茫洋としてつかみどころのないアルバムだった。それが意図したものである可能性も、今検討しているところ。