motohiko ichino

「NATIONAL ANTHEM OF UNKNOWN COUNTRY」(SONG X JAZZ SONGX019)
RABBITOO

 凄いので聴こうとしか言えない。曲良し演奏良しなのだが、曲がどういいのか、演奏がどういいのかを事細かく書かないとこれは伝わらん。だから聴いてくれとしか言えないのです。変拍子がどうのとかリフがどうのとかいうレベルではなく、いろんなカッコよさが詰まっていて、スタートボタンを押すと、おもちゃ箱をひっくり返したようにそれらがぶわーっといっしょくたになって出てくる。この快感は、ひとつひとつを分析してもしかたないぐらいの奔流状態なので、まあ、笑ってしまうわけです。リズムひとつとっても、めちゃめちゃ繊細かつエネルギッシュかつクールで、シンバルレガートだけ聴いていても心地よいぐらい。結局はサックスとギターに耳がいってしまうが、それはそれでいいと思う。それらを何度も味わったあと、ほかの楽器がどんなすごいことをやってるかをじっくり聞けばいい。そのためのCDという繰り返し視聴できるツールなのだから。しかし、どの曲も信じられんぐらいかっこええなあ。このかっこよさはさまざまな要素の集合体で、我々にもちゃんと分析できそうな感じなのだが(それだけ露骨に示されているということでもある)、じつは我々素人の手の届かないぐらいの高みにある……というぐらいのことはわかる。おそらく1000ぐらいのファクター(アイデア?)があって、それらのチョイスがすべて良い方向になされて、この音楽が作られているのだ。でもなぜか、ネットでこのアルバムの評価を読むと、どれもビミョーに私の思うところとちがうのです。エレクトロニカとかポストロックとかいう言葉では説明になってない。この音楽の面白さは、聴けばわかるのだが、あちこちで語られている「新しさ」について、わかるように説明しているひとはいないような気がする。べつに新しかろうが古かろうが面白ければいいんだけど、でも、ちゃんとわかりたいよね。なんというか、クールすぎて火傷する、みたいな感じ。ああ、快感。これ聴いてるとほんとヤバいぐらい気持ちよくなってきて、また聴きたくなる。1枚目でこれかあ。すごいよな。あと、テンポが途中で変わるとか、そういうことがあたりまえなんだなと思ったのと、本当に気持ちのいいリフの連なりについては、何拍子+何拍子とか分析する必要はまったくない、と思ったのが自分としては印象に残っている。

「THE TORCH」(SONG X JAZZ SONG X 036)
RABITOO

 1枚目がめちゃ気に入った「ラビット」の2枚目。1枚目があまりに好みにあったので、そういうときはかえって2枚目を聴くのにためらうというか、もし気に入らなかったらどうしよう的な警戒心が働くもので、本作もリリースされたのは知っていたけど、買わずにいた。結局買ったのは京都でオルケスタ・リブレ+ローリーのライヴがあったときで、帰宅後すぐに聴いたが、なぜただちに買わなかったのかと後悔した。いやー、すばらしいですね。1曲目、いきなり「ジャズ」な感じの曲ではじまったが、全体にアドリブとかがゴリゴリあるわけではなく、全体のサウンドとテナーの生音を聴かせたいというだけの演奏で、これにもう胸倉つかまれちまったよ的な気持ちになり、あとは一気呵成に聴くだけ。この曲のタイトルが「バターランプの頂きにて」。なんや、この変なセンスは。2曲目以降もほぼサウンドのみで、それぞれのソロがそれほどがっつりあるわけではないが、なーんかかっこええ。やはり私のようなものにはギターとからむテナーの音が美味しくて美味しくてしかたがない。ドラムもシンプルだったり複雑だったりするが、そんなことはもうどうでもいい。全体としてこの心地よいサウンドを楽しむ以外、なにがあるだろう。いろいろなエフェクトが多用されているが、それも効果というよりテナーの音やギターの音、キーボードの音同様、サウンドの一部なのである。6曲目とかちょっとリズムがプログレっぽいが、いやー、やっぱりジャズでしょう。重層的にリズムやフレーズを重ねていくというのは、ミルフィーユというかラザニアというか、いろいろなものがそこから見えてくる(出てくる?)ので美味しいのだ。7曲目のリズムなんか、癖になりそう。8曲目での藤原大輔の抑制したなかにパッションを感じる短いブロウがまたかっこいいのだ。そう……まあ、聴くまえからなんとなく予想はしていたが、とにかく「かっこいい」という言葉しかでてきませんね。それはたぶん、こういう演奏を的確に表現するだけのボキャブラリーが私にはないから、ということでもあるが、まあ、本質的にただただ「かっこいい」ものをこの演奏が目指しているからでもあると思う。傑作。