kazuo imai

「BLOOD」(DOUBT MUSIC DMF−124/125)
IMAI KAZUO TRIO

 きゃーっ、これなに? はじめて聴くサウンドである。このひとは高柳昌行の弟子筋にあたるらしく、たしかに高柳さんと似ているところもあるが、ある意味もっとカラッとしており、また、ある意味もっと人なつこい。カラフルだし、スタンダードをたくさん演っているのも意味がある(スタンダードでのギターソロはものすごくまともだ)。こういうものが世の中にあるから、新譜というのは聴かねばならない。たぶん私がジャズファンで、50年代のハードバップがあればほかにはなんにもいらんわ、という人間だったら、一生、このアルバムには巡り会えていないわけで、やっぱりフリージャズやらインプロやらノイズやらは新譜を一生懸命聴くべきであります。このアルバムはCDとDVDがセットになっているが、正直、オプトロンとかいう楽器のことはまったく知らず、調べてみてもよくわからず、DVDを観てやっと納得できた。しかし、昔は「ノイズ系は、ライヴで観るのは好きだけど、レコードで聴くのはいや」と公言していた私だが、最近はこういうのを聴いても全然OKだな。自分の趣味が変わってきたのか、それともこの手のアルバムの録音がよくなってきて、うちのしょぼいオーディオでもきちんと聴けるようになってきているのか……まあいずれにしてもこういう音は普通は年々嫌いになっていくのだろうが、なぜか年々好きになっていくのは不思議。

「HOW WILL WE CHANGE?」(P.S.F RECORDS PSFD−70)
KAZUO IMAI SOLO IMPROVISED WORKS

 この愛想のない盤面のCDに宝物が詰まっているのだ。ギターソロが中心だと思うが、ヴァイオリン的なソロもあり、これがギターを弓で弾いているのか、ヴァイオリン的な擦弦楽器を使っているのか、私にはわからないが、全7曲、どれも面白く、多種多様な音色による、おもちゃ箱をぶちまけたような演奏が続く。ひと口に「バラエティに富んでいる」と言うが、今井和雄の引き出しの多さは、とにかく半端ではない。タイプの違う即興がいっぱいなのだ。そして、そのどれもが音楽として引きこまれる魅力にあふれている。即興系のギターソロというと、あのひとやこのひとやそのひとなどを思い浮かべるが、今井和雄のソロはまたそういったものとちがう独特の世界で、聴き出すと絡め捕られたように最後まで聞いてしまう麻薬的な感じである(タイム感が独特なのかもしれない。すごく中毒性があるのだ)。なかには爆発的な、大音量の演奏もあるが、たいがいは微弱な音から中ぐらいの音量どまりのもので、その範囲内でダイナミクスを魔術のように使い、そのたびにぐっとこちらの身体が乗り出したような感じになる。3曲目とか、なにかに取り憑かれたような演奏なのだが、めちゃくちゃのようでいて強烈なリズムがあって、ついつい聞き入ってしまう。4曲目もスペーシーかつ切り裂くような鋭さがあり、めちゃくちゃかっこいい。ラストの7曲目は一番長くて13分あるが、ほかの曲とちがって、奔流のようなエレクトリックノイズではじまり、それがどんどん展開していき、非常にドラマチックである(驚異の集中力!)。一番気に入ってるのは6曲目かなあ。でも、ほかの曲もどれもすごく面白いです。ほんと、麻薬みたいで、たぶん10日ぐらい毎日聴いてた。しかも、一回聴いて最後までいくとまたはじめから聞きたくなるのも特徴で、なんか不思議だ。傑作だと思います。

「FAR AND WEE」(MODERN MUSIC PSFD−155)
KAZUO IMAI SOLO WORKS

 全編ナイロン弦のギターによるソロ即興。ただただひたすら弾いているだけなのだが、音楽が音楽であるためのリズムもメロディもハーモニーも、そして、グルーヴもスウィングもドライブ感もすべてここにある。ダレるとかいうことは一切なく、じっと耳を傾けていれば、CDの奥からふつふつと無尽蔵に音楽が湧いてくる。もしかしたらはじめはエフェクターやボリュームペダルをつかったエレクトリックギターに比べてダイナミクスが不足していると思うかもしれないが、真摯に聞き入るうちに、ちょっとした音量の変化や弦のきしみ、ノイズなどが氷山が崩落するかのような大きなダイナミクスに聞こえてくるはずだ。コール・アンド・レスポンスもあって、とにかく聴いていてはらはらするというか手に汗握るというかわくわくする。ゴンチチ的な温泉極楽ギターミュージックの対極かもしれない。さっきも書いたが、一定のビートはないが、強烈なリズム感覚があって、ぐいぐい引き込まれる。しかも(おそらく)曲順というか全体の構成も考えられていて、5曲目の激しいフリーな曲のあと、最後にバラード的なゆったりした演奏が来て、そのあと厳しい曲調へと展開していき、びしっと全体を締めくくる。余韻もある。最高。