keizo inoue

「PASSIONATE AGE」(OHRAI RECORDS SICH−1010)
KEIZO INOUE

 井上敬三のアルバムはどれも一種の企画もので、普段の井上さんが聴けるのはメールスのライヴぐらいではないか。そのほかのものは、本作も含めて、オールスターメンバーで井上さんを盛り立てるような、アルバムとしての特別なセッティングによるものばかりだ。それはもちろん悪いことではないし、本作も内容はすばらしいのだが、たとえば本作でいうと、坂田明や山下洋輔、渡辺賀津美……といった一曲ごとに変わるきら星のような共演者のソロに心奪われ、肝心の井上さんの演奏にやや焦点があっていないようにも思う。いや、実際、全体を覆っているのはまさに井上ワールドであって、この爺さんのゆるぎない自信に満ちた音楽は、どんなネームバリューのある奏者が加わっても揺らいだりしないし、このアルバムでも非常にトータルな感じで芯が通った演奏が続くのだが、共演者が入れ替わり立ち替わりという空気はどうしてもつきまとう。そういう空気を払拭するのが、ソロサックスでの「スターダスト」で、フリージャズというレッテルは一切不要なすばらしい「ジャズ」である。ほかでは「サマータイム」で心を遊ばせてもらったし、原田依幸とのデュオも楽しかった。無骨な感じの井上のアルトと流暢な坂田のアルトの対比もおもしろい。生で何度か拝見したときのあまりに自由な立ち振る舞い(演奏だけでなく、その他のときも)が思い浮かぶような楽しく、空き放題で、かつ、一本筋の通った演奏ばかりである。もっと普段着の井上さんのアルバムも、きっとあちこちに音源が残っているはずだ。できればリリースしてほしい。

「KEIZO INOUE IN MOERS ’81」(TRIO RECORDS PAP−25010)
KEIZO INOUE

このアルバムは最高です。ジャケットもいいし、内容もすばらしい。井上さんのアルバムはガチンコのフリーから、ゴージャスなゲストをちりばめたポップなプロデュースのものまでさまざまだが、本作が私にとってはいちばんしっくりくる。A面が全部井上さんのソロというのもかっこいいじゃないですか。メールスでのライヴで、ソロですよ。たいした根性、あっぱれな度胸ではないか。おそらくこの演奏にのぞむ井上敬三59歳の心は灼熱に燃え上がっていただろう。楽器はフルトーンで鳴っていて、アグレッシヴな即興はすがすがしく気持ちがいい。B面はポール・ロブンス、ギュンター・クリストマンとのトリオ。こちらも手さぐりの部分がほとんどなく、互いにわかりあったいい演奏。A面のソロ、B面のトリオ、どちらも聴き手の魂を遊ばせてくれるが、とくにソロはほんとうに楽しいし、今聞きなおしてもいろいろと刺激をもらえる。井上さんのライブの主催者側だったことがあるが、非常に真摯なインプロヴィゼイションを展開する一方で、アルトをバラバラにして中国雑技団みたいな吹きかたをしたり、クラリネットを吹きながら分解したり、ユーモアもたっぷりで、坂田さんや梅津さんとはちがった意味で、フリージャズとエンターテインメントが同居できることを体現しているひとだった。