max ionata

「TWO FOR DUKE」(JANDO MUSIC VVJ077)
MAX IONATA DADO MORONI

 マックス・イオナータはあちこちで聴くたびに、めちゃめちゃかっこええな、うまいな、すごいなと感心するのだが、このアルバムは存在すら知らなかった。ピアノとのデュオによるエリントン集だが、もう、むちゃくちゃよかった。いやー、これはもし20代のころに聴いてたら、あまりに感動しすぎて失禁していたかもしれない。それぐらい凄い。私はいろんなテナーが好きだが、こういう「音が良くて」「アーティキュレイションに神経が行き届いていて」「コードチェンジを縫うようなアドリブができて」「フレーズが多彩で途切れることがなく」「ドライブ感がある」プレイヤーには一も二もなく参ってしまいます。モード系の激しく過激なフレージングもできるのに、こういうセッティングだと、じつに瑞々しく、歌心のあるプレイが完璧にできる、というスタイルにはあこがれてしまう。一曲目の、ふたりによるテーマが終わって長めのピアノソロのあとに出てくるイオナータは、ほんの数音のフレーズで聴くものの心を鷲づかみにする。私は、テナー奏者のどこにひかれるかというと、音色はもちろんなのだが、やはりアーティキュレイションですね。いくらすごいことを吹いていてもアーティキュレイションが粗雑だったり、単調だったりするとさめてしまう。逆に、アーティキュレイションで自分を表現しようというタイプのひとは大好きです。今は日本も海外もテナー吹きの水準がめちゃくちゃあがっていて、そういうテナーはすごく増えているように思う。このマックス・イオナータはまさにそのひとりで、いろいろなものを兼ね備えているテナー吹きだが、音楽性やフレーズ、歌心だけでなく、まずその音自体がすばらしいし(とくに高音の安定は泣ける!)、アーティキュレイションもすばらしいので、鬼に金棒というか、3割ぐらい説得力が増していると思う。デュオなので「渾身の力を込めてブロウ」みたいなことはなくて、軽く吹いているが、軽く吹いてもそれがわかる。ほんとうに「からみあう」ような場面や互いに伴奏者に徹する場面やさまざまなシーンが矢継ぎ早にあって、聞いていてだれるような箇所はまったくない。こういうのを聴くと、ベースとかドラムって、ジャズに必要か? みたいなわけのわからないことを考えてしまったりする。それぐらいすごいです。7曲目「ジャスト・スクィーズ・ミー」ではピアノのダード・モローニがなぜかベースを弾いており、しかもそれが超うまくて、アレンジ上の決めもばっちりで、音程もすごくいいのでびっくりした。ラストの「イン・マイ・ソリテュード」では、モローニが歌も歌うがこれはおまけ。とにかくテナー吹き必聴といっておきましょう。

「INSPIRATION LIVE−LIVE AT UEFFILO MUSIC CLUB」(ALBORE JAZZ ALBCD−024)
MAX IONATA QUARTET

 マックス・イオナータのワンホーンのライヴということで、さぞかし激演なのだろうと思って聴いてみたら(ジョシュアのライヴアルバムを聴いたばかりだったもんで)、意外にもしっとりと丁寧に歌い上げるような演奏で、テナーの音量もはじめのうちこそ控え目であるが、音楽的な内容はじつにすばらしく、演奏もじわじわと熱を帯びていき、最後にはとんでもないことになる。「インスピレーション・ライヴ」ということだが、「インスピレーション」というアルバムとは曲は1曲しか重なっていないし、メンバーがだいたい同じという意味かな(ベースだけ違う)。それにしても、イオナータというひとは本当にすばらしいとしかいいようがない。ライヴなのに、フレーズやリズムや音色はほぼ100点の「完璧さ」で、スタジオ録音並の神経の行き届き方で、しかも、ライヴならではの熱さやノリもあって、開いた口がふさがらない。でも、今のサックス奏者はみんなこれぐらいのクオリティがあるのだろうな。ライヴだから少々は荒っぽくても、盛り上がりのほうが大事……というような考え方はたぶん古いのだ。両方あるのが当然ということか。音程とか音色とかアーティキュレイションとかいった基本的な部分が、まったく乱れることがなく、もうほれぼれします。イオナータは歌心とゴリゴリ系どちらもパーフェクトで、もう開いた口が……あ、これさっき書いたか(本作は歌心系が多いが)。ほんま、ええテナーやなあ。共演者もすごくて、とくにドラムは開いた口が……いや、マジでそう書きたいぐらいのめちゃくちゃいいドラマー(とくに8曲目の5拍子の曲で神技的でえげつないドラミングをみせる。めちゃかっこいいです)。「もうひとりの主役」的な存在であるピアノもものすごく独得の演奏をするひとですっかり気にいった。ベースも5曲目のジョビンの曲(バラード)で渋いロングソロを披露。選曲もオリジナル、スタンダード、バラード、メンバーの曲に加え、オーネット・コールマンのブルース(ソプラノソロ最高! 後半のベースのランニングとスネアのデュオもかっこいい)やジョビンの曲もやっているうえ、「シャイニー・ストッキングス」も取り上げている(これが「インスピレーション」とかぶってる曲。速いテンポで演奏され、テナーソロとピアノソロ最高でドラムのバッキングも見事)。8曲目では、テナーにエフェクターをかましてゴリゴリと吹きまくる(全編ではなく、途中の部分だけ)など、おもしろいこともしてくれる。まさにジャズテナーの王道。傑作だと思います。