jon irabagon

「INACTION IS AN ACTION」(IRABBAGAST RECORDS 005)
JON IRABAGON

 ジョン・イラバゴンの作品をそうたいして聴いているわけではないのだが、今のところ本作がベストだと思う。ディスクユニオンの紹介文には「テナーサックスソロ」となっていたので購入したのだが、開けてびっくり、なんと全編ソプラニーノソロではないか。しかも、ジャケットにソプラニーノが静物画として大きく描かれているほどニーノにこだわった作品なのだ。うーん、どうしようかな(つまり一瞬返品を考えた)と思ったが、まあ、聴いてみようとCDプレイヤーに入れてスタートボタンを押すと……うぎゃああ、これは凄いやんけ! と呆然としたのであった。まともなソロなんかほとんどなく、マウスピースだけとか、ネックに唇をつけて震わせたりとか、ハーモニクスだかグロウルだかなんだかわからん変なマルチフォニックスとか、どこでどう出してるのかわからんノイズとか……はっきり言ってめちゃくちゃである。たまーにまともな音の出し方の箇所があると、ぎょっとしてしまう……というぐらい全編ほぼほぼわけのわからん奏法の嵐だった。しかも、そのちょこっと出てくるまともな部分がやたらと上手いので、また感動なのである。ずるいよなー、こういうやり方は。ソプラニーノは、本当に演奏するのがむずかしい楽器で、音程とりにくいし、楽器を鳴らすこと自体もむずかしく、プロでもしっかり音程よく朗々と吹けているひとはなかなかいないと思うが、イラバゴンにはそういう意味での根本的な基礎を感じるし、そのうえでここまでめちゃくちゃできるというのはそうとうな曲者だ。イラバゴンはめちゃめちゃ普通の演奏も多く、その上手さがどういう風に出るかは聴いてみなければわからないのだが、本作はまさに私好みの方に出てくれた作品であった。傑作。

「BIRD WITH STREAMS」(IRABAGGAST RECORDS 019)
JON IRABAGON

 コロナを避けるためにニューヨークから一家でサウスダコタに移住したイラバゴンが、まさに大自然のなかで録音した一種のフィールドレコーディング。内ジャケットの写真を見てもわかるが、山あり谷ありの、まあとんでもない風景が広がっている場所である。そういうところにいきなり行かざるをえなくなったイラバゴンがサックスを抱えてなにをしたか……というのが本作の主題だが、イラバゴンは主奏楽器であるテナーを持って、その大自然のなかに分け入り、なぜかチャーリー・パーカーの曲を吹いた。ライナーにはいろいろ書いてあるが、やはり「なんで?」と言わざるをえない。しかし、その答はライナーではなく、すべてここにある。15曲中、イラバゴンのオリジナルである2曲を除いて、すべてパーカーナンバーもしくはバップ曲である。バップナンバーというと、テーマが複雑で、細かいコードチェンジに沿ったアドリブソロが必須という感じだが、本作に収められている演奏は、まさにそういう「王道」のバップの演奏(バップ的なコード分解のゴリゴリのソロが続いたあと、川のせせらぎや鳥の声が聞こえる……という不可思議な演奏が詰まっている。典型はたとえば6曲目の「ドナ・リー」とか)と、そういうのを無視した、まともに音を出していない(イラバゴンがソロアルバムでやっていたような)ノイズ的なインプロヴィゼイションが入っている。そして、マジなバップ的演奏のほうは、しっかりと一音一音を吹いて、アーティキュレイションも絶妙で(ロリンズっぽい?)、聞き惚れる。バップをしっかり研究したのだなあと思わせし、めちゃくちゃ練習したのだろうなあ、とも思う。低音から高音までスケールを均等に吹け、バップフレーズの蓄積も大量にある。コード分解のフレーズの奔流である。。つまり、私はバップはチャーリー・パーカーがひとりで創成した音楽だと思っているのだが、ここで聴かれる「ひとりで狂ったようにサックスを吹き続ける」音楽の狂気はそれを裏付けるような演奏ではないか、と……。しかし、本当に面白いのは1曲目、5曲目、9曲目(フラッタータンギングすごいぜ)、13曲目などのようにまともに音を出さず、息の音やタンポをぱたぱたいわせる音などだけで構成されたノイジーな演奏だ。まさに、フィールドレコーディングによる川の流れの音と同等の「自然音」の感じがする。個人練習を聞かされているようで、けっこうキツいと思うひともいるかもしれないが、バップフレーズをひたすらつむいでいくような演奏のなかの狂気みたいなものもだんだん感じとれてきて、えっ、このひとヤバいで……と思ったりもする。そういうことを狙っているのかどうかもわからないところが面白い。まあ、聞き終えて、「なんやったんや……」と思うようなタイプのアルバムである。
鳥(バード)の鳴き声のなかでバードの曲を……という短絡的発想なのかもしれないが、ええやないですか! なにを考えているのだ、というその発想のヘンテコさを楽しめばよいのだ。ラストは、本作でいちばん長い演奏(5分42秒)で、まともな演奏なのだが、ほかの曲よりもよりフィールドレコーディング感が強く、最後はサックスが消えていき、川の流れが残る……という趣向。はははははは。