「ISHIDA MAMORU4 FEAT.MIKE RIVETT」(ANTURTLE ANALOG RECORDINGS ANTX−1002)
石田衛
芳垣さんの「オン・ザ・マウンテン」というピアノトリオを観にいったときに、物販で購入した。石田さんは風格があって、けっこうな歳なのかと思いきや、めちゃめちゃ若いのだ。しかも、芳垣さんの話ではたいへんなマニアで、レコードもオリジナル盤にこだわるような、ちょっとミュージシャンには珍しいタイプだそうだ。「オン・ザ・マウンテン」ではバンドの性格からか、かなりがんがん弾いていたが、本作(二作目のリーダーアルバム)はテナー(マイク・リヴェットというひと)の入ったカルテットなのに、一曲目はいきなりバラードではじまるし、テナーのひとはものすごく柔らかい、細く優しい音で、たとえば古くはレスター・ヤングとかスタン・ゲッツとかウォーン・マーシュとかチャールズ・ロイドとか、最近ではダニー・マッキャスリンとかを思い出すような繊細な音色のひとなのだ。ピアノも本当に美しく、歌心もあるが、音色やダイナミクスにすごく気を使っているのがわかるし、よく聴くとフレーズは独特で面白い。マイク・リヴェットというテナーと、音楽的に共通するものがあるように思えた。2曲目もバラードで、えっ、このまま全曲バラードなのか、と思っていると3曲目は70年代ジャズ的なハードなテーマを持った曲(ライナーには、「石田は基本的には鼻歌で歌えないような難解な曲はあまり好まないそうだが、「M.M.」は逆にその変な雰囲気が気に入って取り上げた」と書かれているが、いやいや、十分鼻歌で歌えます。めちゃかっこいい曲。作曲者のリヴェットはあくまで柔らかい音色だが、1、2曲目とはうってかわって非常に現代的なフレーズを駆使しまくっており、びっくりした。うーん、そのあたりもダニー・マッキャスリン的ではないか。石田のソロもスウィング感とともにオリジナリティのあるフレーズで聞き惚れます。4曲目はミディアムテンポの歌ものといった感じの曲で、このテナーのひとがテーマを吹くと、なんとものんしゃらんな雰囲気が出て、いいですねー。ソロは先発がベースソロで、このひとも上手いよなあ。ベースソロの最後の小節をピアノが食ってソロがチェンジするところも洒落てます。ピアノソロもテナーソロも小粋にスウィングしているようにみせて、じつはなかなかいろいろ仕掛けております。5曲目はスタンダードだそうだが、テナーがまたしても大活躍する。例の柔かい音色でごりごり吹きまくってかっこいいーっ! この落差がいいんだよねー。ピアノソロも洒落た感じではあるが、けっこうエグいフレーズも弾いていてかっこいーっ! あ、同じことを書いてしまった。最後にテンポが速くなって、ピアノとテナーのアップテンポでのからみになるが、ここは最高ですなー。ふたりともクールに燃えているところが渋い。6曲目は石田の曲で「もぐらたたきの歌」という変なタイトルの曲。たしかに、テーマを聴いているとなんとなくもぐらたたきを連想しなくもない。ドラムとの4バース的なものがあるが、このドラムのひともなんというかじつに繊細なドラムだ。7曲目はリヴェットの曲で、ちょっとショーターを思わせるような不思議なムードの曲。テナーソロ、めちゃかっこいい。つづくベースソロもいい感じ。ピアノソロもじっと考えながら弾いているような思索的な雰囲気で良い。8曲目はめちゃ速いテンポの曲でテーマはない。タイトルは「デフレ・スパイラル・ブルース」だが、ブルースではない。リヴェットのソロは非常に私好みである。自由奔放なピアノソロのあとドラムソロ。フレーズを出してテーマ。最初はテーマなしではじまったが、えっ、ここでテーマか(冒頭でピアノが一回だけ弾くイントロみたいなものが実はテーマだったのだ、とここではじめてわかる仕組み)。そのあとテンポが遅くなって、なんかおもろかっこいい展開になって終わり。ラストはゆったりしたゴスペルっぽい曲(ピアノトリオ)。ゴスペルっぽいといってもこってりねっとりした感じではなく、さらりとした清涼剤のような演奏で締めくくりにふさわしい。とにかくすごく気に入りまして、とくにテナーのひとがいいなあと思い、しつこくしつこく聴いているうちに、隅々まで気に入ってしまった。アルバム全体としてじつによく練られた企画で、これは傑作じゃないでしょうか。話題にはなってるのかな。よく知らないけど、聴いたことないひとは一聴をおすすめします。