akihiro ishiwatari

「FUNNY BLUE」(AKAO RECORDS AR001)
MAD−KAB−AT−ASHGATE

 いやもう、すばらしいとしか言いようがない。後藤篤のトロンボーンにまず耳が行くが、ドラム(このひとのドラムは、最近つくづくすげーと思うのだ)も凄まじいし、ギターもめっちゃかっこいいし(リーダーだから当然かもしれないが、何役もこなしているように聞こえる)、ベースも最高にグルーヴしてて(完全にバンドを引っ張ってる部分ある)、いやいやいやいや、これはすごいわ。曲がどれもよくて、アレンジもいいので、鬼に金棒。完璧な4人組。それに、林栄一がゲストで入るというのだから、完璧以上。1曲目いきなり、ファンクジャズ的なめちゃくちゃ派手でかっこいい曲がぶちかまされる。トロンボーンの壮絶かつテクニカルかつ歌心あるソロのバックでギターのカッティングちょーかっこいい、そして、ドラムの煽り。ああ、極楽昇天。途中のリフやらなにやらアレンジも完璧で、ギターの超絶かつ個性的なソロとドラム、ベースの相性! このバンドの凄さがひしひしとわかってしまう。そして、この1曲目ですでにわかってしまったのだが、ファンクでグルーヴしてるけど、じつはビッグバンド的なゴージャスさもあるな。それはフロントがトロンボーンだからこそであって、ほかの管楽器のワンホーンでは残念ながらこうはならないのだ。リッチなトロンボーンならではのサウンド。でも、だれでもできるわけではなく、この4人だからこそのユニットなのだ。2曲目はゆったりとしたノリで歌い上げるが、ファンキーでもある。こういう表現はよくないかもしれないけど、昔の向井滋春バンドみたいなかっこよさがある。こういう風に歌わせたら、今、後藤篤の右に出るものはいない……んじゃないかな。ひたすらトロンボーンが歌う曲。3曲目は複雑なテーマを持った曲だが、それをさらりと演奏している。トロンボーンソロのバックでのギターやベースの絶妙のバッキングを聴いてるだけで心地よいってば。そして、ギターソロは石渡さんとしか言いようのない個性爆発。4曲目はバラード。あたりまえの話と思うかもしれないが、このテーマの絶妙の吹き方、音程、音色、ギターとのユニゾンの部分……などはものすごい上手さだと思う。こういう風に歌わせたら……ってさっき書いたな。5曲目は、トロンボーンとギターがリズミカルなバンプを吹くテーマがひたすらかっこいいが、そのあとのドラムもすごい。それにしてもトロンボーンって、こういうリフをずっと吹くだけでかっこいいんだからずるいよなあ。ソロもめちゃくちゃいい。林栄一がゲストで入っているが、これも「林栄一!」としか言いようがないソロで、すばらしい。ほんと、石渡さんはええ曲書くなあ。6曲目は、渋い曲調で、これもトロンボーンとギターのテーマの合わせ方だけ聴いてもしびれます。ほんと、後藤さんはなんでも吹けるよな。この曲も林さんが加わっていて、いつものようにチャレンジングなソロを吹いている。7曲目は、4音のリフを中心にした曲なのだが、これがまあめちゃかっこええんよね。そしてギターのカッティングと、トロンボーンのパワフルなソロ。ギターソロもええなあ。トロンボーンはかなり高音を出さないといけないようだ。8曲目はギターのブルージーなイントロからはじまる、ゆったりしたグルーヴの曲。トロンボーンもミュートを使ったりして、ええ感じ。こういうリズムに身を任していると、世の中の嫌なことはすべて忘れます。トロンボーンソロの歌い加減は、まるでボーカルみたいだ。9曲目は、まさしくビッグバンド的な曲で、4ビートのゴージャスな演奏。トロンボーンもハモッてます(ただし、テーマだけで終わる)。どの曲も一筋縄ではいかないさまざまなアイデアが盛り込まれていて、聞き飽きないなあ。トロンボーンを(それも後藤篤を)フロントにしたというのは大正解で、それがこのバンドの音楽性をある程度決定づけたのではないかと思うほど。ああ、ええバンドや。一度、生で観たいです。傑作。これは万人に推薦します。収録時間も45分ぐらいで手頃。

「MULL HOUSE」(CARCO1004)
MULL HOUSE

 石渡明廣のリーダーバンド。全曲石渡氏のオリジナルだが、このすばらしい曲の数々がすべて石渡さんによって書かれたというのは驚異である。なんという作曲力だろう。1曲目は林栄一の凄まじいアルトがぶっちぎる「スパイス・キル・ユー」から、ギターが爆発する「バッド・フィッシュ」のメドレー。後半の林〜青木のチェイスもものすごいテンションで、1曲目から頭をぶち抜かれる凄さ。2曲目は変態的かつめちゃくちゃスピード感のあるギターが猛烈に突っ走る前半、そして青木タイセイの幻想的なソロからの林栄一のフリーキーなソロ。かっこいい! 3曲目は「魅惑のプールの底に眠く水泳者のように」という長いタイトルがついているが、ゆるいレゲエっぽいリズムのうえをギターが揺蕩い、林のアルトが息の長いバップをぐじゃっとと押し潰したようなフレーズを吹く。4曲目は、超かっこいい曲。よくもまあこんないい曲を思いついたものだ。アレンジもめちゃくちゃかっこいい。青木タイセイのソロのあと出てくる、どブルースのえげつないギターソロには最敬礼するしかない。5曲目はストレートアヘッドな4ビート曲……と見せかけて、異常に長いブレイクがあって驚かされる。6曲目はリフ曲だがめちゃかっこいい。ギターソロは、ギターを弾くというよりかきむしるという感じのすごい切迫感がある。そのあとに突如場面がかわり、青木タイセイの鍵盤ハーモニカ(ピアニカ)がゆったりしたシャンソンのようなメロディを奏でるのだが、ほっこりするというより凛とした心地よい緊張感を感じる。そして、ギターソロからのピアニカ……で、ここからあのえぐいテーマに戻るのかと思っていたら、なんとそのまま終わっていくという見事な裏切り。7曲目はベースとドラムのデュオからスタートし、テーマが登場するのだが、このテーマもめちゃくちゃかっこいい曲! その直後のギターソロはテーマのノリを無視した好き勝手自由奔放なもので、これもまたすごい。そして林栄一のめくるめくアルトソロ。サックスのあらゆるテクニックをぶち込んだような凄まじいブロウからのテーマ。かっちょええーっ! ラストは、非常に難しそうな譜割のイントロ(?)+バッピッシュで軽快ななテーマから不穏な4ビートになり、ギター、トロンボーン、アルトが混然一体となってソロをとりあう場面でフェイドアウト。いやー、すばらしいアルバムです。ジャケットの、変な絵もいいです。このグループは今も活動を続けていて、青木タイセイさんは最近は入っていないようだが、ほかのメンバーは不動のようだ。一度生で聴いてみたいです。傑作!

「FUNNY PHENOMENON IN MY BRAIN」(MARS CARTEL MARSC0001)
MULL HOUSE

 このグループの2枚目?ということでいいのかな。1枚目は超弩級の傑作だったが、本作も負けず劣らずの大傑作だった。変拍子風(!)の1曲目の疾走感ですべて持っていかれる。ギターソロが爆発し、「ぎゃひーっ、かっちょええ!」とと叫べばそれで十分なのだが、じつはその「かっちょええ」の陰にすごい緻密なアレンジやメンバーのえげつないぐらいの技の数や音楽性などがあって、それらに支えられてこのかっこよさ、アナーキーさ、心地よさがあるのだ。聞くひとによって、ドラム凄すぎるやん! ギター信じられん! サックス頭おかしい! トロンボーンってこんな風に吹けるの? という風にそれぞれのわかる部分でひっくり返るだろう。パーカッションの……えーと、読めん! そういうおそらくはアフリカのひとが参加しているが、ばっちりグループに溶け込んでいる。とにかく石渡さんの才能が怒濤のごとく溢れかえっていて、作曲に編曲にギターソロに……にと、聞いていて「ぎゃああああ、天才だ!」と叫ばざるをえないような気にさせる、そういう物量的な圧迫感があるほどの、とんでもないモンスター的なアルバムなのだ。なにをぐだぐだ言うとんねん、というひとはとにかくいっぺんこのアルバムを聴いてみてください。いや、一枚目もね。全員凄いけど、それも結局は、石渡さんの人選がすごい……という話になるわけだ。プログレ魂炸裂の変態グルーヴ感とジャズ魂炸裂の自由さ……そこにノイズ魂やらブルース魂やらが乗っかって、どれだけ魂あるねん! というぐらいのすばらしさである。それぞれの奏者に見せ場を与えて、なおかつ自分の色に染め上げている石渡さんはリーダーとしても圧倒的にすごいっす。8曲中7曲が石渡さんの作品で(残る1曲は外山明さんの「こころざしの高いへなちょこ」という曲。なんちゅうタイトルや)、しかもどれも名曲! というのもめちゃくちゃすごいことだよなー。このアルバムが目に入ったら即買いをお勧めします。傑作!

「LIVE AT CLOP CLOP」(CLOP CLOP RECORDS CCR−001)
MAD−KAB−AT−ASHGATE

 板橋4のライブの物販で買ったのだが、いやー、毎日聴いてます。かっくいーっ! 1曲目から、とにかくワンホーンとは思えないリッチな音がするのだ。これがトロンボーンというものの強みだよなあ。まるでホーンセクションのような分厚い音を一本の管で出してしまう。神様の楽器だ。大げさにいえば(本当はちっとも大げさには思っていないのだが)オーケストラのような音をひとりで出す。もちろん、トロンボーンならだれでもかれでもできるというわけではなく後藤篤だからこそなのだが(こないだ板橋4で観たときは、R&Bシンガーのような演奏を終始していた)、そんな後藤をフロントにすえた石渡明廣のファンクバンド「マッド・カブ・アット・アッシュゲイト」の2枚目、しかも今回はライヴだ。よくないわけがない。めちゃくちゃ期待して聴いてみると……とこれが冒頭の1行目につながるのだが、あーっ、かっこいい。もう言うことおまへん。4人とも凄くて、瞳孔開きっぱなし、口開けっ放し、、よだれ垂れ流し状態で「ぶわーっ」という感じで聴いてしまった。ああ、曲ごとの印象というより、このバンドのライヴを観にいったような感覚になっていた(京都でいっぺん聴いたことある)。それにしても、リーダー石渡の作曲・アレンジのあまりの見事さよ。そんなことは言われなくてもわかってる、というひとばかりだろうが、どうしてもそう言いたくなるぐらい「ええ曲ばっか」なのだ。1曲目は本当にいい曲で、テーマのこのリズム、音の並び……奇跡的に生まれたような名曲。ベースの無伴奏なランニングからはじまり、そこにギターやドラムが付け加わっていった……と思ったら、トロンボーンという神が降臨し、ライブハウスの隅々にまで達する凄まじい光を放つ。なにかを表現するのに「音圧」が必要な場合もあるのだ。それをあおるギター、ベース、ドラムもすごい。何度聞き返しても「すごい」という言葉しか出てこない。続くベースソロも、トロンボーンソロのポテンシャルをまったく低めることなく、そのままの勢いで突っ走る。リズムに乗ったり、とめたり、逆行したり、……ということで聴くものの耳を刺激しまくる。そして、ギターソロも圧倒的というしかない。なにがなんだかよくわからないが、こうなったら分析的なことは無意味である。そして、リフをバックにしたドラムの爆発。きゃーっ、かっこいい! ラストテーマが出てきたときに、ちょっとうるうるするぐらい、この約10分の音楽的ドラマは感動的なのである。あー、この1曲でもういいや、と思ってしまうのだが、そうもいかないので2曲目を聴く。2曲目はファンクバラードで、こういう編成だとトロンボーンの高音でメロディが奏でられるのが普通と思うのだが、この曲はトロンボーンの低音でメロディが演奏される。単音でつづられるギターソロはアブストラクトだが聴くものの耳をしっかりつかんで離さず、見事。トロンボーンはゆったりと落ち着いたグルーヴでじわじわ盛り上げていく。ええ曲や。3曲目は1小節のリフをテーマとした曲だが、たったそれだけでここまで表現力というか想像力を広げていくのはさすが。とにかくぐだぐだ言うことなく、ひたすら没入して聞ける。ギターソロはまさに石渡ワールド! トロンボーンソロはドラムとのデュオになる。そこにベースが加わり、ゆるゆる上昇していき、終了。4曲目はギターソロによるイントロからトロンボーンの高音吹き伸ばし中心の美しいテーマ。そして重厚なトロンボーンのソロをフィーチュアした演奏。5曲目は4ビートジャズロック的な曲調のめちゃくちゃかっこいい曲。ファンキーにひたすら前進……みたいな演奏で、トロンボーンを吹いている表情まで浮かぶような後藤篤のブロウとそれを煽るギターを聴いていると手に汗握る感じになる。後半の、リフで盛り上げていくあたりもライヴならではの高揚感に包まれる。6曲目も、前作で聴いたときも思ったけど、ええ曲やなー! 短いリフなのだが、それがこんな風になってしまうマジック。この8ビートのようでそうでない、つんのめるようなリズムはなんなんでしょう。後藤篤がファンクがファンクトロンボーンの極地を示す。リフを背景にベースとドラムが活躍したあと、めちゃくちゃかっこいいギターソロに。還暦? ありえねー。18歳やろ! 7曲目は4つのリズム楽器の競演のような演奏。とにかくえげつないことになっとります! トロンボーンソロもギターソロも緩急自在。そしてギターソロからラストの8曲目につながる構成。ギターをフィーチュアしたバラードで、石渡明廣の叙情性をクールにコントロールした演奏。ラストの9曲目はシャッフル的なビートのノリノリの曲……と見せかけてバラードっぽくなる曲調。そしてまた、ファンキーなビートになり、ノリノリと哀しみが同居したような雰囲気のなか、トロンボーンが歌いまくる。アレンジも渋い。というわけで、わくわくしながら聴いた本作。やっぱり傑作でした。ちなみに1、4、6は1枚目の「ファニー・ブルー」に入ってた曲。2、7はマル・ハウスの1枚目に、3、8は2枚目に入ってた曲……のはず。