katsuyuki itakura

「LIVE & AROUND〜PLAYS SATIE U」(KOJIMA RECORDINGS LMCD−1368)
板倉克行

板倉〜ケシャヴァンのプレイズ・サティの続編というのは「エクスキューズ・ミー・ミスター・サティ」の続きということだろうと思うが、もしかすると「プレイズ・サティ」というアルバムがほかにあるのかも知れない。かなりいいかげんなCDの作りで、録音データや収録曲の作曲者なども記載がなく、コジマ録音はプレスだけなのか、それともコジマ録音がレーベルとして出したものなのかもよくわからない。たぶん、板倉さんの自主制作盤なのだろう。内容はすばらしく、いやー、前作よりもいいんじゃないかと思うぐらい。まさに宝物のような演奏のオンパレードで、「即興演奏の宝石箱やあ!」と叫びたくなるような、遊び心にあふれ、テクニカルで、クールで、アナーキーで、フリーキーな演奏がぎっしり詰まっている。このデュオはふたりともえげつないぐらいの技術力と音楽性があり、しかもそれを出し惜しみしないのに、押しつけがましくなく、でたらめで、何度聞いても楽しい。サティというものを媒介として、刺激として、あるいは土台として、ふたりの奏者が軽々と飛翔しているさまを見る(聴く)のは、最高の愉悦だ。楽しい演奏も、シリアスな演奏も、でたらめな演奏も、全部同価値のものとしてここには並べられている。よく理解し合ったもの同士の緊密で緩いコラボレイションは素敵だ。私はケシャヴァン・マスラクの大ファンだが、ここでも彼の魅力は爆発している。ジャズ、ポップ、アヴァンギャルド、ブルース、R&B、クラシック……といった音楽の引き出しがめちゃくちゃ多くて、しかも、国籍もアメリカ、ロシア、ヨーロッパ、日本……のすべてを感じさせるような演奏にはひっくりかえってぎゃはははは……と笑うしかない(実際、客席からはげらげら笑う声がいっぱい)。とにかくケシャヴァンは「音」がすばらしいのです。「スクラップル・フロム・ジ・アップル」のテナーの音なんて、新品の歯磨きを思い切りブチュブチュブチュブチュッーーーーと搾り出したような音で、もう快感の極みです。バスクラもいい。そして板倉さんの一筋縄でも二筋縄でもいかぬピアノ。いや、ほんと、傑作ですよ。これはディスクユニオンの中古で買ったのだが、だれだ、こんなすばらしいアルバムを手放したのは。