hiroshi itaya

「SHAKE YOU UP」(AKETA’S DISK AD−28CD)
ITAYA HIROSHI & GUILTY PHYSIC

 これはもうただただ傑作なのである。名盤というのはこういうアルバムのことを言うのだ。ピットインでのライヴだが、そのクオリティはものすごい。発売されてすぐに購入し、おー、めちゃくちゃすごいと思って愛聴していたが、板谷さんが亡くなってから聴くのがつらくて最近まで聞かなかった。板谷さんが亡くなったとき大原さんが板谷さんに捧げる曲を書いたから、東京で知り合いにストリングスのアレンジしてもらうねん、と言ってたのを思い出す。そのあとすぐに死んでしまったので、あんたが死んでどうするねん、と思ったけど。アケタさんのライナーノートも今読むとけっこうつらいものがある。しかし、音楽にはなんの関係もない。思い切って聴いてみると、やはりめちゃくちゃ楽しいのだ。この楽しさが、また悲しさを誘う。メンバー的には、考えられるかぎり最上の人選であり(超豪華メンバー!)、曲もスタンダードの「ジャスト・イン・タイム」とショーターの「フットプリンツ」を除くとすべて板谷のオリジナルという意欲作である。ドラムにパーカッションふたり、ギターふたりでピアノレス……という編成はオーネット・コールマン的なものを連想するが、たしかにプライムタイム的にカラフルなリズム(つねにポリリズムということはない)、パターンをつむぐベース、2ギターのからみあい……などによるファンクなリズムとそのうえにのるトロンボーン、サックス……という図式はちょっと似てるかもしれないが、正直、まったく別物である。1曲目の「キラー・ジョー」を連想させるゆったりしたファンキーなブルースっぽい曲(形式的にはブルースではないけど、とにかくめちゃくちゃいい曲)における板谷の泰然としたソロのあとの松風鉱一のソロのぶっ飛び加減もすごい。ギターソロもすばらしい。2曲目はマイナーブルース。シンプルだがめちゃいい曲。なんのひねりもない、まさに真っ向う勝負のトロンボーンソロのあとのギターソロも超かっこいい。ベースソロの静謐さというか朴訥な感じも味わい深く、ギターとのデュオの場面も本当に素敵です。2管のテーマの吹き方の微細なニュアンスも最高であります。3曲目は先発のギターが爆走するワンコードの曲。どんどんヒートアップするギターソロ、めちゃくちゃかっこいい。つづく松風鉱一のアルトソロはクールな雰囲気ではじまるがこれもどんどん盛り上がっていく。熱気と冷静さを併せ持った、感動するしかないすばらしいソロ。ギターソロも、ドラムやパーカッションの叩き出す熱いリズムに乗ってバリバリに弾きまくり、圧巻である。小山彰太のドラムソロもひたすら真っ向勝負ではじけまくっている。それにしても本作、どこを切ってもひたすら熱い演奏がびゅーっと飛び出してくる。すばらしい。いや、ほんと。4曲目はリズムに遊びを入れたスタンダードで、トロンボーンのワンホーン。これがまたいいんですよねー。もう、「独自」としか言いようがない見事なソロ。変態的な奏法もまじえたギターソロもマジで最高。ベースソロのシンプルさもいい。あー、全員すばらしい演奏であります! 5曲目は7拍子の8ビートのノリノリのファンキーな曲。ベースがめちゃかっこいい。7拍子で8ビートとはこれいかに。サビも楽しや。ヘンテコだがかっこいい! ずっとクライマックスのようなギターソロが延々と爆発し続ける。ベースソロもすばらしい。6曲目は変拍子のようだが普通のリズム。マイナーブルースのようですね。ベースが同じラインを延々繰り返すあたりは70年代のモードジャズ的な感じもあって超かっこいいです。吹き伸ばし中心のテーマもアフリカっぽくて最高。アルトソロの途中で4ビートになるのもいい。暴れまくるギターも壮絶。ラストの「チャールズ・ミンガスについて話そうよ」という曲は板谷博のミンガス好きが伝わってくる。どこかニューオリンズジャズ的な雰囲気もあるが、一筋縄ではいかない凝りに凝った構成で、いかにもタイトルどおりのミンガス精神が感じられる。めりめりと軋むような音、ダイナミクス、ロングトーン……などトロンボーンの魅力を最大限にアピールするような板谷のソロは最高。ブチ切れたようなギターソロも最高。エンディングも最高。あー、かっこいい! というわけで全体に編成を生かしきった内容で、コンポジションとアレンジもすばらしく、細部まで考え抜かれた演奏。ライヴとは思えないほど、荒い箇所がひとつもなく、ただただ盛り上がる。ギターふたりの個性の対比は大成功。歴史的傑作といってもいいのではないかと思う。