「PHILOSOPHY OF THE SECRET」(地底RECORDS B58F)
ONCENTH TRIO
オンセントリオの3rdアルバム(さがゆきとのコラボのものとかも含めるともっとある)だが、ちょっと自分でもびっくりするぐらいはまった。なんとなーく、聴くまえから、今回はめちゃいいんじゃないのという予感がしていたのだが、いやー、1曲目から見事にツボに入りました。壺に入ったといってもハクション大魔王ではありません。とにかくよかった。曲もすごくいいんだけど、その聞かせ方が1曲ごとにこちらの予想を上回る美味しさでぐいぐい来るので、ああ、この曲めっちゃええなあと思ってると、つぎの曲がそれを上回る良さ……というパターンが何度も繰り返され、しかもバラエティがありすぎるぐらいに各曲のイメージが異なり、ではトータルな印象がバラバラかというと、ちゃんと一枚のアルバム、ひとつのバンドとしての統一感もあるという……いやー、参りましたなー。いろいろな聴き方ができるが、これは今年のベストアルバム候補。候補、いっぱいあるんですけどね。つまり、それくらい今の日本ジャズが充実しているのだ。海外のものばかり聴いてるひとは少しでいいから足もとに目を向けたほうがいいですよ。そこはもう豊饒の海なのだから。今だに、あっちが一番で、最近、日本でもそこから影響を受けた音楽をやるやつらがでてきた、すばらしい……みたいな論調があるが、完全に並んでるんじゃないの? 何べんも言ってるけど、今、日本のジャズは歴史的にもっとも充実している時代だと思います。嘘じゃありませんほんとですっ……と叫んでるひとがたぶん日本中にいるはずだ。温泉トリオという名前がまさしくあてはまる、極楽浄土の音楽。どの曲もこちらをぬくぬくほこほこあっちっちにしてくれること間違いなし。え? こんな演奏のどこが温泉だって? あのねおっさん、ゴンチチみたいなのだけが癒しだったりなごみだったりするのではありません。この演奏は私にはなごみの極致であり、またコーフンの極致でもあります。3人ともいいんですが、岩見さんの豪快かつ変態かつ繊細なウッドベースが鍵であり、池澤さんのダイナミックななかにも細やかさと奥行きのあるドラムも惚れる。そのふたりのうえに乗っかって弾きまくる個性豊かな栗田さんのピアノがすばらしい(ローズもいいなー)。さまざまなリズムをさらりと聞かせるし、ハードボイルドだったり抒情だったりおしゃれだったりギャグだったり過激だったりプログレだったりクラシックだったり「ズージャ」(死語)だったりポップだったりノイズだったりするのだが、相当アクロバチックでむずかしいこともいっぱいやっているのにそう感じさせず聴いてる分には「あー、楽しい。あー、極楽」とだけ思わせてくれるあたりはすごいし、ベタも恐れず堂々とやる精神は相当なタフさが感じられる。あと、リフの力も感じる。かなりキメキメの音楽なのだが、その精神はまさに自由そのもの。なんの枠も枷も感じられない。フリージャズではないと思うけど(フリーっぽい演奏もある)、これはフリーミュージックですね。もう気に入って気に入って、買ってから毎日、何べんも聴いてるんですけど、いやー、かっこいいです。ピアノトリオがまったくダメな私が言ってるんだから間違いおまへん。曲良し、演奏良し。傑作。ラストにちょっとしたネタがあるが、これは聴いてのお楽しみ。
なお、かなりまえにこのトリオの一枚目を聴いたとき、だれのリーダーバンドかわからないので一応栗田妙子の項に入れておきます、と書いたけど、岩見さんがリーダーだとわかったので(失礼しました)、こちらのそれもこちらの項に移しておきます(↓)。
「特典未発表音源集」(地底RECORDS)
ONCENTH TRIO
上記アルバムのおまけだが、これがおまけというのはもったいないと思うほどすばらしい演奏が3曲。どれもいいんですよねー。キーボードが唸りをあげる「ファティマ」とかドラムとベースが驚異的な「オール・ザ・シングス・ユー・アー」(興奮しまくりの演奏)とか、どうして収録しなかったのかさっぱりわからん。めちゃくちゃいいんで、みんな、どうにかして入手して聴いたほうがいいですよ。
「ONCENTH TRIO」(OWAN RECORDS OWAN0123)
ONCENTH TRIO
もっとフリー寄りの演奏かなあ、と勝手に思っていたら、フリーもあり、そうでないものもあり、という、ピアノトリオという形式を最大限にいかしたバンドで、めちゃめちゃ気に入りました。ベースは以前に生で聴いたことがあって、感心というか感動した覚えがあるが、とにかくこのピアニスト(栗田妙子というひと)はものすごい才能だと思う。フリーな曲もそうでない曲も、驚くほど繊細で、かつ大胆という、理想的な状態にあって、この状態が今後ずっーと維持されるかどうかはわからないわけだから、とりあえず今聴くべきだと思う。ピアノ、ベース、ドラムという形態のトリオは、まず聴くことのない私が言ってるのだからまちがいありません……ってそうもいえないか。でも、購入してからすでに七、八回聴いたけど、そのたびにハッとする瞬間がある、というのはすごいことだと思います。
「LIVE BOOTLEG VOL.1」
「LIVE BOOTLEG VOL.2」
世田谷トリオ
一見、いいかげんなCD−Rに見えるが、じつはめちゃくちゃいい内容。しかも、音質もよくて、鑑賞にはなんの問題もない。それどころか、毎日延々と聴きまくっているが飽きないという最高の内容である。こういうものにありがちな、ダレる感じもなく(それはそれで愛するべきだが)、「商品」としてもちゃんとしている。この高橋佑成というピアノのひと、スタンダード、バップ、フリー……なんでもできてすごいんだけど……と思ってネットで調べてみたら、なんとなんとまだ学生? ひえーっ。才能の塊やん! 岩見さんも若い若いと思っていたけど、36やから高橋さんに比べるともうおっさんやん(顔はどう見てもおっさんだが)。ドラムの吉良創太さんも若いよなー。怪物トリオやん。と思わず大阪弁で書いてしまうほど驚いた。でも、若いとかおっさんとかじじいとかそういう年齢はひとまず置いて、純粋にこの演奏に耳を傾けてみよう(なかなかできないが)。いやー、すばらしいですわ。ほんま。とにかく選曲が最高。「ティー・フォー・トゥー」「バードソング〜80/81」「ドント・ストップ・ザ・カーニバル」……と続く第一集、「セロニアス」「ウェル・ユー・ニードント」(第一集にも入ってる)「ジャイアント・ステップス」「シャイニー・ストッキングス」……などが並ぶ第二集。そして、ほとほと舌をまくのは、曲によって演奏内容とかアプローチがコロッと変わっている点で、どれだけふところ深いねん、どれだけ引き出し多いねん、と驚愕。それは「器用やなー、なんでもできるねんなー」というのとは対極にある、即興演奏家としての強力な武器であり、才能なのだと思う。ピアノだけでなくキーボードもええ感じだ。ここまでバップもモードもフリーも真正面から手玉に取られると、いやいや、もっとあるんでしょう、ほかのやつも見せてください、という気になるほどである。ドラムもすばらしく、全身を耳にして叩いているのが伝わってくる。そして、「お父さん」のようにふたりを預かるベースの岩見さんも最高であるが、お父さんもときどき怒ったり、暴言を吐いたり、無茶したりするところがあって、「お父さん、やるやん!」と思ったりする(いや、めちゃ若いんですけどね)。このひとたちは今後どんどんすごくなっていくのだろうが、そのときに「世田谷トリオのブートを聞いてないの? ダメだねー」みたいに言うために、皆さん、この二枚を聞きましょう。そして世田谷トリオを応援しましょう!
「ONCENTH TRIO + さがゆき」(MIMINOKOPRO MP−009)
ONCENTH TRIO + さがゆき
何回聴いても傑作だと思う。オンセントリオというのは、ベースの岩見継吾をリーダーに、栗田妙子、池澤龍作というピアノトリオなのだが、ダイナミックさやコンポジョンの良さ、インタープレイなどでピアノトリオを超越したとんでもない音楽をやってるバンドなのだが、今回はさがゆきと本田祥康をゲストに迎えたアルバム。さがゆきは9曲中8曲に入っているので本作の中核のひとりといってもいい。いずれも鮮烈な演奏で、歌詞をつけたボーカルものもヴォイスインプロヴィゼイションものにも大活躍である。
2曲目のさがゆきの曲などボーカルをまじえたカルテットがドルフィー的な変態的リズムの世界を疾走し、かっこいいという言葉しか出てこない。こういうとき「かっこいい」以外に言葉を探さなければならない評論家はたいへんだなあと思う。3曲目の池澤の曲もめちゃくちゃいい。ゴリゴリした3拍子の曲で、ボーカルも含めた四人が怒涛のように押し寄せる。スピリチュアルジャズっぽい感じだが、それを通りこしてクトゥルーの邪神の儀式のようである。4曲目はなんだかよくわからんノイズからはじまり、なんだかよくわからん歌詞をボーカルが歌うが、「石けん」が「もくもく」というところがヘンテコというか不思議である。そこからフリーインプロヴィゼイションになるが、なんとなく「石けん」ぽい気がする。5曲目はなんというか昔のヨーロッパの街角……みたいな匂いのする曲調で、ストリートの雰囲気も演出されている……ような気がするが、とにかく楽しい。さがゆきの歌詞もめちゃくちゃ楽しい。とにかく楽しい。本作の白眉かも。6曲目は池澤の曲で、美しく力強いノリノリのバラード。パワフルなギターが「乱入」という感じで入ってくるのもかっこいい。7曲目もノリノリなのだが自由な雰囲気ではじまる。この「ノリノリなのにフリー」というのがオンセントリオの目指す方向なのかもしれないですね。さがゆきの軽い感じなのに超絶技巧のスキャット風ヴォイスや池澤の超かっこいいドラミングなど聴きどころ満載でめちゃくちゃ感動。8曲目は「トゥクトゥク祭」という今にしてみればよくわからん(たぶん当時も?)曲名の曲。さがゆきのフリーヴォイスが凄まじい。シャッフルみたいだけでヘヴィなノリになり、栗田妙子の圧倒的なピアノが炸裂する。ドラムの煽りもすさまじい。ギターがカデンツァ的に最後をズバッとしめくくる。これも本作中白眉といっていいかも。ラストの「昔話」という曲は和太鼓のような激しいドラミングで始まり、ボーカル入りのバラードになる。この歌詞はめちゃいい。太い岩見のベースのソロが入るのも心を打つ。ベースもピアノもドラムもはっきり言って最高で、このすばらしい音楽を多くのひとが享受してくれることを願います。傑作! 関係ないけど、内ジャケットのお婆さんの絵は、蕪村の「新花摘」で月渓が描いた俳画を思わせるすばらしいものだと思います!
「法 DH?RMA」(ミミノコプロ MP−004)
ONCENTH TRIO
タイトルの意味はよくわからないが(ダルマ(法)ということか?)、全曲オリジナルで固めた意欲作。タイトルといい、幕末の写真といい、エイリアン(?)の写真といい、いろいろ謎が多いが、内容はすばらしい。現代ジャズの美味しいところに、ハードバップ的な美味しいところと、フリージャズ的な美味しいところが加味されていて、ひたすら凄いし、楽しい。曲はどれもかっこいいし、三人ともすごくて、まあ、つまりはいつものオンセン・トリオということだが、これがもう14年もまえの演奏とはなあ……。入手して以来、栗田さんの5曲目のアグレッシヴなソロを何度も何度も聴いた覚えがある。今回久しぶりに聴きなおして、どの曲もすごいんだけど、やっぱりこの5曲目の壮絶な三人の演奏に耳が釘付けになる。異常なテンションじゃないでしょうか。リラックスした曲ももちろんいいのだが、このトリオの場合、リラックスしているようでどこかピーンと張り詰めたところがあってそれがなんともいえない快感なのだ。変拍子の曲もめちゃくちゃかっこいい。この音源がもし70年代、80年代にメジャーから出たとしたら、どれほどセンセーションを巻き起こしたことだろう。それぐらいすばらしい傑作だと思います。ピアノトリオを聴きたくなったら本作(をはじめとする何枚か。いろいろ思い浮かぶけど……)を聴きますね。管楽器が入っているアルバムと同様の昂揚感を味あわせてくれます。