「WILLIS JACKSON WITH PAT MARTINO」(PRESTIGE PRCD−24161−2)
WILLIS JACKSON WITH PAT MARTINO
「JACKSON’S ACTION」と「LIVE ACTION」のカップリングお得盤。もともと同じ日のライヴ音源を2枚に分けて発売したものなので、こうして1枚にまとめてもとくに違和感はないはず。それにしても、ウィリス・ジャクソンがめちゃめちゃ好きで、こんなにもアルバムを持っているのに、一枚もレビューしていなかったとは。そして、はじめてのレビューがこのカップリングアルバムになるとは。でも、中身はすばらしいですよ。パット・マルティーノがギターという点だけがジャズファン的にはクローズアップされるが、オルガンのカール・ウィルソンというひともドラムのジョー・ハドリックというひともちゃんとバックアップしている。トランペットはこの時期のウィリス・ジャクソンの相方フランク・ロビンソン(ハイノートもばりばりだし、ソロもがんばってますよ)。基本的にはウィリス・ジャクソンの濁ったテナーの音さえ聞こえていればいい、という客相手なので、ほかのメンバーはとにかくウィリスのテナーをひたすら盛り立てる。それでいいのだ。かならずロッキンなブルースがあり、エロいバラードがあり(「アイム・ア・フール・ト・ウォンチュー」のいやらしさは素晴らしいとしか言いようがない)、ポップチューンがあり、ファンクというかジャズロック的な曲があり、スタンダードがあり……という、聴衆を絶対に楽しませるお手本のような選曲である。この2枚でも、たとえば「ジャイヴ・サンバ」とか「ハロー・ドーリー」「アニー・ローリー」……なんか聴きたいと思いませんか? ウィリス・ジャクソンは、テナーの狂人などと言われることもあるし、たしかにフリークトーンを連発したり、ダーティートーンをひたすらぶちかましたりすることも多いが(もちろんそこが好きなのだが)、じつはものすごくテクニックのあるひとで、よく聞くと流暢なフィンガリングとアーティキュレイションで自由自在に吹きまくっているのだ。サム・テイラーやキング・カーティスなどは、ビッグジェイやジョー・ヒューストン、フランク・カリーといった、ただひたすら暴力的にスクリームするホンカーとはまったくちがい、ものすごい技術力と音楽性を持ち、こんな具合にホンクすることぐらい朝飯前なので、完全な確信犯としての営業ホンカーなのだと思うが、そこがいいんです。上手いにこしたことはない! めちゃくちゃ上手くて、なおかつズブズブのブルースフィーリングにまみれたタフなテナーとしては最右翼なのが、このウィリス・ジャクソンだと思う。しかもフレージングの引き出しがものすごく多いので、ワンパターンに陥ったり、ソロがダレたりすることがない。よく出るストックフレーズのほか、引用フレーズも多彩だ(16分のフレーズなんかはだいたい同じことを吹いているような気もする)。ひとのアルバムは安直な造りに見えてもしっかりした演奏であることが多いし、がっかりすることはまずない。本作も、ライヴなのにどの曲も隅々にまで気持ちが行き届き、きっちり盛り上げてくれる。それに、(これはまあ個人的な話だが)こういったブルーステナー、R&Bテナー、ホンカー系はベルグラーセンを使うひとが多いが、ウィリス・ジャクソンはリンクメタルなのだ。リンクのメタルでこの濁った太い音! うれしいじゃあーりませんか。二枚目の「ブロイン・ライク・ヘル」という怖いタイトルの曲は、ようするに「フライング・ホーム」なのだが、このホンカー必修曲でウィリス・ジャクソンはジャケーのお鉢を奪う猛烈なブローを展開して凄い(基本的にはジャケーマナーだが、それをもっとエグい感じでテンション高く吹きまくる)。このソロをコピーすれば今日からあなたもセッションでスターになれます(そんな「フライング・ホーム」とかやるセッションがあれば、だが)。とにかくなんでもできるひとだが、シンプルなロッキンブルースをやらせればこのひとの右に出るものはいないような気がする。この時期のウィリスのステージをそのまんま収めたようなアルバム。お買い得! パット・マルティーノも数は少ないが、目を見張るようなすばらしいソロを弾いている(とくに「ゲイター・テイル」でのロングソロは驚きだ。これもギターのひとがコピーしたら今日からセッションでのブルースはもうばっちり、みたいなソロです。つづく「サテン・ドール」のソロもめちゃくちゃすごい)。「レベルが高くてイキのいいブロウテナーが聴きたければ、迷わずこいつ、ウィリス・ジャクソン!」という惹句を考えたが、いかがでしょうか。
「LIVE ON STAGE」(BLACK & BLUE BB957.2)
WILLIS JACKSON/RICHARD”GROOVE”HOLMES
フランスでの1980年のライヴ。私は(何度も言うようだが)ウィリス・ジャクソンのファンだが、こうして聴くと、たしかに同じフレーズばかり連発しており(とくに16分の速吹きのときはほぼ一緒かも)、気になりはじめるとものすごーく気になるとは思うが、じつは私はあまりそういうことにはこだわらないのであって、だって、ウィリス・ジャクソンって即興演奏に命をかける……とかそういうのとは全然ちがったところで勝負しているテナー奏者ですからね。80年代という、すでにこういう音楽が「リバイバル」として評価されかけている時期にあって、本物中の本物が、ここまでタイトに引き締まった音、リズム、フレーズでブロウしてくれたら、ほかになにを要求することがあろう。多くのホンカーが晩年は音もリズムもフレーズも音程もよれよれになっていったなか、ウィリス・ジャクソンはたいしたものではないか(といっても、このライヴ時はまだ50歳なのだからあたりまえかもしれないけど。とにかくええ音、ぶっとい音、濁った音で、しかも下品ではない芯のあるしっかりした音でたくましく吹きまくるウィリス・ジャクソンの(ほぼ最後の)雄姿がここにとらえられている。正反対に、ほとんど息の音だけの「マイ・ワン……」も秀逸。もちろんコ・リーダーのリチャード・ホルムズも元気はつらつで、すばらしい演奏。ギターのスティーヴ・ジョルダーノ(と読むのか?)は根っからのジャズのひとらしくて、延々と速弾きを披露したり、リズムをずらしたり、アウトしたり……ということをするので、どうもこのコテコテのカルテットにはあわないような気がするが、最近もずっとオルガンと演ってるひとらしくて、よくわからん。このひとにとってはジャズオルガン+ウエス・モンゴメリー、もしくはパット・マルティーノ、ジョージ・ベンソン、ケニー・バレル的なものを考えているのかもしれない(ジャズギタリストとしては、よく歌うし、わかりやすいし、とても上手いと思うけどね)。「ザ・マン・アイ・ラヴ」のこの途中で速くなるアレンジは、たしかヴォン・フリーマンと2テナーでやってるライヴ盤でもやってたような気がする。ラストの「バー・ウォーズ」ではとにかく異常に盛り上がる。ブロウ! ゲイター・ブロウ! というわけで、ウィリス・ジャクソンファンなら買っても絶対損はしないアルバム。みんなでウィリス・ジャクソンの最後の雄姿を拝もう!
「COOL GATOR」(PRESTIGE RECORDS P¥7172/OJC−220)
WILLIS JACKSON
プレスティッジのウィリス・ジャクソンといえばパット・マルティーノやトランペットのフランク・ロビンソンらと吹き込んだ例のマラソンセッションをはじめとして大量にあるが、本作も有名。ギターがビル・ジェニングスでオルガンがマクダフ……というメンバーで「クール」というのはどういうことか。そんなん無理でしょう、と思うかもしれないが、たしかに演奏はコテコテだが、このひとたちにしてみればたしかに「クール」なのかもしれない。脂ぎった、阿鼻叫喚のブロウを得意とするジャクソンにしてみれば、こういうプレイは冷静に属するのだろうか。しかし、その分、フレーズのすみずみまで気の配られた、音楽家としての実力がよくわかるし、いくらクールなスタジオ録音といっても、その冷静さを突き破ってあふれるソウルやブロウ魂があるわけで、ジャクソン〜マクダフ〜ジェニングスのファンにもちゃんと応える内容である。A−1はメンバーの掛け声も楽しい、「曲」とも言い難いリフ曲で、なぜかこの曲だけコンガが入っている。こってりしたミディアムのブルーズで、ジャクソンをはじめとするソロイストたちも美味しいフレーズを連発し、表現力、構成力もすぐれた奏者であることを見せつける。とくにジェニングスのギターソロがクールか? 2曲もそのジェニングスをフィーチュアしたスタンダード「ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン」で、ウィリス・ジャクソンは参加していない。黒々としてはいるが、小粋な演奏。3曲目はゆったりとした歩調での「サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」。ゆるーい演奏に聞こえるかもしれないが、じつはバリバリにアレンジされた曲。テーマのサビのジャクソンのテナーのかっこよさよ! それに続くテナーソロもたしかにクールというかノンシャランに聴こえるが、これはもちろんたくみにコントロールされたものなのだ。ギターとオルガンのゆるやかなソロも洒脱。こういう演奏を聴くと、「職人芸が芸術になっている」感じである。B−1のブルーズはまたしても書かなければならないこの言葉「曲とも言い難いリフ曲」である。こんなの書いて(?)タイトルまでつけて「曲です」と言い張るのもすごいことであります。しかし、テーマ(?)に続くジェニングスのギターソロの歌いあげは秀逸で思わず聴き惚れる。マクダフのオルガンも派手な展開は一切ないにもかかわらず熱量のあるすばらしい演奏。最後に登場するジャクソンは軽い音色で軽快に吹いているが、これもまた派手さはないがしっかりとツボを押さえたプレイ。ジャクソンの音色、アーティキュレイション、ノリ、フレーズの組み立てなどがはっきりわかる、お手本のような演奏。これをコピーするだけで、かなりいろいろ学べると思う。2曲目は「ザ・マン・アイ・ラヴ」で、これもビシッとアレンジされた曲。ラプソディ・イン・ブルーの引用ではじまり、途中でものすごく速いテンポになる。これはジャクソンがライヴなどでも何度も取り上げているアレンジだが、メンバーに力がないとついていけない。ここではジャクソン、ジェニングス、マクダフ……ソロイスト全員がソロに譜面にとバリバリ吹きまくり、弾きまくり、すばらしい。ラストは(なんでかわからないが)ララバイ・オブ・バードランドや木の葉の子守歌などのメドレーからテーマを変形したリフに雪崩れ込む。本作の白眉といっていい、ジャクソンのサービス精神横溢の最高の演奏。ラストはベニー・グッドマンの曲だそうだが、いかにも、といった感じの小洒落た演奏。ジャクソンもテーマもソロもずっと軽くサブトーンで吹いていて、座り込んでぎょええええ……とテナーをホンクしまくる「サックスの狂人」の面影はかけらもない。ここまで来るとジャクソンが「ジャズテナー」としても王道を行くだけのすごいひとだとわかってしまうのである。頭を吹っ飛ばすような激烈なブロウをするジャクソンも、こういう抑制のきいた演奏をバシッとできるジャクソンも、私はどっちも好きですね。いやー、たしかに「クール」な演奏ばかりだが、内容は十分ホットで、聴けば聴くほどこのメンバーが好きになる。私がジャクソンがめちゃくちゃ好きな理由のひとつに、マウスピースがリンクのメタルだということがあり、正統派ジャズだとかなり多いセッティングだが、こういうホンク〜R&B〜ソウルテナーだとラーセンを使うひとが多いと思う。ラーセンだと、こんな風に力を抜いてサブトーン気味に吹いてもエッジの立った感じになると思うが、リンクだとこんな風に、本当に「ジャズ」的なサブトーンになり、それがいいのかどうか、ということだが、私は好きです。
「LOCKIN’ HORNS」(MUSE RECORDS MR5200)
WILLIS JACKSON WITH VON FREEMAN LIVE AT LAREN
豪快な2テナーのライヴでカール・ウィルソンのオルガン入り、ブーガルー・ジョー・ジョーンズのギター入りという、どう考えてもすごそうなアルバムだが、実際すごい。しかし、聴いてみるとわかるが、A面の3曲にヴォン・フリーマンは不参加である。そしてB面の3曲のうち1曲目と2曲目はどちらもバラードで、フリーマンの1ホーンである。つまり、ウィリス・ジャクソンとヴォン・フリーマンが同時に参加しているのはB−3の1曲のみということになり、両雄が相対してバトルしているジャケット写真や「ロッキン・ホーンズ」というタイトルはかなりカマシであるといえる。でも、さっきも書いたように内容はすばらしいのである。A−1は「パウ!」というブルースで、ジョー・モリスのあの曲とはちがい、ジャクソンのオリジナルらしい。ウィリス・ジャクソンのソロは快調で倍テンを多用して吹きまくるが、聴いたひとはすぐにわかると思うが、このひとがとくにアップテンポのときによく使うクリシェフレーズ(たぶん指癖)があって、このフレーズはたのアルバム(というかほかのアルバムでも、だが)を通してしつこく登場することになる。ジャクソンが盛り上げまくったあとブーガルー・ジョー・ジョーンズのギターソロになるが、このソロがやたら長い。しかも内容は最高でノリノリなのだ(ほとんどブルースペンタトニックだけだが、めちゃかっこいい)。主役であるはずのウィリス・ジャクソンのあとに出てきてこんな長いソロをするとは……大胆というかあつかましいというか空気を読まないというか……かなりの大物であることはまちがいない。しかし、ミュージシャンはこうありたいですね。カール・ウィルソン(プレスティッジのジャクソンのアルバムでもおなじみ)のソロもめちゃくちゃすごい。2曲目は、ウィリス・ジャクソン好きにはおなじみの「ザ・マン・アイ・ラヴ」……そう「あの」アレンジの同曲である(ブラック・アンド・ブルーのアルバムでもやってる!)。「ラプソディ・イン・ブルー」ではじまり、ちゅばちゅばと唾液の音をさせるイントロから、サブトーンを駆使しまくって切々と歌い上げる。それが、再度「ラプソディ……」の引用で一転して超アップテンポになる。テナーが吹きまくったあと、ギターソロになり、これも見事な、エキサイティングなソロ。リフになり、「ララバイ・オブ・バードランド」から「ララバイ・オブ・リーブス」の引用からまた別のリフが積み重なっていき、最後にテーマに戻って、再度「ラプソディ・イン・ブルー」になってエンディング。まさにいろいろてんこもりの、ウィリス・ジャクソンというテナーマンのさまざまな魅力のショウケースのようになっている。A−3は、ウィルソンのオルガンソロも絶好調ではじまる速いブルースで、ブーガルー・ジョー・ジョーンズの絶妙のソロのあと、ウィリス・ジャクソンのホンキングをまじえたド迫力のブロウになる。ソミファソミド……というフレーズがめちゃくちゃ耳につくが、これはジャクソン節ということだろう。最後は、サックスの狂人と言われた(名乗った?)ジャクソンの本領発揮の、腰のすわったブロウが続く。かっこいい。B面は、A面とは雰囲気を変えて、ぐっと渋いジャズになるのでびっくりする。B−1は、ヴォン・フリーマンをフィーチュアした「サマータイム」で、ウィリス・ジャクソンはお休み。ヴォン・フリーマンはシカゴのテナーのドンだが、その演奏はなかなかつかみどころがない。リーダー作を聞いても、これがヴォン・フリーマンだ、というスタイルはいまひとつよくわからない。しかし、線の細いひとではなく、シカゴの伝統に乗っ取ったガッツのある渋いブロウを得意としているテナーマンであることはまちがいない。英文ライナーに、「たいがいのやつはひとつの道しか演奏しないが、ヴォンは四つか五つの道を演奏する。ときにはレスター・ヤング、ときにはコールマン・ホーキンス、ときにはゲッツ、ワーデル・グレイ、デクスター・ゴードン、ジョニー・グリフィン……」と書いているとおりで、シカゴという街に腰をすえ、ニューヨークなどに出ていくこともなく、ひたすらブロウに徹してきたフリーマンは、スウィングとかバップとかフリーとか関係なく、「シカゴのテナーマン」というくくりで十分後世に通用するだろう。ジーン・アモンズやフレッド・アンダーソンにも共通する強靭な、テナーサックスに対して鋼のようなアプローチをする一連の奏者のひとりである。しかし、ヴォン・フリーマンはリーダー作を聴いてもわかるように、ぶっとい音、エッジの立った音でゴリゴリ吹きまくるひとではなく、どちらかというとふわっとした温かい音の持ち主である。高音部も細いし、音自体もそれほどビッグトーンというわけではないのではないか(生で聴いたことがないのでわからないが)、と思う。抑制の利いたソノリティという風に思う。ソロもモダンジャズに根差したもので、ウィリス・ジャクソンのようなエンターテインメントの極致のひととは正反対の感じである。「サマータイム」もテーマを終わったところで倍テンになり、ソロはその倍になって、つまり4倍テンのスピードでグリフィンのように吹きまくるが、甘さのないシリアスな感覚のブロウである。ブーガルー・ジョー・ジョーンズのソロのあとのカデンツァも「大向こう受けしよう」とか一切思っていない渋い演奏で泣ける。2曲目の「シャドウ・オブ・ユア・スマイル」も滋味あふれるトーンで訥々と吹かれるテーマ、それを引き立てるオルガン……ああ、これこそテナー〜オルガンの醍醐味では。ウィリス・ジャクソンとオルガン……なら当たり前だが、ヴォン・フリーマンとオルガンなればこそのかっこよさ! カデンツァも渋い。そしてラストの「ウィリス・アンド・ヴォン」というブルースは、イントロを繰り返したあと、すぐにアドリブに入る。先発はウィリス・ジャクソンで、さっきも書いた常套フレーズを連発したかと思えば、手慣れたホンクで盛り上げまくる。こういうテナーを目指しているひとはいっぱい盗めるのではないでしょうか。そして、これまでバラード2曲とおとなし目だったフリーマンもこのアップテンポのブルースではひたすら吹きまくる。ジャクソンとちがって音色はストレートだが、たしかにワーデル・グレイ、アモンズ、スティット、ゴードン……といったバップ+レスター・ヤング的なテナーマンに比べるとグリフィンっぽい。とにかくどこかに「フレーズ袋」を隠しているのではないか、と思えるほどさまざまなバリエーションをどんどん繰り出してきて爽快である。テナーのレンジも低音から高音まで広く、自由自在である。いやー、これはすばらしい。というわけで、ふたりともバリバリ吹きまくってくれるのだが、最後にバトルになってからの部分がすごい。なんというか、現代ジャズを極めたテナー奏者ふたりが音楽的なものをぶつけあっている、という感じではなく、ガムランのジェゴグで、村と村がおのれの個性をぶつけ合っているような印象を受ける。じつは、まったくちがったタイプのふたりのテナーマンによるバトルなのだ。だからといってスベッているわけではなく、そういう異種格闘技戦が大成功した例だと思う。このバトルはマジでめちゃくちゃ気持ちがわかる。すばらしい。世の中には、なんでもいいからテナーを何人か組み合わせてバトルをさせればジャズフェスは盛り上がると思っているひともいるらしく、かつてはアーネット・コブ、ジョー・ヘンダーソン、ジミー・ヒースにバトルさせたアルバムがあったりしたわけだが、本作ではそういうざっくりした感覚の企画がうまくいったということだと思う。本来水と油と言ってもいいぐらいのスタイルの違いがあるふたりが、見事に溶け合っている。やっぱり「テナー」はこういうことですよね! と思う。ジャクソンの方がホンキングで無茶をするのか、と思っていたら、さらにそのうえをいくフリーマンはフリーキーにギョエーッとブロウして、バトルのハイライトを作る。あー、すばらしい! やっぱりテナーはバトルや! ラストテーマがちょっとぐだぐだだが、それもまたよし! もっとやれ! とスピーカーのまえで叫んでしまうような手に汗握る熱血ブロウです。傑作!
「CALL OF THE GATORS」(BLUES INTERACTIONS PCD−4702)
WILLIS JACKSON
デルマーク原盤で、ウィリス・ジャクソンのSP時代の吹き込みを集めたもの。基本的にはウィリス・ジャクソンのテナーにトランペット1、トロンボーン1、バリトン1、スリー・リズムという7人編成のバンドが核になっており、これはこの時代にテナー奏者が皆結成していたリトルビッグバンドで、金のかからない小編成でビッグバンドのサウンドを……ということなのだ(アーネット・コブ、イリノイ・ジャケー、バディ・テイト……みんなこういう編成のバンドを組んでいた)。ブーティー・ウッドやビル・ドゲット、パナマ・フランシス、ハリウッド・ヘンリーらの参加が目に付くが、もちろんスターはジャクソンひとりでよいので、ほかのひとにはソロはほとんど回らない。1曲目は「ブロウ・ジャクソン・ブロウ」というそのままずばりの曲名で、ウィリス・ジャクソンはずっとグロウルしたまま熱血のブロウを繰り広げる。低音でもグロウルしていて凄い。2曲目はスローブルースだが、ここでも最初からサブトーンなど使わずひたすらグロウル。すごい。3曲目はスウィングするテンポのブルースだが、ここでもグロウル。グロウルがデフォルトなのだ。かなり荒くれたブロウで破壊力抜群である。本当はめちゃくちゃ上手いひとなのだが、こういうSP吹き込みでは阿修羅のごとき灼熱のブロウに徹していて気持ちいい。4曲目はシャッフルっぽいリズムの楽しい曲で、サビでファッツ・フォードのいい感じのソロが入るが、ジャクソンのソロになると、やっぱりグロウルしまくりの豪快なホンク! 徹底してますなー。5曲目はバラードで、こういう曲ではグロウルはさすがにしないが、エコーかけまくりで、なんともムーディーでよいですね。ラプソディックなアルペジオがコールマン・ホーキンスやベン・ウエブスターなどを思わせ、古いテナーからの影響を感じさせる。でも、めちゃ上手いですね、やっぱり。6曲目はルイ・ジョーダンっぽい、エディ・マックというジャンプ系シンガーをフィーチュアした曲で、曲調もルイ・ジョーダンっぽいし、「サタデーナイト」とか「グッド・タイム・ロール」とかいったフレーズも歌詞に出てくるので、ある種のパクリを感じさせるが、シャウターっぽいところもあり、ワイノニーなんかも連想する歌い方。ジャクソンは短い間奏を吹く。調べるとエディ・マックはブルックリンのブルースシーンで活躍していたひとで、「コンプリートレコーディングスVOL.1」なるCDも出ているようだ(ということは2もあるのだろう)。クーティー・ウィリアムスのオケでエディ・ビンソンの後釜に入っていたとか、ラッキー・ミリンダーのオケにいた、とかけっこう華麗な経歴であるが謎。ボブ・ポーターのライナーによるとかなり有名なひとらしいです。7曲目はジャングルっぽいリズムに乗って、エキゾチックなヘンテコなメロディが奏でられ、トランペットも猛獣の声のように荒々しく吹く。タイトルが「アリゲーターの呼び声」となっているので、ある種のジャングルサウンドみたいなものかもしれない。ウィリス・ジャクソンのソロの部分は普通の4ビートのブルース。8曲目はアップテンポの迫力ある「フライング・ホーム」的な曲で、ウィリス・ジャクソンは手慣れた調子で吹きまくり、金切り声のようなスクリームや豪快なホンクもまじえて汗まみれのワイルドな大ブロウを展開する。本アルバムで一番熱狂的な演奏。9曲目はゆったりスウィングするテンポの曲で、テーマはゴージャスに洒落た感じに演奏されるのだが、ジャクソンのソロが始まった途端にグロウルの嵐となり、押し付けるようなゴリゴリの演奏に……。体質というやつでしょうか。10曲目は跳ねるリズムのブルースで、ジャクソンはあいかわらず、グロウルとホンクの嵐。最後のほうのホンキングなんて、ビッグ・ジェイやジョー・ヒューストンも真っ青のえげつなさである。11曲目はふたたびエディ・マックの登場で、やはりシャウター的なブルース・シンガーなのだ。なかなか気に入った。ジャクソンは間奏に登場。いい感じのギターソロもあるのだが、メンバーリストには記載がない。12〜14は別テイクだが、どれも出来は本テイクに勝るとも劣らない。というか、本テイクよりも別テイクのほうがどちらかというと出来がいいのではないか、という気がする。どうやら出来の良さ、まとまりの良さより、ブロウの迫力がどっちが勝るか、で決めているようで、本テイクのほうがだいたいえげつない感じにしあがっているのだ。サックスの狂人(本人がそう名乗っているのだからしかたがない)ウィリス・ゲイター・ジャクソンの泥沼にはまりこむためにはかかせないアルバム。
「REALLY GROOVIN’」(PRESTIGE RECORDS 7196)
WILLIS JACKSON
タイトル通り「マジでグルーヴしてるんだよ」という感じの、リラックスした、吹き過ぎない、間をうまく使った、それこそ「グルーヴ」に重きを置いた演奏ばかりで、オルガンも入ってないし、コンガが入ってるし……とホンカーとしてのジャクソンを求める向きには物足りないかもしれないが、結局、めちゃくちゃなホンキングをぶちかましていたウィリス・ジャクソンはショーマンとしての姿であり、こうしてSPサイズではない長尺のスタジオ録音ができるようになると、ジャズテナー奏者、しかも、けっこうモダンである、という一面を見せてくれる(フレーズのベースはやっぱりジャケーやコブのようだが、それを上手くモダンに消化している感じ)。あれだけずーっとグロウルしていたのに本作ではまったくしていないし、フルトーンで吹く場面もほとんどなく、だいたいは軽い感じで、小音量で吹いている。その分、音色のすばらしさ、フレージングの妙、ダイナミクスの付け方の見事さなどがよく味わえる。やっぱり上手いひとなのだ。1曲目など、本当に「間」を味わう感じの演奏で、めちゃくちゃかっこいい。力の抜け具合も最高。一番最後に、リードをちゅっちゅっとすする音が入っているのも、いかにもな表現。2曲目はジョニー・グリフィン作の「オートミール」という2ビートのマーチみたいなリズムのブルース。コンガがチャカポコいって面白い。ウィリス・ジャクソンは最初のうちはリズムと戯れるような軽いソロをしているが、途中から4ビートのマーチになって、ピアノがバックでロールしはじめてからはかなり力強い吹き方になる。3曲目は「アイ・リメンバー・クリフォード」で、これもいい意味で力の抜けた演奏で、切々とした思い入れたっぷりのブロウバラードではなく、軽々と洒脱に吹いている。こんな感じで吹くと、まるでスウィング時代の歌もののように聞こえる。カデンツァも軽い。4曲目はジャクソン自作のブルース。ミディアムテンポのスウィングする曲調で、古いベイシーの演奏みたいに聴こえる(わざとそうしているのだと思う。ドラムはガス・ジョンソンだし)。ウィリス・ジャクソンのソロはまさにタイトルどおりの「グルーヴ」するもので、それもゆったりと、渋く、ぐーーーーっと抑えた表現でブルースをつづっていく。間をあけまくったソロなので、その分、ベースやピアノなどとの呼応もよくわかって楽しい。この、軽く柔らかい音色での演奏は、もしかしたらレスター・ヤングを意識しているのかもしれない。5曲目はまたまたグリフィンの曲で、リズムが印象的なブルース。ソロも2曲目同様、最初のうちはテーマと同じリズムパターンで進行し、途中から4ビートになる。グリフィンならたぶん16分音符でひたすら吹きまくっているであろうところを、8分音符だけでひたすらブルースペンタトニックを吹き続ける。この曲はけっこうグロウルして、ブロウする場面もかなりあってめちゃくちゃかっこいい。レコードでいうと、この曲がB面の1曲目なので、ジャズ喫茶ならB面からかける、というところだろうか。ジャクソンのショウケースで、ものすごい貫禄のある悠々たる「ボス」的なブロウである。最後のテーマのリズムに戻るところもかっこええわー。6曲目はバラードで「アゲイン」。こういうのをやらせるといやはや最高ですね。音色、アーティキュレイション、ダイナミクス、ベンド、フレーズ……あらゆる技巧を駆使しまくってこのバラードが表現されているのだなあ、とあたりまえのことにあたりまえに感心してしまう。ほんま上手い。7曲目はコンガがポコポコいいながらはじまりジャクソン作のリフブルース。途中でコンガとの4バースあり。ラストの8曲目は、これだけちがうセッションで、メンバーも異なる(ドラムがミッキー・ローカー)。ミディアムテンポの歌ものだが、ジャクソンはずっとサブトーンで吹いている。全体に洒脱な、軽い演奏が多いが、その分、まさにブルースフィーリングとグルーヴを味わえる好盤だと思います。