master musicians of jajouka

「THE ROAD TO JAJOUKA−−A BENEFIT ALBUM」(HOWE RECORDS HWR−1009)

 モロッコの伝統音楽であるジャジューカを現在に伝える「マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカ」のバシール・アタール(彼の父親は、オーネット・コールマンのあの「ダンシング・イン・ユア・ヘッド」に入ってるモロッコミュージシャンとの共演曲においてモロッコミュージシャンを率いていたバンドリーダーだそうだ。あの曲、めちゃめちゃ変やったもんな)が率いるジャジューカの音源に、さまざまなジャンルのミュージシャンが音を重ねたもの。共演といえば共演だが、ダビングといえばダビング。でも、そんな感じはほとんどなく、聴くぶんには完全に融合した音源となっている。内ジャケットの文章によると「ジャジューカ音楽は、トランス・ミュージックであり恍惚の音楽であり麻薬的音楽である」となっているが、たしかにそんな感じ。もともとの音源だけでいうと、たしかに反復の多い、催眠的な民族音楽なのだが、そこにそれぞれのミュージシャンがハードなリズムを当てはめたり、過激なソロをぶちかましたり、寄り添うように盛り上げたり……さまざまなアプローチがなされることで、ジャジューカの新しい側面を見せたり、もともとある魅力を拡大したりしている……とか書いても、そのもともとのジャジューカを知らないので、なんとも言えないんですけどね、とにかくこのアルバムに収められている音楽はめちゃめちゃおもしろかった。私が聴いて、特徴的に感じたのは各種のパーカッションとプリミティヴな撥弦楽器、それに乗るホーンで、ホーンのうちのひとつはリコーダーみたいなやつ(1曲目でフィーチュアされる)、もうひとつはおそらくチャルメラ系のダブルリードのやつ(5曲目と6曲目、7曲目でフィーチュアされる。たぶん6曲目の曲名にもなっている「ガイタ」という楽器)。共演ミュージシャンがめちゃ豪華で、たとえば1曲目はメディスキ・マーティン・アンド・ウッド、2曲目はミッキー・ハート、3曲目はジョン・ゾーン、4曲目はリー・ラナルド(ソニック・ユースのひと)、5曲目はマーク・リボー、そして7曲目はなんとオーネット・コールマン(!)、8曲目はビル・ラズウェル、9曲目はハワード・ショア(映画音楽のひと)……という具合。私の好みでいうと、スクラッチと素朴さが融合した2曲目、伝統を感じさせるボーカルにジョン・ゾーンが(いささか予定調和的ではあるが)フリークトーンをまき散らす3曲目、ギターが壮大なオーケストレーションとなって笛のメロディを包み込む4曲目、ダブルリード楽器の旋律が聴くものを酩酊させる6曲目、そして、オーネット・コールマンが素朴な狂気や原始的ないびつさを感じさせるフレーズを自由に吹きまくる7曲目(これはもう圧倒的といっていい。聴いてると頭がとろけそうになるわけのわからないソロ。この曲を試聴して購入を決めたのです)、そしてそして、ラストのロンドンフィルによるジャジューカとオーケストラの、融合なのか離反なのかすらよくわからないものすごいサウンド……などが特に良かった。いや、すばらしい! ビリー・マーティンがプロデュースしているが、うーん、彼のリーダー作とするわけにもいかないので、便宜上「マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジュジャーカ」の項に入れておきます。