jazz at the philharmonic

「BLUES IN CHICAGO 1955」(VERVE 815 155 1)
JAZZ AT THE PHILHARMONIC

 JATPのシカゴでのライヴ盤(あたりまえか。JATPにスタジオ盤なんかないか)。A面一杯をしめるのはその名も「ザ・ブルース」。オスカー・ピーターソンのピアノは、これからなにかおもしろくて楽しいことがはじまりますよ的なわくわく感を演出し、それに導かれるようにして最初に登場するのがフリップ・フィリップス。このひとは、「パーディド」でのジャケーとのバトルを評論家に酷評されたりして有名なので、荒っぽい、盛り上げるのだけが得意なホンカー……みたいな印象が強いと思うが、ここで聴かれるとおり、超うまい。めちゃめちゃうまい。アホみたいにうまい。楽器のコントロール、リズム、歌心……なにをとってもピカイチのひとなのだ。しかも、本当はかなりモダンなのに、最後はきっちり「これってJATPの仕事だよね。だったら……」とばかりにホンキングを決めて、喝采をさらう。まさに職人芸。1955年という時代を考えると、白人とは思えない深い音色とブルースフィーリングを身につけていたマスターだと思う。つづいてレスター・ヤング。か細い音だが、味わい深い演奏。でも、フリップ・フィリップスとジャケーのあいだで、そういう演奏を期待する観客のまえではさぞやりにくかったと思う。この時期のレスター・ヤングとしてはちゃんと吹けていると思うし、回らぬ指や息づかいが、かえって思索的な印象を与え、決して悪いソロではないと思う。しかし、そのあとに登場するジャケーは、さすがの大スターの貫禄で、途中まではきっちりと「いいソロ」を聴かせておいて、最後に野太い、濁った音で、最高のホンキングを見せて圧倒する。客もめちゃめちゃ興奮している。ヨアヒム・ベーレントが「音楽の本に記す必要はない」とまで嫌ったのはこういう演奏なのだろうが、わからんやつにはわからんということか。ディジー・ガレスピーももちろん超絶的なテクニックで、しかもJATP向けの、ちゃんと心得た演奏をしている。そしてロイ・エルドリッジはあいかわらずの演奏ではあるが、この時期はまだまだ快調である。A面はこの曲だけで、B面は「モダンセット」という曲(?)からはじまる。マイナーブルースにサビがついた曲だが、2管編成のスモールコンボで、先発ソロのレスター・ヤングは最初、なかなか滋味のあるソロを展開するのだが、いまいち曲の構成をわかっていなかったのか、途中で「あれ?」みたいな感じになり、ヨレヨレになる。ガレスピーがバックでリフを吹いても、ほとんどお愛想みたいなソロに終始する。残念。そのあとガレスピーが、なんというか「取り返す」感じの前面に出た、かなりいいソロ(大向こうウケも十分考えている感じ)をするが、それもまた哀しい。興行的に「挽回する」という感じかなあ。2曲目はJATP名物のバラードメドレーで、最初がレスター・ヤングの「ユー・ディドント・ノウ・ファット・タイム・イット・ワズ」で、だいじょうぶかなあ、と1曲目のヨレヨレさを知っている我々としては心配になるが、これがめちゃめちゃ渋くて、すばらしい演奏。このレスターのプレイは悪くないです。テーマを崩しながら吹いているだけといえばそうなのだが、そこに味わいがある。最後のカデンツァも、同じことを3回繰り返して吹くのだが、それも一種の個性になっている。つづくフリップ・フィリップスの「オール・オブ・ミー」はめちゃめちゃかっこいい。テナーのバラードかくあるべしという感じで、某評論家がスコット・ハミルトンのデビュー当時、フリップ・フィリップスの影響があると言ったのも、こういうのを聴くとうなずける。だって、めちゃめちゃ似てるもんね。しかも、単にテーマを一回吹くだけ(編集されてるのかも)なのに、十分伝わる。そしてジャケーの「テンダリー」は、このひとを「音楽の本に記す必要がない」と言ったアホさ加減がわかる、最高のバラード。音色、音のベンド、歌心……言うことなしでおます。あと、トランペット奏者ふたりが続くが、ロイ・エルドリッジの「言い出しかねて」はなかなかすばらしい。音色の変化を重点的に聴かせて、ダイナミクスをつけている。最後のガレスピーの「マイ・オルード・フレイム」は、さすがにすばらしく、トランペットによるバラード演奏として文句のつけようがない。歌心はもちろん、ハイノートでのフレージングなど、なんでもできる人だ。最後は「スウィングセット」という曲(?)で、人数のわりには5分少々と超短いが、ジャケーがいきなりかます。アップテンポのマイナーの循環の曲で、ジャケーの濁った太い音でのドスのきいたブロウは安定感抜群。これがJATPの味わいどころなのだ。つづくロイ・エルドリッジも一生懸命がんばってはいるが、大味なソロ。最後を飾るのはフリップ・フィリップスだが、このソロもすばらしい。上手いよね、このひと。もっと評価されてもいい、すばらしいテナープレイヤーだと思う。最後は音を濁らせてホンクするが、そういう「役割」もちゃんと心得ているし、それをこなせる技量もすばらしいと思う。あと、リズムセクションがオスカー・ピーターソン、ハーブ・エリス、ロイ・ブラウン、バディ・リッチという夢の顔合わせなので、そのスウィングしまくるリズムを聴くだけでも楽しい一枚。