「THE MAIN MAN」(INNER CITY 1033)
EDDIE JEFFERSON
ずっと欲しかったアルバム。大学のときに、すでに卒業していた先輩のOさんがうちに泊まりにきたとき、直前に三宮にあったミスター・ジャケットというレコード屋で購入して、持ってきたもの。うちの家で掛けてもらったのだが、一曲目の「ジーニン」からひきずりこまれた。めっちゃかっこええやん! それまでにもエディ・ジェファーソンのアルバムは何枚か聴いていたが、そのなかでも最高に思えた(当時はリッチー・コールが流行っていて、そのアルバムにも何作か参加していたし)。Oさんは、その店に輸入盤を取り寄せてもらったらしいが、その後、いくら探してもなく、CDでエディ・ジェファーソンのアルバムがぼつぼつ再発されるたびにチェックするのだが、本作は出ないのだ。それがようやくこうして、きちんと正規盤の形で入手できた。あー、よかったよかった。聴いてみると、やっぱり凄い。彼のアルバムは正直言って、いいものばかりだが、本作は群を抜いている……と思う。分厚い管のアンサンブルをバックにバップスキャットとボーカリーズをやりまくるエディ。かっこえーっ! 「ジーニン」以外にも佳曲のオンパレードで、どれもすばらしい。エディ・ジェファーソンのファンで、本作を持っていないひとは見つけたらぜひ。
「THE LIVE−LIEST」(MUSE RECORDS GXH−3507)
EDDIE JEFFERSON
高校生のとき、リッチー・コールというアルトのひとのブームがあって、私もアルトを吹いていたのでいろいろな作品を聴いた。そんななかで、私のハートをわしづかみにしたのが、このエディ・ジェファーソンというおっさんである。「キーパー・オブ・ザ・フレイム」や「ハリウッド・マドネス」といったリッチー・コールの作品で重要な役割を果たしていて、もうめちゃめちゃかっこよかった。不幸な死を遂げたということもきいていて、今でもアメリカでは黒人差別があるのか、どないなっとんねんと高校生の私は単純に憤ったのでありました。その後、リッチー・コールに関しては、私はなんの関心もなくなったが、エディ・ジェファーソンについてはずっとファンでありつづけたのであります。いまだに大好きです。リーダーアルバムも多いし、ほかのミュージシャンのアルバムへのゲスト参加も多いジェファーソンだが、本作はいちばんいい形で彼のボーカリーズの腕前がライヴ感あふれる演奏ともに発揮されている作品だと思う。購入したのは高校生のときだったと思うが、当時は毎日聴きくるっていた。久しぶりに聴きなおしてみると、エディ・ジェファーソンは快調そのものだが、バックのリッチー・コールとエリック・クロスについては意見がわかれるところだろう。エディ・ジェファーソンのようなバップ・スキャットには、彼らのようにぱらぱらぱらぱらと吹きまくるというか煽るようなバッピッシュなサックスはにあっていると思うが、なんぼなんでも深みがないやろ、とも思う。とくにエリック・クロスは音程も不安定で、けっこうつらい。ボーカル抜きでふたりだけのインスト曲もあるのだが、ふたりともべらべらべらべらと饒舌に吹きまくる。全体として、エディ・ジェファーソンに関しては100点満点なんやけどなあ……といつも思うアルバムです。でも、最初に買った彼のアルバムということですべてを覚えるぐらい聴きまくった、私にとって大事な作品です。
「BODY AND SOUL」(PRESTIGE RECORDING PR7619)
EDDIE JEFFERSON
ピアノがバリー・ハリス、サックスがエディの盟友ともいうべきジェイムズ・ムーディー、トランペットがデイヴ・バーンズというメンバー。スタジオ録音にもかかわらず、冒頭にジェイムズ・ムーディーのフルートをバックにしたエド・ウィリアムスによるジェファーソンの紹介がある。1曲目「シー・イフ・ユー・キャン・ギット・トゥ・ザット」というノリノリのファンキーな8ビートの曲は、エディ・ジェファーソン自身の作曲・作詞だそうで、作曲の才能も十分感じることができる。しかし、なんといってもこの声と歌い方に感動する。2曲目はほかのエディのアルバムでもおなじみの「ボディ・アンド・ソウル」で、コールマン・ホーキンスのソロに歌詞をつけたもの。ホーキンスのソロを完全に自分のものにしていて、すばらしいとしか言いようがない。歌詞もホーキンス一代記という感じで面白い。3曲目はジョー・ザヴィヌルの「マーシー・マーシー・マーシー」(ジェファーソンは「レター・フロム・ホーム」でザヴィヌルと共演している)で、原曲よりもゆったりとしたノリ。ジェファーソンはこの曲も何度も録音しているが、本作収録の演奏がオリジナルだそうです。4曲目はマイルスの「ソー・ファット」で、バップスキャットといってもこういう曲まで手掛けるところがジェファーソンのすごいところだ(この曲も何度か録音している)。内容は、「なぜマイルスはステージでなにもしゃべらないのか」という問いかけとその答になっていて、全体としてひとつのドラマのようである。ジェイムズ・ムーディーのアルトソロも快調。5曲目「ゼア・アイ・ゴー」は有名な「ムーディーズ・ムード・フォー・ラヴ」のことで、キング・プレジャーで知られているがジェファーソンがオリジナルで、何度も録音している。B面に行くと、B−1はホレス・シルヴァーの「セレナーデ・トゥ・ア・ソウル・シスター」に入っている「サイケデリック・サリー」で、歌詞はホレス・シルヴァー自身が書いたものだという。しかも、このジェファーソンのバージョンはクラブでキラーチューンになってるそうである。マジか。ジェイムズ・ムーディーの抜群のテナーソロが入っていて盛り上がる。柔らかい音色だがうねるような豪快かつアイデアに満ちたソロである。かっちょえーっ! 2曲目はこれもジェファーソンは何度も録音しているパーカーの「ナウズ・ザ・タイム」。ソロはサヴォイ盤のもの。バードを讃える歌詞はばっちりハマッていて、いつ聴いてもすばらしい。ムーディーのテナー、バーンズのトランペットの間奏もかっこいいが、なんといってもバリー・ハリスの落ち着いたソロがいいですね。3曲目はまたまたホレス・シルヴァーの「フィルシー・マクナスティ」で、こちらはなんとアイラ・ギトラーが書いた歌詞だそうである。めちゃくちゃかっこいい。ラストはマシュー・ジーの有名な「オー・ジー」で、歌詞を書いたのはなんとジョー・ニューマン(!)だそうである。ソロ回しもあるのだが、エディの迫力あるボーカルがやはり全部をかっさらう感じですごい。傑作。
「COME ALONG WIHE ME」(PRESTIGE RECORDS PR7698/SMJ−6266)
EDDIE JEFFERSON
マイクをまえにしたジァファーソンのかっこいいジャケット。メンバー的には、ビル・ハードマン、チャールズ・マクファーソン、バリー・ハリス……というかなりいぶし銀な面子。1曲目の「カム・アロング・ウィズ・ミー」という曲はジェファーソンの作曲ということになっているが、レスター・ヤングの「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」のソロをヴォーカリーズしたもの、ということでいいのかな。内容はなかなかSF的で、「俺と一緒に来いよ。月世界を探検だ」みたいな感じ。つまり、歌詞を聴けばオリジナルがなんであるかわかる仕掛けになっている。英文ライナーも「この歌詞がジェファーソンによって書かれたのは、人類の月世界着陸より20年も前である」と書いている。ハウリン・ウルフの「クーン・オン・ザ・ムーン」と並ぶような歌詞で感動的である。ビル・ハードマンの渋いソロ、マクファーソンの渋すぎるソロ、バリー・ハリスのソロ……などもフィーチュアされる。2曲目は「サン・オブ・ザ・プリーチャー・マン」というダスティ・スプリングスフィールドが1968年にヒットさせたR&Bの曲で、これがその次の「プリーチャー」(ホレス・シルヴァーのヒット曲)とメドレー的な感じになっている。前者は8ビートで、いかにもな雰囲気。バップに立脚してはいるが、そこにとどまらずなんにでも挑戦して咀嚼してしまうエディ・ジェファーソンの姿勢が感じられる。続く「プリーチャー」はオリジナルよりも速いテンポで、ゴスペルっぽいというより4ビートジャズのノリノリの軽快な明るさ全開。ハードマン、マクファーソン、ドラムのビル・イングリッシュのソロもたっぷりフィーチュアされ、ある意味ソロ回し的な演奏か。4曲目は「ヤードバード組曲」で、バリー・ハリスのピアノが大きくフィーチュアされ、パーカーといえばこのひと、のマクファーソンのアルトやハードマンのトランペットもロングソロを取るが、どちらもやはり地味な感じではある。ジェファーソンとドラムの4バースのあとベースソロになり、サビからテーマに戻る。これもちょっとソロ回しっぽい演奏。B面に行って、1曲目は「デクスター・ディグス・イン」。デクスター・ゴードンの「デクスター・ライズ・アゲイン」に入っている曲。ミディアムテンポでスウィングし、大勢のビバップ初期のミュージシャンたちの名前が投入された楽しい歌詞。ビル・ハードマンとジェファーソンの4バースのあと、バリー・ハリスとチャールズ・マクファーソンのソロのあとテーマに戻る。ゴードンの有名な「グレイト・エンカウンター」に入ってるバージョンは「ディギン・イン」というタイトルになっていて、テンポもかなり速い。2曲目は「プリーズ・リーヴ・ミー・アローン」というのは明るいロックっぽい曲で、そういうヒット曲があるのかと思ったが、これってジェファーソンのオリジナルなのか? 3曲目は「ベイビー・ガール」という曲だが、レスター・ヤングの「ジーズ・フーリッシュ・シングス」の有名なソロに歌詞をつけたもの、ということでいいのかな。バラードのヴォーカリーズはむずかしいと思うがエディ・ジェファーソンは難なくこなし、そこに感情を込めて歌っている。4曲目は「フェン・ユー・スマイリング」で、ジェファーソンはヴォーカリーズではなく歌詞をストレートに歌っており、マクファーソン、ハードマン、バリー・ハリスのソロが続く。とくにハードマンとハリスのソロは見事なものだ。そのあとテーマに戻るが、ジェファーソンはこうしてストレートに歌ってもめちゃ上手いし個性豊かなのですばらしい。共演者が全員渋い演奏のひとばかりだが(とくにマクファーソンはもうちょっと活躍してほしかったような気も……)、ジェファーソンはがんばっている。
「LETTER FROM HOME」(RIVERSIDE RECORDS RLP 411)
THE VOICE OF EDDIE JEFFERSON
アーニー・ウィルキンスのアレンジによるかなり編成の大きなバンドとともに吹き込まれたアルバム。クラーク・テリー、アーニー・ロイヤル、ジョー・ニューマン、ジミー・クリーブランド、ジョニー・グリフィン、ジェイムズ・ムーディー、ジョー・ザヴィヌル、ウィントン・ケリー、ジュニア・マンス、バリー・ガルブレイス、ルイ・ヘイズ、オシー・ジョンソン……といったメンバー(入れ替えあり)に支えられた豪華なレコーディングだ。なぜか10年後ぐらいにミューズに吹き込まれたアルバム「シングス・アー・ゲッティング・ベター」と共通点があるというか、収録曲が3曲もかぶっているのは不思議。1曲目はジュニア・マンス(なぜかこの曲ではピアノを弾いておらずジョー・ザヴィヌルが弾いている)の「レター・フロム・ホーム」に、リヴァーサイド社長のオリン・キープニュースが歌詞をつけたもので、マイナーのリフをしつこく繰り返す曲でかっこいい。ムーディーのアルトソロ、ジミー・クリーブランドのトロンボーンソロも短いがぴりっと引き締まっていて、ヴォーカルを盛り立てる。2曲目は「A列車」だが、おなじみの歌詞ではなく、フランク・ミニオンというひとの歌詞が使われている。なかなかユーモラスな歌詞で、エディによく合っている思う。3曲目は何度も録音していてエディ・ジェファーソンのファンにはおなじみの「ビリーズ・バウンス」で、グリフィンを含む小編成のバンドでの録音。ヴォーカリーズの途中、ブレイクが挟まれているのもかっこいい。グリフィンの倍テンのソロは文字通り炸裂している。4曲目はジェイムズ・ムーディーの曲で、本人のアルトの美しいイントロからはじまり、エディが淡々したなかにも心を込めて歌い上げる。5曲目はジョニー・グリフィンのミディアムスローの曲にジェファーソンが歌詞をつけたもので、短いがいい雰囲気の演奏。B面に行くと、1曲目はこれもエディのファンにはおなじみのレパートリー「チュニジアの夜」だが、じつは何度も吹き込んではいるものの、全部が一緒ではなく、ブレイク(ミューズの「シングス・アー・ゲッティング・ベター」におけるブレイクとは明らかにちがう)とかヴォーカリーズのなかのスキャットの割合とかいろいろその場に応じて微妙に変わっているものと思われる(ちゃんと確認したわけではないが……)。これもフランク・ミニオンというひとの歌詞らしいが(このひとのバージョンも聴いてみたけどなかなかかっちょええ)、そのあとのヴォーカリーズ部分もミニオンのものを使っている。けど、このヴォーカリーズはだれのソロなんでしょうか。ガレスピーのものもパーカーのものもいろいろ聴いたけどわからん(不勉強というか、こういう方面はめちゃくちゃうとい)。2曲目はキャノンボール・アダレイの「シングス・アー・ゲッティング・ベター」で、軽いシャッフルと4ビートのあいだぐらいの軽いノリの曲で、エディはきっとこういうノリが好きだったのだろう。グリフィンの、短いが16分音符のアーティキュレイションも見事なぶりぶりしたソロや、クラーク・テリー(と思う)の小洒落たソロもすばらしい。歌詞はジェファーソンによるものだが、ルイ・ジョーダンの「レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール」のような、俺たちゃ金はないけどものごとはよく考えようぜ、なんでも物事はいい方向に向かってる、今を楽しもうぜ、的なノベルティで、不特定多数の「みんな」に寄り添った内容ですばらしい。こういうひとが悲劇的な最後を遂げたことはマジで憤りを覚えるが、正直、ジェファーソンの残した最高の音楽の数々をこうして聴くと、憤りはとりあえずこっちへ置いておいて、今はこの音楽を楽しもうよ、という気分になってしまう。本当に偉大なひとだった。3曲目はブルースで、アーネット・コブ作となっているが、ホンカーでコブとも共演歴があるチャーリー・ファーガスン(バリトンも吹く)の曲だそうだ。まあ、本当にちょっとしたリフ(音は2音だけ)なのだが、それをアレンジして、エディが歌詞をつけるとすごくいい曲に思える。「歩き続けろ、しゃべるのをやめるな」という歌詞を延々繰り返す、かなりガンガン来る感じの力強い演奏で、ジャズというのは不思議なものだ。ヴォーカリーズされている部分はファーガソンのソロにエディが歌詞をつけたもの。エディはプレスティッジに以前にも吹き込んでいる。エディのヴォーカルもかっこいいが、とにかくグリフィンの個性爆発のブロウに持っていかれる。そのあとのジュニア・マンスのソロも渋い。4曲目は「アイム・フィール・ソー・グッド」というタイトルになっているが、ジェイムズ・ムーディーの「ボディ・アンド・ソウル」をヴォーカリーズしたもの。コールマン・ホーキンスの演奏を、ホークの偉業をたたえるように歌い上げたバージョンもエディにはあるが(「OH,WE−SHOULD−BE−BOP」にも入ってましたね)、これもめちゃくちゃかっこいい。ラスト5曲目は、「ブレス・マイ・ソウル」というタイトルになっているが、つまり「パーカーズ・ムード」で、有名なキング・プレジャーのバージョンとはちがうオリジナルの歌詞のようだ。
「THINGS ARE GETTING BETTER」(MUSE RECORDS MCD 5043)
EDDIE JEFFERSON
エディ・ジェファーソンが大好きなのは、もしかしたらこのひとの破天荒なチャレンジ精神のせいかもしれない。そもそもヴォーカリーズの元祖的な存在だが、最初はカウント・ベイシーのレスター・ヤングとハーシャル・エヴァンスのソロに歌詞をつける、というところから、つまり、カンザススウィングからはじまり、バップのパーカーやガレスピー、ジェイムズ・ムーディー、デクスター・ゴードン……といったソロイストのソロを採譜してヴォーカリーズするようになったが、ホレス・シルヴァーやキャノンボール・アダレイらののファンキーな曲やロックやポップスのヒット曲にまで手を伸ばして芸風を広げ、ついにはマイルス・デイヴィスの「ソー・ファット」をヴォーカリーズするという、だれもやったことのない領域までたどりついた。しかし! そんなエディでも、この1曲目はどーよ! なんと……マイルスの「ビッチェズ・ブリュー」のヴォーカリーズなのである。いやー、すごいね。めちゃくちゃ尊敬する。ジェファーソンの真面目な性格からして、これはたぶんマイルスの演奏を実直にコピーしたものなのだろうが、うーん……こんなんやったっけ。水がごぼごぼいう音からはじまって、ミュージックソウかテルミンみたいな音、ジェファーソンによる不気味な歌声(原曲ではテープ操作によって行われているのを人力エコーで再現!)……おそらく原曲の「ブードゥー」とか「魔女」とかいった言葉に触発された一種のオカルトな雰囲気を演出しようとしているのだと思うが(歌詞も聴きとれる範囲ではそんな感じ)、1曲目にこれを持ってくる大胆さには驚く。そこで登場するサックスがビリー・ミッチェルというのもかなり面白いし、トランペットがジョー・ニューマンというのも、カウント・ベイシーのオケが「ビッチェズ・ブリュー」を演奏しているようないびつな楽しさがある。でも、本当に楽しいのだ。そういうあたりにエディの仕切りのすばらしさ、天才的なものを感じます。聴いていると、そもそもこんなリフがあったっけ、という感じだが、エディはマイルスのソロではなく、ベースやギターの即興的なリフなどをピックアップしてヴォーカリーズしている感じだ(雰囲気だけで書いているので、きちんとした検証が必要ではあるが)。とにかくメンバー全員が楽しんで演奏しているのがわかる。1曲目でえげつない雰囲気になったあとにはじまる2曲目はタイトル曲の「シングス・アー・ゲッティング・ベター」で、突然めちゃくちゃ快適なクーラーの利いた部屋に入ったような感じで、思わず笑ってしまう。軽快なスウィング。ビリー・ミッチェルのテナーもミッキー・タッカーのピアノも最高である。3曲目はエディ・ハリスのおなじみ「フリーダム・ジャズ・ダンス」で、変なシンセというかオルガン(?)が最高。エディ・グラッデンのドラムもすばらしい。冒頭に「ビッチェズ・ブリュー」があるのでさほどの驚きはないかもしれないが、これはこれでジャズボーカルとしてはなかなかのチャレンジングな演奏である。かっちょえーっ! 4曲目は、ぐっとバップに戻り、エディのファンにもおなじみ(何度も吹き込んでいる)の「チュニジアの夜」で、ここでも気合いのこもったボーカルが炸裂する。ほかのメンバーのソロはなく、ひたすらジェファーソンが歌い上げる。5曲目は「トレーンズ・ブルース」でマイルスの「ワーキン」に入っている曲だが、ようするに「ヴィアード・ブルース」である。エディはマイルスのソロに歌詞をつけている。ジョー・ニューマンの渋いソロ、ミッキー・タッカーの豪放なソロなどのあと、コルトレーンに捧げる(?)コーラスが奏でられる(パーカーやアモンズがやってる「ヒム」のメロディ)。そして、またテーマに戻るという手の込んだ混成。この曲と「ビッチェズ・ブリュー」、「ソー・ファット」などの歌詞はクリス・エイスマンデス・ホール(と発音するのか?)というひとが書いたらしい(有名なひとのようです)。5曲目はバラードで「アイ・ジャスト・ガット・バック・イン・タウン」という曲だが、ジェイムズ・ムーディーのルースとセッションの「アイ・カヴァー・ザ・フォーターフロント」のアドリブに基づいているらしい(英文ライナーにそう書いてあった)。6曲目はこれもエディが何度も吹き込んでいる「ビリーズ・バウンス」で、もとはパーカーのサヴォイレコーディングのマスターテイク。原曲よりかなり速い。4コーラスあるパーカーのソロ全部に歌詞をつけている。そのあとジョー・ニューマン、サム・ジョーンズのソロがフィーチュアされる。ラストはスライの「サンキュー」で、一度聴いたら忘れられないこの曲にエディがすばらしい歌詞をつけている。本作はエディ・ジェファーソンが死ぬ直前まで崩さなかった「チャレンジ」という姿勢、そして「伝統を守る」という姿勢の両方がギューーーッと詰まった最高のアルバムだと思います。傑作。
「HIPPER THAN THOU」(ZU−ZAZZ ZCD2015)
EDDIE JEFFERSON
もともと1959年と61年に吹き込まれ、なぜかお蔵になっていた録音が、76年にインナーシティから12曲だけ発売され、その後CD化されて、このタイトルで18曲が発売された、ということでいいのかな? 今は、もとのタイトル(「ジャズ・シンガー」)でこの形で入手できる……はずである(よく知らない。ビミョーにジャケットの写真がちがうのは不思議)。いくつかのセッションを集めたものだが、59年1月のセッションは、6管のビッグバンドがバックで、コーラス(すごく効果的)のひとりにバブス・ゴンザレスが入っているという豪華版である(アルトがサヒブ・シェバとあるのはサシブ・シハブのことらしい。ピアノはジョニー・エイシア、バリトンがビル・グラハム、ベースがペック・モリソン、ドラムがオシー・ジョンソン……。また、他のジェイムズ・ムーディーが仕切っていると思われるセッションも、トランペットがハワード・マギーとジョニー・コールズだったりして、そういったひとのソロも楽しめる。バリトンやテナーで参加しているムサ・カリームというひとは、私はよく知らなかったが、エル・ロジャーズ・ミスティック・リズムというバンドで1939年にプロ入りしたという大御所で、そのときにエディ・ジェファーソンと知り合ったらしい。なんとフレッチャー・ヘンダーソン、エリントン、ベイシー、ジミー・ランスフォードとのツアーも経験しているという凄腕だった。とにかく本作は、レパートリー的にもエディのヒット曲、代表曲がきちんとアレンジされた形でたくさん収録されており、ジェファーソンのショウケースというか集大成といっていい内容だと思う。本人はもちろん溌剌と歌いまくっているし、バックとの相性もばっちりである。エディ・ジェファーソンをなにか一枚と言われたら、本作でもいいかもしれないと思う。おなじみの曲はもちろん、そうではない曲も充実しまくっているからだ。どの曲も、ひじょうに丁寧に、しかも気合いを込めて演奏されていて、すばらしい作品だと思う。いちいち全部触れませんが(上記のアルバムのレビューに出てくるものはそちらを読んでくださいませ)、「TD’S BOOGIE WOOGIE」のTDというのはトミー・ドシーのことで、アレンジもトロンボーンが効いている(エディがときどきやるように、女性のパートをファルセットで表現している)。「ワークショップ」はムーディーのソロに曲をつけたものだそうだが、つづく「シェリー」はなんとハンク・クロフォードの曲でヴォーカリーズはレイ・チャールズのピアノにつけたものらしい。うーん、すごいよなあ。「メンフィス」というのはなにが原曲かと思っていたら、ジェファーソンのオリジナルだそうである。ええ曲や(フィラデルフィアにあったブルーノートクラブという店が火事になったときに書いた曲らしい)。ホレス・シルヴァーの「プリーチャー」はホーンとコーラス入りでゴージャスな決定的バージョンといえるが、ここでのハワード・マギーのソロは短いけど格別。「ナイト・トレイン」はドラムのブラッシュワークも心地よく、コーラス隊の細かい「仕事」(汽笛の真似とか)も楽しい。女性ひとりを含む3人のコーラスだが、ここにもバブス・ゴンザレスが入ってるらしい(!)。基本的にはジミー・フォレストのバージョンをもとにしているのかな(ベースラインとか、テンポは全然違うのだが)。ヴォーカリーズではなく、ラストも突然終わる。しかし、本作で私がいちばん好きなのは17曲目に入っている「シリー・リトゥル・シンシア」という曲で、これがめちゃくちゃかっこいいのだ。かっこいい、というか、なぜかハマッてしまって、一時は毎日聴かないと落ち着かないぐらいだった。8ビートのブルースなのだが、最初のうちはこれがピアノとボーカルのデュオだということに気づかなかった。それぐらいピアノの提供するリズムが力強いのだ。しかも、このピアノが「UNKNOWN」とはなあ……(今は知らん)。言葉遊びだけの軽い歌詞かもしらないが、かっちょええのです。いちばん最後に入っているブルーズは、マジのブルーズで、ギターはルイジアナ・レッドだというけど、こういうのもエディは歌えたのだなあ、と思った。歌詞のなかでちゃんと「ルイジアナ・レッド」と言ってるので疑いはないが、どういう経緯でこのセッションが持たれたのかは興味深いです。とにかく傑作なので、エディのファンで本作を聴いていないひとはぜひとも! 傑作!