「THE COMPLETE RECORDINGS」(CBS/SONY RECODINGS CBCS 5320〜1)
ROBERT JOHNSON
ロバート・ジョンソンは手ごわかった。はじめて聴いたのは学生時代でレコードだったが、良さがわからない。声も、それまで私が聴いていたブルースマン(ハウリン・ウルフとかライトニン・ホプキンスとか……)のようなだみ声ではなく、どちらかというと透き通った声だし、あまりインパクトを感じなかった。いい音楽であることはわかるのだが、みんなが言うように「すげっー! めちゃくちゃすげーっ」という感じはまったくわからなかった。音楽を「わかる」「わからない」というのは大嫌いな言葉なのだが、この場合は仕方がない。わからないのだ。しつこく聴いたがやはり同じ(しつこく聴くことで突破口が開けることも多い)。その後CDが出たので再度チャレンジするために購入したが、やはり同じで、この感じがその後もずーっと続き、結局今年まで続いたのだ。わからんにもほどがあるな、俺は。ところが、先月、小出斉さんの本を読んでいるときに、ふと久しぶりに聴いてみる気になり、かなり身構えて対峙してみたら……なんと、めちゃくちゃかっこいいし、凄いやないの! あー、なんで俺は何十年もこれがわからんかったのだ、という思いと、なぜわからんかったのか、という理由もなんとなく腑に落ちた。たぶんギター弾きのひとなら、最初に聴いた瞬間に「すげーっ」となるだろうが、管楽器奏者である我々には、「これをひとりでやってるの? 伴奏もメロディもボーカルも。ありえない!」となるところがピンとこない。じゃあ、3人でやればええやんということになる。しかし、そういうテクニカルなことを越えて、今回はパッションというかどろどろした熱さみたいなものも含めて、歌詞もプラスされて、とにかくズドーンと来ました。ああ、こういうことか、と思った。悟り終えてみれば、悟っていないときと同じ、と禅では言うらしいが、わかってしまうとあとは興奮するしかないわけで、何十年越しでロバート・ジョンソンが好きになれてよかった。ここにはその後のブルースのさまざまな原形がぎっしり詰まっているな。みんなが興奮するのも無理はない。これからはこうやって、音楽とかミュージシャンに対してひとつひとつつきあいを深めていくつもりだ。