「VISITATION」(STEEPLE CHASE SCS1097)
SAM JONES QUINTET
これを傑作といわずしてなにを傑作といおうか。表紙の渋さもすばらしいが、内容がとにかく最高でありまして、ヒノ(コルネットのみ)、ボブ・バーグ、ロニー・マシューズ、アル・フォスターという完璧な5人衆。1曲目の「オキュアランス」は、いかにもこの時代だなあという感じのバンプからはじまる、めちゃかっこいい曲で、このアルバムには参加していないトム・ハレルの曲なのだ(B−1もハレルの曲。だったらトランペットはトム・ハレルでいいじゃん。サム・ジョーンズはハレルをコンポーザーとして評価しているのか?)。トム・ハレルはボブ・バーグのホレス・シルヴァー5での盟友であり、初リーダー作「ニュー・バース」でも一緒にやっているほどのなかだから、リーダーのサム・ジョーンズに「ハレルの曲、めっちゃいいっすよ」と推薦したのか? まあ、そんなことはいいとして、先発のヒノのトランペットは張り切りまくっていて、アルバム全体のつかみとして大成功だし、ボブ・バーグのソロは短いなかで言い切る感じ。この1曲目を聴いて、おおっ、すごいアルバムだ、と確信させたところで、2曲目が来る。ポール・チェンバースの「ヴィジテイション」だが、これをアルバムタイトルにしたぐらいだから、サム・ジョーンズのこの曲、この演奏に対する思いは並々ならぬものだと思われる。ベースとテナーのユニゾンによるテーマ、最後の部分だけ全員が入り、そのあとベースのピチカートソロになる。思わず「バーチュオーゾ……」と唸ってしまうすばらしい歌心とテクニックにあふれるソロ。つづくボブ・バーグのソロは、もう歌いまくりで呆れるぐらい感心してしまう超名ソロ。教則本フレーズも出てくるのがご愛敬。よう練習したんやろなー。日野のソロはかなり気合い優先の出たとこ勝負のもので、その一発にかけるインプロヴァイザーぶりがすがすがしい。マシューズのソロもいい。この時点で聴いてるひとは、本作が歴史に残るような傑作だと手に汗握ってるはず。え? 握ってない? そうですか。ではA3の「ジーン・マリー」を聴いてくれっ。もちろん、ウディ・ショウの演奏でバリバリ有名なあの曲だ。イントロを聴くだけでかっこいいっすよねー。名曲やー。70年代やー。作曲者自身のピアノソロで始まり、日野さんの落ち着いた丁寧なソロに続いてボブ・バーグのソロはテクニシャンぶりと偏執狂的な個性が突出したもので、しかも歌心があって安定しているという最強のソロで、何度聴いてもしびれまくる。アル・フォスターの「心得た」サポートもすばらしい。アル・フォスターのドラムがださいというやつはほんまおかしいわ。最後の最後のボブ・バーグのハーモニクスがかっこいいよね。B面に行きまして、1曲目はさっきも書いたトム・ハレルの「ビフォア・ユー」という曲。アル・フォスターのドラムのイントロではじまる、これはまたいかにもトム・ハレルっぽいサンバ。ボブ・バーグのソロの出だしが、くーっ、超かっこいい(かっこいいっていう言葉ばっかりだが、それしか言いようがない)。日野コルネットもゆるりとしたなかに緊張があってすこぶる快調。2曲目は、本作のなかで異彩をはなつ大スタンダードのバラード「マイ・ファニー・バレンタイン」。日野さんが切々とテーマを吹くが、それだけでもうソロはいらんという気になるほどの表現力。ピアノソロもええやん。そしてラストの「デル・サッサー」だが、そうかー、言われてみればそうかー、この曲、サム・ジョーンズの曲だったのだなあ。いや、その、キャノンボールの印象が強烈なので。うーむ、サム・ジョーンズ、ええ曲書くなあ(このリーダー作では、唯一の彼のオリジナル曲)。いわずとしれたハッピーな曲で、ロニー・マシューズのピアノソロにはじまり、ヒノの鋭いアタックではじまるキメキメのソロ、なぜこの位置に入れる?と思ったアル・フォスターのドラムソロ、そしてボブ・バーグの奔放なソロ……どれも見事としか言いようがない(とくに日野さんのソロはすばらしいです)。最後のマイルストーンズ終わりもおもしろい。CD時代以降はそういう感覚が薄れたが、こういう風な、A面B面どっちもいいというアルバムはなかなかないのだ。メンバー全員に見せ場を与え、その最良のものを引きだしつつ、自分の音楽としてまとめてしまう、ベース奏者というだけでなく、リーダーとしてのサム・ジョーンズの手腕が存分に発揮された大傑作だと思います。
「THE BASSIST!」(INTERPLAY RECORDS IP−7003)
SAM JONES
ケニー・バロン、キース・コープランドを従えたサム・ジョーンズのリーダー作。なぜ、こんなものを買ったのか自分でも覚えていない。サム・ジョーンズは好きだし、「ヴィジテイション」とかは愛聴しているが、あれは主にボブ・バーグを聴いているのであって、ピアノ・トリオという私にとって一番苦手な形態(ギタートリオとかも苦手)をなぜ聴こうと思ったのだろう……とここで記憶をたどっても無意味なので、とりあえず感想をざっくり書くと、ものすごーく久し振りにジャズのピアノトリオというものを聴いた気がする。なんか新鮮やねー。歌いまくり疾走しまくるケニー・バロンが凄いのは言うまでもないが、やはり主役のサム・ジョーンズのぐいぐいドライヴするベースが気持ちいい。それにベースの音がいいですね。ドラムは、録音のせいか、曲によってはベードラがちょっとうるさいような気がするが、それは好みの問題か。バラードも、エレピ(ちょっとノイズが聞こえませんか?)で演奏される2曲のジャズ・ロック風の曲も全部いいが、個人的には2曲目の「リリー」というメロディラインの美しいバラードや5曲目の「蠍座の神話」という妙なタイトルの循環曲(テーマ部分でドラムが活躍。ソロはケニー・バロンの音のチョイスに脱帽)などが気に入っております(どっちもサム・ジョーンズの曲)。3曲目のケニー・バロンのマイナー曲もいいな。全体に、ベーシストのリーダー作らしくどの曲もベースが堪能できる作りになっており、おそらくは「全ベーシスト必聴」みたいなことなのかもしれないが、そのあたりのことはよくわからんです。なおライナーノートはサム・ジョーンズの盟友シダー・ウォルトンが書いている。