toshihiko kankawa

「SAXY」(B−CAT RECORDS BCAT−1004)
KANKAWA WITH SAX GIANTS

 オルガンの寒川敏彦さんが、サックスの巨匠たちと共演した音源を集めたオムニバス的アルバム。アーネット・コブ、バディ・テイトの2テナーでの演奏は私も聴きに行ったが、とにかく生のアーネット・コブに興奮しまくりだった。最前列でその雄姿を拝見して、もう涙がちょちょぎれそうになった。だから、正直、コブ〜テイトだけで一枚にしてほしいわけだが、そうもいかないのでしょう。1曲目はゲイリー・バーツのアルトとの共演で、バーツはのびやかなトーンで吹くが、音楽性をオルガンジャズに合わせているのか、バップともいえないスウィング的な、コードを見事に縫っていくような、歌心あふれるフレージングで軽く軽く吹いているわけだが(後半、ちょっとモダンなフレーズが出てくるが)、いやー、これは俺の知ってるバーツではないな。引用フレーズとか吹くんだからなー。このまま丸コピーしたらジャムセッションでウケそうな、教科書のように分かりやすい演奏だが、うーん……これがバーツかあ……ランディ・ブレッカーとかと4管で来たときも、もっとバーツらしいフレーズを吹いていたような気がするが、これがバーツの普段着の姿なのだとしたらかなりショックだし、寒川氏の音楽に合わせているのだとしたらそれもそれでショック。2曲目はジョー・ヘンダーソンの「リコーダ・ミー」だが、ジョー・ヘンダーソン自身はすばらしい音色で絶妙のフレーズを吹きまくり、これはかなり会心のソロではないだろうか。つづくギターソロはクレジットがなぜかないのだが、ライナーノートによると杉本喜代志。このソロもええ感じ。茫洋としたオルガンソロに続くドラムソロは、とてもよく歌うソロ。3曲目は巨匠バディ・テイトをフィーチュアした「サテン・ドール」。テイトは晩年まで衰えなかったひとで、この来日時もめちゃめちゃ凄かった記憶がある。この曲でも、ダルなテーマの吹き方からなにからもう感動。しかし、ソロはなぜかフルート(これもクレジットがなく、ライナーを読まないとわからない)。もちろん味わい深いフルートソロなのだが、このグレートなテキサステナーマンの演奏をたった1曲だけこのアルバムに収録しよう、となったとき、フルートソロの曲を選ぶというのは信じられません。でも、ええソロやわ。ラストテーマはまたテナーに戻る。4曲目はルー・ドナルドソンで「サマータイム」。超ロングトーンからはじまる演奏は、なにからなにまで心得てます的な大向こうウケするような派手なもので、たしかにテーマをエグく吹くだけで大ウケしている。ブラックミュージックやなあ、という感じ。杉本喜代志のギターソロはめちゃめちゃしっかりしたフレーズを重ねていく丁寧な演奏。オルガンソロは、延々グワーッとコードを鳴らす。そしてルー・ドナルドソンのソロになるのかと思ったら、テーマを吹いてあとはロングトーンによるカデンツァで終わり。これも、もちろんルーの魅力をたっぷり伝える演奏内容ではあるが、正直、ロングトーンの部分以外はテーマを、崩しながら吹いたというだけで、ルー参加の音源からこれだけチョイスしたというのもよくわからん。5曲目はふたたびバーツ登場で「ソフトリー」。ソプラノで、バップ的なフレーズをなめらかに吹きまくり、イリノイ・ジャケーの「フライング・ホーム」からの引用フレーズや「ドナ・リー」を吹いたりホンクみいたことをしたり……と、とても「あの」バーツとは思えないようなソロだが、リラックスしての楽しい演奏ではある。良くも悪くもバーツは変わってしまった。アグレッシヴなオルガンソロは、なにかを狙っているのだと思うが、私にはよくわからなかった。6曲目は、やっと私が本作を買ったその目的のひとが登場。そうです、アーネット・コブです。コブも死ぬまで衰えなかったなあ。最後までおのれのスタイルを貫いた巨人だった。すばらしい、個性全開のテナーの無伴奏ソロからはじまるバラード演奏は、どこを切り取っても「アーネット・コブ」でしかない究極のワン・アンド・オンリーのブロウで、もう泣くしかない。カデンツァは相変わらず豪快で、まさにテキサステナーの圧倒的迫力と気合いが凝縮された最高の演奏。これが日本で行われたものだということにまたまた感涙。ああ、この現場に自分もいたのだ、と思うとまたまたまたまた感涙。寒川さん、コブとテイトを日本に呼んでくれてありがとう。そして、こうしてアルバムにしてくれてありがとう。ああ、このアルバムを買ってよかったです。最後はコブでもう一曲。「コブ・イズ・バック」でもおなじみの「A列車」。これも個性豊かなコブフレーズを連発するのだが……なんでフェイドアウトやねん。おい、どういうこっちゃ。悲しいなあ。なぜこんな悲しい思いでアルバムを聴き終えねばならないのか。さっきも書いたようにコブだけ、あるいはコブとテイトだけで一枚作ってほしかった。とにかくコブの「ニアネス・オブ・ユー」……これだけは皆さん聞きのがさないように。すごいっすから。