peter king

「FOREVER ELVIN」(MILES MUSIC MMCD089)
PETER KING & ALAN SKIDMORE

 ライヴ録音。エルヴィン・ジョーンズは2004年に亡くなったが、本作は2013年にその追悼盤として出されたもの(録音は2006年)。アラン・スキッドモアはコルトレーンに対する思い入れ著しいテナー奏者として知られているが、エルヴィンともたびたび共演しているらしい。ピーター・キングも短い期間ではあるが共演しているらしい。そんなふたりがフロントになってエルヴィンゆかりの曲を演奏するというプロジェクトなので、悪かろうはずがない。おおっ、12曲も入ってるやないか、と思うひとがいるかもしれないが(私もそうでした)、ほとんどはアナウンスとかなので、実際は7曲だけである。1曲目はコルトレーンの有名な「ブルース・マイナー」(「アフリカ・ブラス」に入ってるやつ)で、ブルースといってもほとんどモードな感じの曲。ピーター・キングのアルトソロはハードボイルドなバップという感じで一直線に突き進む炎のようにパッショネイトだが、つづくスキッドモアのテナーはいつものスキッドモアで、絶好調。ミュージシャンを、だれかと比較したり似ているかどうかで表現したくないが、このアルバムに関しては許されるだろう。コルトレーンが好きなんやろなあ、としみじみ思うソロ。といってピーター・キングがドルフィー役かというとまったくそんなことはないので、ようするに本作はなにかの再現(日本企画でテレンス・ブランチャードとドナルド・ハリスンによるファイブスポットの再現とかがあったように……)とかではなくて、エルヴィンが好きなミュージシャンたちがひたすら純粋に自分たちの個性のままに演奏した音楽ということで、とてもすがすがしい。ピアノソロもかっこよく、マーティン・ドリューのバッキングがすばらしすぎる。2曲目はコルトレーンのアレンジによる「ボディ・アンド・ソウル」で、コルトレーンは何度か録音しているんじゃないかと思うけど、要するにアトランティックのアレです。ピーター・キングがテーマをマイペースに歌い上げ、ソロに突入。細かなフレーズでつづっていく感じはいかにもアトランティック時代のコルトレーンを連想させるシリアスなバラード。スティーヴ・メリンのピアノソロのあと、ふたたびつややかなアルトで幕が下りる。3曲目は超おなじみの「EJブルース」(ここではEJ’S BLUESという表記になっている)。先発はスキッドモアで、「ゴリゴリ」という言葉がぴったりの熱演。ピアノがその熱を冷ますかと思いきやガンガン弾きまくるすばらしいソロで、逆に熱が高まった。そのあとはアルトとドラムのデュオで、なるほどなー、普通はテナーとドラムのデュオだろうがこう来たか、と聴いてみると見事な演奏。そして、ドラムソロに移行するのだが、なんかずっとキース・ジャレットかアケタさんみたいに唸っている声が聞こえるのはドラマーの声か? そういえばエルヴィンもよく声を出しながらドラムソロをしていたなあ、と思う。ドラムのマーティン・ドリューは言ってみればエルヴィン役ということになるが、正直エルヴィンとは方向性のちがうドラマーである。しかし、めちゃくちゃ上手くて唖然とする。じつはドリューはこの録音の4年後、60代の若さで心臓発作で亡くなったので、本作が発売されたときにはすでに故人だったのである。6曲目はショーターの超おなじみの「オリエンタル・フォーク・ソング」で「ナイト・ドリーマー」に入ってるやつ。非常に短い、テーマだけの演奏。5曲目はこれも皆さんご存じの「スリー・カード・モリー」で、エルヴィンといえば……という感じかも。先発ソロはスキッドモアでこれまたストレートな、ひたすらコルトレーンライクなブロウ。つづくキングのアルトはやはりバップの香りが色濃い、これはこれで個性丸出しのエルヴィントリビュートなのである。スティーヴ・メリンのピアノもマーティン・ドリューのドラムソロもマッコイ、エルヴィンに寄せていない独自のものだと思う。6曲目はなあ……スキッドモアをフィーチュアした「アフター・ザ・レイン」で、これはもうどうしようもなくコルトレーンのリリシズムを引き継いだ演奏である。いや、もう、めちゃくちゃかっこいいです。短い演奏ではあるが心に残る。そして最後はなんとマッコイの「パッション・ダンス」で締めくくる。いきなり飛ばすスティーヴ・メリンのピアノソロが本作中このひとの最高の演奏ではないかと思う。スキッドモアのテナーがツボを心得たソロを展開し(ところどころ感極まった感じで絶叫するのもかっこいい)、それを受け継いだ感じでキングがアルトで硬質なソロをするが、そのあとの非常にいきいきした長いベースソロも聴きもの。ドラムのロングソロはめちゃくちゃかっこいいが、エルヴィントリビュートと言われると、そういう感じではなくオーソドックスなすばらしいソロである。全体にエルヴィントリビュートというよりはエルヴィンを含むコルトレーンミュージックトリビュートなのだろうが、そういうことに関係なく上質の演奏だと思います。