takahiro kitte

「OVER THE HORIZON」
TAKAHIRO KITTE QUARTET

 レーベル名もないが、イタリア在住のテナー奏者切手崇博のカルテットによる自主制作アルバム。共演者はすべてイタリアのミュージシャン。切手さんの演奏は、浜ちゃんこと浜田博行の追悼コンサートのときに久々で生で聴いたが、音といいプレイといいすばらしいものだった。本作で聴く切手さんの音は以前はもっと朗々と響き渡るような感じだったが、柔らかく丸みを帯びていて、往年のジャズジャイアントのような風格さえ備わっている。もっと新しめのゴリゴリした演奏もする人なのだが、ここではバップ的なコード分解のソロを中心にひたすら歌いまくる。共演の3人もその意図をくみ、真摯なハードバップ的な演奏に集中している。これが今の切手さんのやりたいことなのだろう。しかも、7曲中5曲が自らのオリジナルで、あとの2曲もメンバーのオリジナルが1曲(残りの1曲はブルーノ・マルティーノの「エスターテ」)という超意欲的な選曲になっていて、そのオリジナルがまたかっこええ曲ばかりなのである。この落ち着きぶりというか、フレーズを奏でながら周囲の音に耳を傾け、バンドをリードしていく歌心あふれるテナーには、ジャズとしての楽しさやスリルがあふれている。リーダーとしての安定感と自信も伝わってくる。日本のジャズファンはもっとこのひとのことを聴いたらいいと思うし、そうであるべき実力のプレイヤーなのだ。ピアノトリオもガンガンスウィングしているし、手売りだけというのがもったいないクオリティのアルバムです。