「DOBBELTGAENGER」(CLEAN FEED RECORDS CF361CD)
JULIE KJAER 3
ユリア・ケアはデンマークの若き女性アルト奏者である。若きって言っても何歳なのかは知らないがとにかく若いと思う。その彼女が、ジョン・エドワーズ、スティーヴ・ノーブルというベテラン猛者ふたりを従えて(?)、自己のトリオを結成しており、これはたいへんすごいことだと思う。しかも、全曲オリジナルで固めている。先日、このトリオでの来日ライヴを観たが、そのときは正直、音が小さすぎて(とくにフルート)まるで聞こえない場面も多く、なにをやっているのかよくわからん……というときもたしかにあった(エドワーズとノーブルが凄すぎたということもある)。しかし、そういうときもユリア・ケアは必死にブロウして音を聞かせよう、とかそういうことはまったくなくて、涼しい顔で同じペースで吹いているのである。うーん、クールなひとやなあ、とある意味感心したのだが、こうしてCDを聴くと、なるほどこういうことをやっていたのか、とあらためて理解できたように思う。あのライヴのときも、よく聴こえなかったせいもあって、あれ? これってコンポジションかなあ……と何度も思った。つまり、エドワーズ〜ノーブルといえばインプロヴァイズド・ミュージックなので、なんとなく集団即興をやっているのかと思っていたが、随所にテーマらしきものがあり、それをベースとドラムも(しっかりとではないが)合わせていたので、曲なのかな……と思ったのである。こうしてちゃんとした録音で聴いてみると、全曲がしっかりしたコンポジション・アレンジであって、いわゆるフリー・インプロヴィゼイションの曲は1曲(4曲目)だけしかない。で、肝心の演奏だが、このアルバムでは3人がトライアングルになっていて、サックスが頂点にはいない。しかも音の説得力にかけるタイプでもない。どうしてもっとガンガン吹かないのか、と思ったのも当然で、もともとこのひとはそういう演奏は目指していない。自分が主役、というのではなくて、デレク・ベイリー的(というと誤解されるかもしれないが)というか、サックスで単音をプッ、パッ……と出して、三人でからみあってこそ完成する音楽をやろうとしているようだ。力強く、メロディアスに、朗々と、ときにヒステリックに……というサックスの「旨味」をできるだけ出さないようにして、細かいタンギングやアタックで音の断片を投げつけていくことでトリオを形成していこうとしている。そのためか、スラップタンギングがめちゃくちゃ上手くて、このアルバムでも、テーマ自体にスラップタンギングを使った曲があるほどで、音の立ち上がりや長さ、切り方などを十分考えながら演奏していると思われる。ということは、このひとの音がベースやドラムに匹敵するぐらい客にちゃんと聞こえていることが前提なわけで、私が観たときの演奏については「ちゃんとマイクを使えよ」ということに尽きる。このアルバムもライヴではあるが、バランスよくサックスの音も聞こえているし、そうであってこそのこのひとの音楽であるはずなので、あのあとのツアーがどの会場でもマイクが使われたことを祈る。でないと、このひとの演奏を十分に味わうことはできない……ということがこのアルバムを聴いてわかった。コンポジションはすばらしいし、すごく面白い演奏ばかりなので、ライヴについてはちょっと惜しかった。フリー系のサックス奏者にありがちな、演奏していてつい熱くなり、すぐにでかい音でしゃかりきに吹きまくったり、フラジオで絶叫したりするようなことはほとんどなく、ヒートアップしそうになってもグッとクールに自分を、そしてトリオの演奏を見つめながら音を加えていく……。どうしても音の説得力がある派手な演奏の奏者に耳を奪われがちになるが、このひとは才能あるひとだと思う。あと、本作ではアルトのみでフルートは演奏していません。